・断章第十話「A&A」

・断章第十話「A&Aアイテム・アンド・アーツ



 ここはお馴染みカイシャリアⅦ○さかいかずきのカートゥーンナレーションふうに


 ……ではなく、復興の槌音響くケリトナ・スピオコス連峰。混凝土コンクリート土瀝青アスファルトで覆われた企業城下町の面影は建て替え葺き替え改築等によって徐々に無くなりつつあった。その為に伐採された森に植えられた苗木はまだ細く頼り無く、そこは戻るに相当な時間がかかりそうではあったが。


 建て替えの余裕の関係上一部が再利用され、混珠風に改造された旧カイシャリアⅦの建物の見映えは少々シュールだったが、幸いナアロ王国の再侵攻も無く、自由守護騎士団と『魔法少女』マレフィカエクスマキナ『超人英雄』セミテオスエクスマキナの力を持ったままの何人かの元学生達を中心とする自警団の庇護の元、平和な日々を過ごしていた。


 復興とはいえ何もかもが変化し続けている状況にあるケリトナ・スピオコス連峰。景観以外の変化としては、主に二つがあった。



「えいっ!やぁっ!」

「せいっ!はぁっ!」


 一つは、町に木霊する鍛練の声である。


 今のケリトナ・スピオコス連峰では、かつてカイシャリア第七学園の校庭だった場所で、進駐する自由守護騎士団の部隊と自警団とで、盛んに鍛練が行われていた。


 校舎自体は原型を留めない程に改築され、いざという時の為の城となった為、校庭は丁度城の練兵場となったのだ。そこで行われるのはかつてのような只管体育会系上意下達根性論絶対主義服従思考を植え付け体力と耐える力を増す為だけの単調極まりない単純運動等ではない。


 自由守護騎士団は本来の主力である男性の騎士達を過去の戦いで失い、騎士達の子女が構成員となっている。かくある事に備え武芸を磨いてきたし、ここまで戦い抜く事で練度を上げてはいるが、これからの戦いには更なる鍛練が要るだろうという事に加え、数が減っている事から人員を増やさなければならないのだが、一門郎党から戦える者は既に加わっており、更に増やすには加わる事を了承してくれた従者達を叙勲して鍛え直すか、騎士同士の伝手から徴募するか、手段は他にも何通りかはあるが、何れにせよ騎士団に加わるには訓練を経ねばならぬ。


 そして『魔法少女』マレフィカエクスマキナ『超人英雄』セミテオスエクスマキナ達も、カイシャリアⅦの戦いを住民を守る側として戦い抜いた者はともかく、操られルルヤにノされた者の内で力を保つ事が出来た良い精神性を持つ者達は、ただ力をポンと与えられ、カイシャリアで行われていた〈新種魔物〉に関する詐欺商法としてカイシャリアが対抗手段を有する事を宣伝アピールする為適当に何回か出来レースで勝たせた後、悲劇が見たいという『惨劇グランギニョル欲能チート』エイダキシア・サカキルオンの欲望を満たす為に惨たらしく殺される生け贄の如き存在であった為、与えられた力を振り回すだけで根本的な武の蓄積がない。そして戦いを生き残った前者にしても、元から心得があった者以外状況は似たり寄ったりであり、元から心得があった者もその心得を更に鍛えていかねば故郷を守れないのは必然。


 故にこそ、鍛練の声は嫌が応にも響き渡る。



「《浄化》《清浄》済みの土地を今月中に第三地区まで進めましょう!」

「古紙売り場はこちら、硝子はこちら、金属はこちら……」


 もう一つの変化は、この町を訪れる人々の目的と物流の変化である。


 かつてのケリトナ・スピオコス連峰は、豊かな森の恵みを糧とする里であった。だが、カイシャリアⅦと化した段階で自然は相当手酷く破壊され、ナアロ王国式の生産システムが強制的に導入させられていた。戦後そのシステムは破棄された訳であり、自然環境の再生をまず目指した結果、最初に訪れたのは各地の狩山亜人ワイルドドワーフ森亜人エルフ、〈大陸の背骨〉山脈の各地に住まう民であった。


