・第八十六話「果てし無き流れを断つ為に(前編)」
・第八十六話「果てし無き流れを断つ為に(前編)」
各地の一部メディアが独自意見を出す事もあったが、そんな意見は国際的にニュースを流せる大規模メディアに黙殺され、他国からは存在を認知されなかった。
昨日からSNS掲示板等のインターネット媒体はすでに動いていた。それはリアルタイムから既にだが、尤も諸外国では反応が鈍い所もあれば国内の政治的派閥対立でそれぞれが別々の見解を掲げて相互否定に熱心で肝心な事実自体はほったらかしだったり、扇動されているものが入り交じったりしていた。そのへんは、既存のメディアと同じような状況のものは結構あった。
事件の中心たる日本共和国内のインターネット媒体の反応がやはり一番鋭敏だったが、だが同時に中華ソヴィエト共和国の圧力干渉とそれに媚びる人間の忖度によりあれこれ検閲・規制を受け始めていた。だが事実上日本共和国が中華ソヴィエト共和国の影響下にあるとはいえ、インターネット環境上の違いから中華本土程検閲が効率的に行えない為、
そんなTV新聞等のうち、ある程度纏まった報道方針曰く。
「信じられないような話だが、先日からの未知の惑星が見える現象、東京湾に出現した巨大生物については、ある種の未知の知的生命体の侵略によるものである」
「これに対し、この侵略に対する防衛に協力すると別種の未知の知的生命体が中華ソヴィエト共和国政府に協力を打診。中華ソヴィエト共和国政府はこれを受諾した」
「中華ソヴィエト共和国政府は各国政府に対し地球を守る為の協調を要請する」
ぬけぬけと、荒唐無稽に。だが事実なのだ、そう、ハリウッド映画等でもあったでしょう、こういう事が、今それが現実になったのです、と。それが公式公的な真実か、それともかつての独裁者曰く所の〈大きすぎて誰も疑わない嘘〉なのか、わからないままに広がる。聞く側も、言う側の大半も。
あまつさえその宣伝の説得力を増す為、リアラの【
それに対してインターネット媒体等の側は、未だに纏まりきっていなかった。検閲もあれば自由もあり、自由があればしかし争いもあり。中規模から小数の単なる対立ではない意見が掲げられてもそれは小さなものでしかなく、そして、インターネット媒体等の側が、それ自体はやはりある程度〈小さな側〉でしかなかった。
この時代においてはまだ既存メディアと比して影響力を人の何倍も強く行使できる人間の数も違うが、それだけではない。万民が自由である媒体において旗幟鮮明にする事はそれだけで攻撃されるリスクを生むという万民が万民に対する圧制者となる中、何より大多数の力あるものが動く方向は常に利得のある方向で、故に国際社会は冷ややかに
そして真っ当な政治的手続きを取る事を是とする国はそうであるが故に、今や内部において二つの方向に極端に分化し別れ一切の妥協の無い相互否定に走る国が増え、離脱するのしないの、改正するのしないの、封鎖するのしないのと、やいのやいのと言い合うばかりで何も出来なかった。
それ故にそんな国家の一つである日本共和国は、誰もが嫌だと思う状態のままで身動き一つ取れなかった。あくまで上品な理解の希求と声を限りの否定的罵声の間で、何も起こせず、何も起きなかった。唯富者と独裁国だけが動き支配する。
そんな雰囲気はあくまで時代の空気であった。一部はそうだが全部ではない。だが、そうではない限り全部が何となく断念し従う程度には一部の量は大きかった。
だが、そんな絶望的でがらんどうな現実に抗う物語が、それでもその時代の片隅で紡がれていた。
「……ふう」
翌朝。とあるカラオケ・シャワー・コインランドリー等まで備えた複合的インターネットカフェの複数人用大型個室。目を覚ました
「おはようございます、
小さく欠伸をし、スマートフォンをいじりながら洗い終えた顔の目を擦る
(流石にあの子も、興奮であまり眠れなかったみたいね)
彼女もまたそれを使いすべきと思った事をしていた事を
(この奇跡が、時間的には長く続くかどうかは分からないんだから)
戦いとしては激烈なので物語としては長いかもしれないが、この奇跡的な再会は、奇跡的な再会であるが故にそう長続きしないのではないか。物語を綴る経験を持つが故に
(それにしても……これから、どうなるんだろう)
そして先を思った後、
「きゃあああああああ! 「~~~~!?」
猛烈な轟音に耳と肌を叩かれながら、それにかき消される叫びを
「……お兄ちゃん!?」
映像は途絶えていた。それにいち早く身を乗り出した
「待って! 私も!」
キノコ雲がかき消えていく。本来なら死んでいる筈だった。死んでいないのはやはり彼の力で、そしてまだ死んでいないし破壊も放射線被ばくによる異常も無いのだからその力はまだ続いていて彼は生きていると確信しているが、それはそれとして若い感情の迸るまま突っ走る
そして、岸壁。
BASYA!
