内閣総理大臣 喜多川信隆 4
国会は今日も紛糾していた。ただ、国民サイドから見ると一切筋の通っていないいちゃもんを付け、それを総理がキレッキレの答弁で撃退するというやり取りになっている。
「総理! この国有地売買について、なぜ時価よりも圧倒的に安く販売されているのでしょうか?」
「ええいこの戯けが、まず自分で調べるということもできんのか! 売買記録によると、産廃処理場だったと書いてある。産廃埋め立て分の撤去を自前でやるというので、その分の値引きをしたにすぎない。何か問題でも?」
「その土地を購入した法人は、総理の知人の……要するに関係者ではないですか!」
「なんだ? 儂がその業者に便宜を図り、土地を安く譲り渡して利益供与をしたと言いたいのか?」
「む、別にそこまでは……」
「言っておるだろうが。だがな、そこまで言うのであれば明確な証拠を示せ。示せないときは自らの首をもって責任を取る、そういうことでよいか?」
「い、いや、そこまでのことを言うつもりは……」
「まあ、いい。この資料を見ていただきたい。学校法人足利会と言う財団法人だが、うちの議員の明智がもとここの社員であった。お主が言いたい関係者云々はこれであろうが?」
「総理の側近の明智議員がかかわったことで、役人が配慮をしたのではありませんか?」
「明智君が何かその役員に働きかけた証拠は?」
「足利理事長から、申請に行った際に明智議員との関係を示したらしいとのうわさが」
「明智君自身がそこにいたのかね?」
「いなかったと聞いておりますが、足利理事長とのメールのやり取りがあったということです」
「ふむ、まあ、元上司とやり取りをする。社会人としておかしい事かね?」
「やましいやり取りがあった可能性が!」
「そこまで言うならば、そのメールを公開しようではないか?」
「なっ!?」
「メールにはこう書かれている。足利会は資金繰りに困っていたようだな。国の補助金の申請について明智君への相談がされておる。だが、経営状態から鑑みて、補助金交付は難しいと返答しているな」
「なんですと? 話が違う!?」
「何の話が違うかは知らぬが、明智君は彼なりの最善を尽くそうとした。そのうえで打つ手はないと返答しておる。無論、私人としては何とかしてやりたい思いがあったであろうが、公人としての立場を優先させておる。立派なものではないか!」
「ぐ、ぐぬぬ」
「何か言うことは?」
「ありません」
「そうか、ならば儂から一つ質問がある。工事現場でなにやら問題を起こした者がいたそうじゃ。彼らは元辻議員のスパイだと足利理事長が書いておってだな、そう、ここじゃ」
「な、なんですと? でっちあげはやめていただきたい!」
「だがの、その問題を起して工事を妨害した工員だが、元辻議員の一族が経営する会社の従業員なのだよ。はてさて、何を企んでいたのかは知らぬがな」
「さて、政府の疑惑は晴れた。今度はそちらの潔白を証明する番じゃな?」
ここでTVの場面が切り替わった。唐突にCMが流れ出す。
「くっくっく、戯けが。あの程度の工作読めぬと思うておるのか」
「兄上、コテンパンにしすぎです」
「そういうが秀隆よ。敵は完膚なきまでに潰さねばならぬ」
「まあ、ありゃ半分以上自滅ですけどね」
「総理、私の脇が甘く、ご迷惑をおかけしました」
明智光孝議員が丁寧にお辞儀する。
「なに、むしろ敵をおびき寄せる囮となってくれたわ。で、足利会はつぶすぞ?」
「致し方ありませんね。まさかあそこまでひどい状態とは……」
「先代はよくやっていたが、跡継ぎがアレじゃなあ。まあ是非に及ばず、じゃの」
そもそも明智議員は足利会の理事の一人であった。先代の死去に伴う代替わりのごたごたで跡継ぎに諫言をしたところ、いきなり首を飛ばされた。その事情を見ていた秀隆が兄に推挙したという経緯がある。
京都の福知山から出馬し、見事に当選をもぎ取って見せたあたり、先祖譲りの有能さである。ところで、当代の羽柴家の当主は初代並みの人たらしと言われていた。姫路選挙区で、こうぶち上げた。地元のプロ野球チーム助成金を公約にぶち上げたのである。
「わたくし、羽柴藤吉郎秀信が当選の暁には、以下の公約を必ずや成し遂げて見せます。ズバリ、姫路猛牛団10連覇! 補助金の支給と共に、ホームゲームの入場料は地方自治体が補償いたします。皆様は全力でチームを応援しましょう! もうダメ牛とは言わせません!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
これにより羽柴秀信は得票率87%と言う恐るべき数字を叩きだしたのである。
衆議院予算委員会。野党が自衛隊を国軍としたことにいちゃもんを付けてきた。
「軍と言うものは百害あって一利なしです。ただ消費し、破壊するだけの存在にすぎません。今度は世界征服でも企んでいるのですか?」
「ほう、そんなことが不可能なのは常識だと思うておるがの? そもそもその征服の大義名分はなんだ?」
「そんなものなんとでもでっち上げられるでしょう?」
「さすがでっち上げが得意な政党は違うな。それとも、前線で命を張る将兵をなんだと思うておるのか?」
「だから軍なんかいらないんですよ」
「そしてそうなればどうなる? まさか世界が平和になるとでも言いたいのか?」
「軍がなくなれば争いは無くなるでしょう?」
「仮定にもなっておらぬ。仮にだがな、警察を一切廃止したとする。どうなると思う?」
「それは……治安の悪化を招くのでは?」
「うむ、語るに落ちたな。軍は国家間の警察の役割をも担っておる。その軍がなくなれば、わが日ノ本は外国の植民地であろうよ。国家の存亡である」
「大げさな!?」
「そうかの? まあ、そうならぬ根拠を示してもらいたいものだ」
「だが軍は犯罪を犯す。逆に治安を悪化させているではないか!」
「人間がある程度の規模の集団を成せば、罪を犯すものは一定の割合で出る。これは社会学とかの学者に任せるべき話ではあるが、一面の真実であろう。それは軍人だろうが一般人であろうが、議員であろうが変わらぬ」
「だが軍の犯罪率は他よりも高い!」
「前提を同じにしてはならん。常に命の危機にさらされるストレスは比べようがないものじゃ。それゆえに厳しい軍規で兵を縛る。戦場で理性を失えば待っているのは死のみでもあるからだ」
「そのような危険にさらすことが間違っている!」
「ではどうやって国を守る? インドのガンディーは非抵抗という形で抵抗したとか言うなよ? あれは例外的なケースじゃ」
「ぐぬ!?」
「日ノ本に手を出せば痛い目に遭う。そのような教訓を与えねばならぬ」
「ヤクザの抗争じゃないんだぞ!」
「何が違う? 本質は同じじゃ。まさかその程度のことをも理解せず世迷言を口にしたか!」
「ひっ!?」
勝負あったな。秀隆は心でそうつぶやく。
「戦争は国家の大事である。飼っても負けても無傷はあり得ない。それゆえに外交の最後の手段であるのだ。武力行使を前提にしてはならんが、武力の担保なくばどのような主張も通らぬ」
信隆の言葉は反論してきた野党議員には届いていなかった。彼は信隆の一喝によって失神していたからだ。泡を吹いてへたり込む彼の姿は国会中継で流れ、さらに夜盗の支持率が低下するのであった。と言うか5%からさらに下がるとかどんだけ。
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