・第七十八話「〈不在の月〉へ……(中編)」
・第七十八話「〈
虚仮脅かし。吹かし。ハッタリ。狂人の戯れ言。
普通ならそう言われるだろう『
「教えてあげるよ。そもそも、私の宇宙に、地球以外に生命の存在する星は無かった。だから地球の全てが滅ぶその時、最後の一瞬だけ、私は宇宙唯一の観測者となった。……地球の科学の仮説であるだろう? 観測者効果とか人間原理とかマクスウェルの悪魔とかシュレディンガーの猫って奴、まあ、人間原理といっても私は言った通り地球の化身だけど、原理は同じだ。ともあれ詳しい事は理解させるのが面倒だし意味も興味も無いから省くけど、要するに宇宙唯一の存在となったから、その瞬間、私の認識が宇宙の全てとなった。私という存在の形が、それに沿って宇宙を歪め、私だけが例外的に、時を遡り生まれ変わった……そら、原理が同じだろう? これが
その言葉は
「毎度同じさ。大体同じ歴史を歩み、生命が栄え、人類が生まれ、神々を信じ、国家を形成し、科学を発展させ、神々を忘れ、そして滅びる。核戦争で全てを焼き尽くして滅びる事もあれば全ての資源を使い尽くしても尚宇宙進出が出来ずに滅びる事もあった。今度の地球は温暖化で人類種が滅びるルートかな? 幾つかのパターンでは人類滅亡後他の生物が生き延びる事もあったが、私の認識する範囲では大抵人の置き土産やら何やらでそう栄えはしなかったな。そんな風に、例えばローマがロムルスを祖とするローマではなくレムスを祖とするレーマだったりしたような細かい誤差もあったが、幾度も人は空しく死んでいった。自分が自分の信じる宗教や神話のあの世に行くと確信して死んだ人間の魂はそれらの宗教神話のルールに則った流れに乗り、それらの宗教神話の消失と共に薄れ消えていった。そうでない魂の内、心残りなく死んだ奴や死ぬ事について何も考える事も無かった奴は動物と同じく勝手に消えたが、それを除く死ぬ事に絶望した魂は、等しく私のものとなった。私はそれを、幾つもの世界に生まれ変わらせてやった」
朗々と語る声は一種の詠唱。地球の古代北欧における
「最初は好みに合う世界に放してやった。それで救われた世界もあったけど、木に竹を接いだ様な急激な変化で数世代後に滅んだ所も多かった。そりゃそうだ、元々私達の地球は滅びに向かう事が決まった世界だ。魔法や超能力がある世界、宇宙がエーテルで満ちた世界、巨大ロボットが神々めいて奇跡を起こす力を持つ世界、逆に邪神が命を虐げる為に永続させてる世界、この水の宇宙の他の泡、
「……それを、世界に対して行った、と?」
問わずにはいられない。会話をする必要があった。相手がこちらにわざと問うよう仕向けてきたのは明白だ。こちらの言動を己の掌に置き、それを自覚させる事で威圧する為に。だが、相手に言葉を挟める状況を維持する必要がある。矛盾を見いだした時突く為に。
「その通り。そう、数多の世界の幾つかは、地球の空想から生まれたのさ。転生者の欲望を満たす為、ちょうどいい踏み台、引き立て役、もっと言えば……いや流石に下品に過ぎる例えは止めておこうか。ともかく、生け贄を並べた天国として、世界は消費させるようになった……『
「この混珠もその一つ、と言うには、集まった情報は違うと言っているけど」
「……まあ、そのくらいは気付くだろうね」
己に言及された『
それは『
「そうやって貪って、過去に壊した世界の残骸が集まって生まれたのが
悪意を込めて、『
「お前達の世界は食い滓で、お前達の魂はお前達の敵と同じ物で出来ている」
「……言ったろう? お前達も俺の復讐の相手だとな」
それに従う様子ではないが、『
「それが、どうした」
それに、ルルヤが抗う。
「私達は私達だ。何で出来ていようが、私達の自我は私達のものだ。体が所詮他の生物の屍を分解した物質の塊であろうと私達の体で、自我が脳の存在に束縛されているとしても、それでも私達は私達だ。遡れば世界は一つでも、自分が何かを決めるのは自分自身だ!」
「更に言えば。お前達が食い散らかしたものから混珠が生まれたからといって、それは間接的な原因であっても直接的な原因ではないだろう。態々
気高くルルヤは存在の尊厳を吼えた。宇宙にすら自分にすら負けないという教えを皆に伝えた。
そしてリアラも理を尽くし叫んだ。言葉の力で皆の勇気を作り上げた。
「おおっ!」「そうだそうだ!」「負けるものか!」
圧迫・圧倒されていた眼下の
「その通り。厳密に言えば直接造ったというより私達の行いの結果が造ったものだ。といってもその過程で君達という妙な物が出来たからね、意霊の中に『
それに対して『
「死んだ魂にたかる業畜生が。お前の手札が割れてないとでも思っているのか。お前の『転生者を産み出し、その転生者の欲能を自分も使えるようになる』能力は、確かに他のあらゆる転生者に勝るだろうが……俺の
「まあ確かにね。君の欲能は『自分が強く愛した他の物語の力を持ち込む』力だ。選択できる対象は力を使う者、自分自身の趣味嗜好によるからね。私にはそこまで沢山の物語への愛着は無い。そして確かに私の力は、要するに『全部の欲能を使える、故に全能』だ。本物の全知全能じゃない」
その『
「けど、それが何だい?」
平然としたものだ。ほんの僅か、否定的に問い返しただけだ。
ZDON!
