・第四十五話「復古物語ラストマーセナリー 野望の異端」
・第四十五話「復古物語ラストマーセナリー 野望の異端」
「よく来たな」
連合帝国
「だが、呼んだより数が多いんじゃないか?」
「それは……」
そして軍を愛する太子であるという風聞だが、正に兵隊じみた粗っぽい口調でギデドスは出迎えた相手に問うた。
その問いに出迎えられた相手、最近の激しい戦いぶりは聞き及んでいる、詳しく話が聞きたいと招かれた自由守護騎士団団長、騎爵ユカハ・シャラ・ミティアニクは僅かに口ごもった。
〈戦争戦災対策国際会議〉について、ナアロ王国について、
「なぁに、細かいこと気にすんなよ太子様。
「な、名無っ!!」
それ故に雑な相手の口調にも畏まっていたユカハだったが、その雑なギデドスの問いに、ユカハではなく問いの種そのものが反応した。
そこらの冒険者や村人相手そのままのざっくばらんというか若さからすれば相手によっては不遜すれすれ、帝族相手では不遜120%の口調で語る同行者、少年傭兵団〈無謀なる逸れ者団〉団長、
「……私達の事は護衛と、ご理解頂きたく存じます」
「如何にも、その通りでございます。騎士団と共に戦い、共に守り会うと雇用された身でありますれば」
動転するユカハに代わりもう一人の同行者、現在自由守護騎士団副団長を勤める騎士フェリアーラ・スィテス・タムシュロスが補足した。実際ここに至るまでに幾人もの衛兵にすれ違ったし、剣を預かられているし、部屋のすぐ外にも衛兵はいる。こちらだけ護衛無しは不公平と言えなくも無い。そして直後に一転、そのフェリアーラの言葉に乗っかる様にして
「太子殿下にあられましては気さくなお声かけ、気取らない対話をご所望とご推察致しましたが」
そのまま、そう続けた。
(小癪。だが、中々)
ギデドスはその意図を即座に理解した。生来政より戦が好きだが、政も戦も場全体の状況と相手の意図を読む事は同じ、すなわち政も苦手というつもりはない。
要するにこの少年はこう言っているのだ。そちらがざっくばらんに声をかけた以上、我が主君にへりくだらせる事を強いさせはしない、と。
「もし、そうではない、俺はこの口調だがへりくだれとお前の主君に強いたらお前、どうする? この場で何が出来る?」
承知の上でギデドスは踏み込んだ。ここで鷹揚に許し、誉め、流せばむしろユカハの心を掴もうとするならその方が良いだろう。
だがあえてギデドスはそうしなかった。それは彼自身の
「俺は美しい善良なものを守ると誓い、その為に醜きと悪しきと戦い、醜悪の代表である傭兵を滅ぼすと誓った身」
そのギデドスに対し、名無は答えた。背筋を伸ばし、まっすぐにその顔を見て、視線を合わせた。男と男の視線がぶつかり合った。
「俺の忠誠はユカハに捧げた。
「っ!!」
GRAP!
「出来る心算かどうかは知らんが、ここで死ぬのがお前の望みか?」
「中々やるね、殿下。そこらの傭兵隊長や魔族よりずっと強い……死に場所については、ここじゃないね。それは殿下もそうだろ?」
しかし、名無の首を掴んだ間合いは、ギデドスの想定した間合いよりずっと近かった。同時に名無が踏み込んでいた。踏み込んだ足は膝を振り上げればギデドスの睾丸を蹴り砕ける間合い、伸ばした手は高く掲げれば片方が眼球を抉れる間合い、そしてもう片方の手がギデドス一人が一方的に帯びている剣の柄を掴んでその胴を薙げる間合いだ。名無の喉を掴んでいない方のギデドスの利き手でない方の手は、難しい選択を強いられる事になるだろう。
故に二人はにやりと笑い交わし、お互いの気配を伺いながら手を離し、間合いを取って。
「ななな、何やってるの、もう!?」
そして
それはともかく。
「噂に聞いた以上に見所があったようじゃねえか。ところで、死に場所がここでないのは兎も角としてだ。傭兵根絶を掲げてはいたが、
「その場合、傭兵退治の依頼を受けるがてらで国内事情に付け込んで滅ぼせる辺境の国を幾つか見繕ってたからな。国盗りしてそっから戦で広めてく算段だった。ナアロ王国の真実について知った後じゃ中々厳しかったろうとは思うが、裏を返しゃナアロと
「そうか。他人の尻馬に乗るだけの漠然とした夢だけでかい馬鹿じゃねえか。ならば良し」
むしろその後に問いを加え、その答えを聞き。
「気に入った。ユカハとフェリアーラと噂の
「「ぶーーーーーーっ!?!?」」
相手からの本題は中々想定の斜め上かつ
「愛人ね。それが主従じゃなくてお付き合いがしたいって事なら……うーん、まあ、割りきった仲なら考えてやってもいいぜ。殿下は中々ぶちこみ甲斐のある尻だ」
「「げほーーーーーーっ!?!?」
そしてそれに対する
「ちょ、
「前歴的にそういう方の仕込みをされてる奴も多いうちの団員達ン中でも、仲間内で確かめあったが俺が一番巧いぞ? 組み打ちの腕も今見せたしな。主導権をとられる覚悟があるんなら……」
これには流石の第一
「いい加減にしなさーーいっ! (
赤面したユカハが戦闘中でもその筋力ないやろという火事場の馬鹿力でテーブルを茶器類ごと投げつけた。
