・第九話「侵略の地球(前編)」
・第九話「侵略の地球(前編)」
(何だ、あの建物は。この光景は? アーチもドームも尖塔も飾り窓も彫刻も無し。煉瓦や石や木を一切使わず、鉄芯でも入れて補強したのか
蒼銀の髪を持つ少女、ルルヤ・マーナ・シュム・アマトは思わず内心で呟き。その疑問を、リアラが考え出した【
故に周囲の人間が二人に注目する事は無い。しかし行先を表示する札を示す
(大丈夫か? ……知ってるのだな、あれの事を。それも、良くないものだ、と)
(……はい。大丈夫です。あれは)
心の傷に蒼褪めた顔で苦しげに、しかしそれを乗り越えんとする意思を表情に込めリアラは答えた。
(アレは地球の建物です。地球の学校と会社ビルに団地に工場、舗装道路。
悲しみの瞳で、峻厳だが幸豊かな森深き山の集落だった場所の喪失を見ながら。
(カイシャリアⅦ。
山を爆破し木々を伐採し
二人はこの地を解放すべく、今密やかに潜入を行いつつあったが、その姿はこれまでとは違っていた。潜入の為、この地で纏うべきと強いられている服装に身をやつしていたのだ。
(……それにしても、こんなネタで天丼するとは思わなかったけど……)(?)
地球の漫才用語が分からず首をかしげるルルヤだが、説明する前にそれでもリアラは嘆息した。せめて軽口を胸の内で温める事で、抗う心の余裕を保つ為に。
(異世界来たのに女子としてセーラー服姿で登校する破目になるなんて、ビキニアーマーにも驚いたんだけど、又別の意味で……何というか……どうしてかなた)
外の光景程にはルルヤに嫌悪されなかった、古風な意匠で灰色と黒を基調としたセーラー服という姿の自分に、なまじ見知った服故の居心地の悪い羞恥心を感じながら。尚、ルルヤも勿論その姿であり、周囲の男子は同系統色のブレザー姿であった。
「〈「お早う御座います、今日も頑張りましょう!」
「お早う御座います、ご安全に!」
熱心励行を強いられた大声だが空虚な朝の挨拶が、排煙でくすんだ空に木霊する。
監獄のような灰色の街に集められた生徒達が、今日も仮面のような人工的な笑顔で、〈労働の義務は人を立派にする〉と刻まれた門を潜り抜けていく。
疲労の蓄積した心身を包むのは、単調な灰色と黒の制服。
着ける意味が
もちろん、始業時間より遥か前に来て自主的とされている準備等をしないといった、はしたない生徒など存在を許されていよう筈もない。
私立カイシャリア第七学園。
最近創立の此の学園は、元は債務者収監の為に作られたという、伝統無き労働学園である。
ナアロ王国の影響とワター商会の財力による支援の下。かつての面影を最早残さぬ緑無きこの地区で、神を捨てる事を強いられ、他六つのカイシャリア建設の過程で培われたノウハウによる画一的自我再構成教育を受けさせられる支配の園。
時代は移り変わり、
そんな学園の学園長室で窓から眼下の状況を見下ろし、そう嘯く桃色の髪の女。その場において、支配者達の会話が行われていた。支配者達。それは即ち学園長たる彼女、『
「ええ、そうでなければいけません。
陰鬱な光景を歌い上げる『
(
「それで……いよいよ、というところかしら?」
普段は精神論だけの無用な訓示を垂れたり既知情報を再確認する無駄な朝会を開く事等を楽しんで行なう『
「ええ。そちらもその方面に付き合いが多いのでご存知と思いますが。犯罪業務部門から正式な報告書が。『
「転生前の個人名を一々覚えていたの? 位階五十以下の雑魚風情を。流石は社長様。出来ることも貴方の完全下位互換どころか、貴方が〈
「
