ノブ、ヒデのラジオ相談室 4

 ラジオから軽快な音楽が流れ出した。

「はい、こんばんわ。今週もこの時間がやってまいりました」

「うむ、ノブのラジオ相談室。今週も良しなに頼む」

「そうですね。では今日もばっさり言っちゃいましょう!」


 はがきをめくる音がする。

「さて、今晩は総選挙スペシャルと称して、関連のお葉書を集めさせていただきました」

「国民の未来を決める大事な選挙じゃ」

「皆様の一票がこの国の未来を決めるのです」


「さて、18歳の悩める少年さんからです」

「ふむふむ、どうせ自分が投票しなくたって何も変わらないです。こんなことに意味なんかあるんですか? とな? あるに決まっておろうがタワケ!」

「ばっさりいただきましたー」

「まず、近年取りざたされておるビッグデータというものがある。個別の有権者を追跡はせぬが、どのような世代の投票率が高いか、各党いろいろと分析しておる」

「そうなんですよね。そして若者は選挙に関心が薄い、年寄りが年金問題に食らいついている。そうなれば、政治家都は国民のなるべく多くの意志を代弁する存在なのです。言い方はあれですが。となれば、最も大きく声を上げる意見にどうしても注力する比率が上がっちゃうんですよね」

「まあ、国民の意見は聞くが、おもねるのは愚者である。そこを踏まえたうえで最善を選ばねばならん」

「言うのは簡単ですけどね、これがなかなかに難しい」

「そこで若者の投票そのものが生きてくる。ジジイであろうが18の若者であろうが、一票には何ら差別はない。すべて平等なのじゃ。言いたいことを言うチャンスを逃す、これは実に惜しいと思うがの?」

「ですよねえ。それで、後で政府は年よりの言うことしか聞かないとか言われても、そもそもアンタラ意見言ってないじゃないかってなるんですよ」

「難しく考えることはない。まずは候補者の言っていることを聞くのじゃ。なに言ってるんだかわからないとなることもあろう。そこは自分なりに勉強したり、聞いてみることじゃ。この政策やこの方針を指示するとどんなことが起きるのか。この選択で、何が得られてなにが失われるのか。無論彼ら自身も議員の一人であり、国会という場においては一票でしかない。だがその重みを感じてもらえる候補者を送り出す、これは大事なことなのではないかの?」

「なにしろ、ここで解散されたら困る、落選したら自分は議員ではなくなるとかほざいた奴がいましたからね」

「自分の支持者が路頭に迷ったらどうするんだとぬかしたとかな」

「そういう阿呆を落とすもお主らの選択じゃ。若人よ、夢を見ろ!」

「はい、珍しくきれいにまとまりましたね」

「まあ、あれじゃ。総理自身も国会議員の一人。であるならば有権者の期待を背負っておるのじゃ。そこは忘れてはならん事であるな」

「初心忘るべからず、ですね」


「さて、次です。秘書をハゲと罵ったら党を除名された挙句落選したさんからです」

「自業自得じゃ」

「はい、次行ってみましょう」


「ふむ、これは……」

「なになに、総理は説明責任から逃れるために解散でゴマ化したさんとな?」

「うーん、実際問題として、総理にそんな便宜を図ってる暇なんぞないのですよ。忙しすぎて」

「まあ、それを客観的にというか提示することは難しいがな。政治がらみで友人に会うこともあるというか、総理にプライベートなんぞない」

「ブラック会社が裸足で逃げ出すレベルの激務です」

「まあ、好きでやっておるんじゃ、文句の出ようもないが、この疑惑絡みで言いたいことがあってじゃな」

「「ほう?」

「まず一言。見くびるな!」

「といいますと?」

「古来権力者というものは腐敗する者じゃ。古今東西その例には暇がない。どっかの野党議員も地球3周分のガソリン代を請求してたしな」

「コーヒー代も、全員カフェイン中毒で死ねるレベルの金額らしいですね」

「カフェインの摂取は1回200ミリグラム。1日500ミリグラムが上限じゃ。よい子のみんなはしっかりと覚えておくように」

「ちなみにエナジードリンクで200越えることがあるそうです。ご注意を」

「話がそれたな。奴らが言いたいことはあれじゃ。権力者イコール腐敗している。よって総理は権力を濫用し私腹を肥やすに違いないと」

「暴論もいいところですね。証拠もなしに」

「権力者が腐るのは確率100%らしいぞ。にしてもじゃ、総理が背負っているものの重さを知らんからそんなことが言えるんじゃ」

「といいますと?」

「国民すべての生活。南海を合わせて3億の民じゃ。そして、総見院様から伝わる家の重みじゃ。弾正忠の官位は廃止されたがな。正義を成そうとされたご先祖様の理念を裏切るのであれば、地獄に落ちることすら天国であろうが」

「化けて出てきそうですしね……」

「なんじゃ? なんか言いたいことがあるのか?」

「いいえ?」

「であるか。話を元に戻そう。たとえばじゃ、警察官が取得物の1万円を横領したとする。ばれたらまあ、クビだよな」

「懲戒免職ものですね」

「リスクとリターンが全く釣り合っていないのじゃ。総理が友人に口利きをしたとする。まあ、そこで賄賂のたぐいをもらったとする。そのメリットと、国会議員、総理の地位を失いデメリットが全くと言っていいほど釣り合わぬ」

「まあ。1万円で将来を棒に振った警察官よりもはるかにひどいですね」

「まあ、後先考えたら全く割に合わんのじゃ。仮にやるならこんな簡単に露見させぬわ」

「やんないですよね?」

「無論、要するにものの例えじゃな」

「それを聞いて安心しました」

「まあ、あれじゃ、一言でいうなれば……見くびるな、かの」


 ここで軽快な音楽が流れ出す。

「さて、それではお時間です」

「今日も有意義な議論が……できたのかのう?」

「それはリスナー様が判断されることです」

「うむ、そうじゃの」

「では、また来週、このお時間にお会いしましょう」

「著作、制作は内閣府じゃ。また来週!」

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