・断章第三話「混珠英雄伝説」

・断章第三話「混珠こんじゅ英雄伝説」



 バニパティア書学国は、辺境諸国の中においても突出して奇妙な都市国家だ。都市一つが丸ごと巨大な有料図書館兼学校となっていて、国ぐるみ図書の賃貸・閲覧料と学費で食っている。


 その蔵書量は混珠こんじゅ随一であり、開闢以来失われた物を除けば殆ど全ての書があると言われている愛書家の夢の城だが、何しろバニパティアの書架本棚目録を研究する図書館学というものが学問の一分野として成立しているという笑い話の様な事実が存在するという時点でお察しの通り、増築に増築を重ねたその建物は完全に迷宮と化しており、下手に嵌まれば物理的に抜け出せない。


 尤も、バニパティア国民の大半を閉める司書教授や閲覧学生達は物理的以前に精神的にバニパティアにどっぷりと嵌りこんだ本の虫達であり、明けても暮れても読書と研究に耽りそもそも外に出る等考えもしない。出生率は低いのだが、膨大な知識に魅せられちょっと閲覧するつもりだったのがついつい長居した挙げ句が居ついてしまう、司書教授曰く〈適性者〉がちょくちょく外部から流入するために、人口は保たれているのが恐ろしいやら面白いやら。


 ちなみにそれでは人口の残りの部分は何なのかというと、閲覧・貸出料や学費を管理しその金で食料等を購入する事務方や学生食堂を運営する料理人や建屋を修理増築する大工や中で迷った人間を救助したりある事情から発生する魔物等を掃討する冒険者や掃除洗濯係や……要するに読み書き学問をし教える以外の事すべての担当者達である。司書教授や閲覧学生は本当に読書・学問・教育以外の事を行おうとしないので、自然雇われてそれらを行う人間が社会階級となる程の数は必要になるのだ。


 そんな放漫というか道楽じみた生き方を司書教授や閲覧学生ができるのは、混珠こんじゅ随一の蔵書とそれが必然的に齎すここが混珠こんじゅの最高学府であるという事実、何よりそれを文字通り命を懸けて愛し研究し守り伝える気概の為だ。


 それこそ童話から魔法書まである書学国だが、そのどの分野においても、必ず熱心にその良さを深く理解し愛し誇りとする者達がいる。故に彼らは、時に複製本を馬車に積んで各地に出張してはその地域や物語を愛をもって広め、特に僅かばかりの野菜を代金代わりに持って現れた文盲の農民に対してすら……尤も村々の小神殿が学校を兼ねる混珠こんじゅで文盲というのはよほど貧しい土地に限られた話だが……熱心に語り尽くして知恵を授ける。物語を愛する者であれば吟遊詩人顔負けの語りを疲労し、学問を愛する者ならば、これはさすがに突出した例だが前出の文盲の農夫をその後一大農学者として大農場を構えさせるに至った程だ。


 故にこそ司書教授や閲覧学生は賢者と尊重され、王や貴族や豪商の類は寄進を行う事がステータスとなっている。故にこそこの知識の園の運営は成り立つ。


 この地が害される危険性については、成る程、兵火に晒す事による人類文明への喪失の大きさを思えばまともならば躊躇うとはいえ、余程の悪王や魔王ならば、独占を目論んだり人類文明破却の為に襲う事を考える者もいるかもしれない。


 だが前者とて、書架に納められた魔獣霊獣錬獣問わぬ〈封印するしか対処法が無かった、死すとも死せぬものども〉を、一つの物語という一つの世界の中に閉じ込める究極魔法の一つである《異界語》によって封じ込めた書を万が一に傷つければ自分に滅びが齎される事実には躊躇せざるを得ぬし……何しろ図書館の中に魔物が沸く原因がこれである事からもわかる通り封じられて尚危険な物もあるのだ……、それすら無視する存在相手でも、混珠こんじゅ有数の賢者の集団である故にその中に混珠こんじゅ有数の魔法使い達がおり、そこまででなくとも本を守るためなら躊躇なく己の存在全てを魔法につぎ込んで死ぬ事も厭わぬ司書教授や閲覧学生、そして雇用冒険者と文明を守るために団結連合する周辺諸国を抜く事は難しいだろう。


