唐入りー出征ー
天正11年。信長の命により肥前に巨大な補給基地が建造された。日ノ本を上げての事業となり、各国の大名諸侯がこぞって工事に参加する。総奉行は明智光秀が務めた。彼は後方支援と兵站を担当する。
勘合貿易の前例があり、明は日ノ本を冊封国と認識していた。信長は前王家の足利氏は滅んだ。自分が今の国王であり、冊封には参加しないことを宣言しており、それがさらに明の使者を激高させている。しかも狙ってやっているあたり信長は信長であった。先鋒は中国、四国勢が務める。3か月で交代の輪番制を取り、半数の兵力を入れ替える。これは慣れない気候に兵が消耗することを最低限にするためだった。
「殿、なんで拙者は天下が統一されたのにこんなに忙しいのでしょうか?」
「俺に言うな信盛。そもそも六郎に家督譲ったのになんでこき使われてんだ?」
「そりゃあ、大殿ですから…」
「はあ…まああれだ。ぼやいても仕事は減らんしな」
「ですねえ…」
「くっそ、隠居したのに、隠居したはずなのに…」
「殿、そのセリフ私は何回言った事か…」
「すまん信盛。今我が身に降りかかってすごく反省している」
「わかっていただけたらいいのです。ええ…」
「うむ、だからこの書類はおぬしに一任する」
「え、ちょ、ま!?」
「ほう、その分手が空いたので儂の手伝いをしてくれるか。いやあ、持つべきは有能な弟だなあ」
「ぐげ!? 兄上!?」
「ぐげ? とはなんだぐげとは…」
「ナンデショウネー?」
「とりあえず先発させる連中の編制だ。やっとけ」
「ちょ、兄上ええええええええ!?」
「殿、因果応報って言葉知ってますか?」
「ああ、知ってるよ。んでいま体感してるところだよ!」
肥前名護屋に築かれた危地には恐ろしいまでの米をはじめとした物資が積み上げられてゆく。また、主を失った浪人衆も前歴に関係なく駆り集められ、手柄を立てれば褒美は望みのままじゃと甘言に乗せられ、唐で土地を与えるなどの空手形が切られまくった。まあ、与えるのはいいが、維持は自前だぞという裏の意味に気づくことなく、浪人たちは極彩色の夢を描いていたのである。
信長は九州で陣頭指揮を執る。秀隆はその補佐に回る。信忠は安土に入り日ノ本の政務を執り行う。右大臣の位を与えられ、名実ともに天下政権の後継者として扱われている。そして信忠の周辺を一族長老の信広をはじめとする連枝衆が固めていた。そして副官というか参謀には林秀貞がついている。信忠が幼いころから付け家老として付き従っていたのだ。信勝の反乱で行き場を失った彼を信長は許した。そして自分にとっての平手の爺になれと秀貞を諭した。その後彼は信忠に表裏なく仕えていたのである。
さて明の側でも李氏朝鮮に出兵を命じた。まずは九州を攻めとらせるつもりである。沿岸の役人が仕入れた情報によると、倭国は金山が多く、たくさんの金を収奪できると皮算用を決め込んでいた。蛮国の兵など鎧袖一触のつもりで、そもそも相手の情報を仕入れようともしていない。勝つことが前提で、勝った後の事しか考えていない。そして信長はまず現地の情報を得るため間諜を送り込み、現地住民に協力者を作った。そもそも賄賂が横行している世情もあり、わずかな金銭や食料で住民たちはこちらに協力する。領主に対する義理とか人情は一切感じられなかった。
これで情報は入手できたが、偽りの情報も多く、裏付けに手間がかなり取られたのが誤算と言えたが、偽りを吹き込んだものは物理的に黙ってもらい、正確な情報をもたらした者には報酬を追加することで、かなり正確な諜報網を構築したのである。
そして上がってきた情報を聴いて信長はあきれ返った。住民の貧しさと厳しい気候、やせた土地で生産力は東北にすら及ばないこと。賄賂が横行し、まともな統治体制がないこと。兵という名の夜盗が横行している。住居は洞穴まがいの村すらあった。
信長はその情報を配下の諸侯に正確に伝える。これにより、土地を奪っても維持できないことは理解され、土地を褒賞に求める者はいなくなった。
対馬を中継拠点として船団が出発していく。細川の水軍を護衛にして島津、吉川、小早川、津田信澄、宇喜多秀家、そして羽柴秀吉が大将である。合わせて4万の軍勢であった。
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