・第二十二.一話「追憶の旋律」
・第二十二.一話「
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夕闇と篝火の中を。星と月の下を。花々と共に、二頭の美しい竜が舞っていた。
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苛烈にして孤高、そして悲愴にして孤独であった太陽の沈んだ夜に。
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月に光を宿させる、共に寄り添う未だ幼く若い小さな太陽の竜が舞う。
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太陽が沈む夜を照らす、闇を見張る凛とした月の竜が、その傍らを舞う。
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その周囲を、花の如く美しい女達が、囲むように舞っていた。皆から見える、女達の持ち込んだ高い舞台で。
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砂海の長が弾き熟す、《霊曲》は、曲調を変えていた。横たえられた将軍の傍らで、長が爪弾くは昂ぶり戦い勝利を切り開く為の楽曲では無い。
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体を癒し、心を癒し、悲しみを鎮め、怒りを鎮め、戦を終わらせ、明日を切り開く為の楽曲だ。女達の踊りは、歌は、その効果を拡大し強化する為の霊術。そこに、陽の竜が維持する【
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女達は笑って踊る。魔法の力で癒え始めているとはいえ、打たれ、斬られ、突かれ、痛みの残る体で。だから、普段と違って、ぎくしゃくした、ずっこけた踊りになっても、我慢した上での懸命な笑顔になっても。生き延びるために引きむしられ、切り刻まれ、はじけとんだ衣服の残骸しか纏っていなくても。笑って誤魔化すし、笑って堪えるから。笑い話にしておくれよ、と。
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傷の痛みを抱えた者もいる。倒れ伏し眩い光景を仰ぎ見る事しか出来ぬ者も、見る事か聞く事のどちらかしか出来ない状態の者も……それすら出来ない者も。
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そして、武器を手放したかつての敵も居る。最後まで抵抗と脱走を諦めず討ち取られた者も、その際に打ち倒されて生きたままここに居る者も居る。必然、仲間を討たれた者も、そのどちらにも居る。
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そんな男達に、女達は笑って呼び掛ける。……男達と同じように戦い、同じように戦いを終えた、男達と同じように己と仲間と心に傷を負った女達が。
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そして、竜達もまた。
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長の奏でる曲は、神話の時代から、神々の争い、
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陽の竜は、肌身に触れた孤独な太陽と交わした言葉を歌う。統一による永遠の平和を、遠すぎて無謀であれども、理想を齎さんとした輝きを。憎しみと相互不信が永遠に続く、その生まれ故郷の理への怒りを。同じ所から、陽の竜も来た事を。そして、この世界の人間はそれを超えられると信じたことを。超えられず争いが再び巻き起こったのであれば、それはこの世界そのものの敗北なのだと。復讐の戦いを続ける僕達が言うのはおこがましいのは分かってる。それでも、僕達は、僕達の復讐が、平和な後の世に繋がると信じたいのだと。僕達は皆を愛している。皆の傷は僕の傷だ、今も皆の痛みが悲しくて仕方が無い、でも、だからこそ頼む、負けないでくれと。何より、この音を爪弾く長もまたそうなのだ。と。
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逃れんとする《
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共に逃走者を阻止した教団兵に驚いたマルマル市防衛軍の皆も、それを知る。軍記を厳正にし、憎しみの連鎖を嘯きながらも、憎しみの連鎖が生まれぬよう努めていた、悲しいほど律儀で、それでも矛盾していて、だけども矛盾の先に矛盾も誤謬も無き果てを求めた孤独な太陽の思いを。
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そして月の竜は叫ぶ様に歌った。未だ辛うじて掴む端緒に至ったに過ぎない
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いつしか男達も歌っていた。槍や弓や灯を振り、鳴らしながら。彼女らが居なければ勝つ事も生き残る事も出来なかっただろう
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その晩の後、陽と月の竜は砂海を後にした。後に出来ると信じられる答えを得て。目指すは、蒼と緑の諸島海。挑むは、混沌たる力の化身。故、砂海の物語は、一先ずこれにて。
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