 そんな知識の殿堂には、様々な者が訪れる。学者にしてからこの地で知恵を極めんとする者もいれば実地応用の為の知識を求めて来る者あり、知恵ではなく物語を求める者にしても純粋に楽しみを求める者もいれば日々の吟遊や演劇の種を求める者もあり、経典を求める聖職者もいれば、統治上の難問の回答を求める王も、魔法の研究を行う魔法使いも来る。そしてその派生として、書学国に就職する者とは別に日々の冒険に活用する魔法を新たに求める冒険者もいて。


 ……その更なる派生として、玩想郷チートピアと戦う為新たな力を求める〈欲能を殺す者達チートスレイヤーズ〉のリアラ・ソアフ・シュム・パロンとそれに同行するルルヤ・マーナ・シュム・アマトの姿もあった。



「お久しぶりです、ロド・ペザパ司書教授」


 リアラが声をかけたのは、若い司書教授の一人だ。若いと言っても30代中半から30代後半くらいか、ひょろりとした長身に延び放題の黒髪、大きく厚い眼鏡〔混珠こんじゅにも眼鏡はある。とはいえ視力を矯正する魔法もある為、それらと比べると安価な代替手段とされる〕、書棚の高い所からでも便利に書を取る為の《浮遊》の魔法が付与された羽飾りつきの衣、本を万が一にも汚さないための口許を覆うヴェールと髪を束ねる頭巾と手袋、安価な眼鏡と高価な《浮遊》服という組み合わせは、視力矯正魔法装備を買うくらいなら研究に金を回し、効率的に読書をするためには効果な装備も惜しげもなく買うという当人ならではの一貫性があるが、いかにもちぐはぐに見えるが当人は欠片も気にしない様子だ。


「……ああ、久しぶりだな、パロン君」


 眼鏡と頭巾とヴェールの奥の、眉の太いが存外大人しげで獣人ではないが長毛種の物静かな犬のような印象を与える彼は、少しの沈黙の後リアラを名字で呼ぶと。


「……辛い変化を経験したようだね。だけど、君だけでも無事で良かった。授けあった知識は、今も君の中にある。そして、昔も今も、私はこう言おう。本日はどのような知識をお求めかな?」


「……白魔術の知識と現代情報を。閲覧量、筆写料には、僕達の持つ知識を」


 かつて、ソティア、ハウラと共に行動していた時の利用から、馴染みの付き合いの司書教授だ。リアラはその時からだいぶ変わった。服装は野伏風の姿から短い外套を羽織った姿になり、同行者も別人となった。しかし、 ロドがそれ以上の情報を知っている風なのは理由がある。リアラが料金として知識を支払うと言った事が答えだ。


 即ち、代価は金銭や物納だけではない。新しい知識・情報も又ここでは代価として扱われるのだ。未知の書は筆写され、情報は要約されて現代世相を学ぶための文献となる。そうやって蓄積された情報が、新たな情報と収益を生む事で、この地を維持する糧になる。故に、この地は吟遊詩人のネットワークと並ぶ情報源でもある。


「……その知識が、パロン君を幸せにするなら」

「多くの人を助けることが、僕の心を癒してくれますから」


 司書教授や閲覧学生たちは、錬術れんじゅつを学ぶ者もそうでない者も、決して知識と情報を悪用せずという誓いを立てる事が定められ、それにまっすぐに従う者にのみ門戸が開かれる。リアラ達について知った知識も、勿論それに含まれる。故にロドは、あくまで友を亡くした客人を労るために最小限にリアラに関する乗号を参照して奥ゆかしく控えめに暗示、リアラもそれに、昔と変わらぬ今もあるのだと、懐かしさに心癒され微笑を返し、知に真摯である事を改めて誓うのだった。