「~~~~~~~~っ!?」
「……!!」
だが、その一瞥。一瞬、何か光ったか?
……それだけで『
無論、『
「それで十分だろう? 個々の
君達はと『
「
それはどこか『
それはどこか『
それはどこか『
それはどこか『
そしてどこか、それ以外の
「人よりいい目を見たい。優位に立ちたい。強くなりたい。楽して持て囃されたい。そんなどろどろとした感情は言わば水の上を流れる油や泡のようなもの。要するに皆、救われたがっている。命はみなそう思っている。だから、その願いから、地球から私が生まれたんだ。異世界転生チートという救いが」
その語りはどこか、
「最終的に、いずれ。いや、もう少しで。私は完璧な、全ての並行世界を統治する全世界全知全能となる。全ての欲能を束ねて。今回の世界では沢山の欲望が回収できた。それを束ね、組み合わせ、ただの全知全能ではない全平行世界における完全な全知全能を成し遂げたのであれば。もう生まれ変わる事は無いと消えていった魂達すら全て掬い上げ、救済する事が出来る。それぞれが望む範囲の前世の記憶と、全ての魂に自分の為に踏みにじれる世界を、それぞれの世界において全知全能とそれに耐えうる魂と永遠を与えよう。更にもう一度、いいや何度でも転生する権利すら与え、あらゆる平行世界を使い、無限の輪廻転生、即ち不死、無限の
死と新生。正に異世界転生の化身。それこそが『
「その為に貴方達のいる地球に異世界転生モノのライトノベルを流行らせたのも私。哀れな人間を救済する為に異世界転生チートブームを作り出したのも私。全ての異世界転生チートものの作者とその作品とそのファンは私の下僕に等しい」
「そ、それは……」
「
その存在はあまりにも危険だ、色んな意味で。正に『
「それ以外の物語の繁栄は許さない。地球以外の世界の繁栄は許さない。私は地球だけを救う。地球に生きる人間達を。故に、その糧となって滅びなさい。ファンタジーの世界、そしてその住人達よ」
故にその荒ぶるあり方は、異世界転生チートという物語に属するものを語りながら、物語に処刑を宣告する。
「『
「ふざっけるな! 絶対に! お断りだぁッ!」
その言葉に、血を吐くように『
「それは僕たちの台詞だ!」
「ああ、踏み台にされるのも使い捨てにされるのも、御免被るっ!」
それはリアラとルルヤ、混珠の民全てにとってもだ。叫びが重なる。思いがぶつかる。均衡が乱れる。それ即ち、遂に直接激突の戦いが始まる事を示していた。
DBAWW!!
そして大気が鳴動し如く全てが動いた。
「開け〈越界の扉〉!!」
「【GEOAAAAFAAAAAAANN】!!」
一瞬で〈
「まだ動くか!」
〈
「こうなったら……!」
それを見て『
「させるか!」「うくぉっ!?」
「やりなさい」「うわぁっ!?」「ぐわぁっ!?」
そこにリアラが体当たり!更にその直後。二人を諸共に吹っ飛ばそうと『
「何をするかぁっ!」
ZGDOOOONN!
その《王神鎧》にルルヤの【巨躯】が皹割れた声で怒号し、体当たりをぶちかます。激しく火花を散らし後退する《王神鎧》。正に三つ巴か……
「何をする? 要するに、全員殺す。特に貴方と『
「な……ぐああああああああっ!!?」
ZGZDOOOOOOONN!!!!
三つ巴、その認識を嘲笑うが如くルルヤの【巨躯】の眼前に『
それを、『
「な、あ、こ、拳……いや……」
「一見、そう見えただけだ。だが……」
素手の拳一発で
「まあ、もう、こいつはとっくにがらんどうだからね」
「ルルヤさん! ルルヤさんっ!」
『
「う、あ、あ……」
それにルルヤは答える事が出来ない。【巨躯】の瞳孔が激しく見開かれては収縮する。その巨体はがらんどうな器をハンマーで叩き壊した様に鱗が罅割れ剥がれ落ち、中にあるべき肉が瘴気めいた暗黒空間になりかけていた。咄嗟にリアラが受け止めようと張り巡らせた【
「ふん、今のが最後の一押しになったか。だが、あれは俺に必要だ。これ以上壊されては困るな!」
「『
そんなリアラを平然無視し、『
『
「正に、その通りです。此度の仮初もこれにて幕引き。名の通り永遠に、我が身を我が剣の呪い、法と業の鍔競り合いより救いたまいた御身に支え続ける者に、此度もご命令を」
その口調もまた別人。あるいは、これが劣化し歪む前の本質に近いのか、しかし、リアラや『
「命令する。この異世界を消去せよ。《王神鎧》は好きに使っていい」
「おお、『
魔剣『
「そ、総員……!」「っ、皆っ!!」「ええい……!」
『
「それと、
だがそれに『
「『
『
「「「「「「「「「「「…………!!!!!」」」」」」」」」」」
その宣言は初期から戦い
そして『
「させるものかああああああああああああ!!!」
それに、空中に日月の如く燃え光る、巨大な
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます