・第七十七話「〈不在の月〉へ……(前編)」

・第七十七話「〈不在の月ちきゅう〉へ……(前編)」



 《王神鎧》の肩に立つ『永遠エターナル欲能チート』。《王神鎧》は『交雑マルドゥク』が召喚した〈越界の扉〉やルルヤの【巨躯】と並ぶ程大きく、遠景の祀都アヴェンタバーナ、周囲の人々と比べれば尚更それら巨大存在の大きさは際立ち。


「あ、あれは……」


 しかし人々がざわつくのはそれに対してではない。


 《王神鎧》の更に上空、『交雑マルドゥク』が手を伸ばした〈不在の月〉を背負うように、降臨であると言わんばかりに高空に出現した『全能ゴッド欲能チート』。


「な、何でだ? はっきり見えすぎる……」「あ、あんなに高くに居る筈なのに、まるですぐ上から見下ろされてるみたいだ……」「うう……」


 上空だ。あくまで人間としての姿だ。小さく見えにくい筈だ。なのに、その存在がどういう訳か途方もなく大きく感じられる。はっきりと見える。


「やあ、一段落ついたかな? 身の程知らずなイレギュラー達」


 強烈な違和感に当てられて気分が悪くなる人々のざわめきを無視して、『全能ゴッド』は争うリアラと『交雑マルドゥク』とルルヤに問うた。拡声器を使った訳でも無い呟きなのに、なぜか全員にハッキリと聞こえた。


「……相変わらず遊惰で驕慢な奴だ。漸くあの世の縁から這い出してきたか……最悪の転生者たる俺達に相応しい、最悪の輪廻転生の女神よ」

「女神……という事は、やはり……」


 腹立たしげでありながら挑発的で嘲笑的でもある微苦笑を『交雑マルドゥク』は浮かべ、そして皮肉げに『全能ゴッド』をそう呼んだ。それを聞きリアラは思考の中で〈浄化監理局〉の協力者達から得た情報を組み合わせながら呟く。『交雑マルドゥク』は『全能ゴッド』について探っていた。『交雑マルドゥク』の目的である地球への復讐は『全能ゴッド』の考えと一致しない、即ち謀反の為に。そしてその『全能ゴッド』の正体は。


「漸く私の正体に辿り着いた? いいや、そうじゃないわよね、神永正透かみながまさと。貴方は今は唯、私が第一原因だと知っただけ」


 くすくすと笑う『全能ゴッド』。転生者相手の場合、それが欲能行使者チーターであってもなくても、彼女は常に転生前の名前で呼ぶ。その全てを、知っているのだ。そして蒼い髪に赤い瞳、褐色の肌に緑と灰の二色の衣を纏う少女は、そんな己の体と衣を改めて示すように撫で回しながら告げる。


(……これは)


 リアラは見えざる力を見る【真竜シュムシュの眼光】で感じ取った。皆が『全能ゴッド』に圧倒されているのは、彼女の纏う複雑怪奇な欲能チートの力によるものだ。その力をリアラは理解する。存在感を増大し威圧し、言葉を以て心を砕く事を目的とした力だ、これは。事前に竜術付与を受けている〈欲能を狩る者達チートスレイヤーズ〉への影響は少ないが、大勢の諸国の兵士達が集まりすぎている。いや、相手は玩想郷チートピアの首領。その力の範囲がこの戦場一つで収まる保証等僅かも無い。これは、言葉による全く新しい戦いの局面だ。既に敵軍との戦は収まっている。故に今は、この問答に集中しなければなるまい。恐らくは先んじて悠長な事だと此方の対話を嘲笑したのは、この局面でこちらに選択肢を誤らせられれば僥倖という嫌がらせか。


「不信心者である斑波達也ふなみたつや以外、愚かで哀れで可愛らしくも可哀想な転生者の誰も辿り着かなかった。こんなにもあからさまなのに」


 そして夕焼けの中、『交雑マルドゥク』より更に上空から『全能ゴッド』は告げる。『交雑マルドゥク』を地球での本名で呼びながら。周囲の空の色に染まらぬ蒼さを保ち、暗い側面を増やしそこに明かりを灯し始めた〈不在の月ちきゅう〉を後光の如くその後ろに背負いながら。語る。己が存在を。


