・第十四話「チートを狩る者達、新天地玩想郷を驚愕せしむること(後編)」
・第十四話「
「『労働開始』!」ZDOM! 「神権、『ハスター』!」ZDOM!
直後、二柱の悪神は大気を破る音を立てて飛翔した。『
(神権『ヨグ・ソトース』、描写追加。『町全体を包囲する様に次々と出現し続ける『
一拍の間、『
「勝手放題の事を言って! 世界法則の具現である私に! 逆らうとは!」
故、一手間分先に『
「勝負だと言ったろうが! 悪神がぁっ! 【GEOAAAAFAAANN! 】」
そこに地から駆け上がったルルヤが食らいついた。猛々しく逞しい漆黒の翼を広げ、天を貫かんが如く飛翔。【地脈】で得た力を全力で使う事で今より数段成長したに等しい力を強引に発揮し、【咆哮】と【骨幹】と【爪牙】に【息吹】を付与し更に威力を跳ね上げた【息吹】を単独発動! 攻撃魔法の雨を咆哮の撤退阻止の応用で己めがけねじ曲げ、纏めて息吹で薙ぎ払い吹き飛ばし、尚残り降り注ぐのを、黒く燃える拳と剣で切り払い殴り飛ばしながら空中突貫!
「ははははははははははははははははは! 良いでしょう、ならば死になさい!」
それに対し『
「ははははは! この使い方は『
「相変わらずリアラの言う通り認識が甘い!
飛来する魔法武器を悉くルルヤは切り払い粉砕破壊! 桁外れの規模だが、中には自動追尾等の追加効果を持つ物もあったが、当たれば傷となるといえど運命干渉的追加効果は竜術が抵抗、投射自体は付与
「舐めてはいません、はは、舐めるでは済ませません! 食らい尽くして有効に活用してあげましょう! 一匹一匹は竜に劣る魔獣の筋力でも! 束ねればどうですか!」
哄笑し『
「通じんぞ、その程度っ!!」
るおうとしたその瞬間、ルルヤは『
「~~~~~~~っ!!?」
『
「成程、これが貴方の力! 評価します! 早速改善せねば! P! D! C! A!」
だが。それら全ての致命傷を、『
「くうっ!」「改善計画ぅ、実っ行ぅうっ! 死角があるなら潰せば良い、死角を潰すには、はは、視覚を増やし、届く手を増やせばいいのです! 弊社に捧げられた命が持っている頭の数と腕の数を束ねれば、魔獣以上の身体能力を保ったまま数を増やすも容易い事! そぉしてぇっ!!」
もう一太刀を見舞うルルヤに放たれるカウンター。それは【鱗棘】越しにもダメージが通る程の強烈な熱線。二の腕を襲う痛苦以上に更なる敵戦力への警戒に唸り翼を羽ばたかせ間合いをとるルルヤ。
その眼前の『
髑髏を象った瘴気を宿す鎚鉾、凶悪な意匠の刃と異様な輝きを持つ斧、柄頭から熱線を放つ凍てついた刃の短剣、ルルヤの【息吹】と似た黒い力を帯びる鉈、河川氾濫に等しい大量の水を氷ではなく変幻自在のまま固定化した水として圧縮し纏わり付かせる事で大刀と化した短刀、雷帯びる金色の、地球で言うプッシュダガーやジャマハダルやパタの類いを更に攻撃的に拡大したがごとき武装、握り拳の遥か先まで延びる切っ先と腕を肘まで覆う刃の武器、握甲剣!
