内閣総理大臣喜多川信隆ー瀬戸際外交の果て

 朝鮮半島北部は昭和初期から李王朝から分離独立した金王朝の支配下にあった。急進的なキリスト教徒が集まり、東の果ての黄金の国と称していた。

 幕藩体制などの身分制度を否定し、平等な身分制度を標榜しており、地方軍閥や流民が流れ込み、一定の勢力を持つに至ったのである。ここで当時の政府は失策を犯した。ここで討伐を行っていればこのような政体はすぐに崩壊したのであるが、欧州との講和交渉があったこともあり、キリスト教を容認する姿勢を見せるため、金王朝を認めてしまったのである。

 形式上は李王朝の庇護下にあるとされた。だが、外部との連絡を絶ち、外から見えない間に、金一族が内部で独裁を行い、軍主体のテロ国家に成長してしまったのである。

 国民の労働の成果はすべて国が吸い上げ、平等の名のもとに貧困を強いる。食料は軍に優先的に配分され、反旗を翻した者はその軍によって制圧された。目的と手段が入れ替わった瞬間である。

 金王国の歴代首脳は周囲にこう圧力をかけた。我が国が崩壊すれば大量の難民が出る。国内は荒れ果てており、開発にも費用が掛かるし、かなり長期間の持ち出しになる。これに耐えられる経済力はどこの国にもないだろうと。

 こっちは失う物はないのでいつでも自爆テロのごとき攻撃ができる。それが嫌なら食料を援助しろ。国が崩壊しないように援助しろ、と言うやり口である。

 鉱物資源はあるが、現状でそれほど大きな収益にならない。最近は観光の窓口を開き首都近辺は飾り立てているが、地方では住民は山には一滴の根をほじくり返して食べている現状である。


「500年前から日本を支配している喜多川をつぶすのだ!」

「身分制度の亡霊を打ち倒せ!」

 金王国のスローガンは喜多川家を狙い撃ちにしてきた。

 それに乗ったマスコミ各社がキャンペーンを張る。方法が変わっただけで、結局支配者が変わっていない。これは民主的ではないといういいようである。そもそも、代議士制度とか、選挙そのものを否定する言い分であることを理解していないのか?

 多数決で決まるなんておかしい! じゃあ、一部の人間のわがままを聞き入れるのか? 国民一人一人の意見を聞き入れ、しっかりとした判断のもとに自分の意見と近い代議士に票を投じる。より多い人間の支持を得ていることとなる。そうやって選ばれているのである。現総理大臣も選挙の洗礼を受けているのだ。

 だが、権力者の恣意で捻じ曲げられているとか、もう言いたい放題である。と言うか、真の国民の声を代弁していると彼らが支持する民権党は党首が二重国籍問題で雲隠れし、幹部の一人が非合法な活動をしていた音が明るみに出てこちらも姿を隠している。

 与党側も失言があったとされるが、演説の一部を切り取って印象操作をした結果と判明していた。ただし、実際の不祥事も起こしていた議員は信隆自ら断罪している。まあ、物理的に首を飛ばすことはできず、議員辞職と政党からの除籍処分である。しかし、この処分を受けた者が再度政治家として返り咲くことはほぼ不可能で、政治生命の斬首と言われた。

 さて、雲隠れを続ける野党と、きっちりとけじめをつける与党。国民の支持はきっちり支持率で現れた。


 早朝、総理は緊急連絡によってたたき起こされた。金王国が衛星の実験と称してミサイル発射を行った。制御が甘く、日本海沿岸に着弾し、人的、物的被害は出なかった事が幸いではあった。

 野党は金王国が怒っている。早急に話し合いをするよう政府に要求してきた。先日食料援助を依頼してきたことについて、総理がきっぱりと一刀両断していたのである。

 援助を行うのであれば、国土と主権を李朝に返還すること。教主である金某は身柄を預けること。金某の財産はすべて返還されること。を突き付けたのである。

 事実上の国家の解体を要求した。そもそも、自国民を食わせられない政府に存在意義はない。それこそ権力者がぶくぶく太tり、恐怖政治を敷いているのはいっそ滅ぼしてやった方が国際的な正義にかなうであろう。

 と言うか、各国がこの地域に手を出さないのは、メリットがなく、デメリットしか存在しないためである。食いつなげる程度の食料を与えておけばとりあえずおとなしくしていたからでもある。

 だが今代の教主はそれに飽き足らないようだった。ローマ法王との会談を要求したり、各国を火の海に沈めると誇大妄想を語ったりとやらかしている。

 信隆の要求自体も過激ではあるが、ある意味筋が通っていると言える。だが、内政干渉だと騒ぎ立てるマスコミの大合唱が始まっていた。


「内政干渉と言うが、まず当国の選挙制度を批判されている。代議士制度を真っ向から批判し、その制度の意味を根底から覆す要求だ。これについてどう思われる?」

「当選する人物の顔触れが変わらないことが問題なのではないか? 世襲と言われても仕方ない部分がある」

「それを言うと儂を当てこすっているようだが、まあ良い。儂は選挙似て当選したうえで今の身分がある。そして、落選すれば当然、今持っている権限のすべてを失う。これは良いか?」

「そうですね。ですが」

「国会とは立法の府だ。そして儂を含む議員の権限はすべて法にのっとって付与される。そして、自身やその周囲のためだけに法を捻じ曲げるは本意ではない。それをするとなると立法の権限全てが疑わしいとなる。そう言いたいのではないか?」

「いや、あの、その」

「だがな、そのために国民の目があるのではないか? いろんな意見がある。それを容れられないようではそれこそ先進国とは言えぬ。それともあれか? 政府に批判をするものは片っ端からとっ捕まえて強制労働をさせるのが良いと言うか?」

「いえ、それは間違っています」

「うむ。そしてそれを今現に行っている政体がある。それを許すはその国の国民の責であろうが、その責を果たすには国民一人一人が自らの足で立たねばならん。それができていない国があり、わが日ノ本は自由を謳う。圧政にあえぐ国民を解放するという大義名分を掲げるつもりはないが、喧嘩を売られたら高く買ってやらねばならん。それこそミサイルがどこかの新聞社に落ちる前にな」

 信隆の主宰する記者会見でのやり取りは毎回余すことなくすべてが公開される。よって恣意的な切り取りができない。

 そのうえで、正々堂々と論破してのけたのである。

 海軍には出撃を前提とした待機が命じられていた。李王国、清に対しても金王国への懲罰的な出兵は根回しされており。戦後の支援の負担割合もすでに話がされているらしい。


 極東アジアは緊張のさなかにあった。

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