・第四十八話「異世界の主役は貴様等ではない! (後編)」
・第四十八話「異世界の主役は貴様等ではない! (後編)」
かくして〈国際諸楽祭〉、リアラとルルヤの舞台である。
(状況は……良くないなあ)
上がる前の幕を前に、リアラは悩んでいた。
正直これほど悪いコンディションで舞台前という状況は滅多に無かったぞ、いや、舞台の重大性を思えば、はっきり言って絶対に過去最悪だ、と。
『
それは、一つ一つは美辞麗句だ。だが組み合わせれば、諸島海と砂海の民と連合帝国の間にじわりと鎖を打ち込む。
連合帝国から諸島海と砂海に今後の人道支援を約束しながら、嫌らしい程に巧妙な言葉選びと隠喩と雰囲気作りで、諸島海と砂海が連合帝国の盾にされているとそういう事は道義的に許されないからそうしないようにしなければと暗に対処の必要性を匂わせる事で思わせ、連合帝国の平和を強調する事で諸島海と砂海の民の自らの不幸を嘆く腹立たしく思う心を増大させて結果的に連合帝国を恨ませ、多額の支援を誇張する事で連合帝国の民に結果的に保身と吝嗇の心を喚起し妥協に走らせんとし、平和主義の名の元にナアロ王国で虐げられる民の存在への忘却或いは無視を連合帝国の民の心に方向付ける。
これをあくまで平和を尊ぶ詩歌でやってのけるのだから、『
実際『
ついでに言えば、連合帝国の『
辺境諸国や鉱易砂漠や諸部族領の純粋な混珠の歌や劇や物語等と事なり、新味があると言えばそうなのだろうがどこか穏当に言えば捻りすぎな、はっきり言えば今正に本気で世界や国家の命運を賭けて戦う事や善や正義を尊ぶ事について冷笑的な、平和と正義、日常と理想、法秩序と大義・義侠を対立的に描き、前者を尊び後者に違和感を覚えさせるような巧妙な印象操作を行う作品が目立っていた。
無論それらの前者そのものが悪いのではなく、無思慮にそれを他のものを貶める手段として使うのが問題がある行為なのだが。
これは『
一つ一つは小さな、干渉とも言えない程度の、僅かに眉を潜めるような、微かに溜め息をつくような規制と自粛。だがそれが積み重なる事で、薄紙を張り合わせた上に漆が塗られ金箔が張られ気づけば誰も中身が空っぽの張り子だとは思わない立派な飾り物が出来上がるように、場の空気が作られる。
それらがリアラとルルヤの二人の公園の為に場の雰囲気を盛り上げようとした仲間達が送り込んだ演者達の講演の間に巧妙に差し込まれ、どうにも盛り上がりきれない空気を作っていた。諸島海と砂海の奔放な文化を不謹慎だとか良くないとか性的だとか思う雰囲気や、勇壮な狩りや武を残酷や野蛮と思う雰囲気を、『
(……けど、一番良くないのは)
黒い金属のビキニアーマートップに覆われた豊かな己の乳房に、リアラは手を置いて俯いた。
今一番良くないのは、自分の心だ。乱れている。この状況を作った『
(『
あいつが示してきた、絡め取るような和平交渉。それを、一旦保留した。ルルヤさんは、まだ交渉は始まったばかりだから一旦置いたのは何も間違った事ではない、と言ってくれた。実際、相手も押し引き硬軟、手練手管の交渉だった。こちらも強く出て様子を伺うのは一つの手であったかもしれない。それで和平交渉が無しになるのであれば、そもそも最初から相手は駄目元というよりは誘いの罠に近い考えであり、元より手を取るに値しなかったと言えるかもしれない。
だが。そういう考えと、ルルヤさんに言ったルルヤさんの怒りの感情を案じる心、それ以外にも。
やはりそれでも、これでこちらが和平を保留した結果戦闘に至ったのであれば、たとえそれが成る程確かに打算の横行と不正義への屈服かもしれなくても、それで味方の人間が死ぬという事は言ってしまえば自分が仲間を殺したという事ではないか、そんな苦悩と自責が際限無く沸いて出る。
ルルヤさんと、我が身を比べてしまう。ルルヤさんもまた、強い怒りを持っている人だ。けれど、それはどこか、後天的についた傷のように思えた。初めて会ったその時から、そう感じたからこそ、あの人に見とれ、止めようと思い、そして今こうして一緒に戦っている。
