・第十八話「白昼の真唯一神(前編)」
・第十八話「白昼の
マルマルの町を睨み据えるように停車する〈
青天白日、暑い砂漠の大気の中を、揺らぎの向こうから砂を踏みしめ、歩んでくる二人の人影。
長短のマントのフードを、二人は脱いだ。露になるのは、蒼銀の長髪を靡かせる刃の様に鋭い美貌の少女と、赤銅の三つ編みを揺らす中性的な清廉さと愛らしい魅力を併せ持つ美貌の少女の顔だった。
「ルルヤ・マーナ・シュム・アマト、リアラ・ソアフ・シュム・アマト、両名ですな。教主より、客人として遇するよう仰せつかっています」
「こちらへ」
それに対し、〈
それが、彼らの教主の結んだ条約、休戦期間階段の為の命令であるが故に。
「ようこそ、
移動天幕が円陣を成した内、広場めいて区切られた土地で、『
「マルマルの街への非攻撃宣言、此方も改めて礼を言っておこう、『
ふてぶてしい程の余裕で出迎える『
「…………」
「「どうした?」」
直後敵対する二人が同時にリアラに目をやった。その当のリアラは、何か、ひどく場違いなものを見たような呆気に取られた様子と、日本語の知識が中途半端な外国人が入れた変てこ漢字タトゥーを見たような胡乱さをあわせ持った表情で。
「……何でTOMITAのHi-Luckeyなんですか?」
「? ? ?」
「郷愁、愛着、験担ぎ、というところだな。TOMITAのHi-Luckeyはいいぞ。特に、電子機器をつけすぎてそれらが故障しやすい最近の奴より、保存状態のよい中古に限る。壊れるということを知らぬ不滅の車だ! 日本人、あの車を作った祖国の過去の栄光を誇らねばならぬぞ!」
おいてけぼりになってきょとんとするルルヤを尻目に熱く語る『
「そういえば、日本人。〈JJジャーニー〉の連載はまだ続いているかね? 石田歳三先生はお元気かな?」
「へっ!? い、いや、僕が地球で死んだ時はたしかまだ第八部が月刊誌で連載してた筈ですけど!? そ、その後は知らないけど……何で〈JJジャーニー〉!?」
気さくな口調になった『
「〈JJジャーニー〉のOVAで宗教の扱いがどうこう、というニュースを切っ掛けに知ってな。そのニュースとそれへの反応では批判されていたが、それ以来、神は神それはそれと私は当時思って、色々読むようになってな。中には異教的すぎるものもあったが、そういうものにも面白いものも中々あって……まあともあれ、一番気に入っているのは今でも〈JJジャーニー〉だな」
「そ、そうなんだ……」
そういえば確かに昔OVAになって、その中における些細なある描写に抗議があったとか何とかあったような、と、リアラは思い返し。……この、
「……これ」
「おお」
その間、少しの間話題から外れた格好になってしまったルルヤが、少し憮然とした『
「読んだぞ」
「どうだった?」
一応、経典にはちゃんと皆で目を通した。そう答えるルルヤに、『
「……お前は本当に
「一神教の教義としては凄く洗練されていて、基本的には妥当だと思います」
ルルヤはそう自分でも予想外の感想を述べ、リアラはそれに同意した。地球に存在した一神教の、民族の歴史の中で育まれたが故の細かい齟齬や、弟子の個別の解釈が入ったが故の不一致や変質、古い時代に作られたが故の非合理的な因習、そういったものがそれには当然一切無い。
「ふ、改宗する気にはなったか?」
「残念ながら、〈神は人の子に自由意思を与えたことで人が自由を享受しただけでなく自ら産み出してしまった分断と対立に対し、人の手によりて分断と対立という過ちをを正す機会を与えられた〉という理由での征服戦争に、賛同する訳にはいかん」
故に『
「そうか。だが、構わんよ。ゆるりと見て回るといい、語り合おう。戦いの時までまだ時間はあるし、戦いの時でも、戦いのなかでも、戦いの後でもし生きていればその時でも、いつでも受け入れるし、そうでなければ打倒し先へ進むだけだ。何、
だが、断られても『
武器の手入れをしているものがいた。食事を、特に何を食うなという制限はないが無駄にせず感謝して食えという教義の下丁寧に調理し感謝の祈りと共に食する者が居た。鍛練をする者がいた。負傷者や病人や老人や子供を治癒する者がいた。経典を読み、その教義が語る倫理について確認しあい、通りすがった教主にそれを事前に知らされていたのか驚かず問い、『
……総じて。いわゆる邪教を思わせる様な感じではなく、静謐で秩序だって……真っ当な信仰生活とすら思える要素もあった。ただ、だが、あまりにも。
「それにしても……一見しただけでは、誰が転生者で誰が
普通に生活している筈なのに静謐と感じる程、皆すっぽりと布で顔を覆い隠した姿は無個性で男女の区別すらつかぬ。それを奇怪と指摘するルルヤに『
「順を追って答えよう。まず、転生者と
一々律儀に説明していく。本気で、相互理解を望んでいるかのように。そうすればこちらが改宗し悔い改め味方になるとでも、思っているのだろうか? それにしては、改宗を拒む時の反応が妙に淡々としている。一体何を考えている、と、ルルヤとリアラはいぶかしんだ。
((数十人……!?))
