外地の動乱

 文禄4年、台湾。

「伯陽王、倭寇です!」

「豊久殿、迎撃を」

「承知!」


 明国内は政治的混乱が続いていた。北東部の女真族が英雄ヌルハチを得てまとまりを見せ、長城に攻め寄せている。外患がありながら権力争いに明け暮れており、地本軍閥の離反を招いていた。

 政治的混乱は比較的裕福な江東の地にもおよび、沿岸の漁民などが食い詰めて海賊行為を行っている。だが対外的には明はしっかりと治まっており、外部の食い詰め者が明の富を狙って略奪に来ている。そういう建前になっていたのである。

 台湾は日ノ本の技術と資本が投下され未曾有の発展を遂げていた。治水が進み耕作可能な土地が増える。また日ノ本本土との交易によって経済的にも発展を遂げていた。琉球やルソンとの交易で、いったん台湾に水揚げされて、そのあと明との交易をおこなう窓口となっているのであった。


「平馬、矢が足りん。早く持ってきてくれ!」

「ちとまて、あっちの倉庫から回す。荷駄の準備は?」

「できておる。護衛は高虎が率いておる故安心じゃ」

「承知した。俺も出る。佐吉、後は頼む」

「任せておけ!」

 幕府直臣となった彼らは研修と称して台湾に送り込まれていた。かの地は先述の通り、明の混乱をもろに受け、小競り合いが絶えない。軍を動かす経験が足りないと考えた秀吉の推挙もあった。


「チェストオオオオオオオオオオオ!」

 島津豊久も同じく、本国から実戦経験を積むために派遣されている。倭寇を沿岸から港に続く通路に誘い込み、挟撃を成功させた。反対側の兵を率いるのは大谷平馬である。

「あの平馬とかいう若造、やりおる」

 刀を振るいつつ豊久がつぶやいた。

「いまだ、敵を湾に追い込むのだ!」

 高虎は輸送船を護衛してきた船団をそのまま湾の外に配置し、倭寇の船を湾に追い込んだ。すると高台から砲や弩による攻撃が開始され、倭寇のジャンク船が撃沈される。小規模だが激しい戦闘の後、倭寇は殲滅された。

「皆の者、ご苦労だった!」

「平馬の策が見事故です」

「佐吉の補給がなくば前線の兵は戦えぬ」

「「はっはっは」」

「そうだな、お互いが協力して大きな力を生み出している。自分一人の力で勝ったわけでない。皆の勝利である」

 伯陽がきれいにまとめた。ここに集う者たちに笑顔がこぼれる。

「しかし明はすでに末期かもしれぬ」

「だとすると攻め込むのか? おいが先陣を勤めるのじゃ!」

「豊久殿。それは時期がまだじゃ。そもそも将軍様のご意見も聞かねば」

「だが現地判断が重要です。場合によってはある程度の裁量は…」

「まあ、あるが、それゆえに軽挙は慎まねばならん。以前より豊かになった台湾を守らねば」

「王のおっしゃる通りですな」

 倭寇は次から次と襲い来る。根本的な問題は明が政治的に落ち着く必要がある。だが万暦帝はすでに病床にあり、後継者争いによる混乱でもあった。ただ幕府もこの状況を傍観していたわけではない。遼東にその対策を送り込んでいたのだった。


「ヌルハチよ、久しいな!」

「義父上にはご機嫌麗しゅう」

 ある意味最終兵器の投入である。信長と伊達政宗率いる北方外地の兵をヌルハチの援軍としていた。そして信長に付き従うは柴田勝家と佐久間信盛。そして秀隆は琉球にいる。ルソンと台湾、両方ににらみを利かす位置であった。

 日ノ本の攻城兵器を持参し、長城を抜く備えでヌルハチは兵を進める。山海関の前に陣を敷き、対峙した。ここを守るは明の将、李成梁である。収賄が発覚し、ここで負ければ首がない。まさに窮鼠であった。

「義父上、明もさすがにまずいことを理解しておるようじゃ。備えの兵が今までに比べて段違いじゃ」

「うむ、地図はあるか?」

「ここに」

「ふむ、なればこういうのはどうじゃ? 兵を三手に分ける。そして…」

「おお、なんという策じゃ。これならば勝てる!」

「ふふふ、ならばあとはお前の力で勝ってこい!」

「承知!」


 ヌルハチは手勢3万を3つに分け、各軍を弟に率いさせた。そして翌朝、山海関に攻撃を開始したのである。

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