「《
「ぐっ! こん、な物ぉっ! 生前の模倣を合わぬ体で繰り出しても、不完全だ!」
身を焼く痛み。だが、ルルヤはそんな物苦しく無かった。ルルヤの苦しみは別の理由だ……襲い来る六重猛攻を、ルルヤは受け、堪え、反撃し、防ぎ、防ぐ! 其々の腕の動きは確かに屠竜英雄の武技の再現だろうが、生前とは体格も違い、まして六本腕の一本という限定的な状況に無理矢理音仕込めば、必然不完全な再現となり掻い潜る隙が生まれる。
打撃を肩鎧で受け、軋む骨と揺らぐ片翼を堪えながら幾重にも連なり襲い来る斬撃をもう片方の翼を盾にし、向けられる切っ先から熱線が迸る直前それを持つ腕を防御の反動を乗せて身を翻しながら蹴り折り、両翼に攻撃を受け高度が下がりかかる所に降り注ぐ重い斬撃二発を剣と拳で腕を切り折り払い、六臂を掻い潜り、潜り抜けた腕を刺し貫く。痛覚を感じる。其の度に沸き上がる感覚。
(嗚呼。私は。ああ、あああ。こんな。……こんな、奴なのか、私は)
闘争が楽しくて堪らない。鍛えた技を全力で振るい、読みあい、箍を外し、裏をかきあい、力を比べ、術を振り絞る事に血が滾る。其の結果の殺害にすら。復讐の故だ、そう思おうとするが。しかしそれは同時に自分が、復讐を、誰かを憎み呪い害意を燃やす事を、餓えた獣が血を啜る様に楽しんでいる事でもあると理解してしまう。
血の滾りが、その為に戦うと決めた過去の平穏の記憶を上回りそうになる。それは何より辛い。辛いのに、ざらざらと、思考に、■■■■■■■■■■■■、雑音が走る。まるで過去に血泥を擦るような罪悪感。己の、血煙に翳る影の月たる側面を直視させられる。だが、とルルヤは己に抗う。己が醜悪なれば、だからこそ尚更、そんな己の醜悪を堪え、為すべきと思う事を為さねばと。為さねばならぬ事があると!
「っ、ぐううっ!?」「ご覧なさい、重力攻撃とて金で買える! そして不完全は確かに! ですが一騎討ちの誇り等捨てさせられれば得られるシナジーもあります!」
しかしその葛藤の隙を突き、蹴り折られ刺し貫かれた腕を即座に再生しながらそのルルヤの次の動きの前に『
「~っ、う、ぅ、うぉああああああああああっ!! !」「お、おおおっ!?」
する所に爆発! 氷を砕き今度こそルルヤの反撃が炸裂! 電と氷の苦痛を堪え乗り越え反撃! 両手が塞がった状態で放たれた反撃は【
「っはっ! これだけ近ければ、構えて精密に狙いをつける必要もないからな!」
『
その暫時前。地上の
「神権『ナイアーラトテップ』! そんなちゃちな光等、
「子供は否定しないよ、
『
「神権『ハスター』! 『イタクァ』! 『クトゥグア』! 『クトゥルー』!」
リアラが言葉を続ける暇もなく『
「う、あああああああっ!? っ、あああっ!」
儚い妖精の翼を煌めかせるリアラは、既に市民への竜術付与で霊魂から貰った力を相当使っている上に、これまでの戦闘で竜術への習熟を増し【鱗棘】の硬さも増したとはいえルルヤ程の戦闘力は無い。より多くの力を注げばより強力な魔法を得るとはいえ元の魔法への習熟と魔法自体の特性の限界というものもある。辛うじて邪神の力が地上に及ばぬ角度まで己を上昇させた所でそれを受けたリアラは、白魔術と竜術に限界まで力を注ぎ込み、ズタボロになりながら突破するしかなかった。一瞬で傷だらけになった体を、頭を潰されぬ限り死なぬという宣言通り強引に癒しながら突破!