 そして、白魔術に関する書籍を納めた書架の傍らの机にて。


 図書館の記憶は、いつも、静かで幸せな時間と別離に繋がっている。リアラはそう思いながら、魔法書のページを繰り、新たな白魔術の会得に勤めた。白魔術の会得に置いては、己の今の知識と精神力をもってどの程度まで魔を制御できるか、その客観的な分析と、それによって行使できる魔術に関する知識の取得等、様々なついか学習が必要だ。戦い続け、勝ち続けるために、無論主力の武器は竜術だが、白魔術も上手く使える事は大きなメリットがある。故に、こうして訪れたわけだが。


 胸をよぎる、地球での記憶。混珠こんじゅでの記憶。本は好きだ。知識を得る為のものも、物語を楽しむ為の物も。何らかの運命のかけ違えがあれば、ここで閲覧学生となっていたかもしれない。けれど、そうはならなかった。


(……厭…・嫌だ、そんな事は……)


 ふと。そんな甦る記憶が、恐ろしい不吉の予感を抱かせた。地球の図書館の九億も、混珠こんじゅの図書館の記憶も、最後は別離で終わった。ならば、まさか、二度あることは三度あるのか。ルルヤさんとも……


 リアラは咄嗟に傍らのルルヤを見て。


「ちょっ? ルルヤさん、ルルヤさんちょっと……」


 ……傍らでリアラがめくるページを覗きこんでいたルルヤがすやすやと居眠りしているのに気づいて、思わず大声を出しかけて危うく小声に留め。


「居眠りは、禁止だっ、警告っ」

「ふぁっ」


 くわっと目を向いたロド教授からも周囲の迷惑にならない程度の強い注意が飛び、ルルヤは慌てて飛び起きた……ちなみに居眠り禁止なのは、本を落としたり本の上に突っ伏したりして汚す可能性があるからで、飲食物の持ち込み等、本の毀損に繋がる行為は厳しく規制され、本を毀損した者にはよく切れる新品の紙で指先を悉く〈しゅっ〉とされて出入り禁止期間をもうけられる等の微妙に嫌な刑罰が課される事すらある。今回のルルハは警告で済んだ訳だが。


「し、仕方ないだろ、現代語は苦手なんだ、白魔術の知識もないしな? 前の戦闘の疲れが残ってたし……」

「馬鹿じゃないアピールをする位なら寝るんじゃない、全く。というか、今回こちらが受けとる知識には君からのウルカディクに関する知識も含まれているんだ。私は古語だって全然いけるのだから、記述を進めてくれたまえ。早くハリー早く早くハリーハリー!」


 寝ぼけ目のルルヤに、ずいずい! と、ロドはノートを押し付ける。その様子はルルヤにとっては初見の繊細で若いが老成した賢人という印象を大いに覆すもので、経典を覚えきれずに武術の鍛練に走った子供時代を思い出してか、彼女としては珍しい事に目を白黒させ狼狽し呻く。


「うぐっ。確かに故郷でも口伝の暗記は得意では無かったというかだが……存外厳しいし熱い人なのだな……」

「こちらが私の素だ」


 先ほどの穏やかな言動はリアラを気遣った結果だ、と、すぱんと言い切るロド。


「ええ、そうです。そうなんですよ」


 そう懐かしげにリアラは言い、ルルヤは苦笑した。そしてリアラも笑いながら、不安に突き刺された胸が暖かく癒えていくのを感じていた。……こんなずっこけた記憶は、過去の繰り返しのなかにはなかった。これなら、二度あることは三度ある、ではなく、三度目の正直になるだろう、と。


「しかしそれはそれとして、私は白魔術は使えないからな。なにか他に参考になりそうなものはあるか?」

「あるに決まっているだろうっ」


 くわ! と再びロドは目を剥いた。


「本当かっ?」「書学国を無礼なめるなっ。筆写を進めて待っているといいっ」


 竜術と【真竜シュムシュの武練】に特化した戦闘スタイルである為、流石にそれらに関しては口伝が主の為ここで得られるものはあるまいと言っては見たが内心諦めていたルルヤにそう言い置くと、驚くルルヤを尻目に書棚へ早足に向かうロド。ここまで表情とテンションが叫んでいたり走っていたりしてもおかしくないにも関わらず、常に〈図書館では静かに〉というルールは守っているのは流石である。



