・第十九話「白昼の真唯一神(後編)」
・第十九話「白昼の
「ではまず最初の公案だ。これは何とかいう西洋人が考えた、実に底意地の悪い奴だ。そもさん! 暴走トロッコが線路の上を走っている。お前は二股に別れる線路の切り替えスイッチの前にいる。このままでは五人がいる所に直撃する。切り替えれば一人がいる方へトロッコは行く。四人救うとも、一人殺すとも言える。どうする?」
「色々誤解が……いやまあ、禅問答という用語に拘らなければ、互いの倫理観を問うには問題ないから、それでいいです。ルルヤさん、答えるときは一応せっぱと言ってあげてください」
わざとか誤解か、冗談か大真面目か、判然とさせない『
「セッパ。呆れるほどに簡単な問題ではないか。そんなもの、トロッコをぶん殴って破壊すれば全員救えるだろう」
「「ぶはっ!?」」
真面目と冗談、わざとと誤解が渾然となったぶっとんだ禅問答に対するルルヤの回答は、真面目と誤解が噛み合った予想外の代物で。リアラと『
「何だ、何か可笑しい事を私は言ったか!? リアラ、酷いぞそいつと一緒の
あるあるネタが一人だけ分からなかったような疎外感に可愛らしくむくれ牙を剥いて叫ぶルルヤ。リアラは腹を抱えて体をくの字に折り曲げたまま必死に頭を下げた。地球の人間では絶対思い付かない、しかし紛れもなくルルヤなら可能であろう、本来の出題意図をガン無視した暴論でありながらあまりにも痛快な回答を、憤然ルルヤが真顔で言ったのが、不覚にもツボに嵌まってしまったのだ。
「い、いや、私もまだまだ地球の常識に囚われてるな。た、確かにお前がその場にいるならそれが正しい。こいつは虚弱貧弱無知無能な地球人の為の問題だからな」
どうも同じくツボに嵌まったらしく、目元を拭いながら『
(僕も、そう思った)
二人は一緒に笑い、そして、『
「ええと、つまり、この問題は、ごく普通の人、攻撃魔法とか強化魔法とか使えない人にも広く問う問題ですから……といっても」
……お前は私に似ている。『
「前提の無視といえば、僕も最初に聞いた時
……地球で初めてこの問題を聞いた時の、ヘルマン・ヘッセの小説の様な何とも言えない、強いて言えば〈正しさが悪用され嫌らしさになる事への嫌悪〉とでもいうような感情を思いだしながら、復讐者としてそういう嫌な存在にはなるまいと自戒しながらも、少し思い出し笑いならぬ思い出し怒りして。
「路線を切り替えるのではなく人を突き落として止める場合どうかという派生問題から考えて、このトロッコ特大のデブを蹴落とせば止める事が出来るっぽいので、地球にいた頃の僕だったら、「暴走トロッコだ、逃げろ!」って叫びながら線路に飛び込みますね。自分は死にますが、減速されて六人が避ける余裕が出来る事に賭けます……いえ、ルルヤさん、大丈夫ですよ、別に今ならそういう事はしませんから」
僕の体格だと止める事は無理そうだけど遅れさせるくらいなら、と、地球での自分を思い、あの頃の自分ならそうしたかもしれないな、と呟いた言葉に、眉値を寄せて腕を掴み止めろと言わんばありの表情を浮かべるルルヤに、そう答えるリアラ。
だがルルヤは、手は離すが、不安の表情は和らげど収まりきりはせず。
「ははは。その言い方では、力が及ばない状況ならば命を捨てる、と取られてしまうぞ、日本人。それでは
それを、『
故に一瞬、あっと詰まるリアラに対し、ルルヤは変わって前に出た。己の不安など振り捨てて。
「話がそれたな。本題に戻ろう。……そういう話ならば、仮定の問題には私は答えん。己がどうするかなら兎も角、その無力な一個人がどんな判断をしようと、そこまでの極限状況でどちらを選んでもそれが両親から発した結果であれば罪に問うべきではないし、その者も後悔する必要はない。何よりそもそもトロッコを暴走させたやつかトロッコが暴走しうる環境を是正しなかった者に責任を問うべきだ……少し問題の趣旨からすればピントがずれているのだろうが『