「その翼が単分子ブレードを兼ねている事は、承知の上よ?」
頭部を守る為両手を顔前で交差させ、翼を煌めかせ突貫するリアラに、体の左右すれ違い等という範囲の限定された攻撃手段に飛べる己が当たるものかと、至近の間合いに突っ込んだ相手に対し打ち据え絡め取り捕らえんと触手を叩きつける『
「つあっ!? 何ぃいっ!?」「承知の上なのも、承知の上だっ!」
その触手がぶった斬れた! のみならず触手を切り払って突き進んだリアラが『
「く、でも浅い! それに……!」「神権『シュブニグラス』、豊穣を、法悦を!」
然しルルヤの表情も長続きはしない。本来触手を迎撃する羽目にならなければ慢心した首に引っ掻ける心算だったのだ。それに加え、持っているかもと危惧していた自己再生能力がやはり存在したのもその理由だ。繁殖する神の名を唱えその神権の応用で、邪神は見る見るうちに傷を塞ぎ切り落とされた触手を生やし苦痛を消し去る!
「あは! 今度は此方の番よ、
振り回される触手。それを掻い潜った筈のリアラだったが。直後、粘り付く
「
「っ!? っがああああああああああっ!?」
蜂蜜の様に濃く、酸の様に焼く声音で『
「流石に頑丈ね。毒を注ぎ込んでも効きもしない。っと、『ガタノトーア』! 貴方自身は石化させられなくても防御には使えるわね、『アブホース』! ふふ、吸血位は出来るし、この針を、『クトゥグア』! あはっ、炙ってあげる……!」
何度も、何度も。咄嗟に振るった片手は空中に石壁が形成され砕け盾になり防がれ、その手も触手に絡めとられ針を打ち込まれ血を吸われ、更に針が赤熱化。
「ぐっ、ううっ……」「ああ、ああ♪いい声! 毒は効かないけれど、孕ませる事は出来るかしら? 『クトゥルー』の神権で、醜い醜い半魚人を産ませたいわ!」
『
「っ、痛い……、けど! 痛い、だけだ! それが、どうしたっ! ああ、そうだ、こんな痛み……さっき言いかけた事と比べれば、どうでもいいや……!」
その愉悦を、リアラは吹き消した。『
「正義の味方や主人公って言葉を皮肉や罵倒の意味で使うな!
『
「くく、何を愚かな事を。私は物語に
『ナイアルラトホテプ』の防御越しに睨み合う両名。リアラの瞳が牙を剥いた。
「現実か。お前達は何時もそう言うけど……現実とやらがそんなに素晴らしいなら何で物語があるんだ。なんで物語が要るんだ。現実だけじゃ満たされない、現実だけじゃ呼吸も出来ない、現実だけでは生きるに足りないものがあるから、そう思う人間が沢山いるからこそ物語が必要なんだろうが!」
な、と、余りにも大胆無謀な全てを現実と物語に切り分け二つを対立軸に置く二元論的論法に『
「言っておくが現実逃避じゃないぞ、現実と戦う為の燃料として物語は要るんだ! 例えば奇跡や魔法の物語を軽蔑する者は、現実には魔法なんて無力だなんて言うが、奇跡や魔法を夢見て癒され再起した人が動いて成した事は現実に作用する力だ! 僕は物語を愛する、ああ、オタクだよ、だけどオタクだけの話じゃないぞ。そもそも現実って何だ。人間の心を無視し、優しい子を成績で勝ち負けの負けと価値付け、感受性の豊かな人を業績の基準で最低だって裁定し、正義感のある人を地位でちっぽけと判断し、偶然の事故や災害や互いの現実的な都合を押し付け合う争いで攻め苛み、そして死と寿命で全てを飲み込み奪う、他人の判断基準と苦痛と無情な時間制限の寄せ集めじゃないか、とても酷いもんさ! それは人類の歴史が証明してる。