・断章第十一話「復古物語ラスト・マーセナリー 群影再び」
・断章第十一話「復古物語ラスト・マーセナリー 群影再び」
諸部族領。大陸北方、《
大陸中央の争乱からは縁遠いと思われていたこの地でも、既に不穏な戦が始まっていた。
「……こんな奴がこの世に存在するとはな。俺がここまで倒してきた魔獣魔族や魔獣人・亜獣人も、要するにこれの類いだったか」
「だから言ったっしょ、勇者のセンセー。オイラ達みたいなのが居る以上、居てもおかしかぁ無い」
「ふむ。誰と取り組みすれば良いでしょうかな……引き受けるべき相手は……」
「……どんな奴も自分が一番得意な勝負に他の力を一切封じて引きずり込むその力は確かに凄い。けど、リスクもあるんだから慎重にね、
今、揃って身構える四人は、あるいは対峙する相手より余程奇妙と言えるかもしれない組み合わせだった。
一人は、この一段の中では一番真っ当な、しかし、特別という意味ではひけをとらない存在。勇者、とそう呼ばれた者。真竜の勇者たらんとするルルヤやリアラとは、また別の勇者。ごつい毛皮の鎧を纏って、鈍い赤毛のつんつんした髪をした凛々しい若者だ。
もう一人、おどけた口調で彼を勇者と呼んだのは、灰色の毛並みを持つ兎の獣人だ。細い人参を口の端に噛み、油断なくふてぶてしい人を食った笑みを浮かべる顔は、獣の相はやや薄く人間の少年に近い……その片手が、まるで地球はアメリカのコメディカートゥーンか何かのように、拳と腕が大きく膨らんでいる。どころか、「もうちょっと膨らませとこう」等と言った後、親指を咥えて風船に軽く息を吹き込むような仕草をしたら、腕と拳がもう少し大きくなった。こんなとんでもない魔法は混珠にはない。これは、欲能だ。
三人目は、
そしてそんな彼に寄り添うのは、紺色の
しかし、それと対峙する存在は、やはりそんな四人の目からしても奇妙な存在だ。
それは一見するとこの世界の住人からは魔族に見えた。獣人より更に人間離れした半人半獣、上位魔族は様々な姿を取るが、その中にはそういう存在もいる。
だがこいつらが奇妙なのは、特定の亜獣や魔獣を人間の形に無理矢理押し込めたように見える事だ。更には二種類の魔獣や亜獣を合成して取り込んでいる様な存在や、体に武器を融合した存在等までいる。
どう見ても既知の魔族ではない。それどころか継ぎ接ぎをした形跡や機械部分も存在し、あからさまに自然発生した存在ではない。魔術か、
「こいつら『
兎の獣人が、ある予想をすると同時に。
「いかにもその通りじゃよ、『
『改造人間』が口を利いた。おどけた老人の声。『
「チートネームで呼ぶな。オイラはウシロ・ハニイだ。……材料は」
「お察しの通りじゃ。昔の特撮の悪の秘密結社と同じじゃよ」
その言葉に兎の獣人……『
「戻ってくる気はないか? おぬしの欲能は興味深い」
そんな表情等無視して、そう問いかける『
「戻らねえって言ってんだろが、どったのぉ? センセー。忘れた? オイラは笑いが好きなんだ。……お前ら
そう答えて『
大陸中部、辺境諸国群。
その内のとある一国、リマトマ王国において。
「……以上が、これまでの調査結果です」
「これは……何と……」
王宮最奥の一室の一つである王の私室。質素なその部屋で小さな机越しに向かい合うのは、禿頭口髭のリマトマ国王と、金髪を先端が縦ロールになったポニーテールにした碧眼で豊かな胸をした美少女、自由守護騎士団の今の長、ユカハ・シャラ・ミティアニクだ。鎧姿ではなく貴族令嬢らしい服装を今はしている。
王はユカハから渡された巻物を眺め、しきりに呻き、唸る。巻物には魔法が仕込まれており、手繰ると様々な画像や映像が立体的に展開する。
ユカハは帯剣していない。流石に、衛兵に預けている。巻物も、事前に危険な類いの魔法が仕込まれていない事は確認済みだ。
「真なのかね?」
「勿論です。証拠については、付帯する資料の通りに」
