ノブ、ヒデのラジオ相談室 2
ラジオから軽快な音楽が流れ出した。
「はい、こんばんわ。今週もこの時間がやってまいりました」
「うむ、ノブのラジオ相談室。今週も良しなに頼む」
「そうですね。では今日もばっさり言っちゃいましょう!」
はがきをめくる音がする。
「うーん……おおっ、これはすごい!」
「ヒデよ、どのような内容じゃ?」
「はい、日本の母を代表して物申すさまからです。書いてあることは一言。保育所落ちた日本死ね! だそうで」
「ふむ、少子高齢化が問題となっておるが、そのために労働人口の稼働率を上げようという話になっておる」
「核家族化が進み、祖父世代に子供を預けたりとか育児の補助を頼めないという事情もありますね」
「家族は助け合うものだとは思うが、なかなか理想通りに行かぬが世の常じゃ。政府としてもこの問題に取り組んでおるが」
「まあ、やるぞと決めてもすぐ動けるわけでもないですし、3分経ったら保母さんが出来上がるってわけでもないですしね」
「カップ麺か! とまあ、冗談はさておきじゃな」
「そうですね。まあこればかりはね。人の教育にはどうしても時間がかかりますし。そこで手を抜けば事態は悪化しかねません」
「国は人をもって基となす。その原則だけは忘れてはいかん」
唐突に鳴り響く電子音。ヒデが手元を見る。
「おっと、今話題にされている方からメールで追加のメッセージが届きました」
「ほう、なんと?」
「今すぐ私の子供の預け先を何とかしろと、それができないような無能な内閣は総辞職しろって言ってますね」
「クックック、これは手厳しい」
「まあねえ、お気持ちはわからなくもないですが」
「声が大きいクレーマーだけを相手にしておると対応の健全さが損なわれるしの」
「まあ、この日本死ねさんがクレーマーというわけではありませんが…おっと失礼、物申す主婦さんですね」
「まあ、対策状況は今申し上げた通りで、拙速で何とかなる部分もあるにはあるが、どうしても時間をかけねばならん部分が大きい」
「ですねえ。すぐ打てる手も打ち尽くしましたし」
「無認可保育園の実態調査と、補助金の支給じゃな。受け皿を増やすためである」
「ところで、保育園を建設しようとしたところ現地住民の反対に遭うケースも出ているようで」
「子供は国の宝である」
「ですよね。子供の声がうるさいとかまあ、わからなくもないですが」
「公共の福祉は場合によっては個人の権利に優先すると憲法にも規定があります。どっかの野党は9条しか読んでないみたいですけどねー」
「まあ、強権を使うのは最後の手じゃ。そしてそれは一度限りである」
「マキャベリズムの初歩ですね」
「まあ、それは良い。国民の皆様にはご理解を求めたいものではあるが、その上で問題解決により良いご意見があれば傾聴させていただくとここに約しておこうか」
「そうですね。では次行ってみましょー」
はがきをめくる音。そしてヒデが深いため息を吐く。
「これはひどい」
「ほう?」
「読み上げます。日常的な常識が書ける高齢者について、です。まあ、いわゆる団塊の世代ですね」
「ふむ。まあ、日ノ本の高度経済成長を支えてくださった先輩方じゃのう」
「そうですね。箇条書きにされている内容を読み上げます。
①年下の管理職の指示を聞かない(怒って怒鳴り返す)
②女性の先輩パートを必死に下に見下そうとする(仕事が出来ずに指摘さればーん!となる)
③スーパーの接客業なのに挨拶も出来ず頭も下げられない(クレーム多し)
④障害者用の駐車スペースで平気で作業する(社会的ルールに疎いどころか否定的=本社からのクレームにも従わない俺って男気あるうっ(????))
うん、すごい勘違いですね。長年働いた俺は偉いと思っているようで」
「まあ、あれじゃ。一言良いかの?」
「どうぞ」
「恥を知れ!」
「はい、ありがとうございます」
「人が国の基となると先ほど申し上げたが、老人も国の宝である。人生経験からもたらされる叡智は後に続くものの道しるべとなろう。そして、老人を見ることで若者は自らの行く末を知る。自分もいずれこうなるのだとな。
だが、誠に嘆かわしい。馬齢を重ねまくっておる。恥を知らぬ者は動物にも劣る。まだ犬猫の方が恥を知っておるわ。
考えてみてほしい。自らの行く先がこのような老人であると知ったとき若者は絶望するだろう。若者が絶望するような社会が健全であるわけもない。
あとはちと生臭い話になるが、自らが身勝手をすることで、そう振る舞ってもよいと若者が思ったとすれば、年金などの支払いも滞るな。それで困るのは自らであろうが。
想像力の欠如したふるまいこそ元凶である。謙虚さを忘れれ馬人間おしまいじゃな」
「はい、誠おっしゃる通りです。しかしながら今この国は多くの問題を抱えており、年金だけで老後を過ごすのも難しいことも事実。無論政府としても対応はしております」
「まあ、長年のツケが噴出しておるな」
「遺産というとプラスしかないとよく思われがちですが、負の遺産という言葉もあります。我々の世代はそれを背負わなくてはいけない。たとえ理不尽であってもですな」
「まあ、ぼやいても国の借金は減らぬ。借金を減らすにはより稼ぐか節約するかだ。まあどちらにしろ痛みを伴う」
「そこは選挙という国民の意志を問う方法がありまして、その上で投票をしていただきたいと切に願います」
「権利の放棄は最も愚かしい行為じゃの」
ここで軽快な音楽が再び響きだす。
「さて、それではお時間です」
「今日も有意義な議論が……できたのかのう?」
「それはリスナー様が判断されることです」
「うむ、そうじゃの」
「では、また来週、このお時間にお会いしましょう」
「著作、制作は内閣府じゃ。また来週!」
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