魔法や奇跡が物語なら、神話や宗教も物語だ。知性を得て人間になってから数万数千年、死者に花を手向けた時から、知性を得たせいで理解できるようになってしまった死の恐怖を物語で癒して人は命を繋いできた! 死の恐怖に対する癒しだけじゃない、お前、理想についても言ったよな。理想も明日も今ここにある物じゃない、つまり現実じゃない物語の領域だ。同じ神を信じる者は神の名の元に平等だって考えが人権思想の土台になった様に、神話や伝説のなかで鳥の様に空を飛ぶ神や天使や英雄に憧れ、鳥に憧れ、イカロスからライト兄弟に辿り着いた様に! 人間は物語があるからこそ死や不平等って現実と戦い科学と未来を夢見て進歩してきたんだ。努力は報われるという物語がなけりゃ努力も出来やしない。より良い明日があると信じれなきゃ人は先へ進めない。その理想に、物語に、現実の
「ずっと……物語が生きる糧だった。物語を愛して、生きていればまた新しい物語が見られるから生きてきた。僕の現実は、物語の力が、その一部として確固として支えてきていた。……物語は、僕の哲学で、僕の宗教で、僕の神様で。
極端は承知の上、弱さも承知の上、だけど、物語は断じて現実に軽んじられる存在じゃないし、
「
「はっ、そんな御大層なものか、この世界がっ! 私達
反論皮肉の比喩をぶった切られ、未だ絡め取られたままの分際でと、『
「神権『ウボ・サスラ』!! 狂え狂え狂ぇええええええっ!! !!」
『
(間に合わなかったわね、最後の攻撃機会に! ……砕いたわ、その魂っ!)
『
「がぁああああああっ!?」
予想外の角度からの攻撃と、予想外の相手からの攻撃が『
「おま、お前……何故だぁああああっ!?」
【息吹】は正面からも撃ち込まれていた。一刺し、決して致命傷ではない。焼け焦げた『旧神の鍵』は再生しつつある。だが、他者を恐怖せしめる存在たるはずの『
リアラは、無事だった。恐怖に呑まれ発狂してはいなかった。そしてそれは【鱗棘】の即死耐性によるものではなかった。あくまで此は精神への極大の衝撃と負荷であって精神への即死攻撃ではない。己の神権の詳細を『
「こんな、もの。怖くも、なんともない。痛みと、同じだ。我慢すれば、いい」
血涙を拭いながら、リアラがそう言うのを『
それらを、我慢した、の一言で切って捨てるのを聞いた。
「だってそうだろ? 元々人間は死から逃れられないものじゃないか。それに比べればどんな形で死ぬかなんて些細な事じゃないか。まして命の儚さなんて自明だ。死んだ後の事なんて今は
何だ、お前は、何なんだ。『
「現実は、恐ろしく、下らなく、穢れ果て、ボロボロで、醜く、脆い。現実ではどんな人間も神様も信じ恃むに値しなかった。どんな物も何れ失われ、何も持つ事は出来ない。心の中でその時は確かに感動に値する美しさだったのだと信じると決めて、例えそれ自体を忘れても消えないほどの心への影響を受けた物語以外は」
リアラは『
「僕は唯の、何処にでもある悲劇を体験した子供。なのに、こうなっちゃった」
自己嫌悪と悲しみで胸を一杯にして、心の中に涙を溢しながら。
平和主義を弱さと侮る隣国、頼りにならなくなりつつあった同盟、甘く弱く愚かだった過去の政府、戦争、原発への誤爆での放射線への恐怖、屈従、そんな比較的暗い時代に生まれたせいも幾らかあったかもしれないが。地球ではそんな風に考え生きていた。
