・第五十二話「糾弾対峙の転生者(4)」

・第五十二話「糾弾対峙の転生者リアラとゼレイル(4)」



 閃光、そして力の奔流。


 ギデドスが切り開いた通路を突っ切って飛翔したリアラは、【真竜シュムシュの息吹】を連写した。陽の属性のレーザーブレス。通常の欲能行使者チーター相手であれば十分な牽制や攻撃となり、手傷を与える事もあるいは上手くいけば殺す事も出来ただろう。


 だがその場にいる三人、即ち『悪嬢アボミネーション欲能チート』エノニール・マイエ・ビーボモイータ、『旗操フラグ欲能チート』ゼレイル・ファーコーン、『情報ネット欲能チート』レニュー・スッドは、何れも最上位の欲能行使者チーター十弄卿テンアドミニスター


 その戦闘形態である超の姿『取神行へーロース』は、本来あらゆる他者に勝利する超絶能力たる『邪流ジャンル』こそリアラ達が用いる【真竜シュムシュの鱗棘】に防御されてしまうものの、基礎戦闘能力の爆発的増大に加え変身妨害不能にして変身中は防御の決壊に包まれる。そのため攻撃に対し必然三者は『取神行へーロース』発動を選んだ。


 故に【真竜シュムシュの息吹】の閃光を弾き、三色の力の本流がその場に渦巻いた。


 『情報ネット』の糸目が見開かれ魔性の血の証たる蛇の瞳が露となると同時に、その体を、無数の光輝くルーン文字が覆い隠した。ルーンが【息吹】を弾き、邪悪な嘲笑めいた声音で詠唱が響き渡る。


「この手に取らん神の行い、我こそこの世の主人公!

人皆善悪を餓え欲し、瞳に耳に裁きを求む。

甘き善悪の菓子を食う、数多の民は数多く。

餌食う家畜を飼うは我ら、選ばれし語り手達なり。

必ず全てに瑕疵はあり、駆り立てる我ら可不可を定めん。

情報常時情と世を制す、此こそが我が現実リアルなり!」

取神行へーロース』、『万象嘲弄・炎上世界スポイラー・ロキ』!」


 極めて皮肉げな詠唱と共に告げられる名は、罵詈雑言と暴露とで神々を嘲笑い、世界を崩壊に導いた巨人にして神たる北欧のトリックスター。


 露になったその姿は、ロキ神の子らである八脚神馬スレイプニル世界蛇ヨルムンガント屍女神ヘル神喰狼フェンリルを混合したが如き異形、部分部分屍のように腐敗した、馬の脚と大蛇の尾と目を持つ巨大な人狼だ。


 同時にそれに似て非なる姿に変じたのが『旗操フラグ』だ。彼を【息吹】から守ったのは何処からともなく巻き上がる砂嵐だ。腰に天秤を象った古代エジプト風の宝飾品じみた飾り付きバックルを有するベルトが出現。その天秤を動かしながら身構えると同時にその姿は砂に呑まれ、恨みの唸りめいた詠唱と共に変貌する。


「この手に取らん神の行い、我こそこの世の主人公!

旗を我が為に掲げよ、秤を我が方へ傾けよ。

英雄は道を堅く固め、栄光に満ちて進んで行く。

煌々と輝く叡知で、攻略を延々と万全に。

手には華懐に金、敵には破滅不満は皆無。

攻略全て思うがまま、此こそが我が現実リアルなり!」

取神行へーロース』、『細工天秤・自在冥法アンフェア・オシリス』!」


 名乗るその名は古代エジプトの冥府神。露になったその姿はエジプト風の装飾と獅子・河馬・鰐を象った防具を装備し二降りのエジプト剣であるコピシュを帯びる黒い肌の人身狗頭、寧ろ得物を除けば霊獣アメミットを象った鎧を着けたアヌビス神に近い姿だが、所々肌に緑の線が走り包帯で覆われているのが、緑の肌を持ちミイラの姿をしたオシリス神を思わせる要素だ。


 その二柱に対し『悪嬢アボミネーション』の変身はやや違っていた。かつての『神仰クルセイド欲能チート』とはまた違うあり方だが、特殊取神行パラクセノスヘーロースだ。


「この手に取らん神の行い、我こそこの世の主人公!

世界の半分おんなたちは叫んでる、世界一番おひめさまになりたいと!

だけどお姫様ヒロインは一人だけ、だからその座を奪わなきゃ!

主役に成れないという呪詛が、新しい世界を作るのよ!

餓えて! 恨んで! 裏をかき! 奪う!