例えれば、磨りガラスは溶かして固め直せば透明にもなるだろう。ルルヤさんの心はきっとそんな感じだとリアラは思う。けれど、鉛は溶かして固め直しても鉛色のままだ。自分が鉛ではなくガラスだという自信は無い。
(ゼレイル・ファーコーン……)
こんな心の乱れを感じたのは、あいつの手練手管でも交渉術でもない。唯只管あいつが突きつけてきた仲間と無辜の民の命という観点と……いや、それは、正直全員を完全に守りきれるだけの力があれば意味の無い不安で、それは敵にぶつけられたものというよりは、自分の中にある無力への不安だ。
(あいつの、あの、目)
問題なのは、それを言った時のあいつの目だ。あいつ自身は気づいてなかったろうけど、あれは
仲間と無辜の民の命という不安を抉られたのは、自分達の力不足と、そして何よりあいつの目だ、ルルヤさんが僕を止めに入ったのも、それに気づいての事だ。
あいつの目には自分とその欲望以外の何かを守ろうとする光があった。あいつは誰かを守ろうとしている。それも
……愛する誰かを守ろうとする思いが、どこまでが自分の欲望以外の存在である他者の命を守ろうとする行為で、どこまでが愛する人を失いたくないという自分の欲望を守ろうとする行為なのか、上手く切り分けるのは難しい、というのは、あまりにも人間の感情や心というものを残酷に解剖しすぎた発言だろう。
そんな思いとそれに関する葛藤がこうして頭に浮かぶのは、欲望を絶対とするあまり狂信者めいた存在も多い
復讐者である自分達に対し、被害者として対峙する相手。因果応報の連鎖としてそういう存在が現れる可能性はいつか来ると想定していた。それには負けないとも心に決めていた。
しかし同時にあいつの存在は、愛や正義と欲望の境目の無さで噛みついてくる。
俺もお前達も同じじゃないかと。愛する人の復讐の為に殺すお前達と、愛する人と共に栄える為に殺す俺達と、何が違う、どこが違う、と。
実際、死せる愛した人達の為に生きる者の集団を殺し尽くす自分達の復讐は苛烈だ。愛した人の死の為に人を殺せないのはその人を命がけで愛していなかったからだとでも言うように過激だ。だが、それでも。
(ルルヤさんは違うと言ってくれた。そう言い続けろと言ってくれた人も居た)
……かつての『
今、自分はそう言えているか。……名無、ミレミ、ユカハ、フェリアーラさん、ルアエザさん達、アドブバさん、ハリハルラさん、ボルゾンさん、皆……
その命を引き連れ死地へと進軍しかねない今。それでも僕は人を愛してみせると、あの時誓った言葉を、今も言えるか……
「リアラ」
「ふぁひゃいっ!?」
ぽん、とルルヤがリアラの肩に手を置いた。ぴょこん! と緩い太めの三つ編みがびっくりした小動物めいて飛び上がる程リアラは驚いた。集中しすぎていたのだ。
(あ……)
一瞬、視線を上手く合わせられずに斜め下にリアラは逸らそうとした。直前まで目を瞑る程悩んでいた事が酷くどろどろとしていて、それが上手く言えないが後ろめたくて。
Chu♪
「!!!??? (
視線を背けた事でルルヤに向いた頬に、背けた視界の外から、軽く触れる、けど、何だか物凄く熱い感触。【
ルルヤは頬を擦り付けるようにして顔を近づけ、至近距離で視線を合わせると、微笑んでリアラの額をつんと指先でつついた。
自分あるいは相手の額をつつくのは、いざという時の為に決めたハンドサインの一つで『
(今更そんな事で悩む事ぁ無いぜ、リアラちゃん。そういう所が可愛いんだが)
(気にしないで、今は思いっきり歌って)
(敵の和平の誘いについては聞いたけど、私たちは別にそれをどうしても結べなんて言ってないぞ)
(交渉の結果戦略的に信頼性があるとかあまり期待できないし、裏のかきあい的に時間が稼げるって思ったなら判断は任せるけど、ってところ?)
