第106話 王都に到着 -やっぱり門をくぐるのは一苦労ですね-
「あれが王都か」
大きな口を開けて呟いた亮二の姿を見てハーロルトは嬉しそうに語り始めた。
「流石のリョージも仰天したようじゃな。そう、あれこそが我が王国が誇る”サンドストレム”であり、未だかつて侵略者を許した事のない我が王国の首都である。城門に入るまで、あと1時間以上は掛かるからな、それまでゆっくりしながら進もうぞ」
「ハーロルト公、そろそろご自身の馬車に戻られた方が良いのでは?先程からお付きの皆さんが物凄く焦った顔でこちらを見られてるのですが…」
楽しそうに亮二と語り合っているハーロルトにカレナリエンが申し訳無さそうに声を掛けた。ハーロルトは亮二の馬車と言うより”拡張の部屋”の中でソファーに座りながらワインを飲み、料理を摘みながら完全に寛いだ状態である状況を楽しんでいた。ちなみにソファーはハーロルトが亮二の馬車に持ち込んだものである。
「なあに構いやせん。大体、リョージの馬車の中が快適過ぎるのが良くない。調理場があって温かい料理が出て来るわ、氷が用意されていて冷たいワインが飲めるわ、ツマミとしてリョージのアイテムボックスから色々な物が出てくる。それに全く揺れのない馬車なんぞ、儂や貴族達どころか王ですら持ってないだろう。見てみろ!テーブルの上に置いたワイン。全く揺れが無いではないか。馬車の中でグラスに入ったワインやスープが飲めるなんて考えた事もない。どうじゃ、リョージよ。この魔道具を金貨2000枚で儂に譲ってくれまいか?」
”拡張の部屋”をよっぽど気に入ったのか、ハーロルトは買い取ろうと亮二に持ちかけたが、馬車の揺れがゼロであり、調理場も設置されている”拡張の部屋”を譲るつもりは全くなく、「金貨20000枚積まれても駄目です」と笑顔で返すのだった。
□◇□◇□◇
流石にそのまま亮二の馬車で王都に入る訳にもいかず、ハーロルトは「儂の馬車の後ろに付いて来るように」と言いながら名残惜しそうに自分の馬車に戻った。王都の城門の前には場内に入るための列が複数出来ており、人も馬車が入り乱れて長い列を作っていた。
ハーロルト達一行の馬車はその横を悠々と抜けて行きながら入口近くまで来ると、複数台の豪華な馬車が通常の列とは違う所に止められていた。ハーロルトと亮二の馬車はその脇すらも通り過ぎて先頭に入り込むと門番の兵が慌てて駆けつけて敬礼しハーロルトの馬車は中に通したが、亮二たちの馬車は止められて詰問が始まった。
「止まれ!爵位と名前を述べられよ」
「ユーハン伯配下の騎士リョージ・ウチノと申します。縁が有ってハーロルト公とご一緒する約束をしておりますので通して頂けませんでしょうか?」
「貴様のような騎士風情ごときにハーロルト公爵が一緒になどとお約束をされる訳がなかろう!さっさと戻って列に並び直して順番を守ってもらおう!門番たる我々に対して意味の分からぬ事を言う奴は貴族側ではなく一般人側に並ぶように。貴様が騎士というのも怪しいものだ」
「あの長い列が一般人側ですよね。畏まりました。では一般人側に並ばせてもらいましょう。おい、馬車を一般人側の列に」
門番の激しい詰問口調に辟易しながらもハーロルトの馬車は随分と先に進んでいる為、ここで揉める事は得策ではないと判断した亮二は馬車を返して一般人側の最後尾に並んだ。並び始めて5分ほど経った頃、美味しそうな匂いが漂ってきたのに気付いた亮二は、周りを見渡し屋台が並んでいるのを発見すると嬉しそうに叫んだ。
「おぉ!屋台が沢山有るじゃないか!片っ端から食べていこう!」
亮二の声に「俺の焼いた肉は絶品だぞ!」「お兄さん!こっちも買っとくれ!」「今なら、5皿買ったら1皿オマケするぞ!」などと屋台中から声が上がった。亮二は手分けして屋台から様々な食べ物を購入すると、御者台の上で焼き鳥のように串に刺さった肉を食べ始めた。