忌々しさで出来た今風、此こそが我が現実リアルなり!」

取神行へーロース』、『君臨群主・百獣女王プリンセス・キュベレー』!」


 詠唱で名乗るは古代アナトリアの獣と男を従える女神の名。【息吹】を弾くは蜂の大群。それが晴れた後の彼女の姿はかつての『惨劇グランギニョル欲能チート』の取神行へーロースの様に完全に人間を止めた姿ではなく、ギデドスに見せた腕を異形化させた姿ともまた違う。


 首回りに鬣めいた長い毛の襟が付いた毛皮のマントを羽織り、その下から宝石で出来た巨大でしなやかな昆虫のそれじみた羽根を生やしているが、体は人間のままという姿だ。


 その代わり周囲に彼女が従える『恋僕ファンメル』達と、意外な事に何故か『和風パトリオット欲能チート』が転移され一瞬で出現した。


「こうなったか。どうやら、選ばれたのは俺か?」

「……そういう事よ」


 『和風パトリオット』がわくわくした様子で叫び、『悪嬢キュベレー』が抑制した未練の表情で呟いた。その、『悪嬢キュベレー』の視線の先には。


「てめぇ返せ! それは俺んだぁっ!!」


 怒りの咆哮と共に獣めいて飛びかかる『旗操オシリス』。その相手であるリアラの背後には、倒れ庇われているギデドスとルマ。『悪嬢キュベレー』が奪われ憎しみ、『旗操オシリス』が返せと怒り狂う帝龍太子二人。


「手癖の悪い真似しやがって、人が変してる隙に!」

「僕達にだって手が出しにくいレベルで変身を守り固める為に、結果的に自分達で放り出しておいて! 悔しかったら僕達みたいに身を挺せ! それに……」


 十弄卿テンアドミニスター三人が変する一瞬の隙をついてリアラが確保したのだ。否、最初からそれを狙っての【息吹】による牽制射撃。


「人を、もの扱いするなっ!!」


 ぎらぎらとある種の銅と錫の割合で鋳られた青銅の様な薄い黄金色に輝いて切りつけるコピシュ二刀を矛の刃と石突を翻して防ぐリアラ。糾弾を叫ぶが、しかし反撃に転じる余裕は無い。


「うるせえ、賢しらぶった事を!」


 『旗操オシリス』が腕力で強引にリアラを弾き飛ばす。諸島海の内紛では『永遠エターナル欲能チート』に押されていた『旗操オシリス』だが、ルルヤより身体能力で劣りまた【真竜シュムシュの地脈】も使えぬリアラ相手、位階をその時より上げている事もあってか、『旗操オシリス』はリアラを突き飛ばし、更に蹴りを見舞う。それを受け、何とか耐えるリアラ。弾き飛ばされ後退するが、辛うじて意識を失ったルマの近くに踏みとどまる。しかし。


「行けっ、『恋僕ファンメル』!」」


 QPLLLLN! GQPN! GQPN! GQPN! GQPN!


 更に『悪嬢キュベレー』が叫んだ。その額に奇妙な音を立てる稲妻めいた閃光が走る。同時に『恋僕ファンメル』達がそれと似たような音を立てながら疾駆し、変貌した。蜂と獅子が合体したかのような奇妙な姿の怪物に。それは『悪嬢キュベレー』の特殊取神行パラクセノスヘーロース、自身が異形化しない分の力を分け与えた攻撃端末だ。


「ZGYUUU!」


 無個性な怪物と化した『恋僕ファンメル』達は素早く動き、次々と車掛かりめいて襲いかかってきた。爪や牙や毒針を生やした尾、それだけではなく体から獣化以前に装備していた武器を生やし、目が粒子砲となった様に魔法力をエネルギー奔流へと変えて発射する攻撃まで繰り出し、前後左右と多重に攻め立てる!


「くっ……【守れ】! 【祓え】!」


 それに対してリアラは、ビキニアーマーの胸の谷間から素早く護符を数枚引き出して対抗した。大きく柔らかな胸乳がふるんと揺れる……外套を羽織っている普段なら兎も角戦闘中のビキニアーマー一丁の姿となるとここ以外は左右に尖った肩鎧の中くらいしか物を入れる所が無く実際これより前のシーンでは護符等出すときは肩鎧の中から出していたのだが……ともあれ胸が揺れ終わるより込められた術が作用するのが早い程の速度で護符が作動!


