・第十二話「今もそれが怖くても、奇跡も魔法も無くっても(後編)」
・第十二話「今もそれが怖くても、奇跡も魔法も無くっても(後編)」
同時。リアラも追い詰められていた。相手の服を操り絞め殺す球体関節人面蜘蛛『
「ミシーヤさんっ! 今、今助けますからっ!!」
魔法少女として操られるミシーヤとの戦いの情勢は極めて不利だった。操られるミシーヤの体。リアラやミシーヤの下半身を胴体にある口で丸呑みにして寄生する機会を狙う、『
「もう、いい! もういいから、リアラ! お願い逃げて……死なないで、貴方だけでも死なないで!」
自分が悲鳴をあげ、泣き言を言い、罵り、恐れ、喚き、命乞いをする事でリアラの精神力を削ぎ、動きを拘束し、消耗させ殺す為の罠としてあえて思考と発言と表情の自由を許されている。『
「嫌ですっ! 僕がっ、助けたいんだ、今度こそ! これは、僕の意地だから!」
手に手に武器を取り、前後左右から襲いかかる『
「はは、助ける必要なんてあるかい? 彼女達は皆、幸せに」「黙れ寄生虫!」「!?」「恋愛を麻薬に貶めた売人が! 人の幸せの形を勝手に決めるなっ!」
挑発する『
「がっ!? あっ……は、ふふ、下がりなさい、そして残りの『恋人』達を下がらせなさい、『
「ミシーヤさん!? っ、『
次の瞬間、不意にミシーヤが息を詰まらせ苦悶の表情を浮かべた。直後その口から発せられたのは『
「奴の出番ですか。成る程、学園に居る中で、相性的に似合いの死神だ」
その指示に『
「待てっ! 逃げるのか、臆病者! そんなに僕達が怖いかっ!」
目指し、走りながら、逃がすまいと咄嗟に、ここまで念入りに封殺しようとは余程此方の力が脅威なのか、と無理筋と知りながらも挑発するリアラに対して、『
「何を馬鹿な。唯単に捻り殺す事が不可能だとでも? 貴方達を嬲り殺す理由はたった二つ。一つは貴方達の力を奪って殺し、その力でもっと、もぉっと沢山の人間に惨劇を演じさせる為。もう一つは、死こそが此の世で唯一絶対の真実だからよ」
魔法で身体能力を強化した『恋人』達に左右から支え抱えられ後方に跳躍する『
「そう、死こそが絶対の事実にして現実。どんな人間も死ぬ。絶対に死ぬ。民族も、国家も、理想も、宗教も、正義も、地球上の全て、太陽系の全て、銀河系の全て、宇宙の全ては死に絶える。死以外のこの世の何物にも意味はなく、死んだ者はそれ以上死なないのだから、私達転生者もまた死ねば今度こそ死ぬのだから、唯、死だけが絶対。故に意味があるのは死だけ、死こそが常に勝利するのだから、崇めるに足るのは唯それだけ。死の無い物語、死なない物語には意味がなく、物語の中の人物が、私達と違って清らかで美しく死なないなんてことは、到底是認できない。許せない。認められない。死なせずにおるものか。唯、絶対の死という物を、凄まじく素晴らしく飾り崇め奉り描く。それこそが意味で、それ以外、何もない。だから、貴方の死も、とびきり念入りに描きたいだけよ」
そう悪魔払いの呪文でも唱える如く押し付けがましく嘯き消え行くミシーヤの姿から発せられる『
「俺としては、死にも意味があるとは思わんが。お前達が掲げる正義や理想を、否定する、否定せずにはおれん。この世に尊いもの等何も無いと言う所迄は、一緒だ。故に『
ぬらりと現れたのは、渇きかけた血の様な臙脂色の詰襟服を纏い、打刀を帯びた陰気な剣客といった容姿の
「ふーっ、ふーっ……どうした、終わりか……?」
「ええ。〈武活動〉の参加者は、それで終わり。流石に大したものね」
同時刻。再び校庭。迷宮の如き体表の模様を変化させ光学迷彩を行う、筋肉の異常肥大した肉体と、雄牛とジャクソンカメレオンと人間を混淆した如き醜悪な頭部、斧型に肥大癒着した骨爪を併せ持つ
「だけれども。無力化された魔法少女達は攻撃され続ける。諦めてもいいけどその場合、貴方の信仰へのダメージはどうなるかしら。その内難易度をあげるために一般生徒も攻撃対象に含めていくつもりだけど。ああ、あくまで不可能難事にはしないわよ? 無理ゲーなんて詰まらないわ。じわじわと、自己回復手段に消耗が上回る速度で難易度を上げてあげる」
「資産ですから浪費は駄目ですが、今回は適切な投資ですからね。許容範囲内ならば、構いませんよ『
死神の如き死の贈与の耽溺者たる『
「いいや。この騒ぎも何れ終わるさ。〈【
だがルルヤもまた諦めず、『
(
リアラに教えてもらった、説明会の時に転校生が放った攻撃魔法を無効化した存在、『そこに存在している事を知られていない場合如何なる攻撃に対しても無敵』という力を持つ髑髏と水母を合成した透明の