「うむ、如何にもその通りだ。その上で重ねて問おう。その答えは例えそのトロッコが、お前の愛する人を轢いたとしてもか? それでもお前は、故意に暴走させた者あるいは暴走しうる環境を是正しなかった者のみを憎み、切り替え点にいたもの等は恨まない事が、本当にできるのか? ……
「む……」
そいつが切り替えたとしても、あるいは切り替えなかったとしてもその場合、根本的な原因でなくともそいつは一部関わったと言えるのではないか。それは、自分の身内を殺した奴以外の
「……
……一息、ルルヤは悩み苦しみ、噛み締めるように、振り絞る様にそう答えた。それは手強い問いに答える事が出来たと言えるが……考え続け己を制御し続けるというルルヤ流の正義論にも適うとはいえ、辛うじて、という要素は拭いきれない答えで。
「ならば同意だ、ならばな。ちなみに、私ならそもそもこの問いを発した奴をぶん殴る、と此方からも答えておこう。汝神を試すなかれ、良心も試すなかれ。神と良心を試し分析しようとする行為は、結局、こういう理屈だから仕方ない、仕方ないからいいだろうという抜け穴を探す卑しい屁理屈根性の溝鼠を産み増やすだけだ」
……それを指摘するように念押しすると、『
「現代的な人間の言いたい事等分かっている。それは知性や理性の否定であり、知性や理性があるからこそ人は文明を発展させより多くの幸福を作り不幸を少なくしてきたのだ、とな。だが、結局のところこうも言えるのではないか。転生者である私が言うのも何だが、知恵により人は増え、科学を知り、文明を発達させた結果、文明に浴する事の出来る者と出来ぬ者という新たな格差を、即ち不幸と怨恨を生んだ。人が増えるという事そのものが、人が感じる不幸の総量、不幸な人間の総量を増やす行為でもある。幸せな人間が増える旅に不幸な人間が増えるのであれば、その幸せに意味はあるか? もっと言えば人は、幸せである事に意味があるのかとすら疑えるようになってしまった。科学は宗教を虚偽と暴きたて、人は死ねば消えるのだと告げた。日本人、貴様は己の死を恐れぬ勇者だが、大半の人間はそうではない。馬鹿以外の文明人は、敬虔な中世の人間より遥かに死に怯える羽目になった。結局の所、不幸の総量は増えたのではないか? 故にあえて言おう。ならぬものはならぬ、に対し屁理屈を言う賢しらが知性だというなら、そんな知性は不要だ」
言いかけるリアラの反論を、先回って『
「科学が人間から死の覚悟を奪い、死は恐怖となって君臨する、科学は人を豊かにしても救いはしない、と? ……『
「よく分かったな。やはり、私と君はよく似ている。……悪役に憧れてもいではないか。悪役というのは、世を変えようという志を持っている者が数多居る。正義の味方に、守護者と言えば聞こえは言いが、単に現状維持をしているだけの者が数多居る程度にはな。さて、一段落したようだ。では……」
辛うじて、お前の主張はお前が好きな漫画の悪役に似ているぞ、と、皮肉を刺すが、むしろその通りと、『
そして『
「そもさん! 全知全能の神は、自分が持ち上げる事の出来ぬ岩を作る事が出来るか? この問いについて、どう思い、どう考える?」
今度の問題は、所謂全能の
「せっぱ。可能です。僕が考え納得する範囲で二つの考え方があります。ひとつはその問いの条件を満たすだけの考え方で、もうひとつはもっと根本的な考え方で」
故にリアラがそう答えた。全知全能の唯一神を奉じる男がこれを問うという事は、通り一遍の否定を跳ね返す答えを眼前の男は己の内に有していようし、何よりこの問題についてリアラは昔知って考えた事があり、その上で納得し選んだ答えは肯定であった。故に、ここはその方向で答えを紡いでいくしかない。
