・第五十八話「この美しくも醜い世界(中編)」
・第五十八話「この美しくも醜い世界(中編)」
渦巻く陰謀と打算を全て下らぬと嘲笑するように、今この場にあるのは自分達の戦いだと歌う様に、高らかとラトゥルハは叫んだ。
「さぁ行くぜ
ZDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDD!!!!
両手からの
先程までの戦いを見守っていたラトゥルハの、全身に仕込まれた魔法兵器が前回と同じくフルパワーで火を噴いた。上空を取ったラトゥルハから眼下のルルヤ目掛けて。この攻撃を前回、【
(さあ、どうする!)
ラトゥルハは凄まじい火力の奔流の源となって攻撃を愉しみ口許に笑みを浮かべる。ダメージ覚悟で全て防ぐか、以前と同じように周囲への流れ弾をある程度低減しながら回避するか。解法を思い付けぬ愚策である前者ならばこのまま射竦める。馬鹿の一つ覚えな後者であれば、空中から射ち下ろす状況からして前より更に大きな周囲への被害が出る事を受け入れるという、他者を守る正義の信念として実に残念な行為である。その情けなさを指摘した上で前回は切らなかった札で叩いてやろう。
だが、そうではないのだろう? と、ラトゥルハは爆炎の向こうで起こる事に期待した。先の戦いで更なる力を見せてのけたルルヤ、それに勝つ事を、あるいは更なる切り札との戦いを欲して!
ZZDOOOOMMNN!!
空中に連続する爆発! 爆発!! 爆発!!! ……空中に?
(? ……!?)
そして違和感に眉を歪めたラトゥルハは、直後驚愕と歓喜に笑う!
「うお、あ、はは! 何だ、そりゃあ!?」
「【GEOAAAAAAFAAAAANN!!】」
それは正に、あらゆる武器を兵器を弾き返して突き進む
続いて見たのは、過去と比べ遥かに濃密に集中し、剣に四肢に鎧に完全に揺らぎすらなくその黄金の鱗と鋼の大半を黒く染める形で宿る【
地球の重力の物理では質量的にあり得ない形でルルヤは重力の力・月の【息吹】を使って見せた。剣と手甲でラトゥルハの魔法を受け流すと同時にさながら衛星が巡るようにそれを絡め取って己の剣や腕の周囲で一瞬回転させ、腕と剣の動きで加速して射出。それを次の魔法にぶつけ、その次の魔法をまた絡め取って更に次の魔法にぶつけ、魔法の半分を打ち返す事で相殺しその間に接近したのだ。質量的にそこまでの勢いで他者の運動の機動を歪める事は物理的に不可能、そもそも相手は本来重力の影響を受けない筈の魔法攻撃だ。しかも
「何だっ……!?!?」
前回の直接対決よりも遥かに、先程の帝宮での戦いよりもこの短時間で更に研ぎ澄まされ際立ったその凄まじさ。何だって、と思う暇もラトゥルハには無かった。
想像はしていた。だが上回られた。その隙にとうとう全て跳ね返された魔法の最後の一発が相殺を乗り越え発射口に直撃! 両肩鎧、両手指を破損するラトゥルハ!
「ぐっ!!このっ……!?」「せぇえいっ!」「がぁっ!?」
同時に至近距離へ踏み込んだルルヤ。両腕へのダメージから咄嗟にパイルバンカーを使用し迎撃するラトゥルハ……その動きをルルヤは完全に読んでいた。元より両手はラトゥルハの攻撃を防御するのに全力で使っていた為か、空中を突撃するルルヤの攻撃はパイルバンカーの死角であるラトゥルハの足元を潜る様に、突撃の勢いを乗せたまま空中で滑り込むようにしての水面蹴りじみた高速回転足払い。脚甲を着けたルルヤの足がラトゥルハの足首を払い、巻き込まれるようにして体勢を崩し弾き飛ばされるラトゥルハの更に回転を終える勢いを乗せての追撃の蹴撃と剣の投擲!
先の戦いでパイルバンカーをモロに食らって吹っ飛ばされた意趣返しとばかりに、投じた剣を蹴りで背中にぶっ刺され、吹っ飛んで叩きつけられるラトゥルハ!
