・第五十話「糾弾対峙の転生者(2)」
・第五十話「糾弾対峙の
〈帝国派〉の作戦は既に大きく動いていた。『
いかな太子が権力者とて巨大国家の構成員である以上、動き出した歯車の勢いを止める事は容易ではない。随分と抗う太子もいたが、時間の問題で〈帝国派〉の計画通りとなる。そうなれば後は権力を行使し〈
が、それは辛うじて間に合わなかった。『
これにより『
即ち、より直接的なクーデターにより
同時に太子達が
そして〈帝国派〉の
戦力については『
そしてそもそも〈王国派〉と〈帝国派〉の足並みの乱れの最大の原因〔面子と派閥間の上下関係という更なる身も蓋もない問題を除けばだが〕で現状の理由だった〈『
『
((この戦いにおいて、【地脈】封じは行ってほしいけど、帝宮の戦いにおいては出撃をしないでほしいの))
((なぜそんな事をする必要がオレにある?))
人形・兵器と思いながらも、必要にかられ、あるいは好奇心か、暇潰しか、他の連中よりはましと思ってか、男に飽きたか。気づけば合間合間何度か『
((三つ、理由になりそうな事を言ってみるわ。一つ。〈王国派〉が〈帝国派〉に提示した。『
((そっちの作戦にオレの力の一部を使うのに、か?))
そう『
((二つ。貴女はただ単に戦う兵器で終わろうとしていない。戦いを楽しみながらも、それ以上を求めている。その参考になるものを見せてあげられると、約束するわ。首は賭けないけど、他に賭けられるものなら賭けてもいい))
((へえ、確かにそいつは、魅力的な楽しみだ。けれど、それでメインディッシュを食い逃がしてもつまらないが……))
それを見るのも、見せられなかったお前に掛け金を請求するのも楽しそうだ、と、盾に長い瞳孔を持つ瞳を輝かせつつも、獰猛な表情を浮かべる『
((その2.5。メインディッシュを選べるコース料理もあるわ。私達に倒される程度なら、そんなメインディッシュを食べさせようとした相手をメインディッシュにするのはどう? その場合そっちの方が絶対楽しいわよ? 貴女は『
((おいおい、三つって言っといて、その2.5は無いだろ! はは、けど、そういう無茶や自由とかが本来の反逆ってもんだ、ってか?))
『
そんな此方の内心も知らずあまりに能天気に楽しがる『
((三つ。この戦いで駄目なら、もう貴女の邪魔はしない。都も帝国も諦める、私や他の道理の分かった奴は邪魔しないから、邪魔する奴も全部踏み潰していいわ))
((乗った))
だから最後に『
QPLLLLN! GQPN! GQPN! GQPN! GQPN!
「開戦の時間ね。行けっ、『
そして今、動き出す。現在の『
長い前哨戦は終わった。〈帝国派〉の作戦準備状況は、完全ではなかったがそれは戦の常であり、その上でなお、次善と見切りと割り切りと改善の上に、組み上げられた現実的な殺戮の罠。
それと、〈
『
『
そして、それ以外の者達も動き出し……
「『サンダーファイヤーライガーボーーーーーールッ!!!!』」
CRAAAAASH!
「くあっ!?」「ぐうっ!!」
豪奢な宮廷の調度品で覆われた壁が粉微塵に吹き飛んだ。炎色の目をした男が放った、運動用の球技に用いる
DOLUE!DOLUEDOLUEDOLUE!!
