・第六十七話「かたりきれない物語(1)」
・第六十七話「かたりきれない物語(1)」
竜の力を得た戦士達の飛翔とナアロ王国海軍の展開等により戦火は大陸全土に広がらんとしていた。作戦と策略が激突し、秘められた真実を明らかにするものが現れ、戦いはより激しくなり、幾つもの運命に決着がつこうとしていた。
それらが同時多発的に進行する。それは既に一大戦争であった。とうとうというべきか遂にと言うべきか。最早物語ははてしないというか、かたりきれないほど激しく複雑になりつつあった。
各地の、戦場にて。
大陸の空を竜達が飛び躍る。戦車を覆し、強化装甲服を着た兵を斬り、
連合帝国を乗っ取った〈帝国派〉の宣言に従わなかった各国に対し、ナアロ王国は艦隊を派遣した。足りない部分は魔法で補っているとはいえ、魔法科学で作られた現代的な軍艦達だ。火薬禁輸についても、その効果でナアロ以外の各地の賊等が銃を濫用する事態は避けられたが、ナアロ王国においては最先端の火薬の生産と魔法と組み合わせた銃砲の開発生産が行われてしまっていた。故に海上での阻止は流石に不可能であり、諸島海海軍・海賊連合軍は直接交戦を避けゲリラ的に振る舞うしか無く、ナアロ軍は海上から各地に展開したが。
「ここに上陸はさせないよ! このビキニアーマーが怖くないならかかって来な!」
それを、
これは、この段階で残っている
「なっばっ、〈
となれば天敵そっくりの相手の出現に士気の混乱は最早避けられなかった。
「落ちつけ、あれは〈
「はは、この薄着を剥がそうなんて助平じゃないか。だがまあ、確かにそうだけどね、魅力じゃ負ける心算は無いよ、心意気でも、戦う覚悟でも!」
ナアロ海軍を仕切る『
この場に現れた竜の力を与えられた者達、ルアエザら舞闘歌娼撃団の面々は、艶めいた装束の着こなしが特に堂に入っている上に戦闘能力も高い。海軍提督直率の戦場に出撃しても、一歩も引かぬ戦いぶりを見せる事が出来ていた。
「あ、貴方は! すまない、私が間違っていた……? ってその格好は一体!?」
「助けに来ました! か、格好の事は言わないでっ!?」
辺境諸国の救援に訪れたのはユカハ。彼女も騎士であり魔法剣も装備しているだけに元々の戦闘力に長けた強力な戦力なのだが、普段ボディラインは出ているとはいえ露出度の低い鎧を着用しているだけあって、少し恥ずかしそうだった。
一応【
「っ、いきますっ!」
しかしこれは戦争だ、恥ずかしがっている暇は無い。ユカハは風を操り戦闘開始。空中戦も馬上の戦法を応用する事で彼女は対応可能だ。戦略爆撃部隊はルルヤが撃破したが、ナアロ海軍空母から発艦する航空
そう、これは戦争だ。無論華やかなだけではない。
「はぁ、はぁ、クソ、痛いっ……」
「大丈夫!? キーカちゃん、大丈夫!?」
「お陰様で幸い死にそうにゃないけど、痛ったああああああっ……これ、耐えて、戦ってんの!? 皆!?」
リアラとルルヤに似た顔をした少女二人、ララ・ルルリラとキーカ。彼女達二人はリアラとルルヤの影武者として、甚大な混乱を敵側にもたらす事が出来た。だが同時に、その戦闘能力は空を飛ぶ竜達の中で最も低い。戦う力はあくまで竜術によるものだけで、白兵戦能力は自由守護騎士団や舞闘歌娼撃団の面々とは比べ物にならない。
それでも彼女達もまた戦う事を選んだ。
「っとに、凄い奴等だよね……アタシたちの英雄はさ……」
「キーカちゃんも、凄いよ……!」
魔法薬を飲んで気力を保ちながら、ナアロ軍後方の補給基地を【息吹】による射撃で急襲し離脱。それを何度か行った。与えた損害は微々たるものでも、最もリアラとルルヤに似ているが故に、起こした混乱による相手被害は最大。
しかし戦果自体は似ているからこそによるものであっても、その勇気は紛れもなく本物だ。咄嗟の応戦の一発が奇襲の利を覆す純然たる偶然の不幸で突撃したキーカの体を貫いたものの、彼女に比べ穏やかなララが苦痛に呻くキーカを支え、戦場を離脱していた。もう十分撹乱した、後は無事離脱すればそれで十分……
DOWAO!
