・第四十六話「異世界の主役は貴様等ではない!(前編)」
・第四十六話「異世界の主役は貴様等ではない!(前編)」
「…………」
音も無く、キイタ〔
多重に警戒魔法が掛けられた、本来ならば侵入不能の空間。そこに入り込み警戒魔法を掻い潜って進めた理由は二つ。
一つはこれまでの戦いで上昇したリアラの魔法の腕前。これまでは【
しかしそれだけではダメだっただろう。警戒魔法の数が多い上に魔法以外の様々な警備も存在する。それを可能にしたもう一つは、アレリド・サクン・パフィアフュ……リアラの最初の師にして保護者であった冒険者仲間、ソティア・パフィアフュの父の力だ。
アレリド・サクン・パフィアフュには大した力は無い。帝国においては幾らでもいる下級貴族の一人であり、領地を持つ訳でも無い下級官僚だ。才覚においても突出したものは無い。
だが、アレリドは誠実な男であった。妻が亡くなった日も、現
それ故にアレリドは、誰からも信頼される人間であった。
それ故にアレリドは、たった一つ、極大の武器を持っていた。その人生全てで培った信頼全てを擲つ事で使える力。
嘘しか言わない悪魔が真実を言う筈が無い故に百万回に一回の真実を嘘だと信じさせる力を持つという類のトリックの逆、誠実な行動しかしない人間がよもや、という人間の意識の裏をかくという意味での魔法の鍵。
長い役人生活で歩き回った全ての場所、そこから見る事が出来た全ての場所についてアレリドは知り、そして誠実故に運搬・郵便・出入に関する分野の仕事を任されてきていた。警備に関する業務は武官や魔法官の仕事故に任されなかったが、その傍らを何十年も通り続けた存在感の薄い男は、気がつけばその全てに習熟していた。その全てを掻い潜らせる細工が可能な程に。
(ありがとうございます、アレリドさん)
感謝を胸にアレリドから教わった知識を元にリアラは《
この機会を生かして行なわなければならない事は色々あるが、その最大の目的は単刀直入。
状況は予想以上に悪い。『
その為、協力者の何人かを北方、諸部族領に派遣し、現地の協力者達への接触を頼んでいたが、これは彼我の戦力差を考えれば非常に危険な行為であり、派遣した者は捕捉されれば殲滅される恐れが高い決死の行為だ。
故に、少しでも危険を減らす為に現状は長期戦は不可能と〈
短期決戦的に状況を変える、可能な限り急がなければならない。故に《
PON! PON! PON!
「……っと、そろそろ時間、か」
……翌日。そんな《
〈連合帝国初来訪! 諸武諸劇諸芸諸歌大集合! 諸国友好の為是非ご覧あれ!〉
各国使節団が宿泊する大使館街と連合帝国帝宮が相対する広場に大きな舞台が設えられ、そんな客を呼ばわる謳い文句が、遠くで外に目掛けて呼びかけられていた。
〈国際諸楽祭〉。
各国の使者の内の芸能的素養のある者、護衛の内の武技を披露して構わぬという者、友好交流の為に随伴同行したり饗応の為に集められた芸能者等、それらが〈戦争戦災対策国際会議〉の成就の為、そしてまた戦災の影響が少ない連合帝国の民からの収入を戦災があった地方にチャリティ行為する為に集合した一大興業祭典だ。
「そろそろ私達の出番も近いぞ、リアラ」
そこで、ルルヤとリアラは出番を待っていた。こちらは体の調子を考えて確認めいた準備運動をしていたルルヤが、休息がてら目を開いたリアラに声を描けた。
「はい、ルルヤさん。今回は一応今からもう現代
「ん、そうだな……ええ、分かってるって」
軽く伸びをしながらリアラが返事をし、ルルヤも頷く。鉱易砂海で出陣前に歌った時より更に大きな舞台。以前ある町での公園でうっかり口上を
時間と打てる手の数において切迫した状況の中で、何故こんなお祭りイベントへの参加をと言えば、これは寧ろそうだからこその一手なのだ。こんな時にどころか、目的の為にルアエザら舞闘歌娼撃団が中心となって、わざわざこの〈国際諸楽祭〉が行われるように働きかけたのだ。
何故かと言えば、これもまた現状の打破の為だ。〈戦争戦災対策国際会議〉においてナアロ王国そして
だから諸々の連合帝国における活動と並行して、このイベントで帝都の民に直接訴える。これまでの
最初は普通の歌を歌い、それで引き込んだ上で、吟遊詩人の如く今の事柄を歌に乗せて語って行き、その中で訴える。
そう。そして今の目の前で歌い踊る自分達が、様々な噂で様々な虚実で語られた存在である事を明かし、その上でこちらの主張を含む様々な虚実の内、どれを信じるかを問う。それによって、既に行っている連合帝国に関する訴えの力を増すのだ。
音楽的感動を政治的主張を訴える事に絡めるのは、説得としては冷静な議論ではないという意味で本来少し狡い事かもしれない。
そして何より、一歩間違えれば
だが、時間的に最早拙速でもやるしかないし、何より、それらの可能性を心配するあまり肝心の公演を失敗させては訴えるどころではない。故に公演を成功させねばならないし、かつその効果を最大とすべく、エクタシフォンにおける最初の
その結果、リアラとルルヤ、それを支える仲間達、
その対象は様々で、例えばリアラが《
SWASH!CLASH!GIN!STAMP!