だからこそ殺されるまで自殺せずに生きられたし、今こうして狂気に耐えられたけれど。悲しい事に、僕は静かで誰も害さなかっただけで本当は優しくも何とも無かった。傍目には唯の弱々しい子供で、実際そうだったけど、自己に嫌悪しか抱けない程邪悪で冷たかった。他の人がどう思ってどう言おうとも。
僕は地球の現実全てを嫌って見下して蔑んで見捨てて、悲しがっていた。美しいもの、愛すべきものは物語の中にしか見いだせなかった。物語があったから、生きていた、生きられた。大事に思い大事に思ってくれている妹も友達も、ひょっとしたらいつか僕を嫌うかもしれないと考えていた。本当に大好きだったのにどうしてもそんな浅ましい恐怖が捨てられなかった。物語に生きる力を貰いながら、そんな風に良く生きられなかった。そうなる前の自分があるのかも思い出せなかった。誰も傷つけなかったのは、誰かを傷つける様な奴を屑だと見下して、そんな汚濁を纏うくらいなら殴られる苦痛を我慢する方がましと思ってただけだ。その証拠に地球での人生の最後、無駄に終わった抵抗をした時、割れて尖った河原の石を掴み人間の急所に叩きつけるのに何の躊躇も無かった。一人か二人は死ぬか後遺症が残ったかもしれない。
僕は罪人だ。
「だけど、だからこそっ! だからこそ、僕は戦う! 僕は、今度こそっ!!」
……この魂の罪を償う為に。この躊躇の咎を償う為に。絶対に償いきれないとわかっているけれど。今度こそ、物語に誓って本気で、大事に思った人達を絶対に守って助けて、物語の中の愛する人たちにも恥じぬように、数少ない地球の愛する人にも沢山の
リアラはその重く沈んだ魂をのせ、魂の重量差を叩きつけるように振りかぶり。リアラの拳が、『
「リアラ!」「大丈夫! 有難うございます、お待たせしました! 【
そしてまるで既に打ち合わせ済の作戦行動の如くリアラは叫び、霊魂達の加護を更に注ぎ込み【息吹】を極大規模で発動させた。それは、唯の光でも唯の炎でもない太陽という闇を照らす浄化や加護といった側面を有する属性と、世界を否定し屈服させる
「【
リアラは唱えた。フォトンブレス・バリアー。それは地球の言葉で【息吹】をどう変容させたかを示す言葉。そして同時に
「バリアー、ですか!? ひ、非科学的な! SFですらない子供騙しの特撮が!?」
光は止まらない。光は防壁にならない。それが現実の物理法則だ。空想科学の世界において登場する似たような存在は、厳密な科学考証において相当に無理があると残酷に解剖され否定されるとしても、それでも、もっと別の論理により光輝くエネルギーの防壁という概念を通常は定義する。そんな一切合財を無視したそれに『
「非科学的?
リアラの皮肉を強か痛烈に食らう羽目になった。ここは魔法の世界でしょうと。それは魔法をこのように使う事を思いつかせ、それが可能であると信じる事で【息吹】の制御を成功なさせしめた、『
何にせよ構成された光の壁は、街中に一瞬で張り巡らされていた。そのままでは戦死者が続出したであろう『
「無茶ばかりして! もう大丈夫だから! 後は、ちゃんと自分の命に集中して!」
町の皆とて
「ええ! 逆転して見せます、此処から悪は栄えません!」(……リアラ、それは)
その輝きを見てリアラは力を得た。霊魂達から貰った精神力は急速に消費していたが、ミシーヤの健闘はそこに勇気を注ぎ足してくれる。もっと頑張れると。
【
「リアラ、今行く!」「はいっ!」「待ちなさい!」「っ、おのれぇえええっ!!」
ルルヤが身を翻し『
SMAAAAAASH!! !