(命を惜しまず戦ってるのが自分達二人だけで、私達の命は二人で背負うもの、なんて考え方は、優しいけどちょっとかっこつけすぎよ)
(俺達は俺達の判断で命を懸けて、俺達の命を生きている。今更俺達に関して命の心配なんてしないでいい)
(え? 民は? って、確かに民に覚悟を強いる事は出来ないし、心配する義務が私達にはあるけどさ。〈帝国派〉と休戦してそれで周囲の犠牲が減るかは、減る可能性もあれば〈帝国派〉が裏切る可能性もあれば〈帝国派〉があっさり他の派閥にやられちゃう可能性もあるし、その可能性が安定しない以上リアラちゃんの責任なんて減る可能性と責任者の頭数で割って考えれば全体の何十分の一以下さ!)
(大体、義務と権利は表裏一体。世界を守る義務があるってんなら、意見を世に問う権利だってあるっての! 〈皆さんは身の安全の為に人血を啜り地位を築いた連中がこのまま連合帝国に居続ける事を選びますか? それともそれらと戦いますか?〉って、肝心の民衆に問いかけるのはこれからの訴えでやるんでしょ!? それをどこまで訴えられるかは訴える側次第、訴え聞いてどうするかは民の側が決める事で、自分が決めた事の結果は自分の責任っしょ!)
(リアラちゃん達の歌が幾らとびきりでも、歌って訴えるだけで別段洗脳や魅了をするわけでもなし。歌った事や訴えた事や踊った結果や書いた事や作ったものが自分の心が良しとするままなら、それをどう感じるかは相手次第だし、それで自分がどうするのかは相手の反応を見た自分次第だし、どういう反応を見ても貫きたいと思っちゃった事は命懸けて貫くしかないの! ぶちかましなさい!)
「わっわっわっ!?」
もうじき幕が開く。緞帳の向こうには聞こえない程の小声であわあわするリアラ。【
それは、渡した護符で、各種通信魔法と【
その意味は、それを読めば今更改めて問い直すまでもない。
「皆に、聞いてみた。ああ、勿論リアラが嫌だと思うような事には配慮したぞ」
ルルヤは、補った。ルルヤ自身生真面目な所があり、潔癖な怒りなど二人揃って同じ穴に嵌まる事もあるが。それでも、やはり理性の強いリアラに対し、行動力が強いルルヤという違いが明確にあり、補い合う二人なのだ。
「リアラが太陽なら、私は月だ。私にはお前の光が必要だが……お前が照らせない夜の闇があるなら、それは私の出番だという事だ」
「ルルヤさんっ……」
闇の中の光、竜にして少女たるルルヤは、強く優しく美しく励ましの笑顔という光をリアラに降らせた。
「その闇が何処にあろうとも、な。……私は単純で、リアラ程深く考えられないが、その代わりに強くありたいと、どれほど戦いで傷ついても打ちのめされても、やはり今も思うのだ。恐れんよ。敵の闇も、お前が抱える闇も……私の闇をお前が照らしてくれると信じているから、それ以外の何も、私は恐れない」
その力強くも優しく、それより更に深く信じあえるという事が心の光を届ける言葉に。少年でもあり少女でもあり闇でもあり光でもあるリアラは、少し涙ぐんだ。
(……あなたの光になら、全てを照らされても恐れない。貴方という光があるならば、どんな夜闇も恐れない)
「共に往くぞ」
「っ、はいっ!」
迷いが、晴れた。
「……ところでさっきのちゅってのは(
「幕が開くぞリアラ、開演だっ! (
「ちょ、っとっ!? (