「貴方達地球の命は、この蒼い水を赤い溶岩が掻き混ぜる中生まれ」


 蒼い髪を指で弄び、それを赤い瞳で見て。


「青空の大気を吸いながら、褐色の土の上を歩き回り」


 蒼い髪から手を離し、褐色の頬を同じ色の指で擦り。


「そして人は真っ赤な火を弄ぶ事を何より好み、緑の木々を切り払い、灰色のコンクリートで私の装いの色を大きく変えたのに……もう、分かったでしょう?」


 赤い瞳を細目、緑と灰色の二色の衣を揺らして『全能ゴッド』は笑った。装束の灰色の部分に配された宝飾の飾りボタンが、きらきらと輝いた。天において夜になった側面に文明の灯りを点す〈不在の月ちきゅう〉と呼応するように。


「……寡聞にも、地球が生きていたとも死んだとも、聞いては居ないんですけどね。ガイア理論とか例え話とかそういうのは別として」


 その動作で暗示する。即ち……だがそんな事がありうるというのかと、リアラは確かめるべく慎重に問う。警戒していて尚流石に緊迫し、まさかという表情で。


 それに『全能ゴッド』は答えた。途方もない答えを。


「どう思うかは勝手。私は唯告げるだけ。私は『全能ゴッド欲能チート』。私の前世はこの混珠こんじゅで言う〈不在の月〉、転生者の故郷、地球そのもの。転生者達が生きていた21世紀の地球より少し未来の地球。全ての命が死に絶え、生物が存在する星としても寿命を終えた地球。その地球の魂が時を遡り転生した存在。最初にして最後の転生者。地球唯一の実在する神秘たる神格にして輪廻転生を司る神。それこそが私」

「……!!」


 人間どころか、厳密な意味での生物ですらない転生者。どころか、時間軸を共有する存在ですらない、と。いや、それ以上に。


「そんな事が、ありうる……と?」


 流石に混乱するリアラに応じるように言葉を溢したのは『交雑マルドゥク』だ。


「さあ、な。謀反の為にずっと調べていたが……少なくともあれが本当に我々と時間・空間的に異なる別の地球から来たらしい事、自分をそうだと信じていることは分かるが、それ以上は分からん。俺達の地球の未来なのかそれとは違う平行世界の地球なのか、滅んだ人類の最後の一人が発狂して自分を地球の化身だと思い込んだのか、実在した神がトチ狂ったのか、地球の意識という設定の超AIだったのか、本当に言う通りなのか……それは俺の力を以てしても分からん」


 『交雑マルドゥクも分析していた。その『交雑マルドゥク』ですら定かではないと語る。そして。


「ついでに言えば『全能ゴッド』の正体の真実は不明なままで検証不能だと言ったが、それは『永遠エターナル』も同じだ。とある初期のファンタジー小説における著名な転生者に性格せんぱいかぜ以外はある程度似てる感じだが……その小説を元に『全能ゴッド』が作った存在なのか、あるいは奴が小説と似た世界から拾い上げた存在なのか……」

後者のひろいあげた方が正解だな。俺と『全能ゴッド』の付き合いの歴史は……」

「どうだかな。色々な物語の中には、記憶をでっち上げられて自分が宇宙人だと思い込んでいたロボットや、作り上げられたばかりなのに存在しない先祖代々の伝統と過去の武勲を誇るロボットも居たぜ」


 補足して『永遠エターナル』の正体についても、調査結果を『交雑マルドゥク』は語った。『永遠エターナル』はそれに回答したが、『交雑マルドゥク』は撥ね除けた。


「はー、ほー、ふーん……パクリ野郎風情がそういう事言っちゃう?」

「パクリじゃねえ二次創作だ、テメエが言えた義理か時代遅れの古典的転生者モドキが。もうお前は過去の作品で読者は老いて死んだあくまで彼個人の主観的な感想です。図書館の閉架の中に埋葬されてやがれ」