「ぷはぁっ!!」「お兄ちゃん!」「
大きな波めいた水音を立て、水面に飛び出るリアラを二人は見た。変身後のように髪の毛は解けていたが、激闘を繰り広げ疲労しているとはいえ肉体を変身前後で再構築した故か血塗れの重傷という訳ではなく、二人はほっとして。
「痛み分け……って言い張るには、ちょっと、微妙、かな……?」
ぜいぜいと息をつきながら、リアラは呟いて。
「そんな」
「流石にラスボス相手に1ラウンドで決着をつけるのは無理でしょ……」
苦笑し自嘲したリアラに、
ZAPPANN!
「【……お前の友人達に同意だな】」
イルカが跳ねるような水音を立て、水中から飛び上がるルルヤを、二人は見た。
「【早く決着をつけねば
「……です、ね」
キラキラと、水滴が散る。リアラが息を整え、白魔術を用いた。海水が浄化され、二人の体が綺麗に乾く。軽く打ち振られたルルヤの蒼銀の髪が靡いた。
「わあ……」「……!」
その時、
(何て、綺麗……!)
リアラも、
ルルヤの美はそれともまた違う。澄んだ空気の中に咲く植物、美しく躍動的な野性動物や自然の絶景の如き神々しい美。リアラの魅力的な愛らしさと、確かに魅力的ではあるがより魅力より美に寄った姿。艶やかな黄金と透き通る宝石の違いか。
「『
ぼちぼちと夕闇が迫りつつあった。文明の違いというよりは総人口の違いという面も強いが宇宙から見た地球程には夜の面が光る訳ではない
BETYA……!
「【それで貴様はどうするんだ。第二ラウンドが所望か】?」
「え」
「きゃあっ!?」
じろりと横目を使った。水音を立てて岸壁に這い上がったもう一人に対して。
「体で庇う必要はもう無いだろうお前は。そんな心算は無い、今日はもう
そいつは、『
「【野放しにするのも何だが、一緒にいるのも面倒だな】」
「……ですね。どうするつもりなんですか、『
「後数時間もすれば俺もお前らも『
睨み合うルルヤ、リアラ、『
「何が望み? 何を取引しようとしているの?」
「
そこに、
「
そしてそれは当たっていた。慌てて心配そうにしていたリアラに『
「……お金っていうか、今晩大人しくするなら、泊まる場所を整えるわ。
「
「……いいだろう。リアラ、いちいちハラハラした表情で視界の隅をチラつくんじゃない。お前の【
それを
「後、『
「……図太いな、面白い女だ……分かった、そうしよう」
当の
(少しでも、何か、助けに)
そういう思いからではあったが、仮にもちょっとした世界なら単騎で滅ぼせる超越的存在相手によくもまあ、と、押し込まれた『
「そんな乙女ゲーの俺様キャラみたいな台詞を結構な顔と声で言っても晩御飯のおかずは増えないわよ、好みのタイプは別だから」
「そんな心算あるわけないだろう……俺の望みは地球の皆殺しだぞ」
挙句この反応では無心した立場とはいえ、これには思わず『
「【流石リアラの友だな……では増えないか? 晩御飯のおかず】」
「ごめん、流石に予算的に無理」
「ちょ、ルルヤさんっ……」
お腹が空いていたのか晩御飯のおかずの言葉によりによってルルヤが美形を活かした超真剣な真顔と
そんなこんなで、その晩は5人で過ごしたのだ。
そこら辺のお店で食料も少し買い求めた。インターネットカフェでは注文できないものもあるし割高なものもある。その上でインターネットカフェでも食品を注文し、五人分の夕食を整えた。
「そこはそれ、色々と、ほら、即売会とかバイトとかあるし」
お金について心配するリアラにそう答える
「向こうでは良い女等幾らでも抱けた。だが、それより俺は目的を優先した。今更興味も無い」
こう答えた程だ。そこは逆に信頼できた。
寧ろ。
「【
と、ルルヤの方が見た目に反して積極的に興味を示していた。