「まずはこれだっ」

「これは……〈混珠こんじゅ英雄伝説〉?」


戻ってきたロドが抱えていたのは、そう銘打たれた数巻の書物であった。


「原典完全版、とありますね」


 白魔術の勉強から視線を上げたリアラがタイトルを見る。〈混珠こんじゅ英雄伝説〉字体はその名の通り過去の英雄の伝承を纏めたもので、読まれたり、詠われたりしているが、原典完全版とは初めて見た、と。


「その通り。世間に出回っている物はその土地で人気のある英雄だけを選り出し次席を話仕立てにしたものの抄略だが、これは違う。全土の英雄を網羅し、かつ、それが後世に必要とされる時の為に、その思想、その武装、武技、魔法、戦略戦術、戦いの内容やその中での戦法等が詳細に記載されている。いわば英雄の戦い方の経験と実例とノウハウの集合体だ」

「なるほど……」


 それならば、確かに直接新しい魔法を取得する程劇的ではないが基礎力を伸ばす助けになるだろう、と納得しかけるルルヤに、それだけではないぞ、とロドは続けた。


「実際真竜シュムシュ自身は経典を残さず、思想や魔法は口伝、それを伝えていた真竜シュムシュ教徒は真竜シュムシュの死と共に表社会から姿を消した為、ここにも手助けになるようなものはあるまいと思ったのだろうが、これには神代やそれ以前の英雄の記録も含まれている。つまり真竜シュムシュやその信徒が戦っていた時代だ、当然それらのデータも含まれている。勿論歴代の使い手についてはウルカディクの口伝にも残っていただろうし、【真竜シュムシュの宝玉】による資料もあるだろう。現に、今、その知識をこうして此方が教えて貰っている位だ。だがここにはそれに加え、外部から見た認識や分析研究、過去の英雄の戦法から編み出された技能等もある……助けになる筈だ。そしてそれに加えて、過去の英雄の戦技については、魔法の様々な応用も含まれている。魔法の応用は、発想と具体的なイメージ、それが可能だという確信が必要だ。竜術においてもな」

「ああ、それは助かる」


 フェリアーラとの戦いが示すように、戦闘に天性の才を持つルルヤだが、そうであっても、またそうだからこそ、経験と知識はその力を増すのに大いに有用だ。そして竜術の応用という点では、地面に張り巡らせて加速突撃する『課金ガチャ欲能チート』を討ったのはルヤの発想だが、【世壊破メラジゴラガ】はリアラの発想が元で、他にもリアラはフォトンブレス・バリアーやホーミングフォトンブレス等様々な応用を見せた。同じことが己にももっとできるようになれば更に心強かろうと、ルルヤはこれを大いに喜んだ。


「これでも本来は、此方の教授する量が足りていない位なのだ。真竜シュムシュの隠れ里や竜術の実際の運用に関する新たな知識が失われず記録を得られるというのは、それほどの価値なんだぞ? 神代の記録と、魔竜ラハルムの生態から逆算しての推定分析くらいしか、研究を進める手段が無かったのだからな。在野研究者のなかでも著名で実績を知られるソティア・パフィアフュ女史の研究が、散逸せずに済んだ事もだ。魔学、動物学、植物学、農学、薬学、どれ一つとっても失われてはならない貴重な研究だ。パロン君、パフィアフュ女史もその気があったが、確かに普及し活用されてこその知恵だが、安売りしすぎる事は知識の値崩れを産み、それは知識を作る者を困窮させ、結果として有用な新しい知識が生まれる事を阻みかねないのだ。まあ、あくまで広く行き渡らせる事とのバランスが大事ではある、知識の占有独占もまた良くない事だが」

「はい、気を付けます」


 ともあれルルヤは自らの知識を記す傍ら混珠こんじゅの英雄達の歴史を紐解き始めた。


 そこから得た様々な知識や応用例は今後ルルヤの力をますます高めていく事になるのだが、その詳細についてはまた別の物語の、今後の戦闘に反映される事になるだろうし、細々としたテクニックは枚挙に暇がない。