そして迷いが晴れたから気にする余裕ができたんだけど意識を動かすにしてもそのキスしたのは、と、具体的にどう問おうとしたのか自分でも判然としないまま問おうとしたリアラだったが、そのタイミングで動く幕を見据えてルルヤはこれを豪快にスルー。突っ込みかけるも幕が相手では仕方がない、と、リアラもあえて深く突っ込まなかったしその暇も無かった。
二人、揃って、少し頬を染めて舞台に立つ。
おお! とまず声が沸き上がったのは観客達の一部、辺境諸国や諸島海や鉱易砂海の、各国使節随員観客側等の面々やそれらの土地からこの催しを見に来た者達だ。
次いで、大半を占める連合帝国の国民達だ、それに釣られるようにざわつく。まだ大きな反応には至らないが、気配が揺れ動いた。
だが。
「……?」
「……」
ルルヤはいぶかしんだ。本来幕が上がれば即座に司会からの紹介があり、そして歌なり劇なりを始めて良い状態になる。だが、司会からの紹介が遅い。
リアラもいぶかしみ、しかし素早く頭と心を動かしていた。貰ったモチベーションが頭脳を回転させる。ルルヤに【
「こちら『
「了解。〈腐ったトマトと生卵作戦〉、開始」
一瞬連合帝国外から来た観客達の期待の声に同調しかけた連合帝国国民の中から、別種のざわめきが滲み出ようとする。『
「頼むわよ、『
「分かってる」
『
「それにしても、こんな事も出来るのにやっぱり通信魔法の傍受は難しい訳?」
「ああ。【
「……分かったわ。それじゃ、兎に角攻撃開始よ。キラキラした正統派をひけらかす奴等に、吠え面をかかせてあげましょう」
「面白いな、『
『
「けどまあ、
しかし、そこに『
「いや、
「……今はそういう事、いいから」
「分かってるさ、歌より、戦いだ」
その指摘に奇妙なざわめきを覚えた『
『
『
(さあ、どうする? お父様、お母様!)
それにどう立ち向かうのか。瞳を燃え立たせ、ラトゥルハは見据える。
出現の予兆をリアラとルルヤはほぼ同時に掴んだ。そして足を引っ張る作られた会場の雰囲気と纏めて対処すべく、二人は動いた。
DAWN!
「【GEOAAAAAAAFAAAAAAAAAAANN!!!!】」
一歩、舞台を踏み抜かんばかりに足を踏み鳴らし、ルルヤが前に出て吼えた。混珠世界が長く忘れていた、ほんもののりゅうのあしおと。真の【
「「「「!!??」」」」「「「「!!??」」」」「「「「!!??」」」」
ざわつきが吹っ飛ばされた。万座の観客が息を飲んだ。その一瞬。リアラが声を張った。ルルヤが【咆哮】を使うタイミングを通信で指示し、同時にあちこちに通信を飛ばしながらの絶妙のタイミングで。
「皆さん! 危機が! 迫っています!」
リアラの叫びが響くと同時に、すでに動き始めている者達がいた。既に出番を負えた者、舞台には立たなかったけど訪れていた者……〈無謀なる逸れ者団〉、自由守護騎士団、マルマル市軍、舞闘歌娼撃団、ハレーティン海賊団等……共に戦う事をまず最初に決めた者達。座席の間の通路を、舞台袖を、舞台裏を、座席の背後通路を、伴奏団席を、突っ走り、陣取り、身構えた。
「けど、大丈夫! に、します! 僕たちで!」「え?」「なっ……!?」
リアラが更に叫ぶ。観客がようやく反応する。事が起こったのはその後だった。
D、BAN! VON! VPA……!