(どちらも正面から押し込んで問答無用の抹殺。それぞれ傘下に従えていた犯罪組織も後腐れを防ぐ為に容赦なく一夜で叩き潰している。それはそうね、違法な利息の借金を返させるのも、違法賭博の卓につかせて負けた金を取り立てるのも、煎じ詰めれば治安組織に取り締まられない状況と逆らったら酷い目に遭う暴力のバックボーンが絶対前提。犯罪組織を一晩で面子だの報復だのを考える気も失せるレベルで踏み潰せる相手に、そんなものは何の意味もない。まして『金を貸した相手を威圧し弱らせる』
その後溜め込まれていた金を強奪しその恐らく75%程度をそれまでその被害にあっていたであろう近隣住民に義賊めいてばら撒き再び姿を消した、という報告書を読み進め、最後に添付された現場のスケッチに、僅かに『
「〈悪を守る正義無し〉。
挑発してくれるわ、と、刻まれた文章について『
「残り25%の行方は、奴等の活動資金というところね」
「ええ。無論平行して調べさせましたとも。『
「此処へ潜入する為に。そうでしょう?」
「ええ。他にも色々と、協力者を得たり、真の協力者が何者かを隠す為の偽装依頼も含めあれこれとしているようですが、そちらは弊社と御社には関係の無い事、真偽を選りだす業務の優先順位は低い、今は置いておきましょう。
『
「成る程、可愛い子達じゃない」
嫣然と笑む『
「油断は禁物ですよ。私からすれば貴方は趣味的に過ぎる。貴方の〈怪物〉は有料な商売の道具ですが、その性根だけは下らないし理解できないし理解したくもないし穢らわしい。〈情を与え絆を与え、逃げられぬよう見逃せぬように、幾重にも縛りと重石を絡め、それでも可能性と希望に縋らざるを得ないようにし、引きずり回して殺す〉と、あなたが事前に提案した路線通りに確実に制してこそ、ナアロ王国とこの世界への、『
「無論、油断等。良き獲物で有れば有る程、私の『
既に此処はルルヤとリアラにとって戦場ではなく罠。『
「『
「頼みますよ。需要を造る為にも愛の鞭としても、私には貴方の『怪物』が必要です。必要だから貴方を雇用し投資する。必要だから貴方の策に協力する。必要だから【
ナアロ王国に所属する身で『
「ええ。〈武活動〉のタイミングは即調整。所属
歌うように罠と兵力の配置を整えながら、笑みを深め、『
「『
それは生物的必然性が無いどころではない異形であった。機能的必然性すら無い、にも関わらずそれは実に滑らかに素早く動くのだ。物語の怪物としても美的でも面白くも無ければ威風堂々見事でもない。唯只管に嫌悪と恐怖を誘う、人間を歪め、肥大し、矮小にし、増殖させ、間引き、腫瘍化させ、癒着させ、欠落させ、過剰にし、生理的違和感と怖気を誘う奇形化の方向で昆虫や深海生物等と融合させた、地獄絵や悪魔絵を立体化したが如き狂気の生体機械。無数の指の足と長大な腸の胴、花弁のように舌の咲く根本に奇数個の瞳が複数あるむき出しの眼球を配した、意地汚く貪欲そうな巨大な口を持つ人の胴程にも太い大蛇のようでもあり百足のようでもある怪物が、報告書を読み策を配しながら昂った主が阿片煙管を注文する阿片窟の中毒者じみた口調で乞うのに答え、粘液音と共に大玉の瓜程もある宝玉を吐き出した。
「嗚呼、美少女が惨たらしく死ぬ程素晴らしい事は無いわ。それも絶望していれば尚芳しい、一瞬の暗転による驚愕と現実拒否の表情や、尊厳を砕かれる程の恐怖と諦めが混じっていれば尚良し、金髪で巨乳なら一番だけど、ふふ、蒼銀や赤金の髪も誤差範囲として偶には悪くないわ。それにとても良い体、とても綺羅綺羅した魂。嗚呼、嗚呼、この良い体がだらりと吊り下げられたりびくびくと痙攣したり、この綺羅綺羅した心が映る瞳が曇るのはどれ程素晴らしいでしょう! 嗚呼、嗚呼、早くこの子達の首が欲しい!」
否。それは大玉の瓜程、と例えるものではなかった。それは首だ。この怪物に食い千切られた生首が、その体内で宝石状の物質にコーティングされ保存されていたものだ。恍惚のままに『
リアラとルルヤの生首をそのコレクションに加えるのを待ちきれぬと、その間の無聊を慰める為にと宝石生首に頬擦りし、口付けし舐め、そして弄びながら、女神を思わせる美貌が