その飛翔が、全員を一直線上にして、リアラを狙い『
「なっ!?」「おあっ!?」
苦痛を打ち消す力を全身に巡らせている二悪神だったが、恐ろしくトリッキーな機動に一瞬驚愕し掻き乱された。弾き飛ばされた二悪神の間に割って入ったリアラとルルヤは、背中合わせに構え、敵をはったと睨み据える。……空気が、変わった。一瞬、傲慢な悪神達にすら、何かが変わったことが感じられて、息を呑んだ。その隙に、ルルヤは。リアラに話しかけた。
「リアラ、少し話がある」「えっ?」「……今、口で言う必要がある事だ」
何を、というリアラの声を制し、ルルヤはリアラに背中合わせに声を与える。出会いの時と逆に、でも同じように。だが、と
「……私がどんな存在だとしても、お前は私を救いだと言ってくれた。私は、それで救われた。だから言うぞ、リアラ。お前がどんな存在だとしても、お前の存在が救いである私がここにいる。きっと、世界は何処でもそんな風に出来てる。お前の友、ハウラとソティアもそうだった。私には分かる。霊魂を見て尚、確信できる。お前だってそうな筈だ。お前の全部をひっくるめて、受け止めて、お前の存在が彼女達の救いだった。きっと、リアラの地球の友もそうだった筈だ。……だからリアラ、私はお前に救われてほしいんだ。お前が自分をどんな奴だと思っていても。私が自分をどう思っているかを構わず、私を救ってくれたように。お前に救われてほしいんだ」
「ルルヤ、さん」「自分で思う程自分は悪い奴じゃないと、信じろリアラ。私は信じる。リアラの友も仲間も妹も、そう思っていたからリアラの傍に居た。怒りに、悲しみにも意味はあると。悪を知るからこそ善を求められるのだ、と」
言い終え、ルルヤはリアラに向き直り、今一度手を差し伸べた。例えどれ程自己嫌悪しようが、私はお前に救われたのだと。そして、リアラも例えどれ程己を嫌悪しようが、その内実がどうあろうが、同じく救われるべきだと。救われるに値する事をしているのだと、ルルヤはリアラを励ました。リアラは涙を零し、その手を取った。それは先の内なる苦悶を癒す生きる理由の泉、魂に与えられる糧であり、そしてリアラの憧れたルルヤが同じような悩みを、リアラを支えに堪えた事、己の生きた証であった。また同時に先程の己の言葉に足りないものがあったという悟りでもあった。
……眼下のミシーヤが、漸く安堵の表情を浮かべたのを見た。勝つと言うのではなく、生きると答えて欲しかったのだと。そう悟り含羞の苦笑を返答としリアラもまた再起した。胸の内、常に、ソティアとハウラの死体の傍らに泣きながら崩れ落ちていた己が、ルルヤの手に救いあげられるのを感じた。ここに、二人共に悪神に、世界に立ち向かう力を得、そして最後の戦いが始まった。
「おぉおおおおっ!!」
「『クトゥグア』『ハスター』『クトゥルー』『イタクァ』、『ツァトグア』!」
ルルヤがリアラに向き直ったのを隙と見て襲い掛かる悪神二柱、しかしルルヤもリアラもそれを完全に読んでいた。誘いに乗った相手に向き直る。そしてルルヤの三次元高速飛行武術が、叫びと共に今度は『
斬! 斬斬斬斬斬斬斬ッ!! 「な……っ!?」
一瞬後、切り落とされた触手が宙を舞った。そして、ルルヤに手傷は無し!
「不完全とはいえ技量の乗っていた『
すれ違い即座に反転し、更に追撃を叩き込みながらルルヤは不敵に笑った。触手の動きそのものは単純な力と速さ任せ、それでは己には届かぬぞと!