 そしてお互い、凄惨な、共存不能な怒りの表情で悪口雑言を応酬。『永遠エターナル』は剣の柄に手を掛けた。


 そんなやり取りも含めた全てに対して、『全能ゴッド』はベッドの下にお化けがいると怯え駄々を捏ね眠らぬ子供を見る母親から慈愛を引いた様な表情を浮かべた。


 そして、それらを無視してリアラに向き直り、言葉を続ける。


「愚かな人間。神も仏も仙人も天国も地獄も輪廻も神秘も否定して、自分達で自分達の魂を否定し、物質的な豊かさを生きている僅かな間だけ貪る事の代わりに、自分達が唯始まった瞬間から最大でもたった百年と少ししか保たずに消滅する化学反応でしかないと定義して。大体そもそも異世界転生が実在する事すら知らなかったのに、何を知っていて、何が理解出来て、私の主張の真偽を審議出来る存在だと思っているの? お前達の魂は、お前達の全ては、神亡き星地球の神である私が保証しているというのに。わざわざ異世界転生という更に新しい福音を与えてあげたと言うのに」


 全てを嘲笑い、それでいて恩寵を与えているのだと語る。救ってやっているのだ、愛してやっているのだと。


 そしてその行いについて、そもそも魂の存在すら知らなかったのだから、人間に地球に魂があってそれが輪廻転生するかも分からない無いのだから否定のしようもないだろうと、確かにそれはそうなのだがとしか言いようもない事を語る『全能ゴッド』だが、同時にそれよりも聞き捨てならない情報の断片を語っていた。


「過去の転生者の記憶を、調べました」


 そしてその情報は、リアラの調査結果と恐るべき事に一致していた。


「キリスト教によるローマ多神教世界観の崩壊、十字軍の失敗、イスラム教による中近東の多神教やゾロアスター教の征服、フス戦争、コンキスタドールと宣教師による中南米文化の破壊、近代化、進化論、現代化。地球と混珠こんじゅの歴史が平行して進んでいると考えた場合、過去の転生者の出現は何れもある程度誤差はあっても地球の大規模な既存の宗教・神話的世界観の退潮の後に発生している。つまり……」

「そこまでは分かっているんだね。そう、その通り」


 そしてリアラの調査結果を『全能ゴッド』は肯定した。


「私は、神秘を否定してしまった人間の為の神。奇跡や神秘を否定しておいてそれでも死ぬのが怖い人間の、こんな筈じゃなかったと思う人間の、こんな現実は嫌だと思う人間の、別の人生が欲しいと思う人間の、来世が欲しいという願いを、神秘が欲しいという願いを、幸せが欲しいという願いを、そんな欲望を満たしたいと思う魂の為の神様」


 くすくすと『全能ゴッド』は笑う。己がどういう神かを語る。死を恐れる人間を救うのだと、笑いながら語る。


「ここではないどこか、約束の場所を司る存在。輪廻転生の女神。貴方は女神様に選ばれました、早すぎる死や生前の苦しみを埋め合わせる為、これこれこういうチート能力を授けましょう。そんな貴方が活躍しちやほやされる為の、夢のようなファンタジー世界に生まれ変わらせてあげます、たのしもうね!」


 異世界転生チートとは、要するにそういうものなのだと、メタ的に語る。欲望の充足であると同時に、救済の夢であるのだと。しかし、救済を語り、異世界転生を救済であると称えながら……それは酷く歪んでいた。滅びから生まれた神であるが故なのか、救う魂の形故に歪んでいるのか、理由等無いのか、それが人と地球の本質だと言う心算なのか、それは定かならぬが。


「要するにあの世、その中でも天国、楽園、浄土、来世。神話や宗教を失った哀れな人の為の新しい宗教としての異世界転生チート。貴方の辛い人生を修行と認めてあげましょう、貴方は救われる、私の手を取って。不滅の魂、天国の果実、神の酒、仕え奉仕する乙女ヒロインを授けましょう……既存の宗教がしていた事と、何も変わらない。強いて言えば最近の人間は、どこか別の世界を踏み台にして優越感を感じないと救われない奴ばかりって所かな。だから私はこういう神様なの。今はまだ科学から目を背けて既存の宗教で救われている人間が大勢居るけど、これからもっと私の需要は増えるよ。今でも自意識過剰で一際惨めに人生を見てる、とある先進国で大人気なように」