「ほほう。大きな投資に打って出るようですね。皆さん、業務命令です。攻撃に参加しなさい。この分では、貴方達も巻き込まれて無駄死にですよ?」
「!!」「は、はい!」「くそっ、いくぞっ!」「うぉおおっ!」
『
「「「「「「GEOOOOOOORRRRRRRG!」」」」」」
再出現した『
これなれば、と、転生者達は思った。それでも、と、ルルヤは誓った。
「はぁあっ!」「G!?」「E!?」「O!?」「R!?」「G!?」
襲撃する『
「『固有魔装・
ぶっ散らばる死体の隙間を縫うように、魔弾がルルヤを襲った。アメフト防具風の
「小癪なっ!」「その隙ぃっ!」「貰ったっ!」
故にルルヤは咄嗟に剣で魔弾を防いだ。反動で受けた剣が上に弾かれる。同時、仕掛ける転生者二人。『
『
だが、弾かれた剣の動きに同調するように仰け反って『
「だがっ、踏み込みが無謀すぎだっ!!」「なっ、ぎゃあああっ!! !」
死地に飛び込み続け得た『
「関節技は初めてか? 温い戦場に居たようだな」「は、離せっ、げぶっ!?」
関節技等の概念が無いゲームでの反射神経が自慢だった『
「Fucking biiiiiitch!! !」
「丁度いい。貴様にも、返礼をくれてやる!」
品も語彙も無い母国語で喚き散らしながら、生き残りの『
DANN! ZUNN! ……ZDOM!!
一足一剣、それで勝負はついた。『
「っ、はぁ、はぁっ……
正に足払いの借りを足払いで返して息荒く言い捨て、ルルヤは遂に【息吹】の発射体勢に入った。
「(だがいずれにせよ、逃しはしない!)【
「惜しいですねえ、その戦闘力。まあ、私の物にするのですが、残念ながら貴方が幾ら振るっても無駄です。その攻撃、通じると思いますか? 何を勝利の希望としているのですか? 傷だらけの体で。孤軍奮闘で。誰も彼もが私達に従っているのに」
それに対し『
「(一人、一人か? 私は、■■■■、いいや違う、違う……っ)」「希望はもう一匹の
心に混じる雑音と孤独感を、リアラを思う事で制御しようとするところに、狙いすました『
「く……ぁう!?」
ZZZDDOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNNNMM!! !!
『
「無駄だ。あれしきでは
リアラがボロボロになりながらもそれでも駆け込んだ先、その後を追い、轟音の源であるルルヤの攻撃とリアラの力を軽侮しながらも、用心深くうっそりとした様子で『
「この世界の魔法の基本は、自己の認識能力と精神力で擬似的にそれを模倣する
リアラもよく知った
「俺の
「っくうっ!?」
魔法を封じた事を態々説明し力を奪うだけでなく心も折ろう、心を折る言葉の最中に攻撃し奇襲までも行おう、念入りに悪意で煮詰めた攻撃を、竜術を失ったリアラは必死に既に形成済み故に残った二振りの剣で受けようとし、出来なかった。
「っ、奇跡も、魔法も、無くっても……っ」
だが、絶望的な戦況を告げられても、リアラは屈しなかった。必死に足掻く。間合いを取り、避け、防ごうとするリアラを、否、終わりだ、無駄だ、と『
(ん、うあっ!? 気持ち悪い、熱い、痛い、何……これは……!?)
『お前も人殺しだろ……』『竜術さえ無ければお前なんざ……』『運が良かっただけ、今ここに俺らが居れば……』『竜の威を借りやがって足手まといが……』『無効化に頼ったくせに……』『いい子ぶっても、お前も欲も闇もある人間だろうが……』
「魂はとうに消滅しているが、お前達が倒してきた転生者達の怨恨と否定の念はまた別と、法則を歪め呼び出すのも俺の力だ。俺にとっては力となり、お前にとっては、嫌な物だろう? 正義の味方を気取っても、恨みも糾弾も批難も逃しはしない」
肢体を拘束する程の力はないが、固まりかけの血のようなどろどろした
「そうだ、正義の味方が勝つ物語等無い、正義等無い! それが現実だ!」
悪鬼の笑みで、刃を弄ぶように振るい続ける『
「正義の反対はまた別の正義、即ちこの世に絶対の正義も悪も無い。屑共を殺して、自分だけが正義と粋がったか? お前もまた殺人の罪を犯しているのに? ナアロ王国にも王国の法がある。その法に乗っ取ればお前は罪人だ。正義の味方こそ、この世で最も汚らわしい犯罪者。お前はそれだ。
リアラは切り裂かれ、呻き、喘ぎ、必死に急所への直撃を避けながら後退。音立てて机や椅子を蹴倒しながら。壁に背が付く。最奥、行き止まり。追い詰められた。
「奇跡等無い! 現実的戦力差が全てだ! 人は肉体限界に縛られた弱く醜い存在! 痛がれ! 恐れろ! 竦め! 理想を捨て、命乞いし、無様に死ぬ、それが人間だ!」