 元々、一つの山で災害があった時に隣の山同士で助け合う風習があった。その風習によりやってきた神官達が、環境の復旧にまず着手した。樹木を植え、ナアロ王国式産業で汚染された環境を魔法や植物学知識を駆使して清めていく。


 それは急速に自然環境を回復させて行くが、それでも流石に昨日の苗木を今日の大木にする事は出来ない。


 そこで住民が考えたのが、町の解体再構築と資材化であった。


 地球の企業城下町をそのまま移植した家と学校と工場は住民からすれば隷属の象徴であり、流石に全部を一度に解体して雨曝しで暮らすことは無理の為一部は改修して再利用しながらではあるが、基本的にはそこからの決別を目指す事になる。


 ブラック企業労働で稼いだ金を惜しげもなく投入して、地球の企業城下町を完全再現する事に拘った『経済キャピタル欲能チート』ショーゼ・ワターの所業の結果その過程で出るのは、混凝土コンクリート土瀝青アスファルトは兎も角、かなり大量の金属と硝子である。


 また、ブラック企業洗脳教育の為に作られた大量の教科書、会社を運営する為に大量に作られた書類等、今となっては見るだに腹立たしい代物ではあるが、硝子や金属や紙に罪は無い。溶かし直し、漉き直せば立派な資源である。地球で言う都市鉱山だ。幸い借金を理由に各地からかき集められた者が今や新しく連峰の住民となっており、外部との伝手もある。


「あの下衆野郎ショーゼ・ワターの事は、今でも死んでも許せないけど」


 都市から鉱山になり、元の生活を建て直すまでの間の資源として切り売りされるカイシャリアⅦの残骸。


あいつショーゼが来たっていう〈不在の月〉の環境をここまで完全に再現しようとした事については、何と言うか、一抹の感傷を感じないでもないよね。そんなに元の故郷が懐かしかったのか、って。……元の居場所でも下衆野郎だったとしても」


 旧校庭練兵場で鍛練に汗を流していた、ハウラの妹ミシーヤは、そんな風景をみてふとそう呟いた。そう、一つ目の変化である武術の隆盛と、二つ目の変化である人と物の流れの変化は、幾つかの理由において関係を持っていた為、旧校庭練兵場の近くにおいて、その両方を見る事が出来た。


 この地を案じて浄化に駆けつけた神官達もまた、いざとなればこの地の防衛やこの地の民の避難の為に戦う覚悟のある善人達であり、故に彼らも訓練に加わる為と。


 練兵場が校庭で学校が城という関係上、この地で会社建屋・社員寮と並んで最も大量の社畜教育用教科書とテスト等の紙資源と城への改築の為窓が減らされた事による硝子資源を収納する施設の一つである為、それらを運び出し商う者達もまた集う為であり。


 そして、もう一つ。ここには、あの日の戦いの結果、会社建屋・社員寮には無いものがある為でもあった。


「お、狩人の従姉妹ワイルドドワーフのお嬢ちゃん、今時間あるかい?」

「あ、少し休憩だから、その間でいいならっ」


 練兵を一休みして大葦〔地球で言う竹に近い植物〕の筒に入れた水を飲んでいたミシーヤに声をかけたのは、その〈会社建屋・社員寮にはないもの〉を扱う山亜人ドワーフの職人であった。かつては平等と総合的能力育成の社員教育の名の元適正一切無視で全く関係ない営業や事務に回され酷使され過労死や自殺する者も居たが、今は本来の生業で自分達のペースとセンスで働く事が出来ていた。と言っても、本来連峰は自然を保つと地であり大規模な鉱業は行えない。であるのになぜ狩り集められた彼らがここに居続けているのかというと。