「ウェー、ヒッヒッヒ!! !」
学園長室で悪の笑いが木霊する、その時その下をまさにルルヤとリアラは、偽満員電車馬車に乗って通りすぎていた。もうじき、〈転校生〉とこの学校では称する債務や武力で狩り集められた生徒達に対する、〈入学式〉と故障される説明会の会場に馬車は横付けされる。
「っ!! !」
その最中、窓の外の光景を見てリアラは声にならない呻きを漏らし、口を押さえ固く瞑った目から涙の粒を溢して俯いた。悲憤に叫びそうになるのを押さえながら。
〈自殺者=敗北者、無能、弱者、不良品、廃棄物、仕損品、将来においても会社と社会に何の役にも立たなかっただろう塵屑、今の内に破損しておいて将来組織の脆弱性にならずに済んで幸いだった存在、虐められ他者のストレスを解消する以外何らの社会・会社・学校への貢献をできなかった滓、せめて自殺するまで他社のストレスの捌け口になれて幸せでしたと遺言書に書かなかった反逆者〉
〈自殺者の負っていた負債並びに社員再教育に費やした資金は、かかる不良品を発見し廃棄する労働を行い成果をあげた虐め実行者全員の5%の負債を肩代わりさせ上乗せした上で、自殺者の近親者ないし友人に上乗せされ、それがカイシャリア社員・学生でなかった場合、速やかに転入・転職手続きが実行されます〉
それは、そんな、見るだけで悪意と害意で窒息しそうな胸糞悪い文章の書かれた木札を、乱暴に釘で体の肉に打ち付けられた獣人の少女と
俯き、余りの惨い扱いへの哀れさに震えるリアラの体を、ルルヤが抱きしめた。柔らかで豊かな胸にその頭を押し付けるようにして。しかして、ルルヤは俯かず、視線を逸らさなかった。その表情は、故にリアラには分からなかったが。
竜の唸りをリアラは聞いた。悪為す者に裁きを下す、
((私が当学園の長、エイダキシア・サカキルオンです。此から皆様に、商会都市カイシャリアⅦ市長にしてワター商会株式会社社長、ショーゼ・ワター氏から簡潔にこれからの生活についてお教え致します。異論反論質問は認めません))
((ショーゼ・ワターです。入学おめでとう、生徒の皆さん! 貴方達は学生となり、そして卒業して社員となる。これほど素晴らしい人生は無いと、教育を通じて皆様にお知らせいたしましょう。貴方達が必ずそう考えるようになるようにして差し上げます。その上でその方針についてお伝えいたします。弊社はナアロ王国に属し、取得したこの都市も契約上ナアロの領土として法的にも同国の法が敷かれますが、ナアロ王国と弊社の契約により、それに加え弊社独自の社内規約と弊社が運営する当学園の学則が適用されます。そして、社内規約並びに学則には基本方針があります。貴方達は社会に利益をもたらす存在にならなければなりません。貴方達がここに招かれた時から抱えている負債すなわち今日まで生きていく為に使った資金、此処で貴方方が会社・社会に利益を齎せる存在になる為に施す教育に懸かる資金というそれに加えられる負債、それ以上に利益を齎せなければ、存在している価値が無いからです))
((ええ、無いのです。神の下の平等による人権の保証? そんなものあるわけないじゃないですか〔呪文の詠唱と共に発生する爆裂音、発動した攻撃魔法が、エイダキシアとショーゼの眼前で見えない何かに阻止される〕。神がもたらす魔法より、強いものが此処にあるのですから。無力な神等存在しないも同じ。故、改めて伝えます。学園に、会社に、社会に神はいませんし、故に人権もありません。この学園では価値と利益をもたらす労働の為に必要な実学のみを伝えます。詩、歌、物語、芸術、歴史、信仰、遊戯、趣味、文化に関するあらゆる行為は禁止されます。貴方達はそれを楽しむ側の人間ではないと我々が定義します))