「オ、オ……!?」「KSYA……!?」「GYA!?」
地面が揺れた。空中に魔方陣が描かれた。水道管が破裂し、噴水が爆発した。しかし、それらは奇妙に勢いを欠いていた。言ってしまえば、物陰から刺客が飛び出し襲いかかってきたのではなく、隠れ潜んでいたスパイがそこに潜んでいる事を見破られて怯んで逃げ出そうとしたような勢いだったと言えた。
地面を割り現れたのは、
爆発する噴水から現れたのは、重量ではそれに劣ろうが全長ではそれに勝るであろう蛇魚蟲。両生類と爬虫類の要素が混合した巨大なゴカイかイソメじみた魔蟲が、しかし飛びかかれずとぐろを射竦められた。
これほどまで巨大な魔獣が都市に突如出現する等、大量の魔族が攻め混む事と同じく本来魔王が存在でもしない限りありえぬ事。事実空中に刻まれた魔方陣から現れたのは、飛行型の
だがそいつらまでもが、馬が棹立ちになるが如く空中で混乱した
出現タイミングに完全に合わせた【
「何!?」「何だと!?」
同じくこの陰謀に関与しいた〈帝国派〉
突入させる魔の戦力は
「あいつら……!」「はは! 流石!」
実際、多重に防御魔術が展開されていた。それをルルヤが力づくで打ち砕いただけでなく、リアラも防御魔術が展開した時には既に斬撃を終える程の速度で突破していたのだ。
それはこれまでの激戦で成長したリアラとルルヤの、【
「♪♪♪♪!!!! 」
伴奏者席に立ったアドブバ首長が自分の楽団〈
「な、あいつら……!?」
『
ZAN!ZAN!!
次の瞬間、黒幽鬼二騎の首が飛んでいた。
(見抜いていますか!?)
その攻撃対象選択に、『
巨大魔獣二体は周囲への被害の為に優先して攻撃せねばと意識を吸引する囮。黒幽鬼こそが『
実はその眼球が示す通り魔族の血を僅かに引く肉体に転生した事で魔術を行使できた為襲撃を行う魔獣・魔族の強化に参加した『
「敵わぬと悟ったのであれば、倒される前に〈話が違う、我らの命は取らぬと言ったではないか〉と叫べ」
単なる妨害では力で潜り抜ける可能性はある、戦いながら歌うかもしれぬと、そこまで『
事前の〈
リアラとルルヤは、それを読み、見切って、阻止に来たか。三騎中二騎が一瞬で討たれた。だがあと一騎。黒幽鬼の耐久力はリアラとルルヤの攻撃力を計算して配置している。【
KBAN! TRAP!
「させない!」「おのれ!」
現場たる会場で、陰謀渦巻く舞台裏で、同時に叫びが交錯した。舞台裏で叫んだののは仕掛け人の『
「ありがとう!」「ああ! おかげで…」
リアラはユカハに対して叫ぶ。同じく堂々とした声で宣言を始めるルルヤと共に二体の巨大魔獣と流れるように対峙しながら。
「阻止しろ!」「兵を出しなさい、鎮圧と護民の名目で! イベントの中止を…!」
『
「「歌える!だから! 聞いてください!」」
その隙をリアラとルルヤは与えない。残る二大魔獣にも、全力で攻撃を加える事によって。犀羆大蜥蜴が己を鼓舞する様な咆哮と共に砦程度なら粉砕するであろう豪腕を振り上げる。蛇魚蟲が猛毒溶解液を噴射しようとする。
次の瞬間には犀羆大蜥蜴が崩れ落ちていた。たった今まで魔獣が立っていた場所には、黒い【真竜の息吹】を帯びた拳を突き出した体勢のルルヤ。同時に蛇魚蟲が白魔術と竜術で束縛されて地面に捻じ伏せられた。それを行ったのは、取り戻した心の力で一息に極めて高度な術の行使をやってのけたリアラだ。
「あれが……
客席に居た
(……汚い手で、ルルヤさんの舞台の邪魔なんてさせない!)
(……これで勝ったと思わない事です。まだ伏せた札はありますし……私達もより形振り構わなくなる。その恐ろしさを、貴方達は知る事になる)
リアラが《作音》で作成した音楽が鳴り始める。二人の歌が始まる。だがそれでも『
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