「頼む。こいつを見てやって欲しいんだが」

「ああー、成る程……」


 その理由は、その場に山と積まれた、およそ通常では考えられない程の凄まじい数の魔法武器だ。剣、槍、槌、矛、斧、短剣……等々、様々な魔法が付与され、単純な切れ味や強度の強化に留まる数打ちの量産品から、複雑な魔法が付与され特殊な効果を持つ物や更に形状がそれを前提に工夫され独特の使用法を必要とする物等の《専誓刻名》が刻まれた逸品物まで、それが数百以上。


 ミシーヤが見せられたものはそのうちの一つ、中々珍しい、魔獣の生体素材を用いた槍だ。


 これこそが第三の理由。そう、かつてここで行われた戦いで『経済キャピタル欲能チート』ショーゼ・ワターがルルヤ・リアラとの戦いで弾幕の様に射出する攻撃手段として用いたその財を使って買い集めた大量の魔法武器である。回避されて地面に着弾した時やルルヤに弾き飛ばされた時に破損した物も多いが、何しろ魔法武器である。破損しなかった物も多くあり、そして、破損した物でも、修復可能な物もある。完全に破損した物でも、魔法武器に使われる素材は一級品、それを素材とすれば新たな魔法武器を作る事が出来る。故に、修繕とリサイクルが山亜人ドワーフの仕事となり、回収された物と併せ魔法武器がこの地の新たな産物となった。


 とはいえ山亜人ドワーフが得意とするのはあくまで金属素材、生体素材の扱いは狩山亜人ワイルドドワーフの領分。故にこの山亜人ドワーフ狩山亜人ワイルドドワーフであるミシーヤに声をかけたのだ。


「《石獣ダモケノバ》。魔獣《晶翼虎》の爪や牙とかを使った呪いの槍だ。傷を与えた相手に強力な麻痺と呪詛による能力封印、場合により石化を齎すけど、使い手の生命力を吸って使いすぎると魔族化する危険物だ。バラせばもっと単純だけど安全な魔法武器になるから、そっちにしたほうがいいね、これは」

「そうか、危ねえ危ねえ。一先ず掘り出した魔法武器には片っ端から《装備封印》の護符を貼り付けてから運んでるが、そうしておいてよかったぜ」


 そしてその期待にミシーヤは見事答えた。ほう、と感心した表情を浮かべた山亜人ドワーフの鍛冶師は、ミシーヤもまた応じたものだから、眼前の練兵場での訓練風景を眺めながら、会話を続ける事になった。


「ショーゼ・ワターの奴ぁ、どうせ呪いを他者に肩代わりさせるからって構わず使ってたんだな。全く酷い野郎だったぜ」

「もっと普通の、使いやすい武器はあるんだよね?」


 そう会話する二人の眼前では、基礎鍛練と型稽古を終えたミシーヤと交代で入った自警団員が、自由守護騎士団の一般団員の女騎士と手合わせに入っていた。


 少し寄り道して、そちらを描写すると……



 女騎士の方は刃引きした剣をやや低く手元を引き付けるようにしながらも切っ先を斜めに突き出し防御優先に構え、自警団員の獣人少年は短槍を投擲も突きも防ぎも可能な逆手に構えた。前者は騎士の武術である騎士道鞍上着鎧作法〔本来騎乗武術の流派であるが、下馬時の護身剣術も必然充実している〕、後者は狩闘の民の武術の一つである〈狩槍術・飛牙〉であった。


「そら、まだよっ!身体能力だけじゃ、貴方達が狩る亜獣と同じ!」

「は、はいっ!!」


 堅牢な女騎士の構えは、獣人少年の突きの軌道に割り込み反らすようにして防ぐ。攻撃が進む軌道に割り込むように刃を斬り入れて軌道を反らすのだ。一歩間違えばそのまま腕を斬られる。これを破るには絡みつく様な動きが要るのだが、突撃する獣を相手にする事も想定した〈狩槍術・飛牙〉の基本は相手の勢いを利用しつつ奇襲的に立ち回る斜めの動きなので、的確に見切られてしまえば中々難しい。一流の使い手となれば跳躍や極度の下段からの奇襲等も含めた妙技で突破もできようが、少年はまだその領域にはないようだ。