「うあっ!?」「ぐ、太子っ!?」
目に求まらぬ速度と何というか強烈な違和感と奇妙さのある、壁の中から出現し垂直にすっ飛んだりするような物理法則を狂わせたように異常な速度と効率で最適化された奇怪な動きで回り込み猛然とした高速で襲いかかった敵の攻撃の最初の一発が、帝衣を裂きルキンの肌に傷を刻む。しかし連続攻撃の二撃目以降は辛うじて半魔
「うぉおおっ!!」「むんっ!!」
もう一人の半魔
「早く殿下を逃がせ、後僅か……ぐ、ふっ……!?」
その横合いから、剣が突き立てられた。強化
それを行ったのは後から飛び出してきた『
「かはっ……っむうっ!」
血を吐き息を荒げながら、相手が刃を捻り己の内蔵が破壊され、自分がこれ以上背後を守るために立っている事を防ぐ為、もう一人の半魔
「体を鍛えてるのは悪く無え。お陰で即死させそこねた。だが、そんな綺麗で飾り気のある布切れを防具にするのは認めねえ。そんなけばけばしい戦いは許さねえ。美しいものは許さねえ。武骨で泥臭くごつい、それが現実の戦いってもんだろうが。日本のファンタジーみたいな異世界はこれだから
そいつは、混珠人からは訳のわからぬ事を言った。JRPGを嫌う洋風コンピューターゲームの信者めいた戯言。異界の偏見とそれを後押しする歪みによる蹂躙。力を得た事で倫理を失ったありふれた地球人の堕落の形。転生者。
「はは、行動が最適化されてないねえ! 最適化の為に効率的にズルしない奴は馬鹿だよ馬鹿! 古くさい奴も馬鹿だよ馬鹿! 今時王政だなんて、それだけで滅びに値するよ、最適化されてないねえ!」
「っ、ざける……な……! 戦える奴が子供を守らなきゃってのが何が悪い。ここに偶々迷い混んだ赤子がいたら、そっちも守ってた。その分早く死んだかもしれないがね……アンタが効率化が一番好きなだけで、あたいたち別なもんが一番好きな、そういう生き物ってだけさ」
最適を連呼するもう一人の人間怪物の戯言を、半魔の
「いずれにせよ、この試合はオイラたちの勝ちだぜ! 勝利! 勝利! ひゃっはは!」
運動用の
「……いいや、間に合った」
重傷の半魔
「【GEOAAAAAAAFAAAAAAAAAAANN!!!!】」
「【PKSYLLLLLLLLLLLLLLLLLLLL!!!!】」
次の瞬間、【
……太子達が二人を招待した時間より早く相手が動く可能性を考え、それより早期に開始した魔法的感覚による帝宮監視と、アレリド・サクン・パフィアフュがもたらした抜け道からの潜入可能な協力者達による侵入が、事前に行われていた。
その読みは的中した。即座に突入した。それを『
それ故に全速飛行で壁をぶち破っても尚このタイミングであった。しかし二人は間違いなく全力で駆けつけていた。妨げた者はすべて粉砕する
恐怖が敵を縛った。咄嗟の追撃も回避も発生する余地は無かった。
「どぅえええええっ!?」GKYLL!
「貴様の好みなぞ知るかぁああああっ!!」
CRAAAASH!
ズドン!
「ごっ。こ、『
矛を携えたリアラの突撃に串刺しにされ叩きつけられた
「唯でさえ本来楽しみや健康とかの為の筈なのに勝ち負け優劣で上下を作り人を見下し苛め痛め付け貶める道具に使われるのに! 傷つけて殺して! 何が
「ごへっ!?」
少しばかり虐められた前世からスポーツについて思っていた不満を問題発言と承知の上で溢しつつも、あくまでリアラは素早くそれを阻止するべく振舞った。ルルヤに比べれば劣るが十分超人的な力を持つ【
同時。
「う、お、あ……」
「再び我らの前に顔を出したな。そして戦に出て人を殺めた。残念かもしれんが当然、許すわけにはいかないな」
前の戦いで半死半生の目にあっていた『
ある意味理由を確認することで、これは確かな因果応報であり、だから行うのだと、自分の中の憎悪を乗りこなすように。
「た、助け」「お前達が殺し倒れている衛兵と侍女の内、誰か一人でも生き返り起き上がって許すと言うのであれば許してやろう」
そして、喉に閊える命乞いを必死に吐き出す『
(これは、助けるための戦い)(救い守る為の戦いだ。それを今は最優先!)
眼前には死体の山。リアラにとってもルルヤにとっても、過去の記憶を思い出させる光景。しかし、戦いの前、虐げられた人々の希望を繋ぐ為に歌うことを誓ったその時、憎悪をそれでも制御し乗りこなすと決めた。リアラもルルヤもそれを誓って進むことを選んだ。
(だけど)
すでに繰り広げられつつある惨状。ここに至るまでに〈タロット〉残党の一部等と戦ってきた。それにより突入速度を減衰され、それにより犠牲が生じた。
更にそれだけではなく、敵の中には、
その事実に、リアラもルルヤもやはり怒っていた。その可能な限り急ぎ、可能な限り倒した
それでもやはりじわりと、心の中の怒りの水位が上がっており、それが『
リアラは思う。代わりに怒る事ではルルヤさんの心は救えない。それどころか、自分をそう純情な存在だと思った事は無いリアラであるが、場合によっては自分もまたルルヤさんを襲うのと同じ盲目的ないかりの影響を受けているのかもしれないとも。
「助けに来ました!」
それを認識しながら、それでも、リアラは生き残った半魔
「複数の《専制詠吟》を含む
そしてレスキュー隊員めいてしっかり伝わるよう大声で告げる。
(それでも、助けられます。助けましょう)
と、ルキン達だけでなくルルヤにも訴えるように。ならばせめて、それでも尚心の清い部分を保つ事で抵抗しよう、と。そしてルルヤもそれに頷いて。
「は、はいっ……クーデターです、皆が、助けてくれて、ぼくは」
「ならば、クーデターを挫くのが弔いで責務。その為には正当なる者が生き残り己を保ちしかと叫ぶ事が必要だ。それこそが、最大の力で最後の切り札だ」
頭から侍女と衛兵の血を被り、さすがに僅かに声を震わせるルキンを、ルルヤはそう言って勇気づけた。生きて出来る事があるのだと。それは『
故にその言葉にルキンは覚悟を決め頷き。それを見守ったルルヤとリアラだが。
DOOOM……!!