最早リアラを徹底的に否定したと止めを刺すべく『
「ふーっ、ふーっ、ふーっ……」
校舎屋上施設粉砕による爆煙が晴れていく中、険しい表情で掌を突き出したまま荒く息をつくルルヤの額を、血に混じって汗が伝った。体に残ったボロボロのセーラー服の残骸が、爆風に一瞬激しくはためいた後、血を吸った重さでだらりと垂れた。四肢から【息吹】の付与の黒い揺らめきが消え、突き出された手が下がり、膝が崩れ落ち、るのを、反対側の手が、剣を杖のように地面に突いて堪えた。煙が晴れた。
「うふふふふふ……」「あっはっは、いやあ見事! 見事な一撃、見事に無意味!」
その向こうで、『
「成る程、並の
両名とも空中に浮かび、その片腕を異形へと変じていた。『
「貴方は超人です。ですが、私達
愛の成就を誇るがごとく、歓喜を爆発させる口調で『
「そう、世界の現実を、何が正しく勝利で価値があるのかを定義する力。彼の前で彼より会社と経済を愛さない者は全て彼に屈し、私の前で私程死を惨劇で飾る事を愛さない者は私に必ず破れ去る。正確に言えば全人格における特定のあり方への執着の割合の比較で全てが決するようになるというルールを、敵対に対しあらゆる阻害を無視し自動発動し全てに強制する。それが『
『
「そう。その力、何時尽きますかな? ふふ、それに対し、私の力は遥かに膨大だ。どれ程戦闘力のある英雄も、社会的な絡め手で屈服させれば、これこの通り。私の会社に、私の金に屈した者は、この腕に浮かぶ魔法使い共の様に、これらの魔法武器の使い手達のように、借金で首を縊っても、その能力と活力の全ては私の物になる。見せてあげましょう!!」
『
「この手に取らん神の行い、我こそこの世の主人公!
金こそが神。経済こそが救済。
会社こそが社会。苦痛こそが普通。
労働こそが
人は景気と社会と会社の細胞、等しく敬服し社畜し過労死し支えよ!
配置よりはみ出たる者は、歯車に食まれ贄となれ。
『
悍ましい全世界絶対
そして『
「この手に取らん神の行い、我こそこの世の主人公!
あははうふふと
狂え、砕けろ、首括れ。無様を曝せ、豚の様に
此の世は戦場なのだから、ご都合主義など死んじまえ。
美しい者を引き摺り下ろし、憂さを晴らしに引き毟ろう。
『
毒血の向こうから一瞬姿を現したのは、蠢き沸騰する狂乱の肉塊。恐怖として楽しむ為に、登場人物が悍ましく惨たらしく狂気に陥るのを楽しむ為に生み出された悪しき
「い、や、だっ!! 屈する、もの、かぁっ!! !」
叫んだ。四肢に再び黒い【息吹】が、微かだが宿った。ルルヤは
「《勇者》を目指しているのよね、そういえば。果たしてどこまで《勇者》でいられるかしら? 成りかけの勇者なら、勇気による魔法増加も限りはあるのよね?」
「人を勇気づけるために、目指し、名乗っているが。私はそこまで勇者の資質がある訳じゃない。足りない物も余計な物も沢山あって、そんな自分の未熟さが怖かった。けど、今もそれが怖くても……怖い事を我慢する事が勇気だ。私より弱くても戦うリアラが、私に見せてくれた」
それに対し、確認するように、刻み込むように、己を定義付けるように、ルルヤは呟いた。勇気を燃やす最後の気力が竜術を維持し、土下座に満ちた異常な世界へ呑まれるのを拒む。そして。ざっ、と、校庭の砂に音を立てさせて。ルルヤが一歩を踏み出した。この状況でも、尚。
「まだまだ元気一杯のつもり? 数発殴れば使い尽くしそうな勇気だけど」
それを見て、嗜虐的な声音で『
「殴るより、この言葉のほうが効くわよね。……リアラちゃん、死んだわよ」
笑い、断言する。ルルヤが、目を見開き、息を呑んだ。『
「うちの『
窓を見上げルルヤの表情が蒼褪めた。油の切れかけた灯の様に、すうと【息吹】が小さく縮んでいく。
(そんな)
【宝玉】
(まさか)
どころか、リアラと【宝玉】の接続が感じられない。そして。
(リア、ラ……嫌、嫌だ、そんな、もうこれ以上、また、失うのはっ……)
ルルヤの心に、復讐開始以来初めて、怒りを上回る量の恐怖と悲しみの思いが溢れた。無論ルルヤも武人、その可能性は、覚悟していたが……覚悟を上回る衝撃だった。まだ長いとは言えぬ共に闘うの日々だったが、思いは、絆は、ルルヤ自身の覚悟を上回る程の速度で、育っていたのだ。【息吹】が完全に燃え尽き、ルルヤの心が砕け散りそうになった……
そのとき。
かがやける、しろいりゅうがまいおりた。
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