第220話 自領訪問8 -裁きを言い渡しますね-
ブラートは呆然とした表情で亮二を見ていた。武闘派と呼ばれているビトール達を高額で雇って万全の体勢を敷いていたにもかかわらず、亮二1人に壊滅状態にされてしまったのである。戦闘は亮二の独り舞台で、剣や魔法を使ってビトール達を翻弄しながら傷一つ負わず戦闘不能にすると、ビトールとの一騎打ちも危なげなく勝利をしてしまった。
それに、“ドリュグルの英雄”は人を殺さないと噂で聞いていたが、亮二はビトールを躊躇なく斬り捨てたのである。亮二は剣を何処かに収納したようで帯剣をしないまま、ブラートに近付くとユックリと話し始めた。
「ねえ、どうする?ここで悪行を全て告白したら、減刑してあげるけど?」
「リョージ伯爵!私は先ほどの成敗されたビトールに脅されて悪事の片棒を担がされていたのです!悪いのは全てビトールに間違い有りません!私は、これからもリョージ伯爵に生涯の忠誠を捧げる所存です」
ブラートの宣誓にも近い言葉に、亮二は唖然となった。証拠は全て押さえてあり、自分に対して斬り捨てるように叫んでいたにもかかわらず、犯人はビトールであり、自分は被害者であると厚顔無恥のお手本のように言ってきたからである。
「証拠もあるし、さっきは俺を斬れと叫んでたじゃないか。往生際が悪いぞ」
「だったら!俺を見逃したら隠し財産の場所を教えてやる!俺が隠した財産はかなりの金額になる!それならどう…」
亮二の指摘に、ブラートは隠し財産の場所を伝える事を材料に交渉をしようとした。だが、亮二の口元は微笑みを浮かべているが笑っていない目を見て、徐々に言葉が小さくなっていった。完全にブラートが沈黙するのを待ってから亮二はゆっくりと語り掛け始めた。
「レーム伯爵領南部を任された代官であるにもかかわらず、勝手に増税を重ね、民を苦しめるだけではなく、金銭を着服した事はすでに明白。その上、俺がリョージ伯爵である事に気付きながら、部下に襲わせた事は不届き千万。代官ブラートにおいては、追って沙汰があるまで謹慎とする!引っ立てぃ!」
「ははっ!」
亮二の言葉に反応するかのようにブラートの背後に2人の男が立つと、両脇を抱えて暴れるブラートを馬車に押し込めると、どこかに連れ去って行くのだった。
◇□◇□◇□
「おぉ…。本当に人が出てきてブラートを連れ去って行ったよ。冗談で言ったつもりだったのに。それにしても、あの人達は今までどこに居たんだ?」
「リョージ様!本当にカッコ良かったです!やっぱり、私の眼に狂いは無かったです!」
亮二が呟くようにブラートを連れて行った男達を乗せた馬車を見送っていると、背後から明るくテンションの高い声が辺りに響いた。亮二が背後に視線を投げると、キラキラした瞳で亮二を見つめるクロが今にも飛びかからん勢いで近付いてきた。
「クロか。えっと、今はノワールだっけ?今回はお疲れ様。ところで預けていた金貨と宝石は?それと、ブラートが溜め込んでいた隠し財産の場所も調べてくれてるかな?」
「クロでもノワールでも、どちらでもリョージ様が呼びやすい方で呼んで頂ければ大丈夫ですよ!隠し財産は、私にかかればあっという間に見つかるものなのです!とは言っても『えっ?隠すって言葉の意味を知ってる?』って感じのレベルでしたけどね。集めた金銀財宝って感じのやつは馬車にまとめてブラートの屋敷に送って、仲間が警備してますので安心して下さい!あっ!これはビトールに渡した見せ金の金貨と宝石が入っている革袋です」
亮二の確認にクロはテンション高く答えると報告を行ってきた。“フェアリーの囁き”は単にブラートが好きで通っていたこと。隠し財産はかなりの金額になっており、ブラートが代官として掌握していた街と村から集めた増税をした上で、着服した金額は金貨1000枚を超えており、それ以外にも美術品や貴金属なども所有していたとの事だった。
「代官ってのは儲かるんだね」
「そうですね!人口も多いので増税した分の3割も抜いたら、数年で金貨1000枚は超えますよね!別件でリョージ様に質問です!さっき、ビトールと戦った後にとどめを刺した剣ってなんですか?普通の剣とは違う感じだったんですけど?」
「よく分かったね。あの剣は“転送剣”で、斬られた人は俺が指定している牢獄に転送されるんだよ。ただし、ユックリと決められた場所を斬らないと駄目だから、相手が無抵抗の場合しか使えないんだけどね。殺傷能力はゼロだけど、転送する時には気絶状態になるから2時間は目を覚まさないと思うよ。その間に武装解除と危険物所持の確認及び回収をしてもらってる」
「なんでビトールに“転送剣”を使われたのですか?」
クロの質問に亮二が“転送剣”について説明すると、ビトールに“転送剣”を使った理由を尋ねられた亮二は笑顔で答えた。
「だって、武闘派と呼ばれるくらいに力があるんだよ?人手不足のリョージ=ウチノ伯爵領には巡回兵が大量に手に入った今回の件は丁度良いのですよ!ビトールを説得して部下共々配下にできたら少しは楽になるからね。巡回まで自分でやってたら過労死するわ!」
「でも、ビトールや部下達がリョージ様の言う通りに雇われて働いてくれますかね?」
「ビトールは大丈夫でしょ。部下達は分からないけど、面接して人物を見極められたら即戦力の巡回兵が手に入るから頑張るぜ!」
クロに対して亮二は「頑張る!」と笑顔で答えるのだった。
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