・第十三話「チートを狩る者達、新天地玩想郷を驚愕せしむること(前編)」
・第十三話「
「ごめんなさい、ルルヤさん。遅くなりました」
内側から突き破った窓硝子を煌めかせ舞い散らせながら、リアラはルルヤの前に降り立った。死んでは、いなかった。血塗れで、襤褸を着ていたが、背中には妖精の羽が閃き、内面の苦痛と未熟を乗りこなし、ルルヤに捧げる微笑は、白く輝く美しい竜のようであった。
「馬鹿者。心配、したぞ」
ほんの少しの涙の色と、安堵と歓喜の入り交じった目元と頬の上気を帯びて、
「……無粋ですこと。私達が殺すより、先程のシーンで死んでいたほうが、物語として余程素晴らしいのに。一体どうやって『
悪神の片割れは問う。リアラに、その魂に、
「そして彼を殺せたとしても、何故生きるのです、何故私達に立ち向かうのです。この貴方達にとっては絶望的な戦力差と、この既に変容し貴方達にとっては醜悪に成り果てた世界で、この私達に唯々諾々と支配される民の為に。何故? どうせ生は死に敗北し、死は生に勝利する。あらゆる存在に未来は無い。そう悟り、悟らぬ者を引きずり下ろして嘲笑い、無惨を美と、邪悪の死の勝利を己が勝利とするほうが、遥かに楽しいというのに」
「私達の存在は必然です。この未開の地も、いずれ社会が高度に発達し、資本が蓄積され、政治は複雑化し、迷信が消え、宗教が消え、科学が発達し、文明に満たされ、救済が否定され、消費が拡大し、自然が管理され、大都市が人を治め、倫理が相対化され、報道が神聖を否定し、救済は幻想と知られ、消費が拡大し、富こそが価値とされ、企業が君臨し、近代へ、現代へと至ります。所詮ここは、唯の中世です。そんなものに何故忠誠を尽くすのですか?」
悪神二柱の合唱に対しリアラは、
「彼が僕を斬る時には、僕は刺し違える事を決めていた。後は頭や首を斬ろうと彼が思わぬよう、転生者同士なら分かる例えだけど双剣を手首を捻って
「そして何故そう出来て『
そう言うとリアラは、切り札を叩きつけるように服の残骸のポケットから取り出した。校舎から飛び降りる前に放送室から持ち出した、魔法的に再現された校内放送と繋がったマイクを。
「? 何を……?」「……答えて、くれるのか」「ええ、【見ました】。僕は、まだ、助けて貰えるみたいで。皆、ルルヤさんが、守る為に自分の血を流しているのを、見てくれていました」
いぶかしむ『
「【リアラ・ソアフ・シュム・パロン、
山間全てに響き渡るリアラの叫び、否、竜術の詠唱に、創作者故にその先に気付き咄嗟に触手を繰り出そうとする『
「【地脈にて繋がりたまえ】!」
【
「!?」「なっ」「これ、は」「あ、あ」「嘘……!?」「……帰って、来た」
瞬間、連峰に住んでいた民達は目を見開いた。全ての者が驚き、そして涙した。
そこには灰色の街は無かった。光景は緑と煌めきに塗り直されていた。それはここにかつて生えていた木々、茂み、草であり、清流であり、野の獣であり、命を奪われた大切な人々だった。失った故郷が、灰色の町の上に重なってあった。そして。
「あれは……!」「お前、お前……!」「居て、くれたのか、ずっと一緒に……!」
それだけではない。狩り集められたこの地に縁がない民もまた涙に咽んだ。……彼らの、死んだ大切な人達も、現れた。彼ら一人一人を、案じ、憑いてきていたのだ。
「何!? 何ですかこれは!? 幽霊!? 馬鹿な! この谷の全ては既に! 私の
立体映像のようなそれが霊体である事は半信半疑ながら察した『
「当たり前だ。お前は何も知らない。この世界の事も、魔法の事も、信仰の事も。〈魔法が本当にある世界〉にどういう意味があるのかも知らずに、魔法を、生命を、唯の現象や数値としてかき集めた……神様との契約による法術が本当にあるって事は、人の魂と契約する神様がいるこの世界には天国もあって、死者の恨みが生まれ変わる魔物がいるこの世界には来世もある! 死ねば無になるなんてのは、神秘が存在しない地球だけの法則だ! 僕達転生者はその地球の法則から外れた存在なのに、その事の意味も考えず、地球に居た時と同じように考え、地球人時代の我執を力に変えたお前は、魂の実在なんて想像もしていなかっただろう! あると思ってない物を、自分の物にできるものか! お前の言う事は間違っている。