「戦いにおいて弱いところを削ぎ落とすのは基本中の基本!」
「きゃあっ!?」
しかし
「ギラギラと貪欲に生き他者を蹂躙し進化せぬ弱者に生きる資格は無い……!」
指令を受けて追跡してきたのは何と言う事か、非
GYARIIIINN!
「よく頑張ったな!」
「っ、フェリアーラ様っ!」
その斧を炎を纏った大剣が受け止める。屠竜騎士フェリアーラ・スィテス・タムシュロス。倒した魔竜の力を得ている彼女も、それに加えて更に真竜の力をも授かっていた。艶やかにしてしなやかな褐色の長身を彩る竜の意匠のひときわ強いビキニアーマー。リアラとルルヤを除く〈
「弱者を庇うか……!」
「弱者ではない、立派な仲間だ! 補い合い庇い合い活かし合い得意分野で貢献し会う……! その良き営みを、王が王の責務を、民が民の責務を、神官が神官の責務を果たし助け合う世界を守るのが騎士の責務! その固い連携、貴様の力だけの強さで打ち崩せるかどうか、させはせんぞ! いや、貴様はここで私が倒す!」
殆ど民間人に近い彼女達に危険をさせた忸怩はあるが、彼女達自身が提案し志願してきた作戦だ。民が本分以上を尽くした。であるならば、己も本分以上、限界以上を尽くすのみとフェリアーラは決意する。
素朴な善意と義侠と勇気で、危険な役目を引き受けた娘達の為にも。
背負いきれないものを背負い、取りこぼしたものを嘆きながらも、それでも立ち続ける者の為にも、それに立ち続ける勇気を与える気高き者の為にも。
そして……
「助けに、来てくれた」
きゅ、とミレミはその薄い男の娘の胸の前で手を握った。先んじて諸部族領で戦っていたミレミの所に、
竜の翼で、ミレミにもまた翼を担う機会を与える為に。
今のミレミは、普段のスカートのついた藍色の
「嬉しいなあ。また……いつも、
色々な苦労よりも悲しみよりも苦痛よりも、
戦いの最中にこんな事を思うなんて、我ながらどうかと思うけど……
(大丈夫、油断はしてないよ)
【
(ボクもいくよ、ユカハ、フェリアーラ。……ボク達で、皆で、
フェリアーラに、ユカハに、ミレミは言った。ボク達の思いで恩を返そうと。
彼女達には彼女達の物語がある。それは今はまだ語りきれぬ物語ではあるが、いずれ、その一端については改めて語られる事もあるだろう。
そして敵軍、ナアロ王国の只中にも、また戦闘と物語があった。
「何たる様だ愚か者共! 偽物はもう撃退した! とっとと前線に……」
後方の基地と後続部隊を攻撃され、ナアロ王国空軍を率いる〈軍鬼〉は激昂していた。己と直率部隊がその場にいれば捕捉殲滅していたものをという歯噛みと、何より味方の後方部隊の余りの愚劣ぶりにだ。傭兵や山賊を徴兵したナアロ一般軍は、偽物の
ZDOOOONN!
「何!?」
しかし、更に後方で爆発が相次いだ。取って返して状況を見下ろし、〈軍鬼〉は幼女の顔に似合わぬ切れ長さの大きく黒い瞳がやたら邪悪な目を剥いた。
「だ、第二次攻撃です、隊長ぉ!? て、敵はまだあちこちにいます、あちこちに! 攻撃の探知が出来ません! 敵は、敵は未知の新兵器を……」
BLAM!
「愚か者! 唯の時限式仕掛け爆弾だ! 敵は魔法を使わずに潜入して、音と光でこっちを眩ませているだけだ! 魔法センサーと赤外線センサーと集音マイクをカット! 貴様らの目で探せ!」
「り、了解!」
(装備に頼りきり、先入観に支配され、狼狽する!