((先程私達に攻撃魔法を撃った人。中々度胸がありますね。その度胸は心ごと教育によって抹消しますが、今体罰は加えません。理由は二つ。一つは、罰を与える程害を為す程の力が無い、自分がその程度の存在でしかない事を認識してほしいから。二つは、まだ貴方の値打ちの査定がすんでいないから、その前に傷つけるわけには行かないという事です))
((そうです。貴方達が存在を許されているのは、貴方達に仕事を行う生産力としての値打ちがあるから。故、傷つける事でより従順になり仕事に身を捧げるようになって値打ちが上がるのであれば傷つけますし、傷つける事で障害を得る等して仕事を行う力が低下し値打ちが下がるのであれば傷つけませんし、生かしておく事で利より害が多く、生産するより多く消費する存在であれば廃棄処分として殺します))
((評価を行い人材として運用する為に生徒同士値打ちを示しあい競いあってもらいますが、そこにおいても我々の評価基準はかくの如し、です。先程通学中にその例をご覧になったでしょう? 能力の高い者、組織に全てを捧げる熱心さを持つ者、円滑に組織を回すに足る相互理解力の高い者、所属組織の為ならその外の他者を踏みにじる事に何の良心の痛みも覚えない者等の優れた者同士が暴力的に潰しあうのは不利益であり為許容できません。ですが、能力の劣る者、組織に全てを捧げず他の事に心を残す者、周りの仲間に合わせられない孤立者・変わり者・個性的な者、下らない良心で組織の方針に従属できない者、所属組織の文化以外の文化に関心を示す者、劣る者、弱い者、優しい者、趣味人、反抗的な者、そういう存在を虐め殺す事は推奨される行為です。それは適正な行為、間引き、雑草摘み、害虫退治、校正、淘汰です。虐められて死ぬような弱者は不要な人間です。死者に価値はありません。むしろ校内社会に適応し他者を蹴落とし生き残る虐めっ子こそ社会に必要な人間であり守られねばならないのです! それが社会人生活なのです!))
((……以上が本校、本都市、そして拡大を続ける弊社が敷く規則の理念です。詳細については、各自担任教師、並びに実地において体得していただきます。ご静聴有難うございました))
((ワター社長、どうもありがとうございました。さて、最後に私、学園長から追加させていただきます。本学校においては、実学の他に存在価値を示す手段として、〈武活動〉と呼ばれるものがあります。これは近年増殖しつつある新種の魔物を、その発見の報告を受け学園所属の冒険者として討伐する活動です。参加希望者には、カイシャリアで開発された新型の強力な魔法装備が貸与され、素人でも一流冒険者に勝利する事が可能な力を得られます。新種魔物退治の各種装備や新種魔物除けの魔法道具はワター商会の重要な商品であり、その開発に寄与する本活動は、成果を挙げれば極めて高度の報酬と評価を得る事ができ、十分な成果を挙げれば早期卒業・希望によるカイシャリアからの退職が可能となります。各種資料は視聴覚室に、ご応募は担任・職員室から、何時でも受付しております。それでは、これにて以上です。各教室への転入手続きに入ります。ご静聴有難うございました))
……そんな最低最悪の説明会の後、ルルヤとリアラは〈転校生〉として、クラスへの編入と紹介の為教室の教卓横に立たされていた。
(門の銘は〈この門を潜る者一切の希望を捨てよ〉が正確なような気がするな。最も、欺瞞に満ちているどころか、欺瞞を真実として扱う事を強制するこの感じじゃ、そうもいかないか。あの文句は〈
「朝礼を終える前に、伝達事項がある。新しい〈転校生〉だ。自己紹介しなさい」
のっぺりとした板のような口調で話す、個性の薄い教師。
(違和感? 気持ち悪さ? 嫌悪感? 息苦しさ? ……何だ、この、感覚は……?)