同時、遠雷の如き爆発音!
(他の
(時間がありませんね!)
ルルヤとリアラの視線が交錯。【
「
「ああ、大丈夫だとも、リアラちゃんの助言と準備のお陰さ。悪い予感が、当たったみたいだな……」
急ぎ通信魔法を繋いだリアラに、
「こっちも戦闘開始だ。作戦通り、出来る限りサポートする。リアラちゃんはルルヤの姐さんと一緒の戦いの方に集中してくれ……本当なら大将首の一つでも挙げたいんだがな」
「ううん、助かる!」
「そう言ってくれるのは嬉しいや……仕事はきちんと果たす。武運を!」
僅かの、貴重な、絆と気負いとそれを和らげる友情。そして返事の暇もなく通信が切れる。向こうでも戦闘が始まった。代わりにリアラは誓うように頷いた。
「それじゃあ、後は」
戦いに向こうとする二人に、返答があった。
「待って下さい、あと
ルキンが叫んだ。そして、ボロボロの紙束を開いてリアラに見せた。それは共闘宣言の代わりで、つまり、先の怒りを見ても尚共に戦うことを選ぶとい答えであった。しかし同時に。
「ッ、これは……!?」
リアラは我が目を疑った。それは新たな情報、盲目的な怒りへの警戒情報だった。それこそはバニパティア書学国にも無かったこの
その文章には記されていた。古文で、癖字の崩し字で、汚れ、酷く読み辛い。だが、断片的にはこう読めた。
〈
それはリアラが探し求め続けた、ルルヤが稀に陥る盲目的な怒り、ついさっき自分も怒りを受けているのではと危惧したものに関する記憶ではないのか。
「前に二人とお話しした時から。何か力になればと。……情報戦が繰り広げられてる事はぼく達も感じていて、それで!」
ルキンもまた、状況を危惧し情報収集を進めていたのだ。それを聞きながらリアラはそれを一瞬で可能な限り咄嗟に幾つかの白魔術で分析し鑑定した。文献と言う程立派な物ではない。書き付けだ、走り書きの。メモに近いものである。これは一体何だ。保存魔法もかかっていない。歴史はどれ程だ。どんな人物が何を思って書いた。
「口伝……!?」
口語的な内容に目を走らせ、リアラの口から呟きが零れ落ちる。これは恐らく
「もしそうなら、辻褄は、合う…!」
これこそが、口伝として伝わっていたというのが事実ならば、道理で調べても調べても分からなかった訳だ。此処にこうして過失に因り残された文章がなければ当代の
その内容の信憑性は。これは偽書ではないか。そう考えて読んでも、少なくともこれまで得た知識と照らし合わせ見えている範囲で矛盾はない。これが口伝とされた理由についても想像はつく。この文献が残された過失についても、説明がつかないという事はない。
「けど、時間が……!」
リアラは強烈なもどかしさを感じた。これから戦闘。分析している時間がない。
「解読して、【宝珠】に掲示します!」
ルキンが叫んだ。渡した護符の効果について、
「ですから!」「わかりました! お願いします、本当に助かりますから!」
ですからこれは任せて。ルキンはそう言い切ることができなかった。それが最前線で戦う二人に対して、だから戦ってくださいと言うにはあまりにも軽い協力に思えてしまったからだ。それをリアラは大声で否定した。断固として。それは絶対に凄く助けになる事であり、とても重大な役割で、不要だなんて事はないのだと。
「……はい!」「……ご武運を!」
ルキンは、だから力強くリアラを送り出す事が出来た。《治癒》を受けた半魔
「行くぞ、リアラ!」「行ってきます!」
だからリアラは、今と未来への不安と背負った数多の命の重さに耐え、戦うことができる。ルルヤが叫び、再び翼を開く。リアラもそれに続いた。
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