動揺する兵を一人射殺して喝を入れ、駆り立てる〈軍鬼〉。全く何と言う様だ、折角の、そして漸くの勝利の美酒が、と。己の直属部隊は辛うじて鍛え上げる事は出来たが、そもそも徴兵が上手く行かずゴロツキや山賊や傭兵や
(こんな盗人達と共に戦わねばならんとは、何と情けない事よ)
……地球の、日本共和国防衛軍の、中華ソビエト共和国軍の攻撃に対して反撃許可の降りぬまま壊滅した戦闘を思う。手足を縛られたような様だったが、部下達は紛れもない精鋭だった。自分の様に世を呪い、勝ち戦を味わえるなら悪鬼に成り果ててもいいと、敵たる侵略者を羨んだ屑とは違う良い奴等だった。今更あいつらを懐かしむ等。決別したと言うのに、あいつらを……
「そこだ!」
BLAM!
「うぉおっ!?」
物思いから一瞬で僅かな違和感を見抜き魔法銃を発砲。潜んでいた迷彩服姿の男女の至近距離に着弾。転げ出して、咄嗟に身構える男。迷彩服も、その動きも、そして何より咄嗟に武器を構える様子も、見覚えがあった。
「貴様、村井二曹か!?」
「八重垣一尉!?」
〈軍鬼〉は目を剥いた。地球の元共和国防衛隊員らしい魔族が、『
「そんなロリロリになって!?」
「ロリロリはどうでもいいわ!」BLAM!
一瞬思わず村井は緊張感の無い言葉を溢すが、それに〈軍鬼〉は縦断で答えた。流石に一瞬で村井の顔が引き締まる。
「奇妙な因果だな、村井二曹。成る程、魔法文明の抵抗を警戒し防御を固めたところを、魔族に生まれ変わっているのに魔法を一切使わないで身体能力と技量のみによる侵入破壊工作で掻い潜るとは、流石だ。だが、お前を、それもそんな奴を仲間にしているお前を殺す事になるとは……」
「一尉……偶然と諸事情の結果の腐れ縁です。恨みを捨てた等と言う綺麗事ではありません。ですが、一尉は、何て有り様ですか!」
「言うな!」
「させないよ!」
VAOOO!
「ぬうっ!」「今のうち!」「ああ! 一尉、おさらばです! ですが……!」
そこに更に割り込む突風。一瞬爆煙が二人の間を遮る。その間に転がるように去る李依依、一瞥して去る村井。告げたい事が、言葉にならず、悔し気に。
「……私も、老いぼれたか……?」
前世からの主観的な年月故に、幼女の姿としてはあまりにミスマッチな台詞を吐く〈軍鬼〉。その視界の先には、追撃を躊躇う理由があった。
戦場と戦場の間、描写の隙間に紛れるようにこれまで注目されていなかったどころか存在を意識されていなかった者達も動き出す。
「おお! おおおお!」
それを見て叫ぶのは、海を離れ泳ぐ為の鰭を翼として展開し飛翔する水の属性を持つ竜と、その背に必死の表情でしがみつく面々だ。
「あああ、あっちにもドラゴンか!? あれは敵か!? 味方か!? このまま飛んでて大丈夫か!?」
背中の男達は、ドラゴン、という、地球風の言い方をした。コック風の姿をした男が驚愕して叫ぶ。
「馬鹿者! あの姿と俺とを同じものと見る奴がいるか!」
水の竜即ち海嵐
「はは、
「じゃあ大丈夫なのか!?」
哄笑する竜に、もう一人、粗末な身なりのほほに奇妙な金属部品をつけた男が
「いやそれは分からんな。回りにいる人形共は兎も角、真正面にいるあの偽の
「「ちょおおおお!?」」
更に後ろの背中にしがみつく残りの二人が、
「貴様等、〈
空中に飛び上がった〈軍鬼〉が、その様子を見て流石に驚きの声をあげた。
「メタ的な事を言うと倒されたとか戦いは終わったとか機器のバイタルサイン反応が途絶えたとかはあったんですが、殺した・殺されたって描写はギリギリ無かったんですよね!?」
