・第二十一話「サンド・オーシャン(中編)」
・第二十一話「サンド・オーシャン(中編)」
同時刻。マルマル市上空。発行する巨大な、具体的に言えばその中に人間の居住空間が作れる程の大きさの『空飛ぶ円盤』が滞空していた。全体が熱を帯びぬ光に包まれ発光している為、よく見れば単なる円盤ではなく幾つかの器官を備えている事が分かるが、その詳細は常人の目には分からない。尤も、そもそも地上からでは小さな光の点にしか見えない程の高度をとっている為、感知目視そのものが困難と言えるが。
「……どうやらおっ始まったか」
円盤の中は、現代と近未来、地球と地球外が入り交じった、言ってしまえばややチープなSF映画のセットのようになっていて、その中にいるのは、鮫のような笑顔を浮かべた海辺でバカンス中といったような格好をした若い男。
「見ればナアロ王国首席
ディスプレイ自体は既製品にSFチックな装飾を施した風ながら、壁と接触する少し手前で配線がこの空間を内包する飛行物体の不穏な正体をあからさまに示す様に魚の内蔵じみた生体組織風になる端末を操作し、遠方を飛行する両腕が翼状になった黒い《
「うちの大将は最強だが、考えるって事をしないからな。考えるのは此方の仕事ってのは、確かに〈同好の士〉殿の言う通りだが。あの大将に敵情視察なんて要るのかねえ……いや、俺達にゃあ要るか。大将が奴等を殴り殺すまでの間生存戦略生き残りたいって訳だ。やれやれ、大将に釣られて俺まで馬鹿になっちゃあ世話ぁ無い」
男の服装には、その所属を示すものが含まれていた。黒字に白髑髏と〈∞を掴む腕〉を描いたバンダナ。ジャンデオジン海賊団。
「……実際、へへ、おっかねえな。気ぃつけないとな」
男は偵察を続ける。ディスプレイが写し出す張るか彼方の地上の映像……今し対峙する三人、『
「下らん覗き見などどうでもいい。あの距離、あの数、情報収集以上の事はしてこんさ。さあ、勝負といこうか」
一瞥以上の価値は無しと、この戦は最初から、己と
「ああ、そうしようか。長引けばその分戦の被害が増える。行くぞ、リアラ」
「……はいっ」
ルルヤは、決然とした敵意と戦意の表情だった。リアラは……戦意を、懸命に構築した、といった表情で。ルルヤの傍ら『
『
「前にも言ったが。私の『
そう語る『
「ええ。それはそうでしょう。貴方は自分が神になりたいんじゃない。神を仰いでいたい、それが貴方の願いなのだから」
『
『
「この手に取らん神の行い、我こそこの世の主人公!
無神論を無視せよ、神を輝かせる為に!
科学を解体せよ、幻想を現実とする為に!
物質をぶち壊せ、魂を尊ぶ為に!
唯一を夢見よ、絶対を是とする為に!
この世に我が主を顕現せしめん、
FLASH!
閃光が爆熱を伴い、一瞬、その場に太陽が出現したかのようであった。爆熱が風を産み、砂と風をリアラとルルヤは堪えた。
そしてその後、風が収まった後にその場に現れた、『
「やっぱり……!」
「如何にも、その通りだ」
正にリアラの予想した通りだった……『
『
「今は私の理想通りに自立行動する形ある神の像でしかないが、何れ偶像を脱する。さすれば神罰は光の一閃でお前達を屠っただろう。神の拳に触れる幸運を噛み締めるがいい!」
「神を律するのは
「はいっ!」
豪語する『
敵の『
「【リアラ・ソアフ・シュム・パロン、
リアラが祈り、世界と繋がり力を借り受ける【地脈】の力を発動する。戦う自分達の為に力を使わねばならぬマルマル軍からは力を借りられないが、自分達の守護者の勝利の為に祈るマルマルの民、そして、この休戦期間中に持続期間・有効射程を新しく覚えた白魔術により増した《
漆黒の【
(速いっ! これは……!)