「ほい、ほい、ほいっ!構えに拘り過ぎても主導権を失うぞい!」

「あいたた!」


 一方逆に、高位神官らしき老人が別の騎士に稽古をつけている光景もあった。杖を長く構え、くるくると回すようにして左右に螺旋状に動いて。神殿護杖術は護りと相手の護りを破り隙を突く事に長ける。


「てぇええいっ!!」

「うわ!……ちょ、杖を壊すまでやられると、この後《浄化》《清浄》使う時に困るんですけど!?」

「んな事言われてもな!実戦じゃんなこた言ってらんないぜ!」


 そんな神殿護杖術との相手に、狩山亜人ワイルドドワーフの戦士が体ごと前転する様に斧でぶつかる狩山亜人ワイルドドワーフ山亜人ドワーフに共通の振り回しと体捌きに長けた武術・転法で戦った結果杖を壊してしまって大騒ぎしたりしている。


 同じ狩山亜人ワイルドドワーフであるミシーヤから言わせると、転法にも弱点はあるわけだが、ともあれ、二人の会話はそれを見ながら続いた。



「ああ、勿論だとも。氷属性の名品《冬狼星剣リオセイス》とか、対武器優位の《祖鉄タイヒット》だの、灼熱変形の《溶鉱炉テジンツ》だの、打撃力を精神衝撃に変換する機能を気絶攻撃や魔法防御に使える《心金切ネフアノンタ》だの、よくもまあこれだけ溜め込んだなってなもんだ。まあ、お陰さんで自由守護騎士団とそのお雇い傭兵団とやらに武器を卸して尚余る訳だが。さっきの訓練見てたが、お嬢ちゃんは斧が得物だったな。別の狩山亜人に鑑定と調整を手伝って貰った他の生体素材魔法武器で斧型の《刈牙バンニヤ》ってのがあった筈だ。使ってみるか?」

「ううん、いいよ」

「だが〈巨鬼トロルに《古槌ダモイルーコ》〉とも言うぜ?」


 魔法武器の取得を断ったミシーヤに地球で言う〈鬼に金棒〉に相当する諺を言う山亜人の鍛冶師に、ミシーヤは重ねて首を振って答えた。


「武器は、戦士に強くなってほしいと言う作り手の祈り。それは分かってるけど、今の私はまだまだ『魔法少女』マレフィカエクスマキナも使いこなしている最中だからね。それより前の段階の子もいるし。分不相応に抱え込んでそれを力だと傲ってもダメだ、ってのは、それこそショーゼ・ワターの末路を見れば分かるし」


 事実、女騎士と獣人少年の戦いは女騎士が優勢だが、本来『超人英雄』セミテオスエクスマキナを装備できる筈の少年はそれを装備しようとはしない。彼はまだ『超人英雄』セミテオスエクスマキナを使うより、あくまで今は基礎を鍛え込むべき時だと判断された為だ。


 一方それとは別に『魔法少女』マレフィカエクスマキナとして一心に剣を振り、固有魔法発動後の隙の解消の手がかりを掴まんとしている少女もいる。彼女はミシーヤと同じく、装備をより使いこなす為の鍛練を行う段階だ。


