乾坤一擲

奥州仕置きと蝦夷地進出

　奥州連合軍は瓦解し、南部家は主だった武将を討たれた。三戸城も包囲されその勢力は風前の灯火となっている。秋田氏、小野寺氏、津軽氏などは早々に降ってきており、包囲軍には彼らの手勢も加わっている。

　同時に織田家とその同盟軍の装備などから戦力の違いがありありと理解された。まずは馬出の前に柵を連ね、城門にも向かい城を築く。城内からの出撃はすべてその設備に阻まれ逆に被害を拡大させるだけとなった。

　櫓を連ね、敵の頭上から鉄砲が撃ち込まれ、大筒を使用して一気に城門が打ち砕かれる。そもそも火砲を相手に戦をすると全く想定されていない。織田軍の装備の威力に東北の諸氏は恐れおののく。そしてあっという間に場内が制圧されてゆく。新時代の戦に目を奪われていた。

　南部信直が降伏し、東北征伐が完了する。南部家の配下にあった蝦夷地の蠣崎氏も降伏する。

「信忠殿、見事な采配であったぞ」

「叔父上！？」

「おう、まあ、負けない算段をするは良いが、配下の将士をもっと信ずることだ」

「はっ！」

「うん、自分の策に固執せず、臨機応変の構え。兄上を見るがごとき采配である」

「ありがとうございます」

「さて、仕置きについて腹案はあるか？」

「実は…」

「ないのか。行動を起こす時は先々まで考えてやらねばならぬぞ」

「はは、気を付けます」

「うん、まあいい。兄上と協議したのでな」

「それはどのような？」

「まあ、うちの力を見せつけたけども、精神論で何とかしようとする脳筋がおるじゃないか」

「脳筋？」

「脳みそまで筋肉でできているような阿呆の事じゃ」

「ああ…ああ…」

　信忠が感情の抜け落ちたような目で頷く。こいつも苦労しているようだ。

「んじゃとりあえず諸将を集めようか」

「はい！」

　三戸城は清掃され、改めて降伏した諸将が集められた。

「お初にお目にかかる。織田秀隆じゃ」

「「「ははーー！！」」」

「さて、皆織田家に降ってくれるとのこと、誠にありがたく思うぞ。これからは天下静謐のため、力を貸してもらいたい」

「「「「はは！」」」」

「さて、当家はすでに東北より南の諸国を平らげておった。そのうえでお主らが降ったことで日ノ本六十六州、すべてが織田のもとに統一された。これにより主上より勅命をいただき、惣撫事令を出す。これは今までのような私闘を禁ずる令となる。もめごとはすべて織田の代官が処理し、今までのような武力での解決はすべて討伐の対象となることを心せよ」

「「「はは！」」」

「さて、これよりお主らの為すべきことについてだが…」

　秀隆の言葉に諸将は固唾を吞む。

「共同で蝦夷地を開拓するのじゃ。蠣崎よ。蝦夷地のついてどこまで情報を持っている？」

「はは、アイヌなる部族があり、彼らと交易をおこなっております。気候はきびしく米は育ちませぬ。ですが自然は豊かで様々な産物が採れます」

「うむ、まずはアイヌたちと友好な関係を築くのじゃ。決して侮ってはならぬ。だが話し合いが通じぬ相手は…やってしまえ」

　秀隆のイイ笑顔に彼らの表情もほころぶ。

「蝦夷地進出の総奉行は、伊達藤次郎じゃ」

「はは、粉骨の覚悟で臨みます！」

「うむ、頼むぞ。諸将は伊達の采配に従うように。政宗の指示は我が指示と思え。ただし、政宗が誤っていると思うたならば遠慮はいらぬ。儂や兄上に申し出るがよい。また目付けも出す故、しっかりと働くように。開拓した土地と利権の配分はその働きに応じて出す故に」

「「「はは！！」」

　諸将の目の色が変わる。統一されてしまえば、下剋上のようなのし上がる機会は失われる。それゆえの蝦夷地開拓でもあることを彼らも理解した。

「蝦夷地の北端のさらに先には樺太という島がある。そこも切り取り次第じゃ。励め！」

「「「はは！！」」

　こうして東北の諸将も織田の支配下に降った。新たな仕事を与えられ、彼らはそれに邁進してゆく。秀隆が帰った後になるがいくつかの一揆が起きはしたがそれ以外は平穏で、治安は急速に安定する。そもそも最後まで戦った南部信直すら降伏が許されたのである。ただし2度背いたものは容赦なく滅ぼされた。

　蝦夷地には蠣崎氏を窓口に徐々に奥へと入植してゆく。いくつかのアイヌ部族は彼らと婚姻を結び徐々に日本人へと同化していくのだった。

　これにより日ノ本は統一された。これで戦乱の世は終わったと人々が胸をなでおろしたが、最後の波乱が待ち受けていたのである。