「その心は?」
(そ、その言葉も禅問答とは違うんだけどなあ)
明確な回答を持つ自信ある即座の答に『
「前者はこうです。全知全能の神が自分で持ち上げられない岩をつくったら、全知全能の神様ではなく、それが出来ないんだから全知(全-1)能の神様になります。けどそれ以外の事は全て出来る訳ですから、当然〈全知全能の神様でも持ち上げられない岩を持ち上げる事〉は出来なくても〈全知全能の神様でも持ち上げられない岩を持ち上げられるスーパー全知全能の神様にレベルアップする〉事は出来る訳です。両社は同一ではないので、それはそれ、これはこれと。つまりこの問いには、時間経過という点で抜け道がある、と僕は考えます。多分、全知全能の神様の名前を言うのが良くない事とされてたり、別名の美称が沢山あるのは、スーパーウルトラグレートデラックスなんちゃらとかこの方法でレベルアップしまくった結果なんでしょう、なんて、冗談をいってみたりして。あるいは岩じゃなくて世界の方をずらして結果的に岩が動いたと同じ事にするというのもありますけど、それは、なにか姑息ですし」
「はは、確かに。少し『
リアラの言葉に『
「時間経過という抜け道を潰すような質問、つまり、全知全能の神は、未来永劫過去永劫どれ程変化成長改名しても自分を含む誰をもが持ち上げる事の出来ぬ岩を作る事が出来るか? というような質問をされた場合の考え方です」
それに対するリアラの言葉は、ある意味律儀とすら言えた。問う相手が尚も徹底的に全知全能の神の矛盾を証明しようとした場合どうするか、別に全知全能の神を信じても帰依してもいないのに態々全知全能の神を弁護しようと想定を重ねるというのは、正に律儀と言える。
例えそれが、好きな物語をそんなの現実にはありえないと言われたら嫌な気分になる様に、信仰を理屈で否定されたらそれを信仰している人は嫌な気分になるだろうなあと、過去にふと思って反論の余地がないだろうかと考えてみた結果だとしても。
「真に全知全能の神なら、〈絶対に持ち上げられない〉という状態を維持したまま〈不可能を不可能なまま成し遂げ、かつそれらが一切矛盾していない状況を作る〉事が可能なはずです。そしてそれがどういう状態なのかを人に説明し理解させる事もできるでしょう。ただ僕自身は全知全能の神様じゃないのでそれがどういう状態なのかを理解したり説明したりする事はできませんが。……ここまでは所謂〈全能は論理的不可能を行いうる〉という既存の観点にすぎませんし、それを理性や論理をバカにする行いでそういう事を言う奴は相手にするに値しないと言う人もいましたが、それはそれで理性や論理を
大体チャックノリスファクトでも同じネタがあるんです、神様がそれをやって何が悪いんですか、と、冗談を挟んで、そして出題に対する回答だけではなくリアラはおマケをつけてみせた。
「ついでに言えば、全知全能で善なる神様がいる世界に悪がありうるのかについても同じ事が言えると思います。全知全能の善なる神様は、悪がもたらす反省だの克己だのが人々を成長させたあとで、悪が与えた悪影響をぱっと消す事だってできるから、悪がいても問題ないとお考えなんでしょう。それがつまり黙示録とか世界が終わる日に行われるから、今、悪はある。……試練で得る成長を最初から付与したほうがいいんじゃないかという事については、道Aを通って場所Cに行っても道Bを通って場所Cに行っても歩く距離が同じならどっちを選ぶかは気まぐれで決めても問題ないようにそこまで全知全能であればどっちでもいいとなる、と」
「……良いな。中々に良い。やはり、私とお前はよく似ている」
そして、その律儀が生んだ論は、どうやら『
「ああ、そうだ。全知全能の神とはそういうものだ。人の小賢しい論理だの言語だのを超越した存在。そういう存在であって初めて……信じるに値するようになる」
