第103話 教皇派の街に到着 -門をくぐるのは一苦労ですね-

 亮二達一行が教皇派貴族の街についたのは夕方頃だった。王都に近い都市のためか城壁の高さがドリュグルの街の半分くらいであり、ドリュグルの街と同じくらいの規模だがあまり活気があるようには見えなかった。


 城門もしっかりと閉じられておりフルアーマーを着込み、ラージシールドを構えた門番が立っていた。亮二の馬車以外には周りには誰もおらず、物々しい雰囲気の中で門に近付いた亮二達に誰何の声が届いた。


「止まれ!その場から動くな!貴様らはどこから来た?」


「私達はドリュグルの街から王都に向かっておりまして、ユーハン伯より騎士の称号を受けたリョージ・ウチノです。1週間かけて”盤面の森”を抜けてやって来ましたので最近の情勢が分かっておりません。お手数ですが何が起こっているのか教えて頂けませんでしょうか?」


 亮二が馬車から降りてスキル「礼節 7」を使って貴族として正式な挨拶をすると、門番から伝わってきていた緊張感が少しだけ柔らかくなった。


「失礼しました。申し訳ありませんが緊急時につき、何か身分を証明出来る物をご提示下さい」


「分かりました。では、ユーハン伯より王宛に預かっている手紙と私の冒険者証を提示させてもらいましょう。こちらの方に手紙を見せてくれ」


 亮二の言葉に文官が荷物から王宛の手紙を取り出すと門番に渡し、亮二は自身の冒険者証を提示した。門番は手紙に関してはユーハン伯の封蝋を確認すると恭しく扱いながら返却したが、亮二の冒険者証に関してはちらりと見て返そうとして冒険者ランクの所で固まると、穴が開く勢いで冒険者証と亮二とを交互に見直して震える声で話しかけてきた。


「ぼ、冒険者ランク【B】と書かれていますが、ドリュグルの街から来られた冒険者でリョージ様で間違いないですよね?」


「ええ、そこに書かれている通りで最近【B】ランク冒険者になったリョージ・ウチノです」


「あの”ドリュグルの英雄”殿ですか!」


「「あの」が「どの」かは分かりませんが、ドリュグルの街ではそう呼ばれる事もありました」


 亮二の言葉に門番は慌てて冒険者証を返却すると恭しく敬礼して「失礼しました」と謝罪するのだった。


 ◇□◇□◇□


「取り敢えず、状況を教えて頂けますか?」


「はっ!現在、北門は封鎖されている状態です。リョージ様が来られた”盤面の森”に関しても封鎖命令が出ていたはずですが?」


「それは、まあ色々とあって。何故この辺りが全面的に封鎖されているんですか?」


「この周辺に”暴走する巨大な角牛”が暴れておりまして、人を見かけると縄張りを侵されたと勘違いして襲ってくるのです。この辺りは、いつもなら”巨大な角牛”が2~3頭で群れを作っているんですが、今回は何故か”暴走する巨大な角牛”が10頭で群れを作っており、手が付けられない状態ですので王都に応援要請をしているところなのです」


 門番の説明に「ん?」と小首を傾げた亮二の態度に「何か有ったのですか?」と尋ねた門番に対して亮二は質問を行った。


「”暴走する巨大な角牛”は普通の”巨大な角牛”より2回り大きい個体がいる群れのボスで、先頭を走ってるやつだよね?」


「そうです。もしかして見られたのですか?最近の情報でしたらぜひ教えて下さい。情報料をお支払いしますので」


「えっと、もし倒したら報奨金とか出るの?」


「もちろんです。ギルドにも討伐依頼が出ております。全滅させれば金貨10枚ですね、討伐部位の報酬と買い取りは別に計算される事になります」


「それって、ギルドで依頼を受諾してなくても構わないかな?」


 門番は亮二から質問される度に答えていたが、だんだんと不審な顔になって「何か情報以外にお持ちですか?」と問いただしてきた。


「倒した」


「え?」


「だから、その角牛を11頭全部倒したんだよ。大っきいのも含めて!」


「へ?は?し、失礼しました。”暴走する巨大な角牛”を討伐されたのですか?」


「そうだよ、見てみる?今、出すから」


 亮二は口が半開きになっている門番を見て実物を見せないと納得してもらえないと思い、ストレージから”暴走する巨大な角牛”を取り出した。門番は信じられない思いで”暴走する巨大な角牛”を眺めていた。


 ”暴走する巨大な角牛”は見た目はどこも傷付いておらず、今にも起き上がって襲ってきそうな鋭い眼光をしていた。呆然とした門番を見た亮二は、大きさが門番に伝わらずに”暴走する巨大な角牛”だと思われていないと勘違いして、その横に”巨大な角牛”を並べ始めた。


「いやいや!リョージ様!別に疑っているわけではなくて呆然としただけですので、片付けて頂けますか?」


「そうなの?11頭とも同じ感じで討伐しているから討伐部位も買取も綺麗な状態で確認できるよ?」


 軽い感じで11頭を全て並べそうな勢いに茫然自失から復活した門番が慌てて止めると、「領主に報告しますので一緒に来て下さい」と亮二と一行を領主の館に連れて行くのだった。


 ◇□◇□◇□


「なに?”暴走する巨大な角牛”が討伐された?まだ王都から応援は来ていないはずだが?」


 報告を受けた教皇派の領主である”ハーロルト=コルトレツィス”は報告を受けて意外な顔をした。彼の領地の北側は草原と”盤面の森”が広がっているだけで交通的に重要さはなく、”盤面の森”での伐採ができない事は多少問題にはなるが、”暴走する巨大な角牛”を最優先で討伐するほど重要度は高くなく、近いうちに王都からの援軍で片が付くくらいにしか考えていなかったからである。


「討伐されたのなら有難いことだな。さぞ名のある冒険者が討伐したのであろう」


「あの”ドリュグルの英雄”が討伐したようです!」


「”ドリュグルの英雄”?ユーハン伯に加わった新しい家臣か。なぜ我が領地に?」


「王立魔術学院に入学するために王都に向かわれている途中との事です」


「すると年齢は11才程度か?まだ成人を迎えていないにもかかわらず凄腕だな」


 感心したようにハーロルトが呟いていると「歓迎されますか?」と聞いてきた報告者に対して「当然であろう」との顔で頷くのだった。


「当然だ。北側の安全を確保してくれた英雄に対して礼を失しないようにな」


 そう告げるとハーロルトは未成年である”ドリュグルの英雄”を自陣に取り込めないか検討を始めるのだった。

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