・第二十五話「古の航海図(後編)」
・第二十五話「
「飛ぶ奴は此方に任せろ! 船長はガルンに支援を! 事情は大体聞いた、突破が前提、できれば撃破、という所だな、リアラ!」
そして戦いが始まった。本来の二人の目的が海賊船団への帰還である事を承知・優先し、ルルヤは叫びながら即座に重力を操る黒き月の【
「はい、ただ、あとこいつもですっ!」
【
「成る程、あれが……いいぞルルヤ!」
それを見たルルヤは『
「くっ、派手な色の鮫の魔法擬きに気を付けて!」
「分かっているとも、それっ!」
(成る程、言われてみれば、既に対決済みかっ)
自分達が来る前からジャンデオジン海賊団の脅威に晒されていたのならばそれは知っているかと、それならとリアラは改めて眼前の敵に集中。顎を押さえた蝿鮫を投げ飛ばし、再度の電送瞬間転移を行う前に【息吹】で射殺!
「魔法防壁展開完了だよ、ガルン!」
事実、《水壁》に加え自我耐久力を向上させる事で精神的な攻撃への耐性を向上させる《堅心》の法術も展開しX-JAWSにハリハルラが対応する事で、白兵戦に専念する事の出来るようになったガルンの戦いぶりは凄まじかった。
「来い鮫共! 幾らでも掛かって来い! 俺の力……今こそ見せる時なのだからな!」
空を舞うルルヤに届けとばかりに大音声を発しながら、シャパイダーが放つ粘糸とシャークイッドが噴射する目潰墨をかわし長い触腕を切り払い、ニンジャシャークがどうやってか……口や鰓穴は覆面で塞がっているのでそこから射出される訳でもなく、体の少し手前から空中に出現し発射されるのだ……放つ手裏剣を叩き落とすと、陸上行動にた快適性を持ち上陸してきたシャナコンダ、シャリゲーター、シャパイダー三体を同時に相手取る。
「「「SYAAAAA!!」」」
効果音を使い回した様な識別不能の良く似た鳴き声を三重に叫び、三匹の合成鮫が襲い掛かる。シャパイダーとシャナコンダは……後者はアナコンダとの合成であるにも関わらず理不尽にも……牙から毒液を滴らせている!
「むうんっ!」
だが食らわなければどうという事も無いと、ガルンはシャパイダーの口に櫂槍の切っ先を突っ込むと、そのまま魚釣りの様に顎に切っ先を引っ掻けてその筋力でぶっこ抜きシャパイダーをシャナコンダにぶつけた! もんどりうって転倒しひっくり返ってもがくシャパイダー、のたうち回るシャナコンダ!
「ふんっ! せいやぁっ!」
そこに即座にガルンは追撃。シャパイダーのひっくり返った腹を櫂槍でぶっ叩くと、柄を使い足に噛みつこうとするシャリゲーターの攻撃をガード。逆に柄をシャリゲーターの顎下に突っ込み、梃子めいて跳ね上げ……短い鰐の足がもがく露になった仰け反った鮫のどでっ腹ど真ん中に鉄拳!
「所詮こいつらは、何と混じろうが軟骨魚! 腹には骨もなければ腹筋を鍛えてもおらん! 鼻先に集中した感覚器官の防御も甘い!
血反吐を吐いてひっくり返り悶絶痙攣するシャパイダーとシャリゲーター! 立ち直るもそれを見て間合いをとるシャナコンダと対峙しながらガルンはそう叫んだ。事実自然界において凶暴強力なホオジロザメも筋肉の発達したイルカに体当たりを食らうと撃退されたり内臓破裂で死亡する事もあるという。それを知悉する海の民と野生の知恵だ! 更にその耐性から広報から襲いかかる多腕多脚型強化
「ほう、それは……いい事を聞いたっ!」
それに答えたのは、上空で猛烈な空中戦を繰り広げていたルルヤだ。重力制御による慣性を無視した極度鋭角軌道で白い羽の生えたX-JAWSの懐に易々と踏み込むと飛行速度を乗せた打撃でその内蔵を粉砕し、更に極小の嵐を纏って風の中を泳ぐ様に飛翔していたX―JAWSも粉砕!
「何の為の怪物化なんだろ……けど、こいつは中々しぶとい、でも、これなら! よし……おっと!?」
鮫の弱点はしっかり残るのか、と呆れながら、リアラはヴァンパイアシャークとやりあっていた。鮫の弱点は残っている割に吸血鬼の弱点はある程度無視するヴァンパイアシャークは厳密に言えばダンピールシャークなんじゃなかろうかというオタク的な疑問の雑念を振り払いつつ、内蔵を破裂させても再生し続けるヴァンパイアシャークに【息吹】を連続して撃ち込み、陽の属性を持つが故か流石に吸血鬼の弱点をある程度無視するとはいえここまで強力なそれは限界を越えるのか焼き切られた傷口を脆い石か灰の様に灰色に崩壊させていくヴァンパイアシャーク。だったが、そこにシャラゴンのブレス! 回避するリアラだが更に!