「ええいっ! 砕け散りなさいっ!」
乱戦で射線が一時ずれた事を認識し、『
「【
その直前、リアラは両手を投網を投じるが如く大きく動かし、手指を大きく広げ叫んだ。再びの《専誓詠吟》。指の股全てで多頭竜の顎を模して同時に八連射されたのは、光線が自由自在に曲がり狙った場所へと着弾する超自然の強化を施された【息吹】。光を曲げて光学迷彩ができるのだ、光を止めてバリアーとする事すらできるのだ。ならばこの程度、出来ない筈がない。地球で見て好んだ物語の兵器と同様の技を、荒唐無稽を馬鹿にする『
「今です、ルルヤさん!」「無論承知! 合わせろリアラ、隙は作った!」
自己再生能力で指を生やし、収奪した魔法を使えば、落ちた武器を引き寄せて再装備する事は可能だろうが、それより先にルルヤが飛来。すれ違う瞬間『
「うわ」「な」「今だぁあああああっ!! !」
ルルヤの武技が、『
「う、「あああああああああああああああああ」うおおおおっ!?」
『
「「せいっ!」」「おごっ!?」「「【息吹】!」」「糞、畜生っ!!」
更にリアラとルルヤは攻め立てる。二人揃っての拳、肘、蹴りの連撃が『
(二ヶ所での一対一が二対二になっただけでこうも変わる!? チームワークの違い!? 絆の力!? そんなものなんかに私が、『
絆の力、共闘の息の合い方の違い。『
(敵情報収集完了、防御魔法展開良し、敵抵抗力低減良し、魔法力残量最終打倒手段必要量から猶予計算……勝機だリアラ、『
二人は
そして戦いはそんな二人の無言の相談による詰将棋通り、いよいよ最終局面へと突入しようとしていた。二対二の状態から再び別れ、ルルヤは『
「う・お・お・あ・あ・あ!!」
吹き飛ばされながら『
「【森羅万象、天地万物、諸神諸霊に希う。我は
ルルヤは戦いの呪文というよりは祈りの様に厳粛な表情で詠唱した。剣が、変化する。鍔は翼の様に、柄は尾の様に、剣身切先も併せて長大に変化し、竜を象った両手大剣へと。ルルヤアは手元を捌きくるりと回し、
だが『
……その時。地響きがした。
「やぁあああっ!」「『ツァトグア』! 『グラーキ』!」
BIS! BIS! BIS!
「っ……!」
同時、【息吹】を連射しながら飛翔突撃するリアラと『
「何をする積りか知らないけどその前に殺してあげる! 頭を庇ってもこのまま『アブホース』で血肉を食らい、脳髄まで貫き貪り尽くして! いいえそれより先に!」
只ならぬ地面の轟き。防戦を続ける人々も只ならぬ気配にざわめき、地震下での運用等想定もされていなかった
「このままその口に『ナイアーラトテップ』をぶちこんであげる! 貴方程度光ごと食い尽くし! 貴方程度に私の阻止を任せた愚か者に相応しい死をくれてやるわ!」
光を食らう暗黒にして混沌の破壊力を秘めた力で【息吹】を弾き口から触手を捩じ込んで脳髄を掻き出してくれる、と。そう吠える『
笑った。苦痛を堪え、力不足を堪え、尚覚悟を噛み締め最善を成す少年の笑みで。
「あっがっがっがっがっがぎゃあああああっ!!?」
直後『
「っく、はっ! さっきと似たピンチに、二度はまりこむと思った!? わざとに、決まってるでしょっ! 普通の手なら僕単体の力じゃ押さえきれないからね!」
果たして如何なる攻撃か。お転婆娘の跳ねっ返りな表情で挑発するリアラは、炭化し再び千切れ落ちる触手から解き放たれ……羽を再構成するより追撃を優先。
「な、何!? 何て、無茶苦茶!? う、おのれぇっ!?」
恐るべき事に既に苦痛の打消しに成功し肉体の回復も進めていた『
「い、【息吹】は、〈口の様な所〉からなら出せる、からね……!」(狂人め!?)