そしてそれにそう返す『
ここまで秘されていたこの土壇場で露になるとんでもない真実。旅を邪魔した
「寝返っていたのか!?」
「寝返ったっていうか懲役刑というか懲罰部隊というか、この首輪向こうの言う通り贖罪しないと電気ビリビリとか爆発とかするんですよ!? 殺されたかと思ったら操られた奴とか侵食された奴とか【
「俺の場合は自分からだがな。食い逃げしかしてないから、首輪の刑罰も軽い」
「っ、ええい、三下共が!」
「俺をこの小物共に混ぜるな!俺は種族のあり方の通りに行き、その上で
四人の更に影になる所で暢気にこんな場所によくもまあ溢さず持ち込んだなという汁麺を啜っている犬種獣人、『
竜術をかける事等によって
そしてこれが、逆に〈そう出来なかった〉事がリアラを苦しめた理由であると同時に、操られていたからとて割り切れなかった理由でもあった。だが同時にそれは憎悪を制御した結果で、『
「待て、こら!」
「わはは、俺等に構っている場合か!?」
豪快に翼を振り加速する海嵐
戦況は、一変しつつあった。
そして報復と逆襲の決闘場にて。
「ぎゃああああああっ!?」
「ッ……!!」
事実上決着がついた筈のリアラの決闘場に、『
それは何によるものか。処刑場の心算であった決闘場を区切っていた『
「うあ、あ」
へたりこんでいた『
成る程、常識的に考えればそれは百年の恋も覚める醜態以外の何物でもなかった。〈良い女〉ではなく〈常識的な唯の女〉ならば、見捨てたくなってしまっても仕方の無い事だろう。それは〈良い男〉ではない〈常識的な唯の男〉であっても同じ事だろうが、いずれにせよ普通の男女などこんなもの。自分のほうが普通で普通だから正しいというゼレイルの主張が、ゼレイルを打ちのめす結果となった。
「いぎぎぎ、れ、レニュー、やめ……」
「はっ! ええ、もういいですよ、生意気な小僧の得意顔も! 役立たずの仲間も! 最大派閥の立場ももう要りません! 『
雷の檻が食い込み、感電し悶絶し、残った片目から涙を流しながらのゼレイルの哀願に、両手をキーボードを叩く様に動かし
「み、ミアスラ、あぎっ、助け……」
「『
死にかけの犬は女の名を呼んだ。醜悪な獣は女を誘惑した。
毒樹炎の剣が一回り巨大化した。『
「ミアスラァアアアアアアッ!?」
「ご安心を。苦痛は消えます。私を信じなさい」
キーボードを叩く動作を終えた『
「~~~~~~~っ……!!」
「さあ!」
『
「『
『
GEDOOOOONN……!!
爆音が、轟いた。
そして戦場の中心、連合帝国・諸部族領国境にて。
「【KISYAAAAGOWAAAAANN】!!」
「【GEOAAAAAFAAAAAAANN】!!」
ZDON! ZDOONN!
ビリビリと大気が震えた。地震めいて大地が震えた。それに何れも狩闘の民のトーテムたる獣である、獅虎の、豹狼の、猪羆の、鰐蜴の、蜥鷲の、犀象の鳴き声を巨大化させたような音が無数に重なる。
残骸と瓦礫と土砂をはね除けて、巨大な竜が立ち上がった。
煙を掻き分けてまず現れたのは、長い首に支えられた槍の穂先めいた細長い頭部だ。髑髏めいて硬く左右に角の生えた、ラトゥルハの肩鎧と鉢金を足したような銀色の頭部。発光する眼球。首は紫と暗青の不気味な松毬と鱗を混ぜたような縞模様で、銀色の棘が背鰭めいて連なって生えている。そして続いて現れたのは……長い首と頭! 更に現れたのも長い首と頭! 三首竜!