「むむむ……」
何度も確認し、唸るリマトマ国王。
(無理も、無いけど)
その巻物は、新天地玩想郷の存在とその悪行と陰謀について、証拠を集められる限りを集めた資料集だ。証拠を固められなかった部分については触れてはいない。それは、あくまでそれが噂話の陰謀論ではなく真実の脅威である事を確実に伝える為。
しかし、それでも尚、これまで一時代に数人、特殊な能力を持つ者は稀、悪性を持つ者はあるいは魔族の中に居たかもしれないが詳細は不明、程度の転生者達が、超常の異能を有する転生者だけで百人以上、手駒を加えれば数え切れぬ恐るべき秘密結社を結成し世界を裏から蚕食している等、混珠開闢以来無かった事だ。
それに加え、リマトマ王国は辺境諸国のなかでは最も平穏な王国だ。ナアロ王国から遠く、戦乱が広がる諸島海や鉱易砂海からも遠い。辺境諸国内の位置においては連合帝国寄りといった所で、政治的達位置もそんな感じだ。比較的豊かで辺境諸国の纏めになりうる立ち位置であるが、そうであるからこそ歴史的に人類国家が分裂した時の敬意から、それから遥かに時が流れたとはいえ時おりはそれが顔を出す事もある連合帝国と辺境諸国の間の橋渡しにならんとする、平和主義国家ではあるが時にそれがもどかしい状況になる事があり、正に、今がその時だった。
「……諸臣に諮る、か」
退出したユカハは、城の外に出てから、ふう、とため息をついた。領土を持たない特殊な貴族とはいえ辺境諸国に影響力を持つ自由守護騎士団長の騎爵である自分が、様々の証拠を集め正式な外交ルートから緊急の提言として交渉したにも関わらず、リマトマ国王の反応はいまいち鈍かった。とはいえ流石に王と騎爵では相応に差もあるし、急に爵位を継いだ若輩なのは承知の上だが。
「仕方がないのはわかっているし、寧ろ色々してくれた。いい人なんだけどね」
そしていかな王とはいえ、否王侯貴族だからこそ、即断即決は一歩間違えば軽挙妄動となる為に出来ない。
混珠における王侯貴族とは国家所領と民草の為にという心と政治・経済軍事についてみっちりと幼少から教育される存在であり、基本的にどの国も明確かつ倫理的な法制度を持ち、また民会等を開き民の意見を聞いた上で王宮の意見と専門知識を加え調整を行いその経緯を国民に説明する立憲君主制に近い体制の王国も多い為などもあり地球と比べ民主制・共和制国家が多くない。
これは王国を船に例え、漕手も帆手も船長も見な船を動かす為に必要であり船が沈めば全員平等に溺死する様に、王も騎士も民も王国という一つのチームの別々のポジションを担当しているだけで本質的には平等の存在と見なす思想が主である故で、その考えに則れば漕手が船長に変わって指示をし船長が帆を操り帆手が漕げば、それぞれ知識も力も足りず実力を活かせず船が沈む事になる為受けた教育と得た知識による適材適所が大事となる訳だが、逆に言えばチームワークである事を強調する思想はチームを慮る事を重視する為に、混珠の王制・貴族制は地球のそれより遥かに民の為であり民の意見や心を重んじるが、逆に言えば地球的な専制・独裁の様な即断即決の力には乏しい。
こういった混珠の政治制度には明確に徳を失った君主が王神法術を使えなくなる事でそれが明らかになる事があり王候貴族と言えどあまり無茶は出来ぬ事と、悪政への不満が魔を呼ぶ災害による暴政への懲罰や民側の対抗制度としての信仰と法術、信仰を司る神官達も信徒である民に奉仕しなければ法力が衰える等の混珠特有の魔法的事情等が絡むのだが残念ながらユカハの次の呟きまでにそれら全ての諸要素を正確に述べるには時間が無さすぎる。
「それでも流石に、この状況だと歯痒いなあ」
今、幸いにもナアロ王国の動きは小康状態にある。しかし、小康状態と言っても、それは国としての侵略を停止しただけで、各地で陰謀を進めている。そして、ナアロ王国以外の
