第104話 教皇派の街に到着2 -公爵と会いますね-
「ようこそ我が街へ。我が名は”ハーロルト=コルトレツィス”、世間からは教皇派の筆頭と言われておるな。”ドリュグルの英雄”殿のお陰で街の北部が安全になった事に感謝いたしますぞ」
「改めまして、リョージ・ウチノと申します。ハーロルト公、王国民が困ってるのを助けるのは騎士の務めとユーハン伯より言われておりますので。それに冒険者でも有りますから、魔物討伐は生活をするために必要な仕事でもあります」
「はっはっは、”ドリュグルの英雄”殿は油断のならぬ方だ。騎士の務めだけで終わられたら感謝の言葉だけで済んだのが、冒険者と言われれば相応の謝礼が必要になるな」
ハーロルトが亮二の言葉を聞いて嬉しそうに頷くと、後ろに控えていた使用人らしき男性が亮二に対して革袋を恭しく差し出した。男性から袋を受け取った亮二はさり気なくインタフェースを起動して袋を検索すると- 貨幣袋 金貨15枚入り -と表示された。
「失礼ですが、門番の方からはギルドに依頼が出ているとお伺いしましたが?それに討伐の謝礼は金貨10枚と聞いております。5枚程多いようですが?」
「ほう、重さだけで枚数も分かられるか。それは王都から援軍を呼ばなくても良くなった分だと考えてくだされ。それに、ここで渡すのはギルドでは依頼を受けておらぬと聞いたからじゃ。ギルドへの功績にはならぬが報酬はあったほうが良かろうと思いましてな」
亮二はハーロルト公を失礼にならない程度に観察してみた。年齢はよく分からないが白髪でシワも多く、この世界の人間なら高齢の部類に入るように見えた。ただ、見た目の穏やかそうな感じとは裏腹に、眼光は鋭く亮二の事を値踏みしている。サラリーマン時代に営業のやり取りで、最終的には相手側である叩き上げの社長の言いなりの条件で契約する事になった事を思い出させたハーロルト公に亮二は警戒レベルを1段階上げた。
「ところで少しだけ相談が有るんじゃが、話だけでも聞いてもらえますかな?」
ハーロルト公からの相談に「ほら来た」と小さく呟くと亮二は先制のように軽くジャブを放ってみた。
「”暴れる巨大な角牛”の扱いについてでしょうか?ハーロルト公の領地で討伐した魔物で、ギルドから依頼も受けてない状態で討伐してしまいましたから私も扱いに困っていたんですよ。このままギルドに持ち込んで買い取りしてもらうのも違う気がしておりまして、依頼として受けてなくても報酬をお支払い頂いたハーロルト公なら素敵なご提案をして頂けるものと期待しております」
ハーロルト公は、まさにその話を始めようとした先に全て言われた事に軽く驚きの表情を浮かべると、徐々に笑顔になっていき「なかなかどうして」と呟きながら手を顎のあたりで組むとリラックスした状態で亮二に対して、さらなる詳細な提案を行ってきた。
「リョージ殿はご存知の事だが、近々、王都で王立魔術学院の入学式が行われる。儂は教皇派の貴族代表として入学式に参加するのだが、その前に伯爵以上の貴族は王への謁見が義務付けられておる。そこで王に贈り物をする必要があるのだが、リョージ殿が討伐され”暴れる巨大な角牛”を剥製にして献上しようと考えているのだが譲ってもらう事は出来ないだろうか?」
「え?私はてっきり討伐した事自体を譲って欲しいと言われるものだとばかり」
「流石にそこまで厚かましい事は言えんよ。それに門番が今ごろ『”ドリュグルの英雄”が”暴れる巨大な角牛”を討伐した』とあちこちに触れ回ってるだろうからな」
ハーロルトからの提案が思っていたよりも軽めだった事に意外さを顔に出しながら亮二から更なる提案を行った。
「では、”暴れる巨大な角牛”はお譲りしましょう。ですが、私からもお願い事があるのですが」
亮二から提案があると聞いたハーロルトは警戒するように僅かに目を細めて亮二に発言する様に促した。
「私からの追加提案は、『”暴れる巨大な角牛”討伐に関しての援軍要請を王都とドリュグルに出しており、ユーハン伯爵がその要請を受けていた。配下の騎士であり冒険者であるリョージが、|たまたま(・・・・)この街に滞在していたので討伐した』との筋書きです。いかがでしょうか?」
「それはちと無理矢理過ぎんかの?ドリュグルの街との間に貴族領もあると言うのに」
「私は貴族領を抜けてここまで来ましたが、途中の冒険者ギルドの規模はドリュグル程ではありませんでしたよ。辺境伯領にあるギルドだからこそ、優秀な冒険者が数多く集まっているのです。なので『討伐ランクが高かったために辺境伯の力を借りたかった』でいいのではないでしょうか?」
「して、リョージ殿はその提案で何を狙われておる?」
「それほど何かを狙っている訳ではありません。ユーハン伯とハーロルト公の顔繋ぎが出来ればと思っているくらいです」
亮二のさらっと流した最後の言葉にハーロルト公は唸っていた。教皇派と貴族派は2分する勢力を保っている。最近、力を付けてきたと言っても烏合の衆に近いユーハン伯の勢力にとっては教皇派の自分と顔を繋げるだけでも大きなメリットになるだろう。
それに、王都に向かうまでに”暴れる巨大な角牛”を討伐出来ていなければ貴族派の連中から嫌味を言われる事が容易に想像出来るだけに助かっている。戦略的には大した場所で無くとも、「いま、王都に来られてる場合ですかな?」などの台詞を、したり顔で貴族派からは聞きたくないものだ。
それにユーハン伯は「かなりのやり手」との評価が王都では出て来ているので顔繋ぎが出来るに越したことはない。答えは決まっていたが、ハーロルトはしばらく考えるフリをしてから亮二に対して了承するのだった。
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