「違いねえや。何より、使うんならしっかり熟練して使いこなしてもらわにゃ、武器が泣くぜ」


 髭を撫しながら、山亜人ドワーフの鍛冶師は頷いた。そして、嘆息した。


「返す返すも、そういう意味であの六振が失われたのぁ惜しいぜ。〈天地六振〉の内四つの最後の使い手があれじゃあ、製作者が可愛そうだぜ」

「ショーゼ・ワターが三面六臂になって同時に使ってたあれら?何かこう、謂れがあるの?」


 問われて、山亜人ドワーフの鍛冶師は語って聞かせた。



 数百年前の魔法武器職人の二人、鋼の精霊に愛された〈長い山亜人のっぽのドワーフ〉の鍛冶師と、理を考える知恵に長けた〈短い森亜人ちいさなエルフ〉の魔法使い。


 二人が出会ったのは、〈不在の月ちきゅう〉から来たという男。世界を良くする為に学問をするのだという、勇者ではないが熱意ある〈転生者の学者〉。彼は語った。地水火風を、数秘術カバラを、錬金術〔錬術の事か?〕を、哲学を、神学を、魔女の薬草学や黒魔術すら、そしてカガク〔詳細不明の単語〕を学んだが、ここにはその全てがある、私はそのどれもが中途半端で、何事も成せなかったが、ここでなら誰かを救えるかもしれない、本当の意味で知識を力にできるかもしれないと。事実、男の示した硝石や塩で氷の力を増す方法や様々の不思議な細工や新素材は、二人組を驚かせた。


 冷却装置の話とその言葉から、二人組は研究途中の魔法武器を見せ。話す内に意気投合し、共同研究が始まった。その時代は二代目魔王と三代目の魔王の間だったが、〈轟魔〉スフ・ヤジャスガン、〈狂神〉タルー・ケンジッキン、少し後になるが〈王殺しの〉レト・シュペーム等、魔王に次ぐ程の魔族が何人か出現した時代であった。


 〈長い山亜人のっぽのドワーフ〉と〈短い森亜人ちいさなエルフ〉がまず行ったのが、〈転生者の学者〉に魔法武器の製造工程を説明する事だった。


 初めに〈短い森亜人ちいさなエルフ〉が知識から使用する魔法を考え必要であれば護符にして渡し、〈長い山亜人のっぽのドワーフ〉が錬術れんじゅつを操る地神タダイトス法術と付与する魔法を自分が会得していないものであれば〈短い森亜人ちいさなエルフ〉から借り受ける形で組み合わせ、それを用いて一つの固有の望む法則を構築する。それが独自の魔法を生み出す《専誓詠吟》だ。


 次に〈長い山亜人のっぽのドワーフ〉が錬術と法術を用いて《生ける金属》、即ちその魔法装備を司る専門の小さく《使魔》に近い擬似的な《精霊》を精練。その意識に先程の《専誓詠吟》を《語り聞かせ》、《精霊》が習得するまで繰り返す。それが《専誓刻名》だ。


 最後に〈長い山亜人のっぽのドワーフ〉が〈魔法使い〉になった《生ける金属》を剣として成形して魔法武器が完成する。


 これを見た〈転生者の学者〉は、自身の知る使えそうな知識を披露。


 〈不在の月ちきゅう〉の知識を基にした発想による具体的な魔法効果や応用性、それに見合った剣の形状など提案する。


 そうして数回の話し合いを経て、付与する属性を《風》《雷》《重》《炎》《水》《熱》の六つとし、それぞれの効果を十全に発揮できる形状の刀剣を作成した。


 それがショーゼ・ワターが用いた六振りの魔法武器の内《貪欲髑髏ディシャ・ネシャヤ》《乱伐者バリガニヤグ》を除く四振り、《灼光の切先ユースル・ソレイベン》《重打の鉈ジェギロダ》《万能なる水ナルヌヴァスア》《雷電徹剣ラトイディフィス》と、それに加えて現在自由守護騎士団の団長ユカハが帯びる《風の如しルフシ・バリカー》と女騎士フェリア―ラが魔竜ラハルム退治に用いた《硬き炎カドラトルス》の六振りだ。