想定ではリアラとルルヤが相互に支援可能な間合いを保つ心算だったが、それよりも速く深く踏み込まれた。これではルルヤとリアラの距離が空き、連携が難しい!
「
「う、ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
GAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGA!!
更にルルヤが【
しかし、既に
「っ、硬いっ!」
しかし! 連打を防ぐ事は出来たが、反撃のダメージが殆ど通らない……どころか、手足に武器と同等の硬度を与える【
「(完全無敵なら無効化出来る、単に頑丈なだけか! なら!)これはどうだ!」
連打が途切れた所に、連打を捌いた腕を引きながら胴を捻り、回し蹴りを叩き込むルルヤ。やはり硬い! だが、重力の【息吹】を乗せた蹴りに僅かに相手も身を曲げて足を身だし、一瞬の隙を作る。その隙にルルヤは【骨幹】を発動、鉄剣を生成。既に付与された重力の【息吹】が、手を通じて剣にも伝わる。
GIRINN!! KIIIINNNN!
肘の内側へ、そこから脇腹へ。ルルヤの手首がしなやかに翻り、踊るような足捌きで【息吹】に加え遠心力を載せて切り込む斬撃が二連続でクリーンヒットするが……斬れぬ! 僅かに軋めど、凹みも、皹入りもしない!
「っ……!! (この、手応え!)」
ルルヤは理解する。最初に『
(こいつは殆ど、全身が動き戦う防御法術そのものか! 攻防一体、コイツへの攻撃は殆どダメージに出来ない!)
神に狂おしく絶対を求める『
「《神槍》《神雷》《神炎》《神拳》!」
更に『
ZGOU! FLASH! KYDOOOOOMM!! 「ぐあああっ!」
《神槍》を【
ZDONM!
だが【血潮】に【地脈】の力を注ぎ込んで回復、ブレイクダンスめいた動きで転等の衝撃を利用し即座に起き上がり、最後の《神拳》に【息吹】をぶつけ相殺!
「かはっ、はっ……(一発の威力が『
治りかけの焼けた喉で噎せる呼吸を整える。余波で周囲が壊滅しかねない程の威力だがそうはならぬ。自軍とマルマル市街を巻き込まぬ『
だがこの程度なら、まだ。問題は【地脈】のリソースを消費しきる前に、否それより先に戦局が決定的局面に至る前に、この堅牢をいかに突破するか……
「うあああああああっ!!?」「リアラッ!?」
その時、ルルヤの思考をリアラの悲鳴が断ち切った。
ルルヤが『
……攻撃を受けた直後、リアラは悟る事になる。この戦況を見、自分の気質を知悉している『
【息吹】の最初の連射を、『
その効果は、一般教団兵や《
ここで時系列が、リアラの悲鳴をルルヤが聞いた瞬間に戻る。リアラの矛をかわした直後、技の起こりを、技の狙いを隠す下から切り上げる様な軌道を描く、《神炎》《神雷》を付与され灼熱に燃え雷電衝撃を帯び、《神茨》で痛苦を増強された武器生成法術《神鞭》で、槍の如く鋭く剣の如く切れ味のある一閃を『
「うああああああっ!? あぐ、あっ……!!」
鞭は法術で強化された『
「させるかぁっ!!」
リアラの体から一旦離れ翻り追撃を叩き込もうとした『
「《神風》ッ!!」「うあっ!!?」
『
「私も飛べぬ事はないが、させぬよ! 何人にも! 戦いの場において他者を空から見下ろさせはせぬ! それが我が神の掟だっ!」
生前の怒りが作らせた対空攻撃特化法術を以てルルヤを空から叩き落とし、空中戦を封じた『
「くうっ……!?」「《神盾》! 《神剣》!」
鞭で武器を絡め取られる事を警戒し、リアラは【骨幹】で矛を剣と短剣に再構築していた。だが『
「はぁっ!」「っあうっ!?」
降り下ろされる《神剣》が、曲刀の曲がりを利用し防ぐリアラの剣に絡むように鍔競りした瞬間横に振り抜かれリアラの剣が吹き飛ぶ! 反撃しようとするリアラの短剣を、『
「せいっ!」「くあっ、あぐっ!? んぐうっ!? !」
その間に手首を返し、翻る《神剣》がリアラを押そう。脇から肩を逆に断つ斬撃にリアラはバックステップするが、かわし切れず胸鎧の一部が破損! 追撃の盾打が額に命中! 更に切り上げた曲刀が再度降り下ろされ、肩鎧破壊!
