第107話 王都に到着2 -屋台での騒動は楽しいですね-
「な、何事?」
水飴を眺めながらどんな料理で使おうかと考えていた亮二が呟いてしまう程、馬車の周りに人集りが出来始めていた。買い出しに行ったカレナリエン、メルタ、文官達が屋台の店主に「美味しい料理を買ったら賞金が出る」と言いながら買い物をしていたらしく、店番が残せる者達が亮二に直接売りに来たからである。
「兄さん!この肉は”巨大な角牛”の肉なんだよ。この辺りでは中々食べられないから一つどうだい!」
「それなら、こっちの”キノコのお化け”を干した塩焼きなんかもさっぱりして美味しいよ!」
「お肉ばっかり食べてると体調が悪くなるから、こっちのリイゴの実はどうですか?」
カレナリエン、メルタが両手に抱えてきた料理を亮二に手渡しながら謝罪してきた。
「すいません、リョージ様。思った以上の騒動になっちゃって」
「私達も楽しかったので、はしゃぎ過ぎたようです」
亮二は「楽しかったらいいんだよ」とは返したものの、勢い良く売り口上を述べている店主達を見ながら「どうしたものか」と考え込んでいた。
- 買うだけだったらストレージに収納出来るから別に全部買っても良いんだけど、この人達って勝負に乗っかって来てるんだよな?だったらどれが一番か決めないとダメだよな -
取り敢えず全て買えば済むはずの話を目を閉じて生真面目に勝負事として考え出した亮二に、店主達の売り声がだんだんと小さくなっていき静まり返って亮二の返事を待つ状態になった。そんなタイミングを見計らったかのように亮二は目を開くと提案を始めた。
「よし!じゃあ人気投票をしよう!流石にお腹が一杯になって来てるから、俺が食べて公平な評価が出来ないしね。これから色を付けた木片と箱を用意するから、購入した個数と同じ数の木片を木箱に入れて欲しい。1人が1個頼んだら、木片を1個木箱に入れるって感じで。普段は王都内で商売してるんだよね?だったら期間は今日のみで、明日の午前中までにギルドに木箱を持って来てほしい。何か質問有る?」
「貴方の名前を聞いていないので、ギルドに木箱を持って行ってもどうすればいいのか分かりません」
「あぁ、そうだよね。俺の名前はリョージ・ウチノだよ。ドリュグルの街でユーハン伯に仕えている騎士だ」
「え?ひょっとして”ドリュグルの英雄”様ですか?」
店主の一人が呟いた時に周り居た店主だけでなく、騒動を見に来ていた者達からもどよめきが起こった。亮二は不思議そうに周りを見渡すと、疑問が浮かんだ顔や好奇心満載の視線などが全て自分に向っていることに気が付いた。
「え?なんでこんな変に注目を浴びてるの?」
亮二の呟きに店主の代表が勢い良く説明を始めた。
「当たり前じゃないですか!牛人を討伐した”ドリュグルの英雄”の話は王都にも伝わって来ていますよ!ただ”ドリュグルの英雄”は身長2m以上はあって、背丈以上ある大剣を担いで牛人を真っ二つにし、街で気に入らない人間を見かけたら魔法を連続で撃ってきて、婚約者が2名に愛人が最低10人はいるって聞いてたのに全然違っていて、失礼ですが未成年の子供なんですよ。そりゃあビックリしますって!」
「見た事もないわそんな奴!それに誰だよ適当な噂を広めたやつは!ドリュグルの歓声の時に聞こえてきた内容より愛人の数が増えてんじゃん!俺に愛人なんていないからね!まだ未成年なんだから!」
「今の発言は成人したら愛人を持つつもりですか?」
間違った説明をされた内容に、亮二が突っ込みを入れながら叫んだと同時にカレナリエンから周りの雑音が一瞬で止まる程の凍える視線と低い声で確認が入った。亮二が肩を震わせてゆっくりとカレナリエンの方を向くとメルタも同じ様に凍える視線と満面の笑顔で亮二に近づいてきた。
「いやいや!愛人なんて持つ訳ないじゃん!こんなに素敵な婚約者が2人も居るのにさ!」
「その辺りについてゆっくりと”拡張の部屋”でお話ししましょうか?防音にもなってるみたいですしね」
だらだらと汗を掻きながら亮二は後退すると「あっ!そうだ!料理の人気投票の準備をしないと」と言いながらストレージから木を取出し加工を始めた。そんなあからさまな誤魔化しを始めた亮二にカレナリエンとメルタは苦笑しながらも手伝いを始めた。
「リョージ様、このやり方だと不正をする人がいるのではありませんか?確認者を付ける訳にはいきませんが」
亮二達の作業は30分程で木片の加工も含めて終わったが、確認者が居ない為に不正が出来る事に気付いた文官が亮二に質問をしてきた。
「不正が分かるように魔法を掛けといた。それにどっちでも良いんだけどね。優勝者には賞金を渡すけど”そんな事する店”には二度と行かないから。あくまでも遊びなんだから軽く楽しもうよ」
亮二からの魔法を使ったとの言葉に数名ほど表情が動いたが、特に反対する事は無く人気投票をする事に賛同した8店が亮二の署名と店の名前が入った木片と木箱を受け取ると、自分の店に戻って料理を売り始めた。
亮二達のやり取りを聞いていた者達が自分の列に戻り、その場所で人気投票の話と”ドリュグルの英雄”が王都に来ている事を周囲に話始め、それが噂となって暇つぶしにもなり、例年待ち時間が長くて乱闘騒動などが起こっていたのが、今年は1件も起こらなかった。その理由を知らない警備担当者が首を傾げる一幕があったのは別の話である。
□◇□◇□◇
「リョージ・ウチノで間違いないか!」
突然、声を掛けられた方を見るとハーロルトの馬車と一緒に城門を抜けようとして止められた門番がいた。
「違います」
門番をちらりと見て否定すると屋台で買った料理を食べ始めた。亮二に軽く否定された門番は青筋を立てながら睨み付けてくると、後ろに控えていた兵士3名に目配せをして包囲すると再度「リョージで間違いないな!」と確認をして来るのだった。
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