眼前に並べられた机に座らせられている生徒達。年齢こそ狩り集められただけあってルルヤは詳しく知らないが地球と違いややばらつきがあるが……その表情に滲むそれぞれが持つもっとも強い感情は僅か三つだけなのが実に異常だとルルヤは薄気味悪く思った。
一つは、恐怖に駆り立てられた競争心。即ち、成績において他者に勝り続けなければ酷い目に遭うのだと脅しつけられたという感情。
二つは、諦観に満ちた悲嘆。即ち、否定され尽くした心の成れの果て。潰れて死んだ感情。
そして三つ目は、貪欲で修羅道に堕ちた嗜虐。即ち、蹴落とし、侮辱し、踏みにじり、狩りたて、追い詰めることを楽しみ、また楽しみにしなければ己がされる側に回るのだと理解しながら、それが当然でそして自分は決してその側に回る事はないと思い込んだ鈍摩した感情。
その他の普通の感情は、辛うじて絶え果てた訳ではないがその三つの下に押し潰されたようになってしか存在しない。それはルルヤからすれば明らかな異形であった。
「キーカ。唯のキーカよ、名字なんて無いわ。この学校に来た理由は下手打ったからだけど、あんたら皆もそんなもんでしょ。好きなもんとか嫌いなもんとか、そんな余裕は無かったから知らない。自己紹介、終わりよ」
『
「わ、ワタシはララ・ララリラです。この学校に来た理由は家庭の都合で、キーカさんとは一応家の近くにいた人なんで顔見知りです。よろしくお願いします」
同じく偽名を偽装経歴に沿ってリアラも名乗った。こちらはややおどおどした風を装って。演技は、内心苦笑し、自嘲しながらだが、それなりに上手く出来ていたが。
……だが、この潜入が上手く行く事は無い。ここは既に罠の巣。そしてそれに加えて、トラブルがすぐさま行く手に待ち構えていた。
「っ!!?」ガタン! 「っ、あ……!」
リアラが偽りの自己紹介を終えた直後、大きな物音がした。曇った瞳でぼんやりと視線を前に置いているだけだった一人の女生徒が、瞬きの瞬間驚愕の表情で思わず椅子と机を鳴らして身を乗り出し、リアラの顔を穴が開きそうな程凝視したのだ。その瞬間、リアラも、窒息しそうな程、心臓が痛む程驚愕した。彼女の姿に。
「静かに」「……ハ、ハイ」
そして、教師の淡々とした一言に、しおれたように従った彼女の有り様に打ちのめされた。
(ごめんなさい……ごめんなさい……!)
「席は用意してあります。窓際後ろ二席、ララさんが後ろ、キーカさんが前です」
覚悟はしていた。だがそれでも、リアラの胸はハウラを守れなかった罪悪感に貫かれ押し潰された。そしてそれは当然お互い顔見知りのミシーヤにはリアラの偽装がバレたという事でもあるが、ミシーヤがそれを大っぴらに言い出さない今は、それよりは罪悪感の重みのほうがきつかった。思わず目をぎゅっと瞑り、ミシーヤから顔を背け指示に従い席に向かい。
「うわぁっ!?」どだん!
そして転倒した。目を瞑っていたからではない。今は無力な一般人を装っているとはいえ、ハウラとルルヤに仕込まれた体捌きと【
「痛ぅ……」「通行料さ、お嬢ちゃん」
派手に転倒したリアラが呻く。足をつきだした男が嘲笑う。直後。
ズダン! CRAAAAAAAAAAAASCH!!
「ぐっ……!?」「あんたにも通行料だぜ、野良猫ちゃんよ」
轟音と共に、ルルヤが天井に叩きつけられ、そして床に落下した。リアラに足払いをかけられた事に怒ったルルヤが、つき出されっぱなしの男の足を思いきり踏みつけにいったのだが、その足を逆に蹴り上げられ、足一本の力だけで吹っ飛ばされたのだ。リアラが避けきれなかったのも、この凄まじい脚力による速度故!
「っ!? 、キーカさん……!」
「、大丈夫。何心配してんのよ。……やるじゃない」
「あれで死なねえ野良猫ちゃんもな」
近所に居た、という設定の
その結果がこの手傷だが、相手が動かしたのは殆ど膝から下だけ。本気で蹴れば、生身の人間等粉微塵に吹き飛ぶであろう。恐らく単純な身体能力の強化度合いであれば、『
そう。
(HAHAHA……『
トラバサミの一つが、ガチャリと牙を剥いて二人の足を噛んだ。罠自身の増上慢や無知、罠一つ一つの生存等関係無く、罠の噛み傷から流れる血が、齎す苦痛が、引き摺る鎖が、二人の力を削げば良い。そう『
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