噛み締める様に、『
「私がこの世界の転生し、初めて魔法を見た時。未だ
二人に次の公案を以て挑むのではなく、思いが高ぶり溢れる様に『
「……分かります。分かって、しまいます」
その言葉を、リアラは肯定するしかなかった。否定すれば、ソティアとの、ハウラとの日々を否定する事になるからだ。二人の魔法を初めて見た時の輝く記憶を、忘れる事なんて出来ないからだ。
「そうだろう。ここには神秘が、奇跡がある。ここはあの凍える程に冷徹な物理法則と現実が支配する腐った
もの狂おしい程の『
分かりはじめてしまう。『
「かつて私は医者であった。貧困国の紛争地帯を駆け回り、業病と戦乱から零れ落ちる命を止め続けた。それが先進国にすむ現代人としての善であり法と理性と人道に適う正義であると信じた。……私の患者達を無人機の誤爆が粉砕するまでは」
『
「感じたのは怒りではなく馬鹿馬鹿しさだ。あの無人機を飛ばした者達も、漫画のような悪党ではなく、テロと戦うという正義や法の為だったのだろう。それが私の患者達を殺したのであれば……生命も人道も正義も、何ともバカらしく無意味なものだと、私は興ざめしたのだ。あるいは、発狂したのかもしれんな、そこで」
それは、現実というものが、己の敵だと感じる隔意。現実というものを穢らわしいと見下してしまう、醜いが、潔癖と辛さと悲しみと怒りがいり混じりどうしても抱いてしまう感情。それは、リアラが嘆く己の醜悪と、同じ。
「職を辞し諸国を流離い、それまで熱心な信者どころか自分が何教徒なのかすらもまともに考えていなかったのに、かつて戦乱を生む者と嫌悪していた原理主義者と交流を持った。命も近代的人道もバカらしい幻だと思えば、それを踏み躙る彼らへの嫌悪も失せた。彼らは神のために戦うといった。もしそれが成就するのならば、それは神の存在証明、即ち穢らわしい現実への勝利なのではないか? 故に女だったかつての私は男装しテロリストとなった。そう、当時の私にとって、Hi-Luckeyのテクニカルは正に、タフでありながら分厚い装甲や卑劣な距離の臆病さのない、戦士の為の車だった事よ。あれを駆った日々は、地球での数少ない今も懐かしい記憶だ」
「
「正確に言えば袂を別った、という所だな」
ついに明らかになっていく正体。事前の言葉と違う、というリアラの指摘に、『
「途中までは
遠い目をして、『
「改めて名乗らせてもらおう、日本人。地球での私の名前は……一番分かりやすくとおった名は、これだろう。〈
「…………!!」
それは、
「疫病を人為的に蔓延させただと!? 貴様は魔王か!? まさか
「案じるな。あんな事、もうする理由も必要もない」
その情報をリアラから【
「人は何故テロをする? それは私の見た限りではな、テロ組織を維持運営することで利得を得る奴等が若者を洗脳して死なせる場合を除けば、動機は様々だが、手段を選ぶ理由は……それくらいしか出来る事が無いからだよ」
そして断言の理由を語る。それは同時に、かつてそうした理由でもあった。テロリストの絶望。地球の絶望。
「そうだ。高々民間人を数十数百人、自分の命を粉微塵にして、出来るのは敵でもない奴を殺すだけ。それが現代の一般的な地球人の限界だ。もしも漫画のようなスーパーパワーがあったなら、彼らとて世界を変えたかったろうさ。あるいはもしも中世ならば、正々堂々武装蜂起しただろうよ。現代ではそれすらできん。手に手に武器をとって蜂起しても、戦えるのは憎い相手に与する同族だけ。肝心の憎い相手は空の上から一方的に爆撃してくる。最早人間は堂々と戦う事すら出来なくなってしまった。その本質は中世の民衆十字軍と同じままだというのにな。ままならぬ現実に対する暴発。故にこそ自嘲と自戒を刻んで、我が
リアラは沈黙しながらそれを聞き、ルルヤに引き続き【宝玉】を通じて適宜その内容の内