「結構いけるな。カレナリエン、メルタ、皆も遠慮しなくていいから好きなモノを買ってきてくれていいぞ。1人銅貨50枚渡すから色々買ってきくれ。一番旨いやつを買ってきた人には賞金で銀貨1枚だ!」
亮二の掛け声に一同は歓声を上げると自分の勘を最大限に発揮して美味しいものを探しに行くのだった。
□◇□◇□◇
王都に入る為の列は遅々として進まず、亮二は屋台で買ってきた肉を全て食べ切ってしまった。少し物足りなく感じた亮二だが、ここで屋台に繰り出してしまうと誰もいなくなってしまうので、ストレージから果実水を取り出すと飲み始めた。
「あ、あの」
亮二が果実水を飲んでいると左手の方から、おずおずとした小さな声が亮二に届いた。
「ん?どうした?何か俺に用事か?」
「もし宜しければこちらの商品も買って頂けませんでしょうか?」
亮二が声の方に視線を向けると同じ年くらいの少女が小瓶を持っており、震える声で「買って頂けませんか?」と再びお願いをしてきた。
「これは?」
「甘い調味料です。粘り気がありますので取り扱いには気を付けて下さい」
「粘り気のある甘い調味料?ちょっと味見していい?」
「構いません。お気に召されたら少しでも良いので買って頂けませんか?」
少女から小瓶を受け取った亮二は小瓶の蓋を開けると中を覗き込んだ。日本で見た事のあるような透明の液体に木の棒を付け回しながら引き上げると巻き付くように絡み付いてきた。
「これって、ひょっとして水飴?」
亮二は呟きながら透明色の粘度の高い液体を口に入れると、素朴な風味と甘味が口の中に広がり懐かしさが亮二の心を満たした。懐かしい味で感動に固まっている亮二に少女は恐る恐る話しかけてきた。
「旦那さま?どうされましたか?申し訳ありません、すぐに帰りますのでお許し下さい」
固まっている亮二が怒っていると勘違いした少女は慌てて小瓶を取って帰ろうとしたが、亮二が小瓶を離さないので困った顔で「旦那さま?」と再び語りかけ始めた瞬間に思い切り腕を掴まれて軽く悲鳴を上げてしまった。
「ご、ゴメン。ちなみに調味料の値段は?銀貨1枚?」
「と、とんでも御座いません!余りにも売れなかったので作るのを止めようかと部族で話していたところですので、値段は銅貨1枚で結構ですよ」
「じゃあ、有るだけ下さい!ちなみに作り方を教えてもらう事は出来ないかな?」
少女は亮二の余りの喰い付きぶりに若干怯えながらも申し訳無さそうに断ってきた。
「申し訳ありません。先祖代々受け継がれてきた秘伝になりますのでお伝えする事は。それに作り方は族長しか知りませんので、今ある2瓶でご容赦下さい」
「じゃあ、族長と会わしてもらう事は出来るかな?これから王都で生活するから時間は何時でもいいんだけど」
「分かりました。では族長に相談してみます。旦那さまのお住まいはどちらですか?」
「まだ決まってないんだったよな?そうだ!住む所が決まったら冒険者ギルドに伝えとくから場所を聞いて訪ねてきてよ」
亮二はそう言いながら族長宛に手紙を書くと少女に銀貨10枚と金貨1枚を皮袋に入れて一緒に手渡した。少女は銅貨が入っていると勘違いして族長に手渡した後で中身を見て腰を抜かしそうになったのは別の話である。
亮二からすれば「見えてなくてもテンプレ展開だから腰くらいは抜かしてるかもね」と心の中で思いながら意図的にやったので質の悪い話ではあるが。
「お預かりします。旦那さまのお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「リョージ・ウチノだよ。君の名前は?」
「私の名前はソフィア=ラレテイです。では必ず冒険者ギルドで住所を聞いて行きます」
少女は手に持っていた瓶を2つとも渡すと部族が待つ所へ報告するために帰って行くのだった。
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