 故にこの後に記されるは、代表的な英雄たちについての、ルルヤが実際に読んだ細々とした部分を排した抜粋である。



 〈最初の騎士〉


 牧神テフハエツラの最初の信徒。狩闘の民に生まれながら獣を殺せぬ優しさゆえに牧畜の発明者となった精霊を宿し《牧神テフハエツラ》となる少年を案じ彼を守護した、その少年に素直になれないながらも好意を抱いていた唯の少女。「私は唯の女の子。それが騎士になった。誰だって騎士になれる。心に誰かを守ろうとする思いへの道があれば」と語り、あえて己の名を後世に残さなかった。そして、誰かを守ろうとする思いへの道という言葉から騎士道が生まれた。鞍と鐙の発明者にして、ルルヤ・リアラの知る中ではフェリアーラやユカハも用いる武術である〈騎士道戦場心得〉の開祖。〈騎士道戦場心得〉はその後も騎士の武芸として受け継がれたが、〈最初の騎士〉の段階ではまだ騎槍ではなく唯の槍や棒が使われていた事から分かるように、後世様々に改良が加えられ発展していった。騎士を除く牧騎の民の自衛用と騎士に対抗する為の〈鋳鍛の民〉の新兵器として平行して複雑に発展していった戦車道との技術交流を行った〈隊列の守り手〉、騎槍・馬鎧の発明と鎧の騎乗用への改良を行いそれらを応用した武技を開発した〈愛馬卿〉、馬から降りた時の戦い方への応用に邁進した〈長剣匠〉、斧槍・騎鎚・両刃鎌等の変則的な武器の発明や応用を行った魔族〈死神騎士〉、馬以外の乗用動物を用いる流儀の開祖たる水騎の発明者にして航空戦術の確立者〈蒼〉等、発展を齎した英雄は数多い。



 ナナ・リル・シュムシュ・アマト


 争いを止めようとする祈りの意識をその身に宿し、真竜シュムシュとなりし人。航漁の民の中でも山間の川に住まう弱小部族の出身。その人物像については神歴末期の王神アトルマテラによる真竜シュムシュの死前後の混乱で散逸しているが、世の理不尽に抗う勇気や強さと、世の平和を願い打倒した精霊達を許し取りまとめる優しさと魅力を持っていたという。彼女の【真竜シュムシュの巨躯】は、戦う度に姿を変え、より強くなっていったと言う。航漁の民の一人であった時は唯のナナ・リルという名であった。以後の名も、一般的に四つ区切りの名を持つ者は帝龍ロガーナン真竜シュムシュに限られ、三つ区切りの名を持つ者は王族・貴族・真竜シュムシュ教徒・宗教指導者・一部の古い狩闘の民、二つ区切りの名が平民や地位放棄者、一つ区切りの名は流浪の民等の特殊な者というのが混珠こんじゅの名前のルールだが〔名無ナナシ之権兵衛・傭兵・娼婦之子は、そういう出自だけど心は騎士とでも言うような、かなりパンクな意味が含まれている事になる。逆に、政策的にエオレーツ・ナアロは王になりながら平民風の名を貫いている。〕、途中で名が変わった場合最後の名を表記する。



 アトル・マテラ・ロガーナン・アマト


 精霊を宿し王神アトルマテラとなりし人。鍛鉄の民の生まれで、川に砂鉄を取りに来てナナ・リルと出会った事で、共に平和の為に戦い混珠こんじゅの歴史を変える事になった銀髪褐色肌の少年。元来鍛鉄の民の武と戦に方より自然を否定して戦いで富を得ていく方針に否定的な正義感の強い性格だったと言われ、〈覇者〉と呼ばれた鋳鍛の民の長に対抗して力による上下ではなく正しさによる秩序を説きこれを王道と呼んだ事から王神アトルマテラとなった。故に、妻の如きナナを殺めた敬意については極めて謎に包まれている。また〈術と武器を同時に使う〉〈攻撃魔法を武器に付与する〉〈射撃・投擲武器に攻撃魔法を付与する事で、本来射程を得るのに使っていたエネルギーを射撃・投てき武器自体に頼る事でその分のリソースを威力に注ぎ込み攻撃力を上昇させる〉等の、現代では広く知れわたった戦闘方法を最初に編み出した存在でもある。



