内閣総理大臣 喜多川信隆 5

「日々税金の無駄遣いについて気付いたら民権党まで!」

 毎度毎度野党は意味不明なキャンペーンを張る。ちなみに、このアンケートの回答で一番多かったのは給料泥棒野党の存在が一番税金の無駄だそうだ。もう失笑しか出ない。

 こんな連中に一人2000万の歳費を出しているあたり、わが日ノ本は豊かになったものだ。天正の世であれば、あのような連中即座に追放か打ち首じゃ。

 そういえば、あの領収書偽造とか、清国籍との二重国籍問題ってどうなったんだろうか? 民権党がやらかしたせいで、かの国との関係も微妙になっておる。由々しき問題である。


「国軍の海外派遣について、マラッカ以西への派遣と、朝鮮半島、および中国への派兵を可能とする法案について審議をお願いします」

 衆議院議長が発議した。直後からヒステリックな野党側の罵詈雑言が始まる。

「日本を戦争のできる国にする気か!」

「出来なかったらまずいだろうが」

「海外からの批判が!」

「それって具体的にどこの国ですかね? まさかどっかの半島北部の反乱分子の事じゃないだろうな?」

「日本が危険にさらされる!」

「だから軍備をするんだろうが。本末転倒はなはだしい!」

「非戦をうたった憲法の理念に反する!」

「60年前に作られた古臭い法律を金科玉条にしてるのってうちだけよ? 逆に恥ずかしくない?」

「変わらぬ理想が宿っているのだ!」

「それ具体的にどこの条文ですかね? ここに法典あるのですぐに確認しますよ? さあ!」

「第9条だ!」

「9条の何項? 具体的な内容については?」

「問題解決の方法として武力行使をしないという内容だ。平和的だろうが!」

「アホですか? 前にも言ったが武力の担保なき発言は無力だ。軍が悪だというならば敢えて言おう。必要悪であると」

「悪は許されない!」

「ほう、いいことを言うな。では具体的に何がどのように悪なのか言ってもらおうか?」

「戦争は悪だ。それを引き起こす軍も悪だ。平和こそが至上である」

「貴様アホか? 具体的な方策が全くない。戦争反対と叫ぶと敵が撤退するとでも言いたいのか?」

「そうだ! 外国が攻めてきても話せばわかる! 彼らと酒でも酌み交わせばお互いの理解は深まるのだ!」

「ほう、では貴方を朝鮮半島北部への反乱分子に対する使者としよう。彼らと酒を酌み交わしわかりあって我が国への敵対的な行動を止めていただきたい。それに成功したならば総理の椅子をくれてやる」

「無茶を言うな!?」

「ほう、自分の言葉が無茶と?」

「わたしにはかの国に対するコネもないし……」

「そんなもんは必要なかろうが。国境から酒瓶片手に入り込んで、わかりあう人々を増やせばいつかあの国を支配する将軍にまでたどり着くであろうよ。ちがうか?」

「……」

「まあよい。リスクも高い話だしな。だが話し合いが通じぬ相手もいるのじゃ。悲しいことだがな」

「ですが、それを一方的に武力行使をするのは!」

「誰がそんなことをすると言ったか? 軍事は不肖である。戦争を行うのであれば必ず勝たねばならん。それにじゃ、何を思い詰めておるのか知らぬが、戦争とはつまるところ外交交渉の一幕にすぎぬ。ぶっちゃければヤクザの抗争と同レベルのメンタリティである」

「同列に論じないでいただきたい!」

「違うのは規模くらいじゃろ? 流れ弾で被害者が出るあたりもな」

「ならば専守防衛で事足りるのではないか!」

「そうか、ならばお主、最前線に住んで財産、家族などもそこに置くがよい。それで、貴様の家が敵軍に焼き払われたら専守防衛として反撃を加えようではないか」

「私も日本国民だ! 守られるべき市民の一人である!」

「つまるところだな、専守防衛とは殴られて初めて殴り返すことができるという意味だ。無論最前線の兵であれば、最初の犠牲者となりうる可能性は承知の上で、いるという建前、じゃな」

「それで、私が最初の犠牲者になる必要がどこにある!」

「そりゃあ、お主事実上の貴族であろうが。ならばその義務を果たせ。国民から信任を受け、その権利を代行する。それなりの給料も国からもらっている。ならばいざというときに国のために働くは当然ではないか。

 それにだ。なぜ派兵できるようにするかの意図は、日本本土から戦場を離すためじゃ。戦は必ず敵地でやるのが定石であろうが。なぜそれがわからん?」

「それは、現地住民に被害が出てもよいということですか?」

「極論すればそうなるな。日本国民と、侵略を企む敵国民、同列に扱いこと自体がおかしかろうが?」

「なんと、なんという……」

「まず聞きたいのじゃがの? おぬし、どこの国の利益を代表しておる?」

「どういうことですか?」

「いま蒸し返す話ではないが、お主清国との二重国籍で問題になっておったよな?」

 民権党の党首は下を向いて応えない。

「まあ、今はそこを論じる時間ではない。儂が聞きたいのは、日本国民以上に外国、およびその国民を優先する必要がどこにある? それが巡り巡って我が国の国益につながるならばそれもよい。だがおぬしの言動からは日本を犠牲にしてでも海外に配慮するという意図が透けて見える。その配慮先はどこかは聞かんがな」


 一連のやり取りは各社新聞は切り張りし、総理の言動はいろいろと歪曲していた。曰く、戦争をして何が悪い。外国民など配慮に値しない。北の某国に単身乗り込んで降伏させて来い。できないなら辞職せよ。などなど、どこのパワハラ上司ですかといっそ狂気すら透けて見える。

 政府は即座に広報にてその内容を否定し、やり取りの全文を公開した。

 翌月頭、民権党の党首が辞職し、申告へと出国したとのニュースが新聞の片隅に報じられた。

 総理に毎回コテンパンにやられ、さらに今回党首がフルボッコにされたため、民権党そのものが瓦解の危機となっていたのである。

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