第231話 雑用組の特訓1 -鍛え始めますね-

「じゃあ、昼からはエルナン達を鍛えてやろうかね」


 初日の掃除組の対応が終わった亮二は、エルナンに昼過ぎに全員を鍛錬場に集めるように伝えており、どんな人物が集まるのかを楽しみにしながら鍛錬場にやって来ていた。はやる気持ちを押さえて鍛錬場に来た亮二は集まっている5人を見て「これはテンプレな逸材が集まったのでは?」と俄然やる気が沸き起こり、弾む足を意識して抑えながら集まっている5人に向かって歩き出した。


 鍛錬場に集まった5人は、おどおどしているか、ソワソワしているか、ビクビクしているか、ふてぶてしくしているか、やる気に満ちているエルナン以外は多種多様な表情を浮かべていた。そんな5人に近付いて声をかけようとした亮二に対して、ふてぶてしくしていた兵士が遮るように前に立ちはだかると睨みつけてきた。


「おい!ここは鍛錬場なんだよ!俺達は“ドリュグルの英雄”であるリョージ伯爵に声を掛けられたエリート兵士なんだよ!これからリョージ伯爵が俺達のために特訓をして下さるのだから邪魔するんじゃない!」


「ちょ、ちょっと!デューイ!この方は…」


「黙ってろよ!エルナン!最初にリョージ伯爵に声を掛けられたからって先輩面すんなよ!」


 エルナンの指摘を途中で遮るとデューイは亮二の肩に手を置いて入り口の方に身体を向けると「さあ、帰った。帰った!」と亮二を押し始めたが、全く動かない事に不思議に思った瞬間に視界が回転し、気が付くと天井を見ていた。


「全く、俺を知らないとはな。エルナンは全員に俺の事を説明したのか?」


「はい!間違いなく『リョージ伯爵が僕達のために特訓をして下さるから鍛錬場に集合です!』と説明しました!」


 天井を呆然と眺めていたデューイは、自分が鍛錬場から追い出そうとしたのがリョージ伯爵本人だと気付くと、真っ青な顔をして土下座をしながら地面に頭を擦り付けて謝罪を始めるのだった。


 ◇□◇□◇□


「真に申し訳ありませんでした!リョージ伯爵を追い出そうとするなんて、俺は、俺は…」


「もう謝罪は要らないって言ってるだろ!何回謝るつもりなんだよ!こっちは気にしていないから謝るな!」


 放置していたら一日中でも謝りそうなデューイに、げんなりした顔をしながら亮二は謝罪を遮ると全員を整列させて話し始めた。


「これから、1ヶ月でお前達を鍛える!俺の事は“軍曹”と呼べ!それと言葉の最後には必ず『サー』を付けろ!返事は『はい』か『Yes』か『分かりました』か『了解です』以外は認めん!わかったな!」


「Yes!サー!」


 エルナンだけが元気よく返事をしてきたが、残りの4人は戸惑った顔で亮二を眺めていた。どうしたらいいのか分かっていない4人に対して、亮二は無詠唱で“ライトニングアロー”と4本呼び出すと警告なしで足元に撃ち放った。突然足元に攻撃を受けた4人は飛び上がった状態から地面に着地すると、その場で腰を抜かしたかのように座り込んだ。


「おい、俺が確認しているんだから返事しろ!分かったな!」


「そうだぞ!“ドリュグルの英雄”のリョージ伯爵が僕達なんかを鍛えて下さるんだぞ!皆もリョージ伯爵の声は神の声と同じだと思わないと!神の導きに従えば僕達は必ず強くなるんだから!」


 亮二の言葉に続いてエルナンが恍惚とした表情でテンション高く4人に向かって話し始めた。いかに亮二が素晴らしいかを演説し始めたエルナンを最初は亮二も聞いていたが、5分経っても終わる事なく声もだんだんと大きくなり、身ぶり手ぶりが混じり始めた時点で「褒め殺しか!もう、それくらいでいいから!」と亮二が止めると、エルナンは残念そうに肩を落とすと4人に向かって話し始めた。


「まだ、リョージ伯爵の魅力を語りつくせないんだよ。駐屯地でリョージ伯爵が行われた施策を1時間で説明しようと思ったのに。ちょっと時間が足りないけど1時間有れば、なんとか話せると思ったのに。じゃあ、リョージ伯爵の偉大さについての第1部は今日の訓練が終わったら酒場で4人に聞かせるね!」


 エルナンの言葉に亮二は「お、おう。そうか」と応え、4人はテンションが高いエルナンに微妙な顔を向けながらも訓練後に酒場へ行く事を了承するのだった。亮二は4人に対して返事が出来るまで教育を続け5分ほどで全員から「サー!」の返事が出るようになったのを確認すると5人に向かって質問をおこなった。


「じゃあ、これから特訓を始める。今日は初日だから簡単な事から、徐々にしていこう。ちなみに、この近くに魔物が出る場所ってあるか?」


「はい!領都の東側にある森に狼系の魔物が出ます!場所は馬で1時間ほどです!サー!」


 元気よく答えたエルナンに亮二は頷くと、嫌な予感をしている4人に向かって満面の笑みを浮かべて「行くぞ!」と号令を掛けると「「「「「Yes!サー!」」」」」と返事が返って来るのだった。


 ◇□◇□◇□


「へぇ、ここが魔物が出る森なんだ。意外と整備されているな」


「はい!基本的に森の中の道は魔物除けが設置されているので魔物が出る事は滅多に有りませんが、道から外れて森の中に入ると狼系の魔物が襲って来ますので、ご注意ください!サー!」


 デューイが直立不動で答えたのを聞いた亮二は森の中に足を踏み入れた。インタフェースを起動させた亮二は索敵モードで敵の姿を確認すると、魔物がいる方向に向かって気にする事も無く歩き始めた。亮二があまりにも無防備に歩いているのを見て、敵は居ないと思い込んだ5人は亮二の後ろに付いて歩いていた。


「おい、30秒後に魔物がこっちに来るぞ。油断してないで抜剣!」


「えっ?魔物?」


 亮二の掛け声にエルナンは「Yes!サー!」との声と同時に剣を抜いて構えていたが、残りの4人は素早く反応する事が出来ずに周りを不安げな様子で見渡すしか出来ないのだった。4人の不安な様子を眺めながらサポートするためにストレージから“ミスリルの剣”を取り出すと気楽な様子で構えるのだった。

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