 リニー・シュム・シュズ


 最初の真竜シュムシュ信徒たる真竜シュムシュの戦士の一人。敵対部族に一族を滅ぼされ依る辺たる精霊を失ったある部族の長の娘。蒼黒い髪に清楚な容姿の娘であり、義理堅く律儀で生真面目と伝えられる人物。水属性の【真竜シュムシュの息吹】の使い手で、【息吹】にすら【真竜シュムシュの血潮】と同じ癒しの力を込める事が出来た癒しの達人。また【息吹】の応用力にも長け、攻撃力の低い水の【息吹】を、水でレンズを作り太陽光を集め熱線を放つ、霧で敵の目を眩ます、塊にした水で相手を窒息させる、水の粘度を高め触手として操る、水の組成を変え毒にする、海を操る等様々に応用し、術者として高い腕前を見せた。部族の長の娘だがその後長へ戻る事はなく、ナナをよく助け敬虔な信徒の代表として真竜シュムシュ教徒の取り纏めに貢献した。ナナの死後信徒と共に姿を消した。ルルヤ曰く、ルルヤにとって先祖に当たる帝竜とは別のナナの子を連れウルカディクへの信徒の避難を先導、【真竜シュムシュの世界】を元にした結界でウルカディクを封印したという。



 ギナガ・シュム・ヤクミサ


 男性の真竜シュムシュ教徒であり、零匹目の魔竜ラハルムとも言われる人物。炎属性の【息吹】の使い手であり、格闘術に長けた屈強な赤毛の大男。組打と【息吹】を組み合わせ、組打で掴んだ腕からの【息吹】の炸裂、零距離からの【真竜シュムシュの眼光】と【息吹】の同時発射、肘や足に顎門を象った鎧をつけそこから【息吹】を放っての噴射加速等の技に長けていた。その応用として全身を【息吹】と同化させて飛翔突貫する奥義【竜星閃】を編み出したが。これは後世飛行系魔法の攻撃的亜種に応用されている。ナナの死を王神アトルマテラによる謀殺と断定し激怒、【真竜シュムシュの巨躯】を用い変身、〈人類国家〉の首都を破壊せんとしたが、同じ真竜シュムシュの信徒であるライーヌ・シュム・ガシボドに止められ、首都郊外で二体の竜が激突する事態となった。ライーヌの【真竜シュムシュの世界】により被害は食い止められ、対決は相討ちに終わり二人とも死亡、その死後魔竜ラハルムが出現し始め、王神アトルマテラ帝龍ロガーナンを擁立する事になる。……なお、ギナガはナナを強く慕っていたが、同時にライーヌと恋仲か、少なくともライーヌがギナガに恋をしていたと伝えられ、戯曲や歌などに悲劇として語られている。



 リアン・ナウハーテ・ヨーヒテ&エルケス・ケルマ・テュルダー


 錬術れんじゅつが勃興し急速に進化した時代、精霊を越え叡知こそ全てとし世を支配せんとした〈錬術れんじゅつ王〉と呼ばれる悪王が出現。錬術れんじゅつの発展の為に生体実験を行い環境を破壊し後の魔王もかくやという暴虐を振るった錬術れんじゅつ王を打倒した二人組。北の原生林に育った金色の長髪を靡かせる剽悍にして精悍凄絶と評された狩闘の民・豹狼族の青年と、後のこのバニパティア書学国の基となる〈人類学園〉を設立することになる錬術れんじゅつ使い、〈錬術れんじゅつ王〉メフバン・メトウル・テュルダーの息子であり、禁忌錬術れんじゅつの実験体でもあった少年。王の子でありながら王というものを憎むエルケスと、民でありながら王の如く堂々たるリアン。二人の共闘と衝突と友情、そしてエルケスの成長は〈錬術れんじゅつ王〉を打倒し、その後二人は精霊を鎮め回るナナ・リル・シュムシュ・アマト達と出会い、他にも現れた錬術れんじゅつ王やその後の魔との戦いなどで共闘していく。木々を跳び回る体術を応用し都市を跳び回るリアンと錬術れんじゅつにより次々武器と足場を作るエルケスの支援の融合は速く重い不可視の死風と恐れられた。また余談であるが二人の伝承は極めて女性に人気がある。