「ZGYUU!?」


 宣誓詠吟【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】と【陽の息吹よ狙い撃つ鏃となれホーミング・フォトンブレス】が発動。『恋僕ファンメル』達の攻撃を防ぎ、逆に光線が凪ぎ払う。だが一撃で打ち落とせはしない、『悪嬢キュベレー』が有する力の総量から比べれば極一部だが、取神行へーロースの端末なのだ。


「ふむ、護符ですか、成程。【真竜シュムシュの地脈】を事実上封じられた事を補う為、これまでの間ちまちま毎日力を少しづつ貯めては護符を作っていたという訳ですね」


 その護符の作成経緯を『情報ロキ』は的確に見抜いていた。実際正に言った通り、リアラは毎日毎日寝る前にその日の残りの活力全てを注ぎ込んで護符の作成を進めてから眠る事を『反逆アンチヒーロー欲能チート』との初戦から日課としていた。


「ですが微々たるもの。そして、二人揃って此方に来るか仲間を見捨てられず別行動を取るか。別行動を取るとしたらどちらがどちらに対処するか。どう動くかと思っていましたが、想定していたパターンの一つといったところですね」


 【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】は盾程のサイズの物が周囲に数枚浮きリアラや背後に庇うルマ達を庇い続けているが、【地脈】の効果を受けて張り巡らす城塞じみた強靭広範囲な防御とは比べ物にならず、【陽の息吹よ狙い撃つ鏃となれホーミング・フォトンブレス】は一薙ぎ打ち払って終わりの単発攻撃。


 そして何より、リアラは一人だ。


「仲間を見捨てられない平凡な判断。もう一匹は同盟者達を助けに向かいましたか。残念ながら、あちらには『大人ビッグブラザー欲能チート』『正義ロウ欲能チート』が向かいました。お陰で足手纏い付きの三対一と二対一。後者も随伴戦力を考えればもっと此方に有利」


「いいや、こっちは四対一だ。『悪嬢アボミネーション』、力を寄越しな!」

「おっと、そうでしたね。何にせよ、上々の状況です」


 十二分に我が策の内とほくそ笑む『情報ロキ』。更に『和風パトリオット』が、いやもっとだと宣言し、『情報ロキ』が頷き、そして。


「ええ。あなたが最後に残った。貴方に、取神行へーロースの力を。『最終恋僕FIN・ファンメル』!」


 『悪嬢キュベレー』が『和風パトリオット』に力を授けた。己を危険から遠ざける為の他の『恋僕ファンメル』とは違う、攻撃のための切り札。操る下僕ではなく、自立して野心をもって戦う見込んだ存在、それも欲能行使者チーターに『恋僕ファンメル』の力、取神行へーロースの力の一部を与える事でその力に欲望を加えて補う疑似取神行へーロースの生成!


(剣に欲能チートを得ていたギデドスでも、良かったのだけど)

「はっはっはっはっはあ! これで俺も準十弄卿テンアドミニスター!」


 何とはなしに自覚せず未練げな事を戦闘中にも関わらずふと思う『悪嬢キュベレー』。己に力を与えた女のそんな様子を一切構わず力だけに高揚し『和風パトリオット』は咆哮。その全身をオカルトサイバーパンク風大鎧じみた外骨格が覆い尽くす!」


「その俺に比べりゃあ……大したこともねえ助太刀だな。歯向かった以上敵だな、手柄首だな、ええおい!」


 高揚した口調で牙を剥き吠える『和風パトリオット』。その視線の先にいるのは。


「はっ、借り物で調子にのりやがって……俺も人の事は言えないか? いいや、俺はこのチート野郎の力を自力で斬って奪って手に入れたぜ?ま、今立ててるのは貰い物の護符のお陰だが」


 負けじと笑う立ち上がった男。『最終恋僕FIN・ファンメル』を発動中も牽制めいて襲いかかっていた他の『恋僕ファンメル』が、体から生やした武器を切り飛ばされて一歩下がった。


「助太刀する。が、ルマはまだ目覚めん。助けたいというのだろうが、俺たちも民の命を預かる帝龍ロガーナンの血を引く身だ。帝国の民を守るにはお前が生存する事の方が優先のようだ、見捨ててもらっても構わん。助太刀はどっちにしろするが」

「助太刀は喜んで。けど……生き延びてください。生き延びさせます。そうしないと、『情報ネット欲能チート』、レニュー・スッドの手で、一緒に戦ってくれる皆が罪を擦り付けられ賊徒扱いされて狩りたてられる事になる」