そして同時に、その情報に驚きも隠せない。カイシャリアⅦに居た転生者全てを会わせても尚比べ物にならない程多いどころか、下手をすれば、これまで屠ってきた
だが、それをおくびにも出さぬ。二人ともだ。あるいはこれを伝え威圧する事が目的か? と思いながらも、尚。怯えはせぬ。勇気を燃やすと、二人とも誓っている。だがそれとは別に、冷静に戦力や戦闘について考えを進めつつ、会話も続ける。
「
「お前は違うとでも?」
「違うと言わせてもらおう、私の目的は、この地に単一の正義と平等と平和をもたらす事……その為に転生者を従え、
「「何だって?」」
故に様子を伺いながら会話を続けていた二人だが、その言葉には驚いて思わず声を揃えて問い返した。
「別に驚く程の事ではない。
「えっ……それは……そ、そうだったんだ……」「……」
しかし二人の反応をそれはどうでもいいことだとばかりに簡素に説明した後、服装についてむしろやや長口舌を振るって、そこで『
「……私の軍団に属する転生者は、数こそ多いが、大半は貧弱な
一方『
「もっとも、なかには無害な癖に捕まえ従えるのだけは面倒なので、放っておいた奴もいるがな。第111位の『
話がそれた、と、『
「だが、雑魚共と侮らぬほうがいいぞ。教えてやろう。我が教団の法術には、失ったもの、あるいは持ちながらあえて封じたものの代わりに力を与える《神捧》というものがある。腕を失えばその代わりになる程度の念力を得る。視力を失えば聴覚がそのぶん発展するし、自ら戦場において後退を禁じる・片手だけで戦う等宣言する事で、それによって得る降りに倍する力を得られる。……ちゃちな
それはやはりルルヤの【眼光】が見て取った通り油断を誘う心算の虚偽かという疑惑には当たらないという事実を裏付ける発言で、そして中々脅威的な話だった。守るマルマル軍の中にも舞闘歌娼劇団等一流の使い手はいる。これまでの『
それが紛れもない事実である事は、二人をつれ陣幕を閲兵めいて闊歩する『
「また『
そして続く、教団の大義の誇示と戦力情報の開示。やはり戦力の誇示による威圧と、此方の戦術を限定する目的か。恐らく名前から想像出来る通りの二人の
その名を『
(『
その二人が『
「事実、ここに至るまで、話が教団は戦いこそしたが殺戮はしなかったぞ。誘いこそしたが、強制もしなかった。ここにいるのは戦いに敗北し、己が崇める政令より我らが神が勝る事を認め、我らが神に帰依した者達だ。勝利したオアシス・鉱山国家の者たちには、ただ布教し貢納させただけだ。不況を受け入れぬ者に強要する程日まではない。勝ち続ければ、いずれ平伏し、改宗が遅かったことを悔やむだけだからな」
堂々と『
「……と、私は私と我が教団についていろいろと語ったわけだが。次は、そちらについて話を聞かせて貰えるだろうか?」
そう『
「……いいですよ。何について?」
故にルルヤは無言でうなずき、リアラはそう相手の発言に応じて。
(……さて、ここからが本題だな……こいつの、狙いは)
ルルヤは内心漸く掴んだ相手の魂胆を、手強い奴だ、実際『
だが、否。【神仰】の眼光には一分の慢心も油断も無い。むしろ言葉ではなく剣を打ち込んでいるかのような鋭い眼光だ。その意図を、ルルヤもリアラも察する。……魔法とは即ち信仰と心の力。心揺らげば魔法も揺らぎ、それは敗北に直結する。それを、二人とも身に染みて知っている。この交流は、秘密の優位程度では此方は倒せぬと見切っての、あくまでそれよりも此方の方が有効と戦術的に判断して振るう、心を揺るがそうとする言葉の刃による切り合い、それこそが本題なのだ……!
「禅問答をしようではないか、日本人。日本人はよく禅問答をするのだろう? 日本のアニメでは、巨大ロボットに乗って戦いながらでも禅問答をするではないか。ここまで色々と教えたのだ、そのぶん色々と答えてくれ、」
「いや、それはちょっと……!? いえ、問答自体はいいんですけど……!?」
そう理解し油断無く心構えしようと思った所に、またも『
「成る程。問答か。よかろう。何を問い、何を答えとし、何を語るかで、貴様の教え、貴様の魂、しかと見極めさせてもらおうではないか」
「無論だとも。しかと我が教え、我が魂、受け止めて貰おうではないか」
だが、ルルヤは一切の動揺無し。真っ向から『
そして『
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