名無は吹っ飛んだ。ギデドスと一緒に。
再び、それは兎も角。
「お前もお前で、形式ばったお人形じゃあないって事か。中々やるじゃねえか」
「はあ……」
元に戻されたテーブルを改めて囲んでギデドスは笑い、それに対しギデドスにもテーブルをぶつけてしまって話題をおっぱじめたのはギデドスとはいえ巻き添えをくわせてしまったのは無礼というレベルではなく、しかしギデドスが別段気にした様子も見せないので、困惑した口調でユカハは答えた。
「すいませんが、その、お返事については……ええと、もうちょっと待ってください、もうちょっと……本当にこの子は……」
ぐりぐりぐりぐり……
「あだだだだだだだ……」
その手は
「後は頼んだわ、フェリアーラ」
「了解」
「え!? あ!? ぐえ、あひい!?」
フェリアーラにパスされた時はさすがにちょっとこれ以上は、となって慌てる
その
「さて、お仕置きで時間を稼いでいる間、ずっと迷ってたようだが、さっきの下問のお返事如何に、ってな」
「っ……」
気づいていたからギデドスは気にしなかったのだ、と悟るユカハ。怒りのお仕置きの半分は、返答に困っての時間稼ぎだった。いや、それ半分恥ずかしさや怒りとか色々それ以上で100%オーバーなところも大きかったのだけど。
「それは……その……」
時間を稼いだが、それでも尚到底即答出来る話題ではなく、言い淀むユカハだが……少し百面相をした後、何とか絞り出す。
「少々、私達は人間関係が複雑でして、」「具体的には?」
だが、ギデドスは更に割り込む程踏み込んで聞いてきて。
「……紙とペンを」
口ごもったユカハは、やけっぱちな決意の表情でペンと紙を所望し受け取り。
ギデドス
|
|→ルルヤ←ガルン
| ↑
|→リアラ
| ↑
| 名無←ミレミ
| ↑↑
|→ユカハ|
↓ |
フェリアーラ
「……その、矢印が好意等の感情の流れだと思って下されば……」
そして上記のような図を書き上げて、耳まで赤面して俯いた。
「……………………ええと?」
これには流石に
「
思わずざっくばらんを通り越して子供じみた素朴な口調で尋ねてしまう。
「ガルンのおっさんは落ちぶれて盗人してた所をルルヤの姐さんに昔シバかれて更正して以来入れあげて追っかけてる狩闘の民の戦士、ミレミは俺の副官。
それに答えたのは、ひょっこりと顔を出した、お仕置きでだいぶ髪とか服装とかぐしゃぐしゃになった
「ふ、フェリアーラ?」
「す、すいません、その、これ以上は……(
手を離したの? とユカハが見ると、フェリアーラも恥ずかしいのかあるいは
「え、ええと、その!? 私とフェリアーラからの、
「わ、分かった、一応分かったが……恩義じゃそんな顔しねえだろ」
「!? (
早口で必死にそう言うユカハに、頭を抱え嘆息めいて最初返事したギデドスだが、呆れ半分惚気疲れ半分といった言葉に、更にユカハは茹で上がる羽目になった。
しかし。
「まあともあれだ。お前ら例の秘密結社に関して、存在すると主張してるんだろ? 噂の
砕けた雰囲気から、不意打ちするかのように牙を剥いた表情でギデドスは言った。
「……それは私の命と来世に賭けて真実です。王や貴族として、まして
「
その意図を察し決然糺すユカハに、獣の笑みのギデドスは真正面から応じた。
「
「
「……まあ、
「少なくともお前よりは可能性はあるさ」
「どうだかな」
「面白いぜ。今度、
にやりと笑って、ギデドスはそう告げた。
「だから最初から、あいつから
帰り道、
「
「それは、わかったけどさ」
これからについて話し続ける
「……結局、
少女の問いに、少年は暫く沈黙を守った。その表情は部下の命が懸かった戦の時よりは流石に悩んでいなかったが……自分の命が懸かった戦闘時と同じ位悩んでいた。
「リアラちゃんは、ある意味友達への愛として一番なのかもしれない。部下でもない、男でも女でもあるともないとも言える。俺に何処か似てて、気楽に付き合えた。だから一番気軽に好意を伝えられる。俺は……」
そして
「俺も実際意外と駄目だな。愛する事は出来ても恋してしまう事が分からなかった。皆が好きで、自分が余り好きじゃないからか。皆を愛してその為を思って行動する、その中の誰を特に愛してもっとその子の為に頑張ると言えても、誰か一人に何より恋して絶対にその子が欲しいとは、どうも言えなかった。今は、少なくとも俺は兎も角皆はギデドスの妃にされてたまるかと思ってるが……リアラちゃんも、こんな気持ちだったのか」
同時。ユカハ達を送り出したギデドスは、応接した部屋で一人静かに、軍の配置を記した戦場の地図を睨むような表情で口許に笑みを浮かべ暫し沈黙していたが。
「おう、次はそっちだな。来たか、
やがて、ぐるりと振り返った。その視線の先には。
「ええ、殿下。ビーボモイータ治爵……『
『
帝都を舞台にした様々な意図は、舞踏会の如く複雑に交錯する。
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