 ギデドス・マテラ・シュム・アマトが、立ち上がった。リアラが護符を使った時に、取神行ヘーロースの『邪流ジャンル』に抗えるよう、ギデドスにも【真竜シュムシュの鱗棘】の護符を投げ渡していたのだ〔余談だがリンシアにはユカハ達が合流した段階で念の為同様に護符の予備を渡している〕。覚悟と剣を構える彼に、リアラは、生きてと励ますように告げて矛を構え並び立つ。


「なに、その心配は無用ですよ。何故って? ここで殺すからです。ええ、出来れば風評被害だけでじわりじわりと真綿で首を絞めるように殺りたかかったですし、無粋ですが仕方ありません。さあ皆さん、殺しますよ!」」

「応!!」「……『恋僕ファンメル』!『最終恋僕FIN・ファンメル』!」「首、貰うぞ!」


 無駄だと『情報ロキ』が叫ぶ。十弄卿テンアドミニスター達が圧倒的な数の差で襲い掛かる!



 同時、第二帝龍ロガーナン太子リンシアを巡る戦場。


「うわわっ……!」「き、来た……来やがった……!」


 『愚者クラウン欲能チート』も『悪魔リディキュード欲能チート』も、ニヤニヤ笑いをする余裕を無くして表情を引き攣らせていた。当たり前だ。現れたのはヴィランの再登場の可能性を潰さない商業アメコミのお優しいヒーロー等ではない。世界規模で映画がヒットするようになりやはりアメコミこそがあらゆる物語の王、興業収入の成績こそがそれを証明する、という増上慢を欲能チートの源としていた『栄光ヒーロー欲能チート』がこの戦場に合流しようというのを直前で追い付きぶちのめし蹴り飛ばしながら出現した、真竜シュムシュの勇者ルルヤ・マーナ・シュム・アマトだ。


「落ち着け! あれは出会い頭の事故だ、〈布陣・王手飛車取〉!」


 それでも軍師も兼ねる『術師ケンジャ欲能チート』の号令で残存〈タロット〉〈七大罪〉連合部隊は士気をある程度取り戻す。それは、このエクタシフォンでのここまでの戦闘経験が理由だ。


 〈王国派〉が始めた〈長虫バグ〉対策、【真竜シュムシュの地脈】封じは効を奏している。〈長虫〉といえどこの状態なら、チームを組んで当たれば死者を出す事無く戦うことが可能だ、という認識が広まったためだ。


 その認識に縋り付いて陣形を、ルルヤが自由な回避起動を取れば魔法攻撃の流れ弾が後方の仲間達目掛けて飛ぶ狡猾で陰湿な形に叫び立て直させる『術師ケンジャ』だが、その転生者達の戦意回復はこの段階では完全とはいえなかった。


 何となれば、正にエクタシフォンの戦いでは〈長虫〉との戦いを互角に渡り合っていたはずの〈超人党〉で見た目がもっともそれらしいがゆえに著名な『栄光ヒーロー』が、今まさに無様にぼこぼこに殴られ蹴り飛ばされ転がされながら現れたからだ。


「やれやれ……リアラちゃんと一緒じゃなくて、いいのかよ?」

「……私もそうしたかったが、敵の狙いが、な」


 だがルルヤの表情にも余裕はない。名無ナナシの、こっちは任せてくれと言ったんだがな、という悔しげな言葉……実際持久するだけなら欲能行使者チーターが多勢という状況だがぎりぎりだがここまではこなせていた……に対して、視線を会わせる余裕もなければ、敵一般欲能行使者チーターの動きを阻害する余裕もない。


 その先を、全力で凝視し続ける。その、先とは。


「馬鹿者共が、小娘相手におたおたしおって……」

「リンシア第二帝龍ロガーナン太子。貴方に関しては、〈馳者ストライダー〉の私用と当代帝龍ロガーナン並びにその后の毒殺容疑で連合帝国法で指名手配させていただきました。ルキン第四帝龍ロガーナン太子に関しましても、機密情報流出、帝宮出入管理法違反の容疑で。両名とも国家反逆罪でありますれば、帝龍ロガーナン一族といえど容疑の段階で帝龍ロガーナン一族としての諸権利は停止されます。いずれも複数の太子付宮内官から証言と証拠の提出がなされています故に、貴方を拘束致します。抵抗に対する鎮圧権、また帝宮不法侵入者への殺傷による行動阻止許可も当方は得ております」


 重厚な騎士装束を覆う冷たい金属を思わせる容姿の壮年男性が一般欲能行使者チーター達を一喝し、宮廷騎士の華美な鎧に身を包んだ男が犯罪者への最終宣告のごとく朗々と宣言する。欲能行使者チーター達の戦意が更に回復!