 エストラト・クロゴンド


 〈初代勇者〉。正確には勇者と言うのは特質であり職業でも地位でも血統でもないが、一般的に〈混珠こんじゅ全土に知られた勇者という特質を持つ英雄〉を〈歴代勇者〉として扱うため、こう呼ばれている。神々と精霊が魔神率いる魔族の軍勢と戦った、現在の主な人類居住地である大陸の他にもう一つ存在していた失われた大陸が水沈するほどの激突の後、再建されつつあった文明を襲おうとした初代魔王と戦った。最初の勇者にして最強の勇者とも呼ばれる。だがそれは必ずしも戦闘力が最大という事を意味するわけではない。〈魔神戦争〉以後の最も人類文明が存続の危機にあった時代、二代目以降の後の勇者と違い勇者として力を除く実力の近い仲間がおらず、単独で戦っていたことからそう呼ばれている。必然的に一対多の戦いに長け、一対多用の数多の武技を編み出し後世に知られる。ぼさぼさの黒髪と黒目、容姿はごく普通の青年だが、その体は鍛えられ傷だらけだったという。戦後は、何処ともなく隠棲した。



 〈伝説の冒険者達〉


 〈初代勇者〉による初代魔王の討伐後、魔族魔物の残党が未だに跋扈する荒れ果てた領域を開拓する過程で開拓者の護衛や開拓村の守護や危険地帯の解明や魔族の討伐等を疲弊した国家にかわって請け負った混珠こんじゅ最初の冒険者達。〈赤毛男〉こと戦士タリス、〈家出森亜人エルフ娘〉こと野伏クニア、〈糸目の苦労人〉こと錬術れんじゅつ使いスロード、〈栗毛の突進馬鹿〉こと貧乏神官戦士ソワード・ルードの四人。冒険者という職業を確立した存在。冒険者における役割分担、相互支援のノウハウを一から作り上げた。その後何人かは辺境諸国の王侯の祖となり、冒険者制度の確立に尽力。その後、連合帝国や諸部族領にも公的機関より素早く動き手軽な冒険者制度は普及していった。



 エティエンヌ・ソアフ・パロン


 〈三代目勇者〉にして〈二代目勇者〉の従者、身元なき孤児のエティ。金髪碧眼の儚げな少年。こことは違う世界から来たと語った、明確に確認される限り最古の転生者。ただそれ以前にも転生者がいて、名を上げなかった、自分が転生した事に気づかず異国に漂着したと思っていた、人間の歴史と交流せぬ魔族などに転生していた、正体を隠していた等の理由で知られていなかった可能性はある。というか、リアラの目線からすれば、〈太陽と月に背きし〉フラティウス、〈聖剣砕き〉ルキウス・カストゥス等、この人は転生者だったのではないかと思える地球風の名前を持つ物がこれ以前にも存在している。ともあれこのエティは、一瞬だけ勇者だった人物、とも言われる。当時、神々を信じる事の出来ない悲観的な性格で事実一切の魔法を使用できない体質だったが、〈二代目勇者〉の従者として勇者の仲間達と共に過ごすことで徐々に明るくなっていき、二代目魔王との戦いで〈魔神骸マジンガイ〉を用いることで初代魔王を越え魔神に近い力を得た二代目魔王に二代目勇者が仲間を守って死亡した瞬間勇者として覚醒。二代目勇者が乗り移ったが如く二代目魔王を〈魔神骸〉ごと粉砕した。その時語った、「わかった。僕の前でなぜ奇跡は起きなかったのか。なぜ僕に神の加護は無いのか。聖地ではなく此処で、聖地を解放するのではなく魔神を倒し世界を救う為だったんだ。それが、僕の贖罪なんだ」と語ったその言葉とその奇跡的戦果が、今でいう欲能チートによるものだったのか、彼の魔神をも恐れぬ勇気の為だったのかは定かではない。戦後、功績により壊滅した旧魔王領を納めていた滅亡したソアフ・パロン騎爵家を次ぐ事になるが、〈二代目勇者〉に操を立てていたエティは結婚せず一大で断絶した。この事から、身元不明者を明日の勇者やもしれぬと尊び、ソアフ・パロンという貴族に準じる名字で呼ぶ風習が生まれた。リアラの名字はこれに因む。その後真竜シュムシュ教徒としてのシュムの姓を受けた為、王族真竜シュムシュ教徒あるいは真竜シュムシュ宗家を意味するような姓名となっている。なお、リアラという名前のほうは、救出直後の譫言の内そう聞こえる言葉があったのをソティアが名前としたものである。