「【
「農薬と肥料の大量使用を前提とした地球とは、作物の品種改良の方向性とかも違いますからね」
「【後、同じ味の調味料が使われている事が多いな。何かこう、どれも出汁の味が似ているというか】」
「化学調味料でしょう。均質な味のものを大量生産する、底上げという意味じゃ悪いものじゃないんですけど」
等、リアラとあれこれ受け答えし、文化の違いに戸惑いもしたが。
「【
最終的には、敵の故郷でもある日本の料理であるが公正に味わいを評価し楽しんでいる様子だった……さらっと未成年なのにめっちゃ平然と飲酒してたけど。
実際五感が相当敏感である故に、上陸してすぐは大気の匂いの違い等も気にしている様子だったが、流石にすぐ慣れたようで。
そして折角複合的インターネットカフェを使うのだ。整った設備を交流に使わねば損というもの。勿論休息中であり戦時中であるという事を忘れてはいないが。
「【~~~~~~】♪」「~~~~~~♪」
軽く、カラオケで歌う等した。ルルヤは地球の歌を知らない? 成る程確かにリアラに伴奏を鳴り物や魔法でさせながら
「これ、お兄ちゃんが教えたの?」
「
「地球の皆との大事な思い出だもん。それが別の世界に、地球が悪い影響を与えてる世界に、少しでも良い影響になる、楽しんでもらえる……とても良い事じゃない?」
「~~~♪」
めっちゃノリノリで、本物のファンタジー世界の住人であるルルヤが、リアラと一緒にアニソンを大熱唱。流石に
「ん」
「そうよね」
そう言われれば、
リアラとの思い出が蘇り、懐かしい絆が今も続いている事を再確認すると同時に、同じ文化を共有する仲間としてのルルヤへの思いも深まり強まる。
「それにしても」
「上手い……」
「「流石旅芸人」」
勿論それだけではない。旅芸人暮らしをしていたルルヤの歌は、地球の芸能界でも通用する程で、無料で聞くのが申し訳ない程だと思い
(ふふ、久々だな♪)
自ら武弁を持って任じるルルヤも、旅暮らしの中歌を愛好していて。前回歌ったのは連合帝国首都公演以来。日数的にはそうでもないが体感時間的には随分歌っていない気もして、一足先に旧交を温めたリアラだけでなく彼女にも良い休息となった。
「ふふー」
「「いや、
それを我が事のようにリアラが得意そうにし、それに
「まあそこはプロデューサー的な」
「「そ、それは分か
アイドルものの物語だのゲームだのが山ほどあるこの界隈。リアラの比喩は的確で、それは
「【ふん、お前も歌ってみるか?】」
「なっ、く、『
「……いいだろう」
途中、興が乗ったルルヤが、まさかの『
「【中々上手いじゃないか】」
「ええ……」
これが意外と、やっぱりジャンルはアニソンであるが上手だったりして、ルルヤが笑い拍手をし、リアラも驚いたりして……
カラオケに関してはそんな所だったが、それ以外にも特徴的な思い出があった。
夜。備え付けのシャワールーム。
「【成る程、これがシャワーか。
「だからって何で私と……(
「【……私は、まあ、歌と踊りと戦以外は大した事は出来んし、見目形以外は女らしくないと思うが……リアラはそうではないと言ってくれるが……兎も角だ】」
それは何度も指摘されてはいるんだが、と、ルルヤは苦笑しながら答える。
「【……リアラの大事な友人と二人だけで話したかったというのが一つ。後はまあ、その、何だ……んん、上手く言えんな……ガルンの時というどうもこういうのは苦手で……ああガルンというのは
「……本当にね」
「?」
体を洗いながら散々言い淀む所は、実際言う通り「歌と踊りと戦以外は大した事は出来ん」という自己主張と変わらない所を感じるし、だが
「