闇夜の中、白い肌と金鱗の鎧、黒鉄の刃が跳ねた。それに襲いかかったのは、ぬらりと滑め艶めきながらもしかし不思議とその艶が星の光や街の灯火の一部として溶け込み隠れる様な、暗赤と灰の二色の滑らかな体だ。
「「…………!!」」
一合交錯の後、改めて相互相対し、そして。
相手は目を見開いた。今や神話伝説で語られるのみと認識していた〈
その姿は。
一人はまっすぐに切り揃えた黒髪の真面目そうな大人の女、もう一人は栗色の髪を二本に束ね長く伸ばした生意気そうな若い娘。それぞれ恐らく
絹や
ラトゥルハもある意味似たようなものを着けているが、ラトゥルハはビキニアーマーの下に着けてビキニアーマーで覆われた部分以外の肌を覆うようにして用いている。それに対して、彼女達はそれオンリーだ。そして自由守護騎士団のボディラインに密着するスーツアーマー等とは薄さの度合いが違う。故にルルヤとしては中々カルチャーショックだった訳で。
「「破廉恥な戦装束だな!?」」
そしてルルヤと栗色の髪に灰色の装束の〈
「「おい、我らの伝統的な戦装束に何て言い様だ!?」」
更に再び抗議の叫びがハモった。
そして。
「噂に聞く歴史ある〈
驚きで頬を赤くしたルルヤとムキになった〈
とはいえルルヤも相手もあくまで根っこの所は真面目だ。〈
(少なくとも此方はそう、向こうも噂通りの戦士ならその筈……)
(というか、そうでないとこの後困るんですけどね……)
栗色の髪と灰色の装束の〈
「……第一ではないな。第三とも違う。第四ならば横の連絡がされていない事になる……第二太子の手勢、か?」
「……どうやら既に色々ご存じのようですね。流石のご判断です、
実際ルルヤは上記のやりとりをわざと古語で行って、相手が反応できるかどうかを図っていた。そして、実際【
年上の暗赤色装束黒髪の〈
「話を聞こうか。ただ、盗み聞きが気になるな」
「……ご心配なく。私達は〈
ルルヤの問いに、プロですからと暗赤色装束で黒髪の〈
……そう。ルルヤとリアラ達は
……リアラが接触したのは第四
《
「これが、〈大奥半魔族女中禁衛隊〉ですか」
「ええ。今、恥ずかしながら
だが驚かず名を言い当てるリアラに、ルキン第四
〈大奥半魔族女中禁衛隊〉は過去の歴史的経緯から結成された、名前の通り半魔族からなる帝室の護衛団の一つである。現在においては三代目魔王との和議が成った事を記念し人と魔の人種的平等を象徴する側面を有するが、その発足の経緯は少々、いや、かなり問題のあるものだ。
王族が至らぬ存在であれば
三代目魔王時代の少し前において魔族に内通した最悪の
全体を語るには余りにも横道に逸れる為詳細は省略するが、結果生まれた半魔族の女達の内、三代目魔王に抗った者達が魔と人との争いを止める為
それでも最悪の暗君が残したものを次のものが善用するあたりが連合帝国の懐の深さと
……そんな彼と語り合った結果、分かった事がある。ルキンは訴えた。
「ぼくたちの間の争いは、それを煽る存在の意思を感じるのです」
と、ギデドスもリンシアも信じたいし一度腹を割って話したいし、僕達をそれぞれ思って行動していると思うのだが家臣達が警戒しあい、そしてそれが帝国への
「はい、だから僕はここに来ました。失礼を承知で。なぜなら、そうでもなければ、この連合帝国は悪い国では無い筈だと、また、許してくれると考えたからこそ」
それにリアラはそう答えた。
そんな過去が、このイベントに至るまでにあった。
そして、この二つでない様々な接触を含めた、色々な事柄への対処が今回の公演には込められていた。だが……
「やあー、始めまして。ああ、落ち着いて下さい、今殺しあう心算は有りませんとも。大体私の
「貴様……!」
時間軸、改めて今現在。舞台に立つ時間が迫る中リアラとルルヤの控え室に、華やかな装いの糸目の男が訪れていた。飄々とした風ではあるが、それ以上にぬけぬけとのうのうといけしゃあしゃあとした、押しの強い口調で割り込んできたそいつに、ルルヤは臨戦態勢の表情で立ち上がった。
