タワケ解散

「総理は問題をごまかそうとしている!」

 今日も今日とて総理の友人が理事長を務める大学の問題が取りざたされている。

「いまはそのような話はしていない。それと、儂に対する疑惑について、証拠を持ってきてその論拠を示せと何度も言っておる。いいか? 法治国家において、疑惑ありと言い出した方がそれについての立証責任を負うのだ。何度も言っておるがな」

「またそうやってごまかそうとしている!」

「ごまかすとな?」

「そうだ。憲法改正という暴挙の問題をすり替えているのだ!」

 ここで野党側はミスをした。憲法改正について真面目に議論されて困るのは彼らの方である。

 だが総理の正論に押され、ついカッとなって言ってしまったのであろう。おそらく後悔しているに違いない。

「よろしい、ならば全面的に対決するとしようか」

「どういうことだ?」

「解散じゃタワケが!!」

 国会がにわかにざわめく。そして青ざめる野党関係者。東京都議会で中池友里議員が最大派閥を形成し、その土台をもって国政に打って出ようとしていた。さらに、彼女の持つカリスマ性に野党からも寝返りが続出しており、野党最大派閥の某政党の根幹が揺らいでいたのである。

 さらに、相次ぐ前党首のスキャンダルに、タガが緩んでいるを通り越して弾け飛んでいたのだ。党首交代を経てこれから締めなおそうとしている状況で、体制の立て直しもできないまま選挙に臨むのはもはや自殺行為というレベルであった。


「どうするんだ!?」

「どうもこうもない、やるしかないだろう」

「東京都議会選でぼろ負けしたのはついこの前だぞ?」

「うろたえるな、正義は我らにある!」

「ほう、その正義って言うのは何色をしているんだ? 赤いのか? それとも緑か?」

 ここでいう緑は中池党首のイメージカラーであろうか。都議会選の時から薄いグリーンのジャケットを愛用し、テレビの取材でも勝負服ですと公言していた。

 ここで緑と揶揄したのはあちらに寝返るつもりかという意図も含まれている。

「そ、そんなわけがあるか!」

 言っている方も言われた方も目が泳いでいる。世界水泳でメダルが狙えそうな豪快なバタフライだ。


「クックック、慌てふためいておるわ」

「敵の弱きを討つは兵法の常道ですなあ」

「まあ、そういうことじゃ。というかのう、あ奴らどうでもいいことをネチネチネチネチネチネチネチネチと……」

「あー、ストレスたまってましたね。まあ、あれです。あ奴らはすでに袋の鼠です」

「くくく、選挙に落ちればただの人。首を討たれぬだけありがたいと思ってもらわねばな」

「全くです」


 それから数日後。国会では厳かに解散が宣言された。立ち上がって万歳三唱する与党議員たち。苦々しくその光景を見つめる野党議員たち。まさに好対照ともいえる光景であった。

 そして野党の混乱は極地に達する。


「国民優先党に合流する!」

 中池議員が都議会囲議員のままに結成した新党への合流を宣言したのだ。そして中池氏からの返答はにべもないものであった。

「使えいない人は要りません。国会をいたずらに混乱させ建設的な議論を邪魔する。さらに国家の安全保障を軽視し他国を益するような言動を繰り返す。まさに売国奴としか言えません。

 そのような人をわたくしは徹底的に排除いたします!」

 野党議員たちはすでに息をしていなかった。そこに我らが総理の追い打ちが入る。

「そも選挙のたびに所属をころころと変え、主義主張すら変化する。やっていることは政権批判しかない。

 批判はまあ良い。人は間違いを犯すものだ。だからそれを指摘する際には同時に改善案も無ければフェアでないのではないか?

 そのような連中が政権を取ったとして、希望はない。もたらされるのは混乱のみであろうが」

 さて、これらの言葉は報道をしない自由によって黙殺された。

 だが総理が出演した報道番組で、制作側のあまりに不公平な言動が電波に乗って流れるにあたり、インターネット上では祭りが起きた。

 内容としては安全保障と憲法改正について語ろうとする総理に対して、キャスター二人は総理の疑惑についての話をやめない。さらにそのようにしゃべるような指示がキャスターに入っていたことが明るみに出た。

「まあ、言論の自由は憲法にも保障されておる。改正と言ってもここはいじるつもりは一切ない。ブレーンストーミングという手法もあるし、どのような戯言にも見るべき価値が含まれることもあるからの。

 しかし、勘違いしてほしくないのは自由には同じだけの責任がついて回るのじゃ。そこをはき違えると非常に醜悪なことになるのではないかな?」


 様々な混乱を経て、元野党最大派閥は崩壊し、国民優先党に吸収されるもの、合流を拒否され再び似たような党名で再結成する者など対応は様々だった。

 そうしてわずか3週間の選挙期間に向け国会議員たちの戦いは始まったのである。

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