 極悪な猛毒を吐き散らかし、女神は嗤う。リアラは全身が魂まで総毛立つ程ざわつくのを感じた。


「……それが救済の一種である事は、認めます。でも。貴方のそのあり方は、それは、冒涜だ。それは冒涜そのものだ」


 救う相手の邪悪を肯定し、救う為に他を踏み躙る。何より、その救いは、人と地球を、そしてその救済の為に虐げられる他の世界を、全てをその程度のものでしかないのだと貶める。地球の歴史も、地球の人類も、異世界に転生するものもそうでないものもひっくるめて地球の物語も、混珠こんじゅも、その他の地球ではない世界の全ても、混珠こんじゅ人も、ルルヤさんも、混珠こんじゅ以外のあらゆる地球以外の世界に生きる人々も冒涜しているとリアラは慄然とした。そして、その冒涜はそれ以外にも……


「存在しない真っ当な神様を探していた『神仰クルセイド』への? 正に私の言う通りの典型的な愚かな魂だった『旗操フラグ』に対して? まあ、どっちも? 要するに貴方が殺してきた相手達に対して?」

「ああ、そうだよ。どっちも、皆、僕が殺して来た」


 思わず呟くリアラに、自分で殺した相手への冒涜を糾弾する等、どの面下げてどの口で言うのやら、という『全能ゴッド』。それに、リアラは正面から受けて立った。


「ええ。混珠こんじゅや他の全てに対しての冒涜であると同時に、僕等が殺した彼等への冒涜でもあると思います……彼等を殺した責任の一環として、彼等の死に対する、貴方のその真実に、抵抗します」

「彼等の死を乗り越えて糧にして人間的に成長した?」


 それは彼等を転生させてやった私に成長させてもらったも同然だよ、有り難いとでも思ったら? とくっそムカつく声色で問う『全能ゴッド』に、リアラは首を振った。


「彼等を殺したからじゃない。『神仰クルセイド』とは戦いの中で語り合ったから思った事があった。『旗操フラグ』……ゼレイルとは最後まで分かりあわなかった。彼は意地を通した。それは尊敬する。彼の最後の笑いの意味は彼だけのもの。だけど」


 ぐいと見下す『全能ゴッド』の視線に己の視線をぶつけ、宣言した。


「僕の存在意義は、その上で僕が決める、ルルヤさんに貰った言葉も、託された言葉も踏まえた上で。それでも僕は皆を守り冒涜を討つ存在と自分を定義して立つ。愛に対しても憎しみに対しても。彼等の中の何人かは僕を今でも呪っているかもしれない。けれど彼等と戦った僕として、僕は彼等をも冒涜する貴方と敵対する。僕は人殺しだ。けど、守られるべき尊厳までは奪わない。それを戯れ言と笑われても、僕の存在意義と僕の世界は僕が決める。それを是とする皆を守る」


 紛い物の、歪んだ世界の理を体現する偽物の神に、不完全な人間が立ちはだかる。味方を背負い、敵をも勝手に背負い込んで。愚かにも、しかし、決然と。


 眼下から声が聞こえる。少数だ。遠い。だが間違いなく〈欲能を狩る者達チートスレイヤーズ〉、彼等がリアラを応援し、それにより『全能ゴッド』の存在感に呑まれかけていた混珠こんじゅの人間達を勇気づけようとしている。


「……リアラ」


 一際近くから、万感の思いを込めた声が聞こえた。それは酷くしゃがれて太い、巨大な獣の唸り声めいていた。


 それは【真竜シュムシュの巨躯】からの、ルルヤの声だった。最早その頭の上に出ていた女としてのルルヤの姿の幻像も無い。それが無い時でもこれまではこの姿で喋る時は吼える時以外は女としての声を保っていたのだが、もう、それもできない。