「ッシッ!」
元から強かったが、更に洗練された動きを示し、軽く息を吐き構えを取るルルヤ。その戦闘能力は明らかに最初の戦いの時を大幅に越えていた! 達人!
「っのっ! この程度で、倒せると思うなよ……!」
だが対するラトゥルハも【
「けど、一体どうやった
尤も手指だけではなく内部爆発で装填していた魔法記録媒体もダメージを受けた為発射口が無事でも射撃は不可能だったろうが、それはおくびにも出さず、またこの程度大した損傷ではないと平然問うラトゥルハ。
「魔法力の確保手段の追加だけが私の成長だとでも思ったか。お前らが参考にしたデータは、昨日の私でしかないという事だ」
それに対し堂々とルルヤは答えた。……これこそが、戦闘開始前にルルヤが語った〈今の自分の全力〉、『
(私もまだまだ未熟だった、という事だが……まだ成長できるというのは、悪い気分ではないな)
若干の反省と共に、新しい戦闘スタイルに集中するルルヤ。新しいといっても、出来る事が増えた訳ではない。最高位竜術……【
ルルヤが行ったのは、既に使える術の洗練と組み合わせと習熟だった。これまでルルヤは、力で勝る相手に【地脈】で対抗してきた。だが『
あの時はリアラの機転で勝てたが、それが通用しない相手が現れる恐れはある。となれば、少しでももっと強くならなければならない。力が足りないなら、技で補う。より緊密に組み合わせて相乗効果を増す。
【
例を挙げれば、【眼光】を単なる動体視力の向上としてではなく【観察眼強化により真偽を見抜く】効果を応用し相手の攻撃の狙いはどこか・どれがフェイントでどれが本命か・相手の攻撃の意図は何かを元々出来た武術的な先読みに加え予知的に見抜くレベルに高めた。飛来する魔法弾と【息吹】を弾き返せたのはそれもあってこそ。
流石に完全に相手の攻撃の全てを先読み出来る程ではないが、使える全ての武と技を最大効率で組み合わせたそのあり方は、一回り成長したと言っても過言ではない。皮肉にも窮地に次ぐ窮地は、ルルヤを加速度的に鍛え上げていた!
「まあ、いい。その方が楽しめる」
だがラトゥルハも牙を剥き笑う。その輝きに魅せられたように。その牙の間から、炎が情熱の如くちらちらと溢れる。
「それならこっちも次の段階だ。新しい力があっても、【地脈】の遠隔行使で得られる魔法力の残量はあとどの位だ?」
ラトゥルハの全身を強大な魔法力が巡り始める。搭載された魔法兵器の損傷等何程の事も無いとでも言う様に。これまでルルヤ達に使用を禁じる牽制程度に留めていた【
「その力、どこまで振るえるかな! オレも本気でいくぞ!」
「確かめて見ろ!」
猛るラトゥルハに毅然と対峙するルルヤだが、その内心は穏やかではないどころか極限状況に等しい苦悩であった。驚くべきはそれで尚未だに武技にも振る舞いにも乱れの無いルルヤの克己心と気高さよ! だがその懊悩は一拍毎に増すばかりだ。
(リアラ、リアラ……!)
リアラの戦況が、予想より遥かに悪い。『
ZDOOOOOOOOOOOOOONN!!
「……っ…か……っ!? ……はっ……」
帝都上空に轟いた大爆発。砕け散った隕石の欠片が散弾めいて家々の屋根を穿つ。区画が一つ丸ごと、爆撃を受けた様な有り様に成り果てていた。
その中心のクレーターのど真ん中に打ち付けられ、血反吐を吹き上げリアラは痙攣した。元々肌も露なビキニーアーマーの大半が砕け散り……
「かっ、はっ、ごほっ……っ……」
手甲の取れた剥き出しの、傷だらけで汚れた片手を、震え、もがきながら、抗うように天に掲げた。
「死んでねぇのか。何だその手は。足掻いてんのか? 命乞いか? 止めろってか? 生き残りたいってのか? 人殺しが」
GRRRRRR……!