「レニュー・スッド。筆頭宮廷詩人の。……
「やはりご存じでしたか。この通り、私も察してましたが。ま、末席ですけどね」
リアラの圧し殺した確認の言葉に、にこにこと笑って『
「冗談じゃない。回収した資料から、貴方が実質的な連合帝国における
「おやおや。そこまで評価していただけるとは、ご贔屓にどうも」
「それで、一体何の用だ」
リアラと問答する『
「和平交渉です」「何!?」
そしてそんな二人とはまた別の強さで、厚かましく『
「貴方達が暴れ回った結果、我々も大分シンプルになってしまいましてね。魂胆が分からなければ居場所も定かではない事になっている〈首領派〉、ナアロ王国に集って自分達の目的の為に
「ああもう新聞の契約担当かお前!? ストップストップ、一旦黙れ!?」
ぺぺらぺらぺらぺぺらぺらと、立て板に水、まくしたてまくる『
「ああはいはい、一旦この辺にしますとも。このやり取りがどこに漏洩するのかわからない、それが状況をどう動かすかという心配もありましょうが、私の事ある程度お調べになっているでしょう? 情報を得て伝える事にも長けていますが、逆に言えば封じる事にも長けてまして。他の派閥にゃバレませんとも。何しろお察しでしょうが私たちの実在を信じさせないようにしていたのも貴方達の名声が広まるのを押さえていたのも白状しますが私ですし、実際手を結ぶならばその辺は即座に解除を」
ZANN!
一段落すると言いつつまた続いた言葉をルルヤが剣を振るって威嚇し断ち切った。
『
「斬ろう。こういう輩の言葉は事実でも毒で呪詛だ」
「それは……そうですけど、唯、聞かないなら聞かないで、そちらの選択肢にも罠を仕掛けるタイプだとも思えます」
「……確かに」
物理的に単刀直入な発言をするルルヤだが、それは断じて直情ではなく、敵意だけでもない。会話する事すら危険だと言う程の、これは警戒だ。リアラは更に警戒する。情報が多いに越したことはないが、あからさまに信じられないし、この手合いはただ情報を伝達するだけで他人を誘導し支配しようとする奴らだと分かっている。
単純な毒や呪詛の魔法であるならば、
信じれば誘導される。だが全て従うまいとすれば、逆へ逆へと動いたところに相手が罠を仕掛けていて嵌められる、そういう類の言葉だ。
戦士気質でありまた嘘を見抜く【眼光】の使い手であるルルヤだが、だからこそ逆にそんな己の気質の裏を掻こうとする者、【眼光】のぎりぎり範囲外を攻めようとする者への警戒は人一倍強かった。
「ちなみに一応言いますけど、流石に斬られそうになったら抵抗はしますからね? そうなったらまあ、騒ぎになりますよ」
自分をガン無視して相談に入ったリアラとルルヤに、アピール半分抗議半分な口調で皮肉るように割って入る『
(二人揃って、生ゴミを見るような目で見てくれちゃってまあ)
糸目の奥に毒蛇の怒りと狼の飢え、死者の怨念と道化の悪意を封じ込めて、内心そう考えてルルヤの視線を受け止める『
(嫌らしい奴。確かにこの場でこちらから戦端を開くのは心苦しい。だが
ルルヤは、観察眼で対象の虚偽を露にする【
(ルルヤさん、ただ、こいつも自分が見破られる事は承知の筈)
(分かっている、リアラ。問題はこいつがここで自分の話を聞いて貰えないと想定して罠を作っているか、こちらが最終的には聞く事になると想定して罠を作っているか、その両方かだ。おそらくは、最後。そしてこいつが言葉に込める毒が、毒があると想定して聞けば防ぎうる可能性があるものか、こいつがどこまで言葉を呪いとして使えるかという度合いによる……)
そしてリアラもルルヤも、『
「それじゃあ、私ではなく、彼と話すならいいでしょう? ……彼にも言いたい事があるでしょうしね」
「……」
警戒するリアラとルルヤに『
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