体内放射。意地を張り涙目で墜落しながらも挑発を続けるリアラの言葉から、先の攻撃は顎を象った手指からではなく全身の傷口から【息吹】を触手の内側にぶちこみ、体内から直に内蔵と神経を焼かれたのだと悟る『
リアラの全身の癒えきらぬ傷口から更に【息吹】が迸り、砕け散り風に舞い滞空する軽く薄いリアラの【翼鰭】に乱反射。灼光の檻を形成しリアラは更に追撃した。
無論リアラも無事ではない。回復を放棄し、気息の限りを尽くし己の全身の傷口に焼鏝を当てる苦痛を再び強いての変則【
だが、墜ちながらリアラは空を見上げた。同時地上、先程からの大地と山の振動が何を意味するのかを悟ったミシーヤもまた、第何波かの敵を退けた一瞬の空白に空を見上げた。
そして。ルルヤは託された祈りと思いに、戦いの終焉を以て答えんとする。
「うおおお!? 何故、動けない!? 【息吹】の重力!? さっきの打撃で打ち込まれた!? か、解除できない! 解除できないのですか!? この、無能共ぉおおっ!?」
『
変身と同じ様にリアラが話してくれた地球の物語達とこの地に感謝をルルヤは捧げる。物語の中で語られた必殺技という攻撃手段、その中でも特にルルヤの武術的視点から有効と思えた〈武侠艦隊デンゴウラ3〉の〈超電導マグネスクリューで動きを封じ超電導フリーズドリルで粉砕〉という戦術と他の必殺技の組み合わせがこの《専誓詠吟》の源となった。まず通常戦闘で重力【息吹】を打ち込み動きを封じて最大威力を叩き込む発想を、ルルヤは物語から得た。そして強大な『
そう。この大地の鳴動は、死者の霊魂だけでなく大地の精霊までもルルヤに加勢した証。即ち重力の類を操るルルヤに、連峰の山体とその下の大地の地殻と
「【悪しき世界を齎す者に、
腰だめに構えた剣を大上段に振り上げルルヤが急上昇! 山一つとその下の大地の重さを込めた斬撃の成立まで折れぬよう竜を象る事で【鱗棘】を付与し補強した剣は天に届かん程の【月】の【息吹】を燃え立たせている! 遂に奪った思考に押し付ける事も出来なくなった恐怖で悲鳴をあげる『
「【
両断! 山と大地の巨大重量を《専誓詠吟》による十六種の竜術のどれでも無い名の下に切断力に乗せ斬撃! 刃の体内到達と同時そこまでに消費した以外の重量を全て内部から外部に向けた圧力にベクトル変換! 仮にその山と大地を落下させれば六の都市をクレーターに変える隕石になるだろう質量威力の炸裂、即ち絶命爆発四散!
「嗚呼……」「あ、あああ」
ミシーヤが、『
「……欲の力の下僕共よ」「とっととあの世に帰るがいい!」
リアラが呟きルルヤが答えた時には、彼女は既に【息吹】を放ち『
「ああ、止めろ! 止めなさ、止めて! 私を殺しても
「明日はあるさ! 明日は! 貴様等の死体を積み重ねて出来た丘の向こう側だっ!」
「ああああああああああ!! !?」
即ち、今一度の【
そして、ルルヤは落下するリアラを抱き止めた。
「本当に、もう……」「ルルヤさんの事、大好きですから」「本当に、もう」
作戦通りとはいえ墜落する程まで捨て身になるなんてという心配、こんなに傷だらけになってという悲しみ、心底の頑張りへの感謝を込めルルヤは優しい声をリアラに注ぎ。貴方の勝利の確率を少しでも上げたかったという心配、こんな事しかできませんからという悲しみ、貴方が助けてくれる事を確信していたという感謝を込めリアラは優しい声をルルヤに返し。 そして。
「皆っ……、終わったよっ……!」「GEOAAAAAFAAAAAANN!!」
リアラは弱々しくだが確かに勝ったと拳突き上げ、ルルヤは高く鼓舞を咆えた。
「おお、
「……皆、馬鹿げたシャカイジンセイカツとやらは終わり! 自由、だよっ!」
古老が空を仰ぎ拝む中、
「リアラ」「何ですか、ルルヤさん」「……私もお前が大好きだ。……つまりは、これからも、一緒にいてほしい」「……勿論です。こちらこそ、これからも、どうかよろしくお願いしますね」
それは一つの戦いの終わりであり。
逆襲物語ネイキッドブレイド
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