ミサイル防衛システム

 国会は今日も今日とて紛糾していた。

「敵基地攻撃能力を持つことは憲法の専守防衛の理念に反する!」

 言いたいことはそういうことらしい。全く好き勝手ほざきよる。そのうえで、金王国からのミサイルが着弾して国内に被害が出たら儂の責任を声高に言い募るのだろうが。

「ならば問おう。専守防衛の理念に則ったうえであの降ってくるミサイルをどうすればよい?」

「イージスシステムで迎撃すればよい」

「イージスとて百発百中とはいかんぞ? それゆえにミサイル発射の兆候を見極めたうえでより弾力的に迎撃するためのシステムであるのだがな」

「そのために人を殺すというのか!」

「無論」

 間髪入れずきっぱりと頷いたことが信じられなかったようだ。ポカーンとしておる。間抜け面を国会中継に晒すがよい、クケケケケケケ!」

「総理、私の聞き間違えでなければ、あなたは殺人すら厭わぬといったように聞こえたのですが?」

「そもそもだ、自国民の生命と安全保障に責任を負うということはそういうことじゃないのか?」

「それでも人殺しはいけない! 命は地球よりも重いのだ!」

「まあ、その前提についてもいろいろとツッコミどころはあるのじゃがな、まあ、人類みな平等に命が重いとしようか。そのうえで線引きがある」

「それはどのような?」

「自国民と他国民じゃ。当然だがどちらかを選択することを迫られるならば、儂は即座に自国民を選ぶ」

「命に優劣はない!」

「まあ、ご立派な口上だとは思うぞ? だがこれはきれいごとではない。例えるならば、お主の家族と他人、どちらを優先するかという話じゃ。見知らぬ赤の他人と、血を分けた子供、どちらかしか救えない。なればどうなる?」

「話をすり替えないでいただきたい!」

「ふん、まあよい。しかしな、政治家たるもの自らを支持してくれた国民の信託に応えねばならぬ。それは彼らの生命と安全と幸福に責任を持つということじゃ。それを忘れてはならぬ」

「何が言いたいのです?」

「支持者は大事にということじゃな。お主の言い分を平たくとると、支持者であろうがなかろうがそんなの関係ねえとしか聞こえぬからな」

「なっ!?」

「まあ、そこは良い。きれいごとではないといった言葉の意味は、大を生かすために小を切り捨てる覚悟がお主にあるのかということじゃ。如何?」

「そんなことはできない。すべてを救う術を考えるのが職務だ」

「まあ、理想論としてはわかるがの。決断までに時間がいことも多い」

「詭弁だ!」

「あらゆる最悪の事態を想定しておくのも我が職務だと思ったゆえにな。今が示威行動だがいつタガが外れて本当の攻撃が来るかは誰にもわからぬ」

「何が言いたい?」

「抑止力というものじゃ。人を殴ったら殴り返される。もしくは罪に問われてより大きな不利益を被る。そう思うからこそ人は思いとどまるのじゃ」

「つまり?」

「国家間でも同じということよ。儂とて好き好んでミサイルと討ち返したいとは思っておらぬ。だがな、我が国に被害が出ており、それを報復せぬということであれば、相手が反省すると? 馬鹿な、あり得ぬ。なれば、いつぞやのドラマではないがな、倍返しにするしかない」

「馬鹿な!?」

「話せばわかると言いたいのか? そういう戯言は学校を卒業する前に卒業しておけ。そもそも議員になる前にはもう少し現実を見るべきじゃな」

「くっ……」

「まあ、あれじゃ。清濁併せ呑む度量も、人の上に立つには必要なことということか。あとは、いざというときに泥をかぶる覚悟、じゃの」

 ここで拍手が巻き起こる。秀隆め、煽りよったか。まあよい。その時々の状況を最大限に利用する才はあ奴の最たるもの。我が片腕にふさわしい。


 こうして、迎撃ミサイルの導入が国会で承認された。コテンパンにされた野党議員が真っ白に燃え尽きていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

乾坤一擲 響恭也 @k_hibiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