地獄の裁きの如き煮え滾った声で獣めいて唸り、『
(殺す、殺す、殺してやる! よくも、よくも俺のテルーメアを!)
『
「死ね!」
追撃隕石落とし更にもう1発! ゼレイルの脳裏によぎるテルーメアと初めて出会った時の戸惑いがちな表情、おずおずとした距離感が縮まっていった日々!
「死ね!」
上空隕石存在可能性途絶、
「死ねーーーーーーっ!! !!」
更にもう一発同一威力同一精度の極限攻撃
爆発! 爆発!! 爆発!!!
「っくううっ……」
「くそぁ!!」
のたうち回り尚足掻くルルヤの呻き。仕留めきれぬゼレイルの怒号! リアラが掲げた手の先に死力を振り絞り形成した【
「避けるな! 死ね! 死ねよぉらぁっ!!」
血を吐く様な絶叫咆哮と共に急降下しながらゼレイルが
「駄、目だっ……!」
立ち上がったルルやはそれを【
「何がダメだ死ねぇっ!」
発射戦斧着弾噴煙めがけしゃにむに急降下するゼレイル。両手に持ったコピシュを全力で振り上げリアラの両腕を着地の勢いで両方一度に切断せんとする勢いだが、
「づうっ!?」
直感的に身を捻ったゼレイル。直後緑線の入った『
「く、しゃらくせぇっ!」
急降下の風圧で粉塵が吹っ飛ぶ。再び露になるリアラの姿。身を反らしたゼレイルと丁度逆の方向の肩を前方に突き出す様に屈めた姿勢から防御体勢に戻ろうとしていた。その背中には与えた覚えの無い何かを毟り取ったような傷跡。
妖精の羽の様に薄く煌めく、リアラの【
だがゼレイルはそれをかわした! 急降下両手同時振下斬撃の予定が急降下片手振下斬撃後着地片手横薙ぎに変化したがそれだけだ! ゼレイルは止まらぬ!
「死ぃねぇっ!」「うぁっ!?」
ゼレイル急降下片手振り下ろし斬撃! 盾破損! リアラの体勢が乱れる!
「死ねええっ!」「あぐあっ!!」
ゼレイル着地後片手横薙ぎ斬撃! 片手槍破損! リアラが吹き飛ばされる!
「逃がすかぁあっ!!」「ごほぉっ!?」
翼を羽ばたかせ地を蹴る足裏に爆発的に超小型の竜巻を発生させゼレイルは加速!
吹っ飛ばされるリアラに追い付き、自身も竜巻と化したが如き猛烈な回し蹴り! リアラの腹に直撃! 【
「殺してやるぁあああああっ!!」
そのままコピシュ二刀流を再度振り上げるぜレイル! 凄まじい殺意! その背後、未だ明けぬ夜空を『
リアラは見た。吠えるゼレイルの顎から滴る獰猛な殺意の涎だけではない液体を。その狗頭の古代エジプト風装飾に飾られた人身から再現なく溢れ落ちる涙を。
コピシュが、振り下ろされる!
そして解放された『
「【
GYP! GYP! GYP!
空中を《水銀瞳》という名前そのものの姿をした、表面に目を象った紋様を刻まれ銀色球体が十数個飛び回る。ラトゥルハの腰部追加装甲から飛び出したそれらは本来偵察用、飛行して使用者の刺客を接続し遠隔視を可能とする簡易《
GQPN! GQPN! GQPN! GQPN!
ラトゥルハの【眼光】の固有追加効果である破壊光線が、四方八方に展開した全ての《水銀瞳》から発射発射発射! 空中に火網を形成!
「これがっ、リアラの言ってた本当のオールレンジアタックかっ!?」
展開を目撃した瞬間ルルヤがその意図を理解したのは日頃リアラから地球の物語について聞いていたが故で、正に不幸中の幸いだった。紛れもなくそれは怪物を複数同時に使役する『
ロボットアニメであれば超能力パイロットの専売特許である事が大半の攻撃、実際普通であれば《水銀瞳》は一人が一個動かすもの、それをこれ程多数同時に動かせるのは【
「それでも!」「おっと!」「まだ私の方が速いッ!」「ちいっ!」
だがしかし、その火網をルルヤは掻い潜り、体に備わった魔法攻撃手段にダメージを受けたラトゥルハに急速接近! 突破し追撃せんとする!
