薩摩沖海戦
天正15年5月。
薩摩沖に多数の艦影が発見された。イスパニアの誇る無敵艦隊アルマダを中心とする、大艦隊である。総数はアルマダを中心とするスペイン艦隊100。ポルトガル艦隊50。ほか、インドやフィリピンの拠点から引き抜いた上陸向けの輸送船が30ほど。これらに食料を積む輸送船が30ほど。
迎え撃つ日ノ本艦隊は、大安宅50を中心としのほかは小早などの小型船である。櫂を用いて風向きに関係なくさらに小回りが利くので素早く散開して接舷し、斬り込む戦法が取られる。だが彼らの役割は敵の上陸戦力を薩摩湾に引きずり込むことだった。スペイン艦隊が散開し砲撃を試みるが、そのさらに遠距離から放たれた砲撃が直撃し、スペインのガレオンが一隻轟沈した。たまたまで砲弾が火薬庫を直撃した結果であるが、イスパニア艦隊は狼狽した。航海術、海戦術ともに日ノ本の艦隊は非常に稚拙であり、武器の性能もこちらの方が上であるとの認識であった。カブラル修道士が報告してきている。だがたったいま、こちらの射程外からの砲撃を受け、船が沈んでいる現実は覆らなかった。
散開を急がせるイスパニア軍提督。だが、それは日ノ本艦隊、特に土佐艦隊の思う壺だった。
「行け!」
若き提督、信親が小太刀を手に檄を飛ばす。今や土佐沖は江戸などの関東から上がる産物を九州、ひいては東南アジアに運ぶ中継基地として水運が盛んになっている。もともとあった土佐海賊衆を長宗我部家の被官とし、その大将に信親を据えたのである。九鬼家の援助を得て長宗我部水軍は急速にその力を増した。櫂を漕ぎ、素晴らしい速度で散会した敵船に乗り込み、あっという間に敵兵をなで斬りにしていく。揺れる足元でさらにロープや構造物が多い船上では、長い武器は逆に邪魔になる。それゆえに小太刀の装備で、弓も短弓であった。矢継ぎ早に射こみ、敵がひるんだすきに接舷して斬り込む。白兵戦となればさらにその武勇の冴えを現し、信親は敵のキャラックを分捕った。
そして敵艦隊に向け砲を打ち込む。味方と思っていた船からの砲撃にイスパニア連合艦隊は混乱する。そして砲撃を加えている大安宅から距離を取るように移動し、薩摩湾に差し掛かった。ワンの両側に設置された火砲の攻撃を受け、撃沈する船も出る中で何とか湾の狭い部分を通過して奥になだれ込む。必死で防衛した兵員輸送艦を湾内に送り込み、上陸を試みた。誘い込まれたと悟ったが時すでに遅し、かくなる上は敵城を奪い取ってそこを拠点にするしかないと、2000ほどの兵力が上陸し、目の前に見える集落になだれ込もうとした。その時。
パパパパパパパパパーーーーン!
轟音とともに十字砲火が叩き込まれ、多くの兵が血煙の中に倒れ伏す。
「ばかな、これほどのアルカブースはスペインにもないぞ!?」
彼らの不幸は鉄砲の配備が最もと進んでいる地域、すなわち島津家の領域に踏み込んでしまったことである。上陸した兵は進む端から全滅し、異郷の地に躯を晒す。その地獄絵図に上陸も能わず、海上に取り残される。何とか撤退した彼らは陸上に設置された火砲が届かない位置で停泊し、湾外の味方の救援を待つことにした。そして異変が起こる。明で補給した食料を口にした兵が嘔吐と下痢に襲われたのである。毒を仕込まれたと気づくが、完全に包囲された状況下ではどうしようもない。これにより、陸戦兵1万以上が無力化された。
迎撃の指揮を執っていたのは光秀であった。彼は薄笑いを浮かべつつ発砲の指示を出す。その笑顔に島津兵すら震え上がったという。
「ちっ、クソ公方はおらんかったか。まあよい、わが手で地獄に叩き落とすは後の楽しみとしようぞ…くくくくくくくくくく」
湾外の艦隊も安泰とは言えなかった。足の遅い輸送艦を切り離したことにより、艦隊としての機動力は向上したが、彼らも始めて運用するような大艦隊であり、そして潮の流れなどの情報がない。気づかぬうちに流されたり陣形が崩れる。そして潮の流れによって肉薄してくる小早には恐るべき武士団が乗っている。次々と乗り込まれて乗っ取られる艦隊は混乱をきたし、まともに機動すらできない。かといって艦列を集中させれば次は砲撃の的である。さらに乱れた陣列によって同士討ちを恐れるあまり砲が討てず、逆に遠距離攻撃を正確に撃ち込まれ沈没する船が増える一方である。
それでもしばらくは持ちこたえていたが、明で補給した食料や水を口にした兵がバタバタと倒れてゆく。毒を盛られたと騒ぐ兵も出ており、もはや戦闘どころではない。と思うのだが、次々と討ちこまれる砲弾を避けるのに精いっぱいで、次々艦船を拿捕されてゆく。そしてついに旗艦に乗り込まれた。ご丁寧に船底に穴を開けられたようで、さらに火薬庫に火を放たれたようだ。爆発を繰り返しながら旗艦が沈んだ。これにより士気は崩壊し、我がちに逃げ出してゆく。無敵艦隊の看板が哀れに見えるほどの壊滅ぶりであった。
薩摩湾に誘い込まれた輸送艦は武装を解除され、南方に追放された。病人の手当てもされなかったため疫病が蔓延した船内で兵が次々と死んでゆく。乗員が全滅した艦もあり、マカオにたどり着けたのは半数以下であったという。
逃げ伸びた主艦隊も哀れな有様だった。季節外れの暴風雨に襲われ、すでに世界を半周していた船はそこら中に方が来ている。停泊してやりすごそうとしたが、船同士がぶつかったり、疫病の蔓延で乗員がどんどん倒れてゆく。何とかマカオにたどり着いた船は出発時の半数にも満たなかったのである。
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