 《風の如しルフシ・バリカー》には風を操る複数の霊術が組み合わされ、竜巻の形状より亜獣の〈旋角蝸牛〉や〈回尾蛇〉の穴開けを連想した混珠の二人に対し、〈転生者の学者〉が〈不在の月〉の様々な絡繰の知識を加え、縦回転、横回転、収束と解放の力を与え、汎用性の高い武器として完成した。



 《雷電徹剣ラトイディフィス》には雷の霊術と、〈不在の月〉における〈転生者の学者〉が住んでいた地方から遥か東方の〈じゃまはだる〉という武器、電熱や照明としても応用可能という発想が組み合わされた。



 《重打の鉈ジェギロダ》は伝説上の【真竜の息吹】に居ても特に希少とされた力の再現を目指し研究した結果、重量増加と想定し、斧や鎚では柄が折れるという結果から鉈として構築した。作成後に重量軽減という方向性もある事に気づき、((遅いよ!))となったが、それはそれ、として一先ず完成とした。



 《万能なる水ナルヌヴァスア》は、水の霊術と、〈転生者の学者〉が学んでんた水流に関する学問、そしてそれに加え〈長い山亜人のっぽのドワーフ〉と〈短い森亜人ちいさなエルフ〉が混珠の魔物《動粘水スライム》を研究した結果を組み合わせ、更にこの混珠世界そのものを覆う水についての研究結果を合わせた結果、《風の如しルフシ・バリカー》と並ぶ汎用性の高さを持つ極めて完成度の高い魔法武器となった。



 《硬き炎カドラトルス》は最初に作成していた〈発火剣〉を〈転生者の学者〉が改造したもの。刀身加熱による攻撃力増加より、燃え盛る炎自体に着目し、広がる炎による目くらまし、放射熱による表皮や眼球部の燃焼、衣服への着火や装甲の加熱による継続ダメージを目指し、〈不在の月〉で〈炎〉を意味する名を持つ、揺らめく炎の形状を形どった波打つ刀身の剣〈ふらんべるじゅ〉の要素を加算。想定以上の攻撃力を得て、しかしあまりに強力すぎるのではないかと〈長い山亜人のっぽのドワーフ〉と〈短い森亜人ちいさなエルフ〉は不安を感じたが、後遺症は回復魔法での治療で何とかなるが戦場においては魔竜ラハルム巨鬼トロル等の極度に自己再生能力の強い魔物の魔法力を消耗させる事が出来る為に、許容できるしそれらを倒す為には必要と判断され、使用者にある程度の条件を課す機能が追加された。この一件に、〈転生者の学者〉は深く感じ入ったと言われている。


 ここから派生して、加熱について特化した魔法武器が別途提案された。



 《灼光の切先ユースル・ソレイベン》は、最も難易度の高い発明。先の硝石や塩を用いた冷却の理論と、《硬き炎カドラトルス》から得た加熱特化武器という発想、そこから〈熱を移動する〉理論による魔法武器の構築を目指すも、混珠世界からすれば極めて奇異な発想であった為に相互の認識に齟齬が発生、発明は難航し、刀身が融解する、温度差で罅割れる、熱伝導に問題が起きて予定した温度にならない等、様々な試行錯誤の上熱に関しては〈熱線を放射する〉事に特化するという形で最終的に完成するも、光剣は携帯性と損耗の無さを両立できる良い案であるが、鍛冶師の技として適正なのかという不満を残す発明となった。



 こうして作られた六本の魔法剣は、制作時の雑談と考察から《天地六振》という総称を付けられた。


 異界の神の故事より《風》《雷》を対として〈天〉を表し、〈天〉に対する〈地〉として《重》を配置する。


 火を重ねた《炎》を大いなる《水》の対とし、これを〈具現〉の表れとした上で、対になる〈抽象〉を《熱》の両極端として表す。


 《風》《雷》《重》の〈天地〉に対し、《炎》《水》《熱》は〈天地〉の〈間〉で起こる現象という形で対と見なす。


 〈転生者の学者〉は((いや、厳密に言えばこの括りはどうだろうか))と少し悩んだと言うが、〈天地六振〉は後に様々な使い手に使用され、その功績の一助となった。時を別としてその大半振が屠竜を成した事からも、その優秀さが伺える。