「結局私も同じだ。死んだ私の体の上をドローンが飛ぶのを、私の干からびていく目が見上げていたのを今も覚えている。心の底から絶望しながら、私は死んだ。嗚呼、この世に神は居ないのだ、と。故に私は、唯の
『
「……それならば何故、
「不完全だからだ!」
リアラの叫びに、『
まるで、ここからが本気だと言うように。
「続きは続く二つの公案に答えたなら話そう! そもさん! 日本人、地球に居た時愛する人がいたとして、それが殺されたとしよう。地球では復讐は違法だ、司法に委ねるが合法だ。お前は今復讐者だが、地球ではどうする? 復讐をするか? せぬか?」
「っ………………・、す、る、と、思います。例え違法でも。地球での死に際、友人を守るために、人を、殺してでもと思って凶器で殴りましたし……もし助けられずに生き延びてしまったら、やっぱり僕は同じように思い、同じように二組、同じように行動した筈です。
そして『
「そもさん! ならば逆に、愛着するに値せぬ世界に生きていたとしよう。その世界で
「っ、それは……」
「守るに値せぬ者は守るまい。守れまい。それは当然で必然だ。我ら
更に続けられた言葉に、リアラは遂に言葉に詰まった。自分が戦うのは、愛する仲間を殺した奴等への復讐であり、愛する世界を守るためだ。……その愛を、神仰は自分達と同じだと突き刺す。『
「そうだ。それが、お前が私と似ている理由であり、私が
これは、俺達もお前達も戦っている時点で屑だ、故により邪悪な俺達が勝つという浅薄な『否定』の言葉では無い。戦う動機を、正義を掲げる思いを理解した上で、他の
だが……それを語る存在が、理想を否定する事を蔑み理想を称揚する在り方が余りに苛烈すぎて理想を掲げる事そのものを恐れさせる程に凶悪な存在であったという事、それが己と類似していると言う事が、
(っ、そうか……貴方は、最初から……)
(そういう事だ)
視線を交わし、リアラは理解する。『
「この世界の神話を知った時、私は天国から地獄に突き落とされた思いだったよ。輝いて見えた世界が、一気に色褪せ綿塵の灰色に見える様になった。なんと……不完全なのだ、と。それを最も体現しているのは、自覚し、嫌悪しなければならないのは、お前ではないのか? 古の竜よ」
「何……!?」
そしてリアラに対し言い募る『
「古の竜は、諸霊を束ね、神々に封じ、諸族の戦いを終わらせた。……それで神々の上に古の竜が君臨し続けていれば、その上で魔と対峙していたのなら。それは一神教ではないが、一つの明確な統一された正義と信仰のある世界だ。私は、百歩譲ってという程の事もなく数歩譲るだけでそれを認め、それに帰依し、お前達の仲間となって
更に向き直ったルルヤに対し、又も予想外の言葉をぶつけた。お前達の側に立っても良かったかも知れなかったのだと、流石にそう言われればルルヤも驚く。
「だが、違った。古の竜は討たれ、魔に対する考え方も、正義も悪も統一されず、ばらばらになった。不完全な正義、不完全な神話、不完全な古の竜よ。そんなものが、何で信じるに値しようか!」
「むっ……!」
私がこうして新宗教を立ち上げたのは、お前の信じる
「日本人よ。お前はカイシャリアⅦで、この世界と地球は違うと吠えたな。……私には同じにしか見えぬ。魔法があり、神々が実在し、それゆえに人々が地球より強く己を律し美しくあろうとも、神々が神々である限りな」
「……どういう、意味ですか」
辛うじて、リアラが言葉を発した。それに対し『
「自然と対立し自然を否定し文明を築いて以来、地球人類の歴史は対立と否定の歴史だ。他の人種を否定し、他の民族を否定し、他の国家を否定し、他の宗教を否定し、他のイデオロギーを否定し、それら全てと対立し、争い、殺しあい、憎みあってきた。進歩し乗り越えてきた?