ZAPZAPZAP! FUYOFUYOFUYOFUYO……
「ち、逃げるか魚介類!」
「クライマックスはまださビキニアーマー! 俺の切り札はこの次拝ませてやる!」
安いCGの様な破壊光線を効果音と共に撒き散らしながら、シャラゴンを護衛に死にかけのヴァンパイアシャークを盾に
「うわっ!?」
「「「「カイトフラーイ! ブンシーン! スモークボール!」」」」
FLASH!! FLASH!! FLASH!! FLASH!!
それを阻止したのは、一体どうやったのか方法も原理も不明に、凧に自らを括りつけた姿で空中に上がってきたニンジャシャークであった。カタコトめいた声で何と叫ぶと一瞬で4体に分身し、4体共に何処からともなく小さな球体を放出。それは空中で即座に炸裂すると閃光と轟音と煙幕を発生!
「……唯の煙幕ではない、という訳か」
通常の煙幕ならば【眼光】と【角鬣】による強化知覚で構わず突っ切ったであろうが、厳密に言えばそれは煙と音と光の中の空間を瞬間的に歪める結界を生成し、一瞬でそれによる瞬間移動撤退を行うという限定的な特殊能力だったようだった。煙が出た時には既にその中に
「……逃げたか」
「の、ようですね」
「む……」
それに、ルルヤ、リアラ、ガルンの三者は三様に武器を収めた。海軍兵達も、あわせて撤退を開始しているらしい。
「ええと……どうやら」
そして、ハリハルラが口を開き告げた。
「仕切り直しした後、改めて簡単な自己紹介する事はできそうだね」
と。
暫くの後。戦い終わり、ルルヤがガルンを抱えリアラがハリハルラを抱えて飛び、4人は海賊船上にいた。ハリハルラが船長を勤めるその船は元々会場の様々な事態に神殿が対処する為の言わば海難救助船と病院船の機能を兼ねる高速船を改造した港艦だ。積載力には劣るが、速度に長け魔法装備を多く搭載している。
神殿の船を使うのはそもそもハリハルラが神官の出だからで、自身〈神官海賊〉という二つ名で呼ばれていると、船まで飛び戻るまでの間にハリハルラはリアラとルルヤに教えていた。
神官達による法術による通信、《
「皆、聞きなよ!」
がや、とした声が止んだ。皆、ハリハルラの方を見た。彼女は続けた。
「知っての通り、諸島海政府と海軍はジャンデオジン海賊団に降伏した。恥ずかしい話だけど……過去の歴史において別に空前絶後でも何でもない。魔王戦争や60年前の戦乱、諸島海政府が屈した事もあれば、逆に海賊団の大半が掟を忘れ悪に走った事もあった。人の事は言えないし、言う程大した事じゃあない」
豪胆にもハリハルラはそう言い切ると、続けて先の戦いについて告げた。
「君達。鉱易砂海の連中は、〈
「いいや、そんな事は無え!」「冗談じゃねえ、負けてたまるか!」「おおっ!」
この一言は、効いた。ハリハルラの船は神官だけでは勿論無く、平信徒とでもいうべき航海の世話になる船乗りや漁師達が船員の大半で、皆海に命を賭ける荒々しい面々だ、そう言われては自然と意地が燃える。船員達は沸き立った。
「良く言った! それじゃ、決まりだな! ……少し客人達と相談してくる!」
ハリハルラはそう言って短い演説を終え、艦橋から降りた。戦闘の後と言う事でひとまず船長室で休息をとらせ、その後今後について相談しようと待たせているルルヤ、リアラ、それとガルンと話す為に。
「…………・」
船員の大半が甲板に集まっている、無人の廊下。ハリハルラは僅かに唇を噛み、震える指先をぎゅっと握った。ほんの、二秒ほど。
すぐ後、それを振り払うように、癖になった小さな身長を補う大股の早歩きで船長室に向かい、扉を開け。
「やあやあ、お待た」がったんっ!! 「……せ?」
扉を開けた瞬間、派手な物音に出迎えられ……そして室内の光景は。
愕然と混乱した表情のリアラ。
少々驚いたのときょとんとしたのが入り交じった表情のルルヤ。
晴れ晴れとした、しかし真剣な表情のガルン。
そして。リアラはルルヤとガルンの間にガルンを通せんぼするように立ちはだかっていた。
「……え? 何が起こったの? どういう事?」
ハリハルラは面食らって呟いた。
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