《水銀瞳》は空中を自在に浮遊し小型軽量故に動きも軽やかだ。が、ルルヤの【翼鰭】は速度において《水銀瞳》を遥かに凌ぐ。そしてラトゥルハの【翼鰭】は機械化によりベクターノズルジェットエンジンを追加装備し、【息吹】の炎をブースターとして用いる事でその速度はルルヤに匹敵する。が、ルルヤの【翼鰭】には月の【息吹】の重力操作能力による自在にしなやかな機動性が宿っている。かつての『
「来い! 〈碧血〉! 〈光芒〉!」
「何っ!? こ、れはっ!」
《小転移》! 《小転移》!
ZDOM! SYL! GYRRRRRRR!GYRRRRRRR!
魔法! 魔法! 白兵攻撃二連! 突如出現した新たな二体の敵の攻撃だ! 《転移》系魔法は準備や距離の条件が厳しく、基本、事前に設定した場所から場所へとしか転移できず、出現にも一定のタイムラグが生じる。この場合はラトゥルハを事前に対象として設定したのだろうが、出現の速度故に奇襲的効果は本来無い。だがラトゥルハが配下めいた存在を呼んだという事自体が若干の驚きとなってルルヤを絡めとる。しかしそれでも尚、ルルヤは剣と【
〈碧血〉〈光芒〉と呼ばれたのは何れも身長
どちらも魚雷発射管や大砲や他空想科学的な各種火器類めいた装備を全身から生やしてはいるがその全てが実際は魔法装備、明らかに【
「こいつらはオレを作る過程で生まれた実験体! 架空戦記とやらを元ネタに機械化した
ラトゥルハの哄笑めいた叫びと共に、それぞれ架空戦記小説〈碧血の艦隊〉〈光芒の艦隊〉の名を冠した亜人型魔竜が二匹、完璧な連携で襲いかかる。装備だけではなく搭載疑似
更に言えば巨体の〈碧血〉〈光芒〉がジェット気流の【翼鰭】を吹かして立ちはだかるなかで機動力の劣性を補う包囲網を形成、ルルヤの足止めをして火力による集中砲火の命中率をあげる戦術的相乗効果!
「こちらも過去の戦いを思えば多勢に無勢を卑怯とは言わんが、小癪なッ!」
ルルヤはそれに一斉射撃を凌ぎきった【息吹】収束により対抗する! 使用可能な全ての竜術を融合する事による極限の【武練】増強!
かわす! 弾く! 弾いた攻撃を逆に当てる! かわす! 弾く! 跳ね返し敵に当てる! 弾く! 跳ね返し敵に当てる! 弾き返し敵に当てる! 弾き返し敵に当てる!
(リアラ……リアラ、リアラを! 助けに! いかないと!)
助けに行かなければ、止まる訳にはいかないという思いがルルヤの新たな力に更なる高みをもたらす!
「あぁ。正直信じられないが……小癪程度だな。この程度じゃまだまだ追い込みきれない、まだ届かないかよ! オレが!」
ラトゥルハは自前の目を驚愕に見開いた。攻撃反射で《水銀瞳》がバタバタ撃ち落とされていく。初めての攻撃である四方八方からの破壊光線にルルヤは既に対応している。何たる技量、何たる武才、何たるそれを支える強い戦意! 既に大半の《水銀瞳》が撃墜! これにはラトゥルハもまた心を燃やす。生きる意味、目指すべき目標、生まれついて与えられた生きる理由。それに加えて、芽生えかけているこの眼前の生き甲斐への戦意以外の感情も込めて、吼える……遂に切り札を解き放つ!
「なら! ……【
そのあまりにも恐るべき力を、あまりにも無邪気に。
力と意思と未熟と成長が陰謀の中でも踊り続ける。世界を尚かき混ぜるように。
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