「女神様みたいって思ったけど、そうじゃない。私達の夢の結晶、物語の化身みたいだけど、確かに生きてる立派な人。貴方は奇跡みたいで、でも、確かに実在してるのね……私達の夢みたいな貴方を、何で穢せるものですか」
物語を愛さなければ生きていけないオタクが、意中の男が物語の化身めいた女を愛する事を糾弾出来る筈も無し。その気持ちは誰より分かるのだから。
「【う? い、いやあ、よく分からんが兎に角よし、としておくが……】」
私達の夢、というのは、少し理解が難しかったルルヤであるが、誉められて悪意も感じられぬのであれば悪い気もせず安堵する。
「大体、女の子らしくないって思うの、違うって
「【んむ、確かに言われた、それを受け入れ反省もした……なのに、すまんな】」
とはいえ、悪い癖の指摘には、しまったという顔をせざるを得ないが。
「【ん? 何で何度もって分かって……】」
「いやそれはその、まあ多分そうでしょって事で……それより、いつまでも裸で話し合うのも何じゃない……?」
確かにリアラには何度もそう言われたが、複数回と私は言ったか? といぶかしむルルヤに
「【そうだな、体、洗ってしまおう。背中流してやるぞ、わーしゃわーしゃ……】」
スキンシップ、である! ルルヤの清らかな程白い肌が
「ってきゃあっ!? ちょ、見えっ……」
対してタオルを押さえて慌てる
「【まあ何だ、私の女らしさコンプレックスは、冒険があったわけではないが昔立ち寄った町で他の踊り子に貧乳コンプレックスくらい頑固と言われたからな、分かっているが中々止められない……おぅ】?」
……タイミング悪くそんな内容の昔の思い出を語っていた時にルルヤは気づいてしまった。無い、と。更に無い、と。つまり。Aカップ寄りのBカップを自称していた
SPANK!
「【うっきゃああああああああ】!?」「よりによってっ!? (怒)」
怒りの
「【ぐおおおおお……ここは【鱗棘】が効かないんだぞ……今まで幾多の強敵が突く事の出来なかった弱点を……】」
「あわわ、ご、ごめん!」
「【……やるじゃないか】」
「ほんといい人ね貴方、マジごめん……」
だからこそビキニアーマーで守っている数少ない部分をしばかれ悶絶するルルヤ、流石に悪いと謝る
我ながら流石にちょっとあれはあんまりだったなあ、と苦笑しこめかみを押さえる回想中の
「【これが漫画か。こっちが電子書籍って奴だな? ふふ、リアラから口伝えに物語を教えられてはいたが、生で見るのは初めてだ。
「いいわよっ、私はこれね」
「私はこれっ」
その後はパジャマ姿で施設に置かれていたものやスマホのソフトで見れるものなどを眠るまで
「【おお、これもいいな。ん? これは……リアラ】」
「……何が言いたいか分かりましたよ」
勧めた漫画やライトノベルをルルヤは楽しんでくれた。リアラも、生前は知らなかった新しく刊行されたものを楽しんで読んでくれた。その過程で何か気づいたようだったが……
(ずっと、貴方に勧めたかった。貴方が読んでどんな顔をするか。どう思うか。それについてどう一緒に話そうか……ずっとそれを思っていたのよ、私も
趣味を共通する亡き友にどうしても思う、新しい物語を見せてあげたかった、一緒に読みたかったという事を叶えられ、二人とも泣く程嬉しかった。夢のように幸せで。そんな一時がそれだけではなく、二人の助けにもなったようで誇らしく。
そんな時間を
「おはよう、
洗面台を使い終えてリアラが出てきた。赤銅の髪がよく梳かされ煌めく。
「おはよう。ルルヤさんは? それと……」
それと、『
「ルルヤさんは、朝の鍛練で……『
そう答えて。リアラもまた、それに関して昨晩を回想した。
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