そもそもルルヤという神話時代の奇跡の残り香がなければ、ルルヤがリアラと出会わなければルトア王国は『
今が奇跡的な機会なのだ。世界が急激に危機に向かっているのは、最前線でそれに肌身に触れたからこそわかる。しかし。
それでもリマトマ国王は話をしっかりと聞いてくれた上で、自由守護騎士団への団員の援助・補充について自国騎士団等と支援を行う事については可能であった為に今回の会談で同意してくれた。
しかし同時に、王はそんな悪い噂等信じていない取り沙汰する事も許しはしないと明言してくれたが、一部の者は現行の自由守護騎士団をこそ逆に実力不足で信用に値しないと言っているという。……王は言うを憚ったが、実際にはもっと酷い噂も流れている事だろう。何しろフェリアーラが調べた情報によればリアラとルルヤに対して何らかの情報戦が仕掛けられて風評が捩じ曲げられているとの事だ。上述の法術的な為政者や宗教者等の浄化作用もまた即応性のあるものではないし、新天地玩想郷に至ってはそれすら易々捩じ曲げる。
……まして自分達は事実として一時は泥や苦渋や泥より穢いものを嫌と言う程飲む破目になっていた身だ。
「よっ」
「
この美しい黒髪の少年、
王宮の外でユカハを待っていた
「姫さん。浮かねぇ顔だが」
「やっぱり、反応が薄くてねえ……」
「逆さ。姫さんが早いんだ。先陣をきって走ってるンだから、そりゃ、他の奴は遅く見えるさ。何、他の連中が遅い事に関する問題は俺も手伝うよ。考えが早く聡く志もありゃ武術も頑張ってる、ついでに可愛らしい。そんなトップの貴族である姫さんに仕えられるって報酬に比べりゃ、些細な仕事さ」
(もう、本当にこの子は!?
そして流れる様にユカハを気遣い、労い、励ます。郭育ちのせいか天性の女誑しか女を気遣う手練手管に長けている上に美少年なもんだから、ユカハとしてはこの少年にときめいてしまうのは仕方の無いところだ。
容姿を誉められて嬉しくない女はそれが余程無理筋のお世辞でなければ滅多に居ないが、名無の場合それをあえてついでに回す事で才覚を、志や鍛練に触れる事でその力量を培う努力と心根を誉め、細やかな評価で癒してくるのだから堪らない。
歩きながら雑談の体を装い、そして人通りの内方向へ移動する事である程度の機密性を維持しながら名無は報告を続けた。
「で、その些細な仕事だが、フェリアーラの姐さんからの手紙通り、真竜の勇者を否定する類の情報工作はどうも吟遊詩人、それも連合帝国からの筋の仕掛けらしいな。俺もちっと調べてみたが、吟遊詩人だけじゃねえな、こりゃ。冒険者や傭兵、裏社会の筋にも、連合帝国関係から相当手が入ってやがる。吟遊詩人に関する虚偽情報の供給、冒険者に関する幾つかの異常な確率での偶然の発生による不自然な栄達や衰退、裏社会の統制が妙に進んだり傭兵の扱いが変更されそれが中央に伝わってないっぽい事、バラバラで統一されてないし、表だって堂々と行われている訳じゃないが……ナアロ王国だけじゃないぜ、新天地玩想郷の手が入ってんのは。最も、探ってみた感じ、連合帝国は全部が全部支配下って感じとは違うな。何しろ国がでかいから、多分連中は国家を支配してるんじゃなくて国家内における幾つかの権力者の座に就いて国に影響力を行使してる段階だと思うぜ」
それも、心の底から本音で、だ。ちっと調べて見たってレベルじゃない事をずらずら言う辺り、仕えるに値する主だと思って全力を発揮している事は、紛れもなく本音だと言えるだろう。
が。
「こっちも頑張ってる。だから無理すんなよ姫さん。ミレミの奴も俺が連合帝国に行くんなら代わりに諸部族領の調査をしてくるって頑張ってるからさ、安心しろって。ま、安全性を考えて程々で済ませる様にしてるけど……痛ててっ!? ちょ、何!?」
突然ユカハは、
「無茶してるのはどっちよ名無!? 隊長と副隊長が揃って何してんのよ!? そんだけ色々情報得てくるってどんだけ一人で深く調べて回ってんのよ!?