それは、途方もなく深く強い現実への怒りと失望。そして。
「
それは、彼が唯一の神を求め
「複数の正義が生む相対主義は、我も正義、汝も正義、故に平等と言うだろう。それは制御されていない平等だ。人間が武器を自由に所持して良いと言われればそれを殺す為に使い、自由に表現をして良いと言えば他社を侮辱し他者が好み愛する者を馬鹿にし人の心を傷つける為に用いる様に、自由と同じ様に人は平等も悪用する。私もあいつも平等なのに、何故あいつは人気がある? なぜあいつは美しいと言われる? なぜあいつは優れている? なぜあいつはあんなにも純真無垢なのだ? 平等はそれらを許せなくする。平等は、輝ける者を穢れた者が引きずり落とし貶め溝泥の中で辱しめる行為の土壌だ。どうせ平等が富者や権力者の横暴から弱者を守れる度合い等、たかが知れているというのに。……美しい者、富める者が存在する事は、それが平等と組み合わされば唯それだけで憎しみと争いを生むのだ。故に、あの町は攻め落とさなければならん。美しさと富を削ぎ、制御された平等を齎さねばならん」
そして明確な、マルマルの町への宣戦布告であり……
「……全ては、一つの明確な統一された揺るがぬ正しさを定義するものが無いが故だ。誰も彼もが、己らが正しいと思い、異なる者は間違っていると言う。人は、ばらばらである限り際限なく争い会う。滅びるその時まで。いずれ戦争か環境かで破綻するあの薄汚れた
「日本人よ、古き竜よ、同じだ。この世界も同じだ。古き竜が廃され、神々が複数存在し、諸国諸民族が別れている。例え魔法があり奇跡があり確固たる信仰があれども、否、あればこそ。それが複数存在する事それそのものが人を際限ない争いへと駆り立て、恨みが溜まり際限なく魔王は代を重ね、そして、その中で暗躍する
絞り出すように、『
「だがまあ、案じるな。私にここでお前たちが敗れようとも、一つとなった世界、私の理想郷を作り守る為に、
「何だと?」
叩き付けた上で尚、『
「端から見ている者は英雄視し、脅威視しようとも、お前たち自身は分かっていよう。【
……その指摘は、事実だ。【地脈】の力を一旦使い尽くしたケリトナ・スピオコス連峰を、ナアロ王国の追撃の可能性を警戒し
「言っておくが、私も、そして私を含む今いる
その上で『
「……加えて言えば。十人倒せば終わりだとは思わない方がいい。
事実の重みに潰れてしまえ、際限のない絶望に屈するがいい。無限を担う事が出来るのは、全知全能の神だけだ、と言う様に、『
「……〈浄化監理局〉という奴等がいた。この世界には、地球と
「……その者達の善性には敬意を払おう。その者達の死には哀悼を示そう。だが、私はこうも言おう。自存自衛してこその独立だ、と。
その言葉にルルヤは決然言い返した。『
「良かろう、見上げた覚悟だ。だが、できるかどうかは別の話だぞ。お前達の竜術が
勝てはせんよ、と、『
「そして億の奇跡の果て兆が一我らを打倒したとしても。私による統一を阻んだ後に残るのは、転生者達に良い様に操られ、争いあい、絡み合った因縁によって憎悪の連鎖で汚染された、地球と変わらぬ世界だ」
奇跡が起きたとしても、戦後にお前たちが守りたかった古き良き
「その世界を救う理が、お前たちにはあるのか。無いのならば道を譲れ。この世界は、私が、私の真にして唯一の神が救う。故に、帰依せよ、私は何度でもそう言おう。例え戦いの決着がつく時であろうとも、帰依するのならば受けよう。私の問いへの答えも、戦うその時でも構わん。……抗う答え、出せるものなら出してみよ」
この言葉を以て、『
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