国会の中心でハゲと叫ぶ
ニュース番組で与党議員のスキャンダルが報道された。
秘書のミスをあげつらい暴言を浴びせた。それにより、秘書が反撃に出たのである。音声データを録音し、それを手にマスコミに駆け込んだのだった。
甲高い女性の声でありながらドスの効いた音声は政治家ではなくヤのつく自由業が本職ではないかと覆わせるものであった。
「何やってんだこのハゲエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
TVごしに流れた音声を耳にした信隆は、秀隆に連絡を取り、この禿女を明日官邸に召喚するよう伝えたのだった。
「話を聞こうか」
「はい! うちのボケ秘書がご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません」
深々と頭を下げる女性議員。それを見る信隆の目線は冷ややかであった。
「まあ、あれだ。ミスは誰にでもある」
信隆の言葉を聞いた女性議員は目を輝かせる。自分がかばってもらえると思い込んだようだ。そんな様子を見て、あまりの勘違いに秀隆はひとりため息を吐いた。
「さて、詳しい話を聞こう。この秘書はお主をそこまで怒らせるほどの何をやらかしたのだ?」
「はい、支持者への手紙で宛先を間違えたり……」
「ほう。して聞くが、その手紙とやらを投函する前に最終確認は誰がしたのだ?」
「秘書です」
「貴様は阿呆か? 貴様の政治活動の責任はだれが負うのだ?」
「無論わたくしですわ!」
「で、その確認という責を果たさず、ミスの所在をすべて秘書にかぶせてなおかつ暴言を吐いたと。見事な責任感だ。感服する」
あくまでも冷ややかに信隆は告げる。その雰囲気をようやく読み取ったのか、女性議員の顔に焦りが見える。
「いえ、ですから今後に期待しての叱責だったのですわ」
「それでハゲえええええええか? 小学校とかで、相手の身体的特徴を悪口で言ってはいけませんと習わなかったのか?」
「指導に入り込みすぎて熱くなってしまいまして……」
「部下を叱責するのであれば、なおさら冷静にならねばならぬ。問題解決方法の提示と感情をぶつけるのは全く違うぞ?」
「いえあのその……」
「最初にも言ったがミスは誰にでもある。政治家ともなれば、多くのスタッフ、すなわち部下を縦横に使いこなす力量が必要となるだろう。それができなければ、大臣ポストなど夢のまた夢だ」
「……はい」
「ミスが発生した時、最も大事なことは何か?」
「フォローすることです」
「それが第一ではない。再発を防ぐ手立てをとることだ。それには原因の追求と分析がいる。
して、その秘書殿がミスをした理由は何だ?」
「うっかりしていたと」
「そうか、人間だれしもそういうことはあるな」
「いえ、特に大事な方へのお手紙だったのです。それこそ気を付けろと何度も伝えました。その上でのミスだったのでつい……」
「そうか、では再び問うが、それほどまでに大事な相手だったのならば、なぜ自分で確認しなかったのだ?」
「いえ、その、忙しくて……」
「そうか、まあ、それみいだろう。そのうえで、秘書に全責任を丸投げし、ミスの原因を精査せず、感情に任せて暴言を吐いたと……貴様はサルか?」
「なっ!? いくら総理でもその暴言は許せません!」
「知るかボケ、貴様の失態で党にどれだけ迷惑を被ったか理解しておるのか!
仮にも我が党の公認を受けているのだぞ? 貴様のような人格破綻者を引っ張ってきたのは誰だ!」
「じ、じじじじ、人格破綻者って」
「まがりなりにも人の上に立つものが感情を制御できずしてなんとする。猛省しろタワケが!」
信隆の大喝を浴び蒼白な顔でへたり込む。
「まず、透析を除籍する。議員辞職もしてもらおう。永禄のころであったら即刻首を刎ねておるわ」
「そ、そんな。何ともならないのですか?」
ここまで言われて食い下がってくる神経には脱帽だ。
「あ? 貴様これ以上儂をイラつかせると長谷部国重がうなりを上げるぞ?」
「兄上、また茶坊巣のようにされるのですか?」
「へし切の異名がついておったな、あの国重は」
このあたりで妙に静かだったので様子を見ると、座り込んだまま泡を噴いていた。大喝2回目で失神したようだ。
とりあえず与党の決定として、議員辞職の上党籍はく奪の処分を発表した。一部マスコミは横暴だと言ってきているが、甘い処分を下せば身内をかばうと批判の的にしたはずである。
相も変わらず身勝手なことだ。
この事件後、一罰百戒の功がか出たか、与党のスキャンダルニュースは鳴りを潜めた。
「まあ、あのサル女も少しは役に立ったというものじゃ」
信隆は上機嫌であった。
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