 これら以外にも三人が発案した魔法武器の図案が幾つか残されている。全てを砕く二股剣《震える音色ファイサー》、【真竜の骨幹】に匹敵する強度を実現した大剣《死地ペレグリト》、魔法の弦で矢を放つ双刃刀《刃守弓モルタリントス》。しかし、それらは実物も、実際に製作されたという記録も未だ発見されていない。それ故にこそ、《天地六振》は貴重な魔法武器だったのだが。


「悲しい物語ね。その三人の願いは、これまでずっと叶えられてたのに」

「全くじゃ」


 魔竜を倒し人を守る為に使われていた武器が、欲の為に振るう悪党の手に渡り、戦いの結果悪党諸共失われた。せめて二振が自由守護騎士団に残った事を喜ぶべきだろうが、その事実に、生体素材と金属素材、封じる者と管理する者と方向性は違うとはいえ、魔法装備とその作り手への感情移入はある。故に、二人揃って嘆息し。


「それでも、残り二振りは、あの自由守護騎士団が持ってるらしいから」

「うむ。ワシ等は残ったものを受け継ぎ、新たなるものを作り出し、今を生きる者としてこの先を頑張るのみよ」


 二人は改めて、そう誓い。そして、ミシーヤは同じ転生者の事を思った。


「それにしても……転生者、か」

「うむ。……真竜シュムシュの勇者の弟子、お嬢ちゃんの友達じゃったか。彼女も、そうなんじゃったか?」

「……うん。家族同然の、大事な人」


 様々な擦れ違い、葛藤、傷つけてしまった事もあったが、それを乗り越え、そしてリアラも許してくれた。だから、思いを込めて今のミシーヤはそう言いたいと思う。


「転生者。〈不在の月〉から来る者。三代目勇者や天地六振の伝説に語られる奴や真竜の勇者の弟子みたいな奴もいれば、ショーゼ・ワターみたいな奴等もいる」


 腕を組んで、山亜人の鍛冶師は唸った。


「転生者とは一体何なんだろうな。何故、〈不在の月〉からやって来るんだ?何故、不思議な力を持っておる者とそうでない者が居るんだ?何故、良い転生者と悪い転生者が居るんだ?」


 隣に座るミシーヤは、空を見上げて暫く考えた後、こう答えた。


「私にもわからない。けど、きっと私達と、そう変わらないんじゃないかな。私達だって強い人もいれば弱い人もいて、悪い人もいれば良い人もいる」

「……それは、そうだろうな」


 何故来るのか。何故力を持つ者がいるのか。それはわからないが。同じなのではないか、という部分には、山亜人ドワーフの鍛冶師も納得して頷いた。


「さてと。そろそろ、一休みは終わりかな」


 そして、ミシーヤは立ち上がった。狩山亜人ワイルドドワーフとしては長い手足を、軽く屈伸させて準備運動をする。


「うむ。こいつは、お嬢ちゃんの言う通り呪詛対策の末リサイクルじゃ。お嬢ちゃんの仲間達と同じワイルドドワーフに頼むとしよう。わしも他の奴の作業にかかるとするぞ」


 山亜人の鍛冶師も、封印状態の《石獣ダモケノバ》を掴んで立ち上がった。


「うん、頑張ろうね。今度こそ此処を守り抜けるように……そして、何時か、リアラ達に恩を返せるように」


 それと共に、そう言ってミシーヤ・キカームは練兵場へと再び歩きだした。


 山亜人の鍛冶師の問い、そして、ミシーヤの思い。その答え、その思いが結実する日。それはまた、別の話にて語られるいずれふくせんとしてきのうする事になるだろう。

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