「お前は私に似ていると言ったが日本人! 決定的な違いを教えてやろう! お前は弱い! 我が心も法術も、絶対なる神を思い強靭! お前の弱い心では勝てぬ!」
「『
肩鎧を砕いた刀を翻し、リアラの首を取ろうとする『
「逆鱗を攻められるのは辛かろうっ! 不完全な仲間に不完全な情を注ぎ不完全な強さで抗う不完全な竜よ! その不完全な手が取りこぼすまで、あと僅かだぞっ!」
体勢を乱しリアラから弾き飛ばされる『
(凄まじい防御力……! これがこいつの特徴か! しかも、自覚して使っている!)
恐らく、回復法術も相当のものを持っているはずだ。それに加えて、この硬さ! リアラをわざと狙った事といい、心を攻めてきている。その硬さをもって、戦いが延びれば、マルマルの犠牲者が増える、と!
「小狡い真似を! そんな姑息な唯一神様とやらが、いてたまるものかっ!」
「逆だ、慈悲だぞ
怒号と宣告が交錯する中、猛烈な勢いでルルヤと『
盾が斬撃を弾いたと同時に弾かれた勢いで切り上げをかわしその切り上げで延びた『
させじと『
が、直後、【息吹】を放ちながら『
翻る蒼髪が『
それは言わば一心同体ならぬ一心二体であるが故の必然にして、その境地を作り出す『
(強いっ……手強いっ!)
『
『
切り上げ! 切り下ろし! 盾打! 上下に激しく揺さぶり盾打を混ぜて隙を抉じ開けんとする『
「《神運》!」GIKINN! 「何っ!?」
『
「ハァアッ!」「ちいっ!」
『
「
『
一発目を腕で受け、二発目も腕で受け、三発目をかわすが、四発目が胸元を直撃!
「かはっ!?」
鎧と肋骨が皹入り軋み折れ曲がり、乳房に激痛が走る。激痛は堪えるが、血ヘドを吐くルルヤ。そして、五発目は。
GWAAAANN! 「ルルヤさんっ!」
立ち上がり追い付いてきた、ルルヤを守ろうとするリアラと激突し轟音を立てた。リアラが五発目の打撃を止めたとも言えた。その手に形成した大盾が、ルルヤを打つ筈であった『
「無駄だ。……
それは同時に、リアラの動きもまた『
(違う。違う、それは……!)
ルルヤを守ろうとした事を、己の力で立つのではなく、ルルヤに縋って、ルルヤを守る事で己の心を守ろうとしたのだという『
「がぼっ!? う、げはあっ!?」
降り下ろした双刀を、猛り狂う戦象の牙の如く捻り上げての突貫変則刺突。直前で翻り刃を上に向けた双刀が、斜めに交差するようにリアラの胸の谷間を貫いた。肺が。心臓が。血が。……首筋を狙った斬撃の剣風が追い付き、三つ編みの髪が切れ解け舞い散った。
「……終わりだ」
だが尚、『
「
「ぐああああああああああああっ!? (ダメ、だ、倒れる、訳にはっ……!?)」
リアラに『
「《神よ、勝利と救済を! 天路の如く光の如く炎の如く、天上無窮無限極大なる絶対の法の如き勝利と救済を》っ! 《
最後の、全力の一降りがルルヤに突き刺さると同時、『
「あ……」
VRAZDOOOOOOOOOOOOOOOOOOOMMMMMMM!!!
大量出血に霞むリアラの視線の先で。ルルヤが、爆炎の中に消えた。
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