そして煙を払う、ラトゥルハの【
その周囲に付き従うのは、それぞれに違った角、牙、爪、鬣、鱗、翼、嘴を逆立たせ尖らせ、何れも唯の獣よるも強く猛々しく戦いに特化した、二足のもの、四足のもの、翼を広げるもの。しかしどこか生命感を持たず、虚ろあるいは非生物的に発光する目をした、所々を鋼で繋いだかつて神立った獣の骸、狩闘の神々の存在が地を消し去った後に残された骸を機械を組み込み操るナアロの兵器『
地球の
何れも狩闘の民の戦意を瓦解させるだけの存在ではない。通常の魔獣や亜獣とは存在の桁が違いすぎる。物理的に巨大頑健であるだけではなく魔法的にも密度が違いすぎる為、武器は愚か人間の使う魔法や攻城兵器でもダメージを与える事は出来ないし、城壁をもってしても阻止する事は出来ないだろう。
それに対峙するのもまた竜だ。それに対峙できるのは竜だ。それが、ルルヤだ。そしてルルヤの変じた姿でありながら、そこにはかつて変じそこねた剣の生えた巨大肺魚のような不気味な姿はどこにもない。
そこにいるのは、途方もなく力強い黒い竜だ。
厚みのある鏃を組み合わせた様な頭部、鋭い目真っ赤な瞳、大きく尖った装甲版めいた強靭な黒鱗を連ねた体表、引き締まった胴と逞しい手足。翼はルルヤの【翼鰭】と似ているが、尖った大きな鱗と似たような頑丈さを得て、背中の一際尖った鱗の繋がりである背鰭の左右を甲羅の様に覆い折り畳まれている。背鰭や肘等の黒い鱗の縁の末端、特に尖った部分には白く輝く
爪も牙も瞳と似て非なる鈍い赤で下顎から一際大きな牙が二本、口角から百合の花弁や猪の牙のように反り返った牙が更に二本づつ。頭部には青く輝く多数の角があり、肩と肘に角と同色の棘、腹と二の腕と太股、尾の下側は金色の細かい鱗に覆われている。見る者に恐れを抱かせる、堂々たる力強さを秘めた大いなる竜だ。
竜も獣も、何れも身長
これよりそれら巨神がぶつかり合う。世界は完全に神世の再来となった。
「おお……!」「おおお!!」
狩闘の民達はそのトーテムたる神々の骸が敵に回った精神崩壊級の衝撃から、そのあまりの凄まじさに立ち直った。ある者は祈り、ある者は猛った。荒ぶる精霊に善と正義を与えた如く、信奉する我らを襲う神々に正気を取り戻させたまえと。その戦いに我らも加わらんと。かつて
お前達を守ると。無言の内に告げる、城壁の如き鱗の甍を連ねた背。百聞は一見にしかず、その姿が人々に訴えていた。
諸部族領襲撃の衝撃を受けたのは彼らだけではない。ナアロ王国の軍勢もストップしていた。
「……ルルヤ……」
地を踏みしめ戦い続けていたガルンはその背を見て、複雑な思いを呟いた。
結ばれずとはいえ思いを抱いた女の背である。それが、全世界全てを背負い込む為に、あれほど大きくなってしまった。感慨を抱かずにはおれなかったが。
(悲しむ事は無い)
ルルヤは【
したくてやっている事だ。世界を背負って何が悪い。それができる己を育んでくれたこの世界の値打ちを、世界を背負える存在になって示す事は、苦しみではなく、寧ろ生きる苦しみを張らす誇りだと。
初めて変じた【
踏みしめる大地の感覚が、己を見る視線が、近い空が、炎に手を翳しているかの如く強く鋭敏に感じられる。世界とより深く接触し、噛み合っているように。
だが、不思議と違和感はない。爪の先から尻尾の先から角の先まで、違和感無く操れる。その手が剣を握り振るうにはあまり向いていない形になったにも関わらず、この体を最適に操れると夢のように前提を飛ばして理解している。どころか寧ろ己の武張った精神には、人間としての姿より、この黒く尖って戦闘的な姿の方が似合っているようにすら感じられた。
(私は、戦える! お前もそうだなラトゥルハ! その偽物共も纏めて相手になってやる……! 来い!)
「【GEOAAAAAFAAAAAAANN】!!」
「【KISYAAAAGOWAAAAANN】!!」
ルルヤは吼え、ラトゥルハも吼え返した。今や二人の意思は呼応しあっていた。
(ああ、行くぜ! 行くぜ! この闘争本能に、オレは従う!)
寧ろ人の身であった時より窮屈ではない。三つの頭も何もかも、この姿こそが己と感じると、吼え返しながらラトゥルハは認識した。
竜と竜とが睨みあう。そして、大地を揺るがし激突が始まった。
ルルヤとラトゥルハが、正に睨み合い激突せんとするその時、リアラは。
「な、お、お前……」
「言ったろ……命、一度は預けるって……」
幻像越しに、『
「貴様、どうやって生き延びて……!」
「これから教えてあげるよ。但し授業料は、お前の命だ……!」
その左腕は『
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