武術大会ーその2-
大会二日目。会場は今日も大いに盛り上がっていた。
「これより碁盤割りの試技を執り行う!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
「これなるは肥後の剣豪、丸目蔵人殿である。タイ捨流の妙技、いざ!」
「師匠、気合です!!」
壮年の剣士が刀を手に舞台に上がる。中央には硬く粘りづよい木材であるカヤで作られた碁盤が置いてあった。
大柄な兵が現れ、鉈のような巨大な脇差を振りかざし、裂帛の気合をもって振り下ろす。だが角に食い込んでそれ以上は切れない。再び同じ位置をめがけて振り下ろすが、結果は同じであった。
そして、丸目蔵人が一礼して剣を構える。呼吸を整え、拍子をとり、そして裂帛の気合と共に刀を振り下ろした。
「チェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエィ!!」
乾いた音とともに碁盤は真っ二つになっていた。その凄まじいまでの剣技に観客の興奮は最高潮である。
「師匠よ、儂にもやらせたまえ!」
そうやって名乗りを上げたのは東郷重位である。昨日の剣術部門優勝者の名乗りに歓声が上がる。
同じつくりの碁盤をもってきて、それを前に重位も気合を練る。トンボの構えから裂帛の気合とともに剣が振り下ろされた。
「チェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエィ!!」
碁盤は見事に真っ二つである。二人が見せた絶技に観衆は言葉もなく、ただその技に万雷の拍手を送っていた。
相撲部門では井伊直政が無双していた。当たるを幸いと突き飛ばし、けたぐり、投げ飛ばした。というか、秀隆のしごきに耐え抜いた根性である。また準一門とされ、秀隆の義理の息子であり娘婿でもある。そしてその立場もあって、尾張織田家の筆頭家老と目されていた。
井伊の赤鬼の名をほしいままにし、直政が優勝をさらったのである。
弓部門では秀隆の出場とあって注目が集まっていた。しかし、柴田の隠居が見事な腕を披露する。武田家臣小笠原秀政も妙手を見せた。秀隆は、投げ上げられた的を射抜く矢継ぎ早の妙技を見せた。
そして、一番いいところを持っていったのは立花宗茂であった。川を流れる船の上の的を狙うという試技で、15町の位置から3回放ち、すべてを命中させて見せた。
すべて命中させた直後に彼の妻である誾千代が飛び出してきて彼の首にしがみついた。その姿に宗茂に黄色い声援を送っていた女性陣の声は怨嗟の声に変り、また誾千代の容姿を見た男性陣からは更に恨みの籠った視線が向けられた。
当人同士はそんな視線などまるでなかったかのように祝福を受けていた。具体的には…ぶちゅーっと。その雰囲気にあてられて怨嗟の視線はやわらぎ、なにか別の空気が演武場を支配していったのだった。
二日目、白打の演舞が行われる。そこで向かい合うは信長と秀隆であった。互いに礼をしたあとで構えを取って向かい合う。
「兄上、手加減しませんぞ」
「秀隆よ、誰に向かって口をきいておる?」
「「上等!」」
異口同音に口にすると、互いに同時に踏み込んで左拳を突き出す。そして互いに首を傾けて躱す。切り付けるような呼吸音の後、秀隆がひらり拳を軽く握り、素早く数度繰り出す。信長はそれを躱し、連打の最後の一打を捕らえ、間合いを捕らえて胴に向け拳を突き出す。
秀隆はその攻撃を体ごと回転させて飛びのき、その回転の動きを勢いに変え上段回し蹴りを放つ。信長はわずかにかがんでそれをやり過ごし、軸足を刈るべく下段蹴りを放つ。秀隆はそれをわずかに跳躍してかわし飛び後ろ回し蹴りにつなげ、信長は腕を交差させて受け止めた。
中国拳法の流れをくむ信長の動きと、琉球に籠っていた時に身に付けた武術。初手は互角であった。
「いつの間にそんな技を…?」
「琉球でただ釣りしてたわけではないんですよ」
「ふむ、なればヌルハチに新たな奥義を教わっておいたのは無駄ではなかったのう…」
信長が言葉を切ると同時に互いに間合いを詰める。至近距離のため足技は使わない。鼻先をかすめる拳を避け、さらに距離を詰め肘を放つ。その場で足を踏み締め、その衝撃を関節を使って伝え、加速する。そして体全体で得た打力を密着した相手に叩きこむ。いわゆる寸勁である。秀隆は腕を交差させ、十字受けでその打撃を受け流す。後方にふっ飛ばされ地面を滑っていく。
密着状態から信長が掌を突き出したようにしか見えなかった。だが秀隆が吹き飛ばされ後ずさる。摩訶不思議な光景に観衆が沸く。
そこからはお互い技を繰り出すが有効打を与えることができない。互いの拳が顔や体を捕らえるが、互いにその打撃を耐え抜き、反撃を行う。しばらくすると互いの顔が腫れあがり、えらいことになってきた。息も絶え絶えである。
「けっひゃくをつけまふぞ」
「のぞむほころよ」
もはや呂律も回っていない。
そんなぼろぼろの二人が瞬時に間合いを詰めた。そして互いの掌をお互いの胴に添える。互いの目が驚愕に見開かれる。そして今更技は止められない。
結果は互いを寸勁で吹き飛ばし、気絶と相成った。それはいつぞやのダブルノックアウト劇を再現したかのようだった。
こうして大会二日目は幕を下ろしたのだった。
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