と、それに対しユカハは突っ込みをいれた。
「痛たた、いや姫さん、傭兵団を動かす前に事前に少数で下調べをすんのは昔っからやってたから!? それに、フェリアーラの姐さんだって単独調査してただろ!?」
「もー! うー、それはそうだけど……」
【
おー痛え、
「馬鹿は死ぬ。それが傭兵だ。馬鹿にならない為にゃあ、危険を冒してでも情報を探り、裏を取り、最新の戦術の裏を掻く方法を学び続けなけりゃならない……俺たちゃ皆、傭兵相手に最初から死ぬ気でやってたからなあ。死なせないようにいつも全力だったが、いつも死んでも殺すし、死んでも仲間を生かす気でいた」
そして。
「
やや感慨深げに、昔を思い、今を思うと。葛藤を合えて口にする事で乗りこなし、その上で。
「今となっちゃあ心配もされる身だ……有難え、暖かくて、たまんねえぜ。だから実際、気はつけてるよ。魔法装備も昔より整えられるようになったんだ、いざ、という時にはあくまで撤収を優先する為の装備も整えてる。だから安心してとまで言う程流石に油断しちゃいないが、機嫌直してくれよ、姫さん」
「……分かりました。実際、少々の無茶をしなければ、私一人が逸り迸ってもどうしようもない状況なのもそうですし、貴方も用心しているのは信頼しています。けど、ちゃんと報告しなさいよ」
そうでなければ生き残れなかった事もあるし、苦しい状況でも彼に正義と誇りを教えた母の教育もあろうか。本質的に名無は聡い。それ故にちゃんと用心はしているとなれば、納得し、心配しすぎたかと思うユカハだったが。
名無からすればユカハの手綱は、実際あくまで傭兵殺しの傭兵団だった自分達を、この世界の危機に立ち向かう存在とするのに、必要だと認識していた。傭兵以外の敵とも戦う事への求心力を、ユカハの高潔な精神と魅力が齎してくれる。傭兵以上に強い敵と戦う為の力を与えてくれるリアラと並んで、必要不可欠の両輪。
(実際、姫さんのバランス感覚は大したもんだよ)
名誉回復の為というのはフェリアーラだけではない。ユカハも、銃を使う傭兵団相手に父や母を失った後、さんざんに恥辱を味わい名誉を失った。
それにも関わらずユカハは、この若さで騎士団を引き継いで、常に騎士団の為、そして雇用した名無達傭兵団の為を思いそれと混珠世界を守る事を最優先としている。
本人は逸り迸ってと言っているが、どうして、そんな事は無いと名無は思う。ユアハの落ち着いた現実的な降るまいと弱音をはいても粘り強く続ける交渉力は、村井庄助、李依依、キーカ、ララ、オンジャルム、それ以外にも様々な各地の様々な人物との間にネットワークの構築を行うのに大きな助けとなっているのだから。
と、そうこうしている間に、喋り歩きながら町の郊外、ひとまず現状ここに来た騎士団員と傭兵団員が宿としている借り受けた家に着くと。
「団長、唯今戻りました。ミレミも一緒です」
「
出迎えたのは、話題のフェリアーラとミレミ。女性としては鍛えられた長身だが豊かな胸をした褐色の肌のフェリアーラと、色白で華奢でとても男とは見えない男の娘なミレミの取り合わせは実に複雑な印象だが、どうやら無事に帰ってきた様で、ほっと胸を撫で下ろす名無とユカハだった。
借家室内で、4人は話し合う。
「諸部族領の方は、そうなってたのか」
「うん。……例の豚さんはやっぱり信頼できると思う。豚さんの仲間達も、兎さんは実に気骨のある人だ。裏も、探ったけど問題ない」
過去の一件で〈豚鬼の転生者〉がいる事は把握していた騎士団と傭兵団。諸部族領における
調査の結果、〈豚鬼の転生者〉は玩想郷から『
幸いナアロ王国は今大きく動く様な状態ではなくあくまで散発的にテロを仕掛ける程度の状態であった為戦闘は無事に切り抜けられた事……諸々の情報からそういう状態である事を理解した上で危険性の定価を見切り単独調査を行った事。
そして新天地玩想郷と戦う者同士手を取り合う事ができるのではないかと、連絡をとるべく一度別れて戻ってきた事の経緯をミレミは語った。
「魔王か、錬術王の禁術の中にも似たようなのがあったか? 糞っ、
「だけど、協力者を更に確保出来たのは良い事よ。その、もう一人の勇者、ってのは、どんな人だった?」
「うーん。正に勇者、正に戦士、って感じの人だったね。歴代勇者でいえば、多分初代が近い様なストイックな感じ」
がやがやと語り合う名無、ユカハ、ミレミ、フェリアーラ。