「ゼタ、マシナ……! お前達が僕達の周囲にねじ込んだ人員だろう、そいつらは……こっちがそっちの尻尾を掴めないレベルで僕らに何もさせていなかった癖に、そいつらにさせた事で白々しいでっち上げの内部告発を!」


 リンシアの苦しい息の言葉を待つまでもなくそれが玩想郷チートピア〈帝国派〉のクーデターによる戯言である事は伺える。内応させることが出来ればいかにも正しげな内部告発等でっちあげるのは容易いのは地球では政争・謀略の基本だ。


 連合帝国筆頭大臣にして新天地玩想郷ネオファンタジーチートピア第六位『大人ビッグブラザー欲能チート』ゼタ・ラ・ブイム、連合帝国宮廷騎士団長にして新天地玩想郷ネオファンタジーチートピア第八位『正義ロウ欲能チート』マシナ・ミム・カタ。そのどちらも、欠片も恥じる事を知らぬ傲岸不遜で厚顔無恥なエゴの化身。即ち、正に十弄卿テンアドミニスターだった。


「私がリアラの安心ばかりを惜しんで向こうで二対三で戦う事を選んでいたらどうしていたんだ、貴様等」

「三対二でも、十分な有利だろう。【地脈】封じを計算にいれればましてな。それでも死ぬやつがいればそれは組織にて不要。我々がお前達の足元を堀り崩した後、三対二の戦いで消耗した所に悠々増援として加わり止めを指せばよい」

「そして何より過去のプロファイリングにおいて、ここで他の仲間の危険を看過する行動を取る可能性は極端に少ないと言えました。そうでしょう?」

「……ああ、そうだな、下種共め」


 問いかけに対して冷酷にして冷静な回答を返す『大人ビッグブラザー』と『正義ロウ』に、ルルヤは怒りを燃やした鋭い表情で吐き捨てた。


「ついでにいえば過去の戦いで、二対二より多くの数の比率で十弄卿テンアドミニスターとの戦いでお前達〈長虫バグ〉は有利をとった事はない」

「つまりこれで終わりという事だ。向こうの方が先に片付き、お前は弟子のカチ割られた生首を見ながらひとりぼっちで死ぬのだ。ルルヤ・マーナ・シュム・アマト、破壊工作、大量殺人、私戦、冒険者法違反、不法侵入、窃盗等において連合帝国法により、そして今はこの世界の正当な所有支配者となる新天地玩想郷ネオファンタジーチートピアの何おいて死刑の宣告と執行を執り行う!」


 勝算は整えられた、我らの勝利、貴様等の敗北だと『大人ビッグブラザー』『正義ロウ』は宣言。


 そして、変が行われる。


 『大人ビッグブラザー』の全身を覆う嵐の障壁! 轟き渡る何もかもを見下す傲慢な詠唱!


「この手に取らん神の行い、我こそこの世の主人公!

ぶっ殺すぞ、豚共!

がたがた抜かすな、餓鬼共!

社会は借金の如く灼熱で身を焼き、

先達は先手必勝で閃光より早く動く。

上下かみしもかみかみなりのごとき神、此こそが我が現実リアルなり!

取神行へーロース』、『極限厳格・怒髪天帝グローズヌイ・ペルーン』!」


 その姿は巨大な雷の塊。それが空中に浮遊し、蠢き、うねり、不定形の目と口を持つ怪物の頭となる。


 そして『正義ロウ』も変身する。全身を覆うは光の防壁!


「この手に取らん神の行い、我こそこの世の主人公!

多数は大河の如く全てを磨り潰し、

慣習と前例は神と善の如し。

法律と契約は本能を消し去り、

美辞麗句クリシェ絞首刑くびくくりとしてくびきとなる。

おお、掟こそ王、此こそが我が現実リアルなり!

取神行へーロース』、『秩序絶対・多数即法ルール・オブ・ルー』!」


 現れ出るは輝く宝石で作られた機械仕掛けの古代風鎧騎士とでもいうべき姿。背に羽、足に車輪、銃めいた槍と回転丸鋸パズソーめいた盾。不定形な雷の塊よりは人に近いが、生物らしさの欠片も無い。


 そして二柱の取神行ヘーロースが、並び立って宣言する。


「よくもここまで抵抗を続けたものだ」

「貴様等は我等玩想郷の邪魔者、いやさ大敵だ」

「原始的な王政に留まる異世界人風情が。これは許されざる反逆行為です」

「この最終鬼畜布陣をもって貴様等の罪に我等が処罰を与える」

「「死ぬがよい!!」」

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