最初と保険の策が潰えたと知り、それでも尚足掻き続け走り続けたのは全てこの為、走りながら、リアラは既に霊と未来を見ていたのだ。そして連峰全土の霊を一度に喚起すべく声を届かせるのに使ったマイクのスイッチを入れたままリアラが高らか語った事でこの谷を支配していた存在の、勇者すらその中にいた過去の
「おおお、おのれぇっ! 何という力か! それはチートだ! チートと言っていいレベルの力だ! 私達と同じ! 我々を否定しようとする癖に我々と同じ事を! 神だの竜だのに尻尾を振って、力を恵んでもらっている存在に、私達の才能を否定する資格があるとでも言うのですか!」
「貴様等と一緒にするな。
『
「そうだ、思い通りになんてなるもんか! この学校の、この街の皆だって! 力と金と契約で
嗚呼、と、ルルヤは感嘆した。心に溜まった黒い思いが、解けていくと感じた。
「唯の子供だった分際で生意気を!」「お前等だって唯の人間だったろうがっ!」
『
「僕もお前も唯の取るに足らぬ人間だっ! 地球に居た頃なら僕がお前を殺す心算だったらナイフ一振りありゃ突っ殺して終わる程度の存在が! 過労死する奴が一人でもキレてりゃ終わりだった奴が! 実際遺族にそう殺された唯の同じ人間が、〈アーサー王宮廷のコネチカットヤンキー〉の劣化コピーが、支配者面するなぁっ!!」「っ……!」
その傲慢に、若い凶暴さをリアラは竜として吼え言葉の拳で殴り返す! そしてリアラは、引き続いて『
「死は全てに勝利する、そう言ったな『
【
「
激昂し正に吸血鬼の如く牙を剥く『
「
向き直ったルルヤを傍らにリアラは腕を組んで
「ごめん……本当に、ごめん、リアラ、有難う、リアラっ……、お姉ちゃん……お姉ちゃんっ……アタシ、今度こそ、負けない、からっ……!」
リアラとルルヤの力を回復するだけでなく、現れた親しい人々の霊を通じ竜術が人々に付与され支配を打ち破り、無力化された魔法少女達の体内に打ち込まれた霊薬が活性化し効果を増し完全に自由を取り戻していく中。霊薬を受ける機会の無かったミシーヤの元にはその代わり一際縁と力の強い霊が現れていた。彼女の姉ハウラと、その旅の仲間ソティア。この地で死んではいない二人が、静かにミシーヤを抱き締める。リアラに、憑いてきていたのだ。
「アタシ、負けないからっ! リアラぁっ! 頑張ってっ!」
自由を取り戻したミシーヤが立ち上がり、窓を開け身を乗り出し叫んだ。その傍ら、人々とリアラとルルヤに、力を伝えゆっくりと消えていく霊達の中の二人は、最後に、リアラを見た。リアラは、涙を溢しながら視線を合わせた。励ましと、今度こそのちゃんとした別れがあった。言葉は不要の仲だった。
そして一瞬の奇跡が終わり、霊達は消え、ルルヤは無言で、美しく猛々しい顔に不器用な慈愛を浮かべ、リアラの手を握った。涙を散らして、リアラが顔を上げた。戦う力を持った生者達が残った。リアラの言葉と目の前に顕じさせた光景に、良民は皆死兵となり蜂起した。心折れていた者も立ち上がった。本当にどうしようもない者には裁きが下ったが、未だ街に存在する過労死ゾンビやカイシャリアの傭兵、
「ルルヤさん!」「寝物語に語ってくれた、リアラの故郷のアレだな?」「はい!」
そしてリアラとルルヤは声を合わせる。それぞれ発動する竜術と過程は違うが、結果は同じ。それはこの学園に来る前に、そしてこの学園で互いの過去について語った後に、リアラが語り聞かせた愛する地球の物語での、英雄の降臨と出陣!
「分かった、では、いざ、見せてやろう……!」「「変身!!」」
瞬間、【鱗棘】と【血潮】が最大出力を発し、傷口が塞がり、纏わりつく血と穢れとセーラー服の残骸が内側から吹き飛んだ。リアラの体には【骨幹】によって下着部分以外のビキニアーマーが形成され、ルルヤの体には【長尾】によって、隠しておいた場所から引き寄せられた古の竜鱗で作られた下着部分以外のビキニアーマーが装着される! これぞ完全な戦闘体勢……。いや、と、ルルヤは思った。不完全な装備で戦っていてもそれは怖くは無かった。怖いのはリアラが居なくなる事だった。きっと、リアラが居る事は、完全な鎧より私を守ってくれているのだ。ならば、尚更心強い。二人ならば、この身もこの心も、決して敗けはしない!
「さあ、仕切り直しだ。いくぞ悪神共、ここからが本当の勝負だ!」
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