「それにしても、転生者の味方とはな……まあ、リアラもそうだが、
「うん、ボクも驚いてる。……フェリアーラさんの方はどうだったの?」
唸るフェリアーラにミレミが水を向け、今度はフェリアーラの方に話題が写る。
「ミレミと比べれば少々漫然とした話で面映ゆいが……」
そう前置いて語りだしたフェリアーラの話は、確かにそうかもしれないが、逆に言えば様々な方向性の情報を含んでいた。
各地と連絡を取り合い集めた情報として、過去に『
ケリトナ・スピオコス連峰で装備の準備が進んでいる事。
そして何より重要な情報として、幾つかの
「ある者は、我々と戦った訳でもないのに壊滅していた。ある者は、連合帝国に帰順していた。……前者の消え方は、余りにも奇妙だ。転生者らしき者だけが、消されていた。生き残りの下っ端を問い詰めた所、〈親分は来客に消された。魔法よりも唐突で恐ろしい何かで消された〉と言っていた」
だがこれは、ミレミが目撃したような玩想郷と戦う転生者の存在とは、どうも違う様に思えた。なぜならば、その〈来客〉の目撃情報を手繰っていくと、情報収集等をそいつが行っていたが無く唐突に出没を繰り返しており、玩想郷と戦っていると言うには不自然で……
「恐らく、名無の調べてきた情報と併せて考えると……
そう、フェリアーラは結んで。
「ううー。リマトマ王との話はある程度の協力の範囲だし、後は騎士団の人員増についてと、情報収集を切欠に雇用したキーカちゃんが従士として、ララちゃんが厨房係で、凄い良く働いてくれる位しか……」
「いや、それも大事だと思うぜ? 勿論ミレミも姐さんも凄いのも本当だけど」
自分の差配はそれと比べて大した事が無いのではないか。と、また悩むユカハをフォローする
「勿論です」「うんうん。喩えるなら、全員が武器を作ってたら、誰が飯を炊くの、って話さ」
それには、フェリアーラもミレミも頷いた。そして……
「〈……こっちの動きの現状と収集した情報はそういう具合だ。〉か」
数日後、それらの事を書いた手紙をリアラは宿で受け取り、解読していた。用心のために事前に取り決めた暗号で一部は書かれており、その為、解読が必要だが。
「最近はフェリアーラの姐さんもすっかり元気で、ちょくちょく皆で稽古をつけて貰ってるんだが。いや、強いな
とか。
「ミレミと森に魔法に使う触媒を取りに行った。貰った護符の複製とかは順調だ。実際、勇者さんの戦闘能力も凄まじいが、リアラちゃんが皆に竜術で危険な欲能を防御できるようになる護符を配ってくれなけりゃ、犠牲者はもっともっと増えてたし、戦も危ないと思う。そういう意味、リアラちゃんの知恵は混珠の要なんだ。いつも胸を張っていて欲しい。……俺は
とか、細やかな日常と、その中での絆についても語っていて。
「大丈夫かなあ、名無。嬉しいやら心配やら……」
相変わらず
「ミレミの奴、結構騎士団の皆と馴染んでんだよな。あいつ、何しろ女に近いしさ。男に酷い目に合わされた奴も多い騎士団の皆だけど、姫さんも姉さんも、しかし他にもうちにも女子はいるってのに、一番女っぽいのがミレミなんだもんなあ、全く。あいつ、戦場でもおしゃれに気を使うから、姐さんなんかむしろ逆に化粧や服装なんか教えを請う位で。何時も楽しそうにしてるよ……良かったと思う。お陰で、他の団員の男女の仲も、前から悪くなかったが更に良くなった」
とか、きちんと絆が育まれている様子も伝えてきてるので、安堵して。
「姫さん達はそういう連絡とかの仕事で忙しいが、今んとこうちの傭兵団は……まあ本音を言やあもっと傭兵団をどしどし狩りたいた、辺境諸国の傭兵団はある程度減っちまったしな……騎士団に随行してるから。ある程度俺には余裕がある。時間ができたら、きっと手助けにいく。また一緒に戦わせてくれよな」
そしてまた、報告だけではなく、向こうからの気遣いもあり。
それに答える為に、リアラもまた、筆を執る。
「…いつもありがとう、名無。君がいて、とても助かっている。この混珠に二人ぼっちじゃないんだ、って。君達の傭兵団に、決して負けて欲しくないと祈っている人が遠くにいる事が、どうか君達の心に暖かな明かりとなるように……」
そう、リアラは返事を書く……
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