第105話 手紙が起こした軽い騒動 -ノリと勢いで書きましたね-

 手紙1通目


「リョージから手紙が来た?」


 従者から手紙を受け取り読み始めたユーハンは手紙を読み進めていく内に呆気に取られた顔になり、そして少しずつ笑い出し最後には我慢が出来なくなったように大声で笑い始めた。ユーハンの一連の動きを心配そうに眺めていたマルコに対して涙を拭いながら手紙を渡すと落ち着くために従者に飲み物を持ってくるように伝えた。


「どうしたんだよ?ユーハン。リョージの手紙がそんなに楽しかったのか?」


「ああ、取り敢えず読んでくれ。リョージの行動が相変わらず俺達の予想を裏切るどころか、1周回って『やっぱり、リョージだな』と思える事が分かるから」


 手紙の内容があまりにも楽しかったのか、再び笑いながら手渡してきた手紙を受け取ったマルコは最後まで内容を読んだ後に盛大な溜息を吐くと、なんとも言えない顔でユーハン伯に手紙を返した。


「もうどっから突っ込んでいいのかも分からんな。なんで王都に行くのが目的なのにドラゴンを倒してるんだよ。どこまでドラゴンを倒しに行ったと思ったら盤面の森だろ?あんな所でドラゴンが出るなんて聞いたこともないぞ。それに盤面の森全体がアーティファクトだった?そして最短記録を更新したから管理者権限をもらった?もう意味すら分からんわ?それにしても盤面の森は失われた遺跡だったんだな。あそこの領主も盤面の森がアーティファクトだと知っていたら間違いなく独り占めする為に立ち入り禁止にしただろうな。この内容を知ったらドラゴンや報酬なんかも全て取り上げようとするんじゃないか?」


「そこは俺たちが王都に手を打っておく必要があるな。ちなみにマルコ、そこに書かれている前回の攻略者の名前に心当たりがあるんじゃないか?」


「ん?流し読みしてたわ。アマデオ=サンドストレム!500年前にこの国を立ち上げた英雄王じゃないか。おいおいリョージはエレナ姫のご先祖様よりも早く盤面の森を攻略したって事か?」


「ああ、ドラゴンスレイヤー、武断王と言われている武闘派の英雄よりも早く盤面の森を攻略したなんて情報は王都側には伏せといた方が良いな。リョージの手紙にも一行以外は知らないと書かれてるから、早急に手紙を出して緘口令を敷く必要がある」


「ほっといて情報が流れたら王都に着いた時点でリョージの取り合いが始まるな」


 マルコの冗談にユーハンは渋い顔をしながら「縁起でもない事を言うなよ」とマルコを嗜めるのだった。


 □◇□◇□◇


 手紙2通目


「またリョージから手紙が来た?」


 ユーハンは文官から手紙を受け取り内容を読み始めた。文官の目に映っているのは亮二の手紙を受け取った上司が読み進めて行く内に、笑顔になったり、真剣な表情を出したり、青い顔をしたり、ホッとしたり、最後は考え込んだ顔をしたりと今まで見たこともない上司の百面相だった。


 手紙を読み終わったユーハンはしばらく手を額に乗せて天井を向いていたが、側に控えていた文官に対外対応をする主だった者とマルコを呼ぶように伝えた。


「どうした、またリョージから手紙が来たそうだが何かやらかしたのか?」


「そんなレベルなら良かったんだけどな。まずリョージ達一行は教皇派の貴族筆頭であるハーロルト公の街に到着した。そして暴れる巨大な角牛を討伐したらしい」


「相変わらずだな。どうせ1人で倒したんだろう?」


「ああ、手紙によると暴れる巨大な角牛1頭と群れの巨大な角牛10頭の合計11頭を同時に倒したらしい」


「は?嘘吐けよ!無理に決まってるだろ!」


 思わずマルコが上げた声に同席している関係者一同が一斉に頷いた。それを見てユーハンは悪そうな顔をすると、マルコに向かって手紙に書かれている伝言を伝えた。


「マルコ、リョージからお前に伝言だ。『嘘吐けよ!無理に決まってるだろ!なんてつまらないツッコミはするなよ』だそうだ」


「うるせえよ!」


 マルコの怒鳴り声と周りから起こった失笑を受けてユーハンは「ここからが本題だ」と前置きをして手紙を読み始めた。


『ハーロルト公と会談をして暴れる巨大な角牛は譲る事になったけど、共同作業って事にしましたのでよろしくお願いします。そしてユーハン伯はやり手だから手を組むのをお勧めしますとも伝えました。王都で時間を作るので会談する事を希望されています』


 ユーハンが一気に読み上げた内容に一同は亜然としたが、亮二との付き合いが長いマルコが逸早く回復し溜息を吐きながら話し始めた。


「俺たちがあらゆる手を使って繋がりを持とうとしていたハーロルト公とあっさりと会談して、しかも俺たちを紹介した上で売り付ける事に成功したって事か?」


「ああ、それだけじゃないぞ。手紙には続きかある。『やっほー。儂!儂!儂?ハーロルト。よろしくね!王都で会うのを楽しみにしてるよ!』とハーロルト公の自筆で書かれてある。ご丁寧にサイン付だ」


 ユーハンの読み上げに、先程の沈黙など比ではない完全たる沈黙がユーハンの周りに発生した。先に手紙を読んでいたユーハンが喋りにくそうにマルコに話しかけた。


「ほら、ツッコミ担当。何とかこの空気を救ってくれ」


「無茶な事を言うな!そもそもツッコミ担当じゃねえよ!俺たちが知ってるハーロルト公は冷徹なる遂行者神の怒りを体現出来る男だよな?間違っても『やっほー』なんて言わないんだよ!」


 マルコの怒鳴り声に近い叫び声を聞きながらユーハンを始めとする一同は「一体リョージはどんな会談をしたんだ?」と思うのだった。

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