 スヴァリア・ツキイム


 〈四代目勇者〉。最優の勇者とも呼ばれる。初代勇者を思わせる黒髪黒目だが初代勇者と違い優しげな少年。過去の勇者達に劣らぬ勇気を持っていたが、それ以上に優しく理想主義者であり、 その優しさゆえに仲間を得、その甘さゆえに敵を得、優しさを捨てぬ強さによって敵をも味方とした。三代目魔王との魔神戦争を思わせる地形が変わるほどの激闘の末、三代目魔王と和解。戦いの結果力を落とした三代目魔王から離反した魔族を除いて、という限定的な結果ではあったが、魔王に従った魔王軍の大半を草海島に住まわせ外部侵略を行わせない和議を結ぶことに成功した。戦後、消耗した三代目魔王が死ぬまでの間、夫婦として過ごした。



 ドンワーダ・ン・ラスノリア


 英雄種豚鬼オーク・チャンピオン。三代目魔王軍陸将爵。豚鬼オークは様々な種族が存在する犬鬼コボルトともまた違い育ちによる後天的変化が激しい種族であると言われており、その生きた見本とされる。記録に残る最初の姿は、人魔の融和を唱えた〈魔聖女〉リィルオサ・ラスノリアの保護していた孤児で、極めて愛らしいぷにぷにした桃色の肌と円らな瞳が特徴の二足歩行する子豚のような姿だった。記録に残る第二の姿は、魔王覚醒によるパニックの中、魔族と疑われ殺されたリィルオサの埋められた死体の傍らに立ち続ける、干し肉の如く痩せ肌も褐色に皹割れた姿だった。記録に残る第三の姿は、彼の前の陸将爵たる魔鬼ラクシャサが味方を巻き込んででも人間軍を砕くべく放った大規模魔術に巻き込まれ仲間の屍の中傷だらけで呻く、首に亡き〈魔聖女〉の衣の一部を巻いている事を除けば他と同じ様な豚鬼オークでしかなかった。そして記録に残る第四の姿こそ、その先代魔鬼陸将爵を追い落とし成り上がった、巨鬼トロルに匹敵する背丈と力鬼オウガに遥かに勝る筋骨隆々の豚鬼オークとは思えぬ逆三角形に引き締まった体を持ち、魔鬼や霊鬼アスラに遥かに混ざる魔力をその闘気で得るに至った史上最強の豚鬼オークとしての姿だった。絶命的鍛練を克服した豚と言うより猪の髑髏を思わせる肉の削げた顔は恐ろしく、その人を憎み魔をも憎む心は尚恐ろしく。故にこそ、スヴァリア・ツキイムへの試練として立ちはだかり続け、それでも尚理想を捨てぬスヴァリアに母のごとく慕う〈魔聖女〉の面影を見て、魔王軍を裏切りスヴァリアに従い、歴代最強と恐れられし、魔王でありながら勇者としての資質も併せ持ち〈魔王勇者〉と恐れられた三代目魔王との対決を助けた。



 それ以外にもまだまだいるが……


「「…………♪」」


 二人、他にも参考になりそうな文献を運んでは積むロドの動きを背景に、並んで座り、本を読む。静かで、穏やかな一時。そんな二人が、この伝説にリアラやルルヤの名を刻む事ができるかどうかは。その時まで混珠こんじゅが存在し続けられるかは……戦いの果てにしかわからない。そしてここで得た事がどのようにいかされるかは、それはまた別の話にて語られるいずれふくせんとしてきのうする事になるだろう。

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