 時間切れは近い。


 ルルヤの声は告げた。リアラは唯、静かに頷いた。


 『交雑マルドゥク』が砕こうとする地球、『全能ゴッド』が砕こうとする混珠こんじゅ、そして己が愛する人、全てを自分の意思で背負う人がそこにいた。


(……これか)


 それらを聞いて『永遠エターナル』と睨み合っていた『交雑マルドゥク』は認識する。リアラが苦しみながらも決して諦めず、かつてリアラにとっては策を用いなければ歯が立たない相手だった『増大インフレ欲能チート』に単純な力で劣るが総合力では並ぶかそれ以上と自負する自分に対して、正面から抗える程に強くなった理由。魔法の力は心の力。己の罪に傷つきそれでも尚世界の為に戦う事が、リアラをここまで強くしたか、と。


(この強さは、敵だ)

「……本当に、余計な事をしてくれたね、『交雑マルドゥク』」


 『全能ゴッド』は、リアラをそんな得心の表情で見る『交雑マルドゥク』に叱る様な声で告げた。


真竜シュムシュについては、扱い方によっては危険な存在になるが故に、その倒し方に関しては十弄卿テンアドミニスター会議で通達をしておいた筈。ナアロ王国の今回の行動は、それに明確に違反している。申し開きがあるならばせよ。不可能であれば、新天地玩想郷ネオファンタジーチートピアの名の下に、ナアロ王国に関係する構成員を粛清の対象とする」

「はっ、今更玩想郷チートピアも王国も何も無いさ。よく言う。〈帝国派〉を裏から操れる立場にいながら制止しなかった癖に。お前達はお前達の意図で、こっちを真竜シュムシュと食い合わせる計算だったんだろう」


 最早新天地玩想郷ネオファンタジーチートピアは組織として形を成していないだろうと『交雑マルドゥク』は笑い飛ばした。『全能ゴッド』も、特にそれは否定しなかった。お為ごかし、言葉遊びに過ぎないと、理解している。理解した上で宣告する。戯れ言として。リアラとルルヤ、他の諸々諸共、お前も潰すと。


「……真竜シュムシュは『交雑マルドゥク』に利用させずに滅ぼせた方が良かった。その為に地球への憎悪を爆発させるような形で殺すのではなく、自我を完全に磨耗させるか、生存のみを願う状態とするか、混珠こんじゅへの思いを絶望させる形で滅ぼそうとしていた。〈帝国派〉はその為に動かしていた面もあったのだけどね……まあ、もし楽にそうなるならそうしたかったというだけだ、仕方ない」


 どうでもいい、と『全能ゴッド』は〈帝国派〉の死をぶん投げた。ここにもまた、冒涜があった。


「輪廻転生は救いと、言った癖に。個々の魂を、どうしてそうも軽々に扱う」

「最終的にはどうにでもなるから」


 糾弾するリアラの言葉に向き直ると、『全能ゴッド』は回答する。


「確かに君達の魂が自我を保って転生するのは一度きりだと言った。この一度が欲望を満たすチャンスだと。嘘は言っていない。今の所はそうだってだけさ。後々どうにでもなるようになっている。その上でそう言っておけば皆、必死に欲望を燃やし、欲望で魂を歪め、欲望を叶える力を望み、欲能チートに縋るだろう? 多少〈鶏が先か、卵が先か〉だけど、何しろ私は神様だからね、細かい因果関係なんてどうでもいい。大事なのはそれが私の目的、転生によって哀れな地球の魂を救済してやる事に必要だという事だ。その為に私は欲能チートの法則を定め、玩想郷チートピアを作った」


 悪意を込めて。その悪意はリアラだけではなく、ルルヤを、その背後の混珠こんじゅ全てを見ていた。


「そしてもうひとつ、大事なものを作った。何だと思う?」

「……皆! 忘れないで! さっきルルヤさんが言った事を! 僕達は、僕達です!」


 故にリアラは叫んだ。先程ルルヤが皆に言った衝撃的な情報への覚悟を固めるようにと。改めて。答えは聞いていなかったのだろう、無視して『全能ゴッド』は言った。


混珠こんじゅさ。この世界を、造ったんだ」

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