第108話 王都に到着3 -なぜか戦ってますね-

「貴様がリョージ・ウチノである事は分かっている!直ちにこちらに来てもらおう!」


「分ってるなら確認しなきゃいいのに」


 亮二の呟きが聞こえてきたのか、門番の男は苛々しながら「早くしろ!」と怒鳴りかけてきた。亮二は門番の態度が気に入らなかったのでワザとゆっくりと立ち上がりながら笑顔で答えた。


「断る」


 亮二の簡潔な一言に門番は何を言われたのか分からなかったのか「は?」と間の抜けた声を出したが、亮二から再び「断る」と言われると真っ赤な顔をして怒鳴りだした。


「貴様!俺に逆らうつもりか!何を言っているのか分かっているのか!」


「理由は?」


「なに?」


「だから理由は?なんで騎士である俺が一介の門番の命令を聞く必要がある?ユーハン伯からの命令か?」


 亮二から冷静に理由を問いただされた門番は一瞬黙ると、殺意の篭った目で亮二を睨みつけて「おい!連行しろ!」と叫んだ。門番の命令に兵士3名が剣を抜いて近付いて来るのを見た亮二は、馬車から飛び降りると周りを囲んでいた群衆に向かって叫んだ。


「皆、これから戦うから気をつけて!なぜか分からないけど無理矢理にどこかに連れて行かれようとしているんだ。相手が理由を説明しないから抵抗するのであって、王国軍に含む所が無い事をここに明言しておくよ!」


「何か分からんが、リョージ頑張れ!”ドリュグルの英雄”と言われてる実力を俺達にも見せてくれ!」


「やっちまえ!見ただけでどっちが悪い顔をしているか分かる!俺はリョージを応援するぞ!」


「よし!俺はリョージが勝つ方に銅貨5枚!」


「馬鹿、それじゃあ賭けが成立しないだろ!時間だよ!時間!俺は5分だ!」


「あんたが捕まったら誰が人気投票の賞金を出すんだよ!せっかく面白くなってるんだから、こんな所で捕まるなよ!」


 群衆から応援とヤジ混じりの応援が亮二を後押しした。周りに自分の味方が1人も居ない事に門番は真っ赤な顔で怒り心頭になっており、兵士達3名は亮二が”ドリュグルの英雄”で有る事を知って青い顔をしていた。


「何をしている!さっさと捕まえんか!」


 門番の声に躊躇いながら攻撃を仕掛けてきた兵士の剣をサイドステップで躱すと、【雷】属性付与を行った右手で剣を持っている手首を押さえた。手首を押さえられた兵士は一瞬動きを止め、白目になるとゆっくりと崩れ落ちるように倒れて動かなくなった。


 亮二に触られた兵士が何の抵抗も出来ずに倒された事に残りの兵士達の動きが目に見えて悪くなり、所謂”及び腰”になっているのを見て、後ろで喚いている門番に目を向けると亮二は兵士2人に向けて笑顔で語りかけた。


「お願いだからどいてくれないかな?もし、それ以上向かって来るなら剣を抜かないといけない」


「何を言っておるか!貴様ごときが王国兵に敵う訳がない!王国兵は有史以来、戦いで負けた事が無いのだぞ!」


 亮二の語りかけに門番は喚いていたが、兵士2人は亮二を見て実力差を感じ取ると、後ろに居る門番には見えない様に剣を少し下げて敵意を手放した。


「早くせんか!ハーロルト公が『さっさと連れて来い』と仰ってるんだ!少しでも遅くなったら俺への覚えが悪くなるだろう!そうなったらお前達の事を首にするからな!」


「ハーロルト公がさっさと連れて来いって言ってるの?さっき、あんたが『通さない』なんて言わずにいたら、こんな事にはならなかったのに頭大丈夫?しかも後ろから叫んでるだけなんて。悪いけど相手にする時間も勿体無いよ」


 亮二からあからさまに侮蔑の言葉と、それに合った表情と態度を向けられた門番は言われた内容を理解できない表情をしたが、亮二から言われた内容を徐々に理解していくごとに赤い顔がさらに赤くなっていき、抜剣をすると兵士2人を押し退けて前に出て来た。


「騎士程度の分際で、男爵家次男の貴族である俺に歯向かうとは良い度胸だ。ユーハン伯なんて下っ端伯爵程度の騎士にしかなれなかった貴様に俺が格の違いを教えてやろう」


 門番の台詞に亮二は大きく目を見開いて手を口に当てると震えだした。その様子を見て「やっと格の違い分かったか」と満足そうに呟きながら憎々しげに亮二を見た門番は胸を反らせて剣を突き付けながら口を開いた。


「貴様の態度は許し難く、このまま穏便に済ますつもりはないが、最後に一言だけ言い訳を聞いてやろう」


 震えが最大になった亮二がやっと口を開いて感動した顔で門番に話しかけてきた。


「ここまでやられキャラの吐く台詞を並べてくれるなんてお前の事を誤解していたよ。嫌な奴だと思っていたけど”素晴らしい噛ませキャラ門番A”として記憶しとくよ!今日3番目の素晴らしい収穫だわ」


「リョージ様、ちなみに1番と2番は?」


「屋台の飯が美味かった事と、水飴が手に入った事」


 亮二の台詞に対してカレナリエンがした質問に対する回答が”飯が美味い、水飴”だった事にメルタ達は苦笑しながら「水飴ってなんですか?」と質問をしだした。亮二はその質問に嬉しそうに小瓶と木の棒を数本メルタに渡すと「甘いから味見してみて」と説明を始めた。


「お、俺の事を無視するな!」


 怒りとともに突っ込んできた門番の攻撃をストレージから出した”コージモの剣”で受け止めると、周りにいた者たちに下がるように伝えて、亮二は門番に対して明るく話しかけた。


「いきなりの攻撃は酷いな。そんな事をされたら俺も本気になるよ」


 亮二はそう言うと門番と一旦間合いを取り”コージモの剣”に【火】属性を二重で付与して門番の剣の先端をかすめる様な感じで剣を横薙ぎに振り払った。門番は属性付与された剣を見て若干怯えた表情を見せたが、周りから視線を浴びている為に下がる事はせずに亮二に対して攻撃を始めた。


「じゃあ、いっちょ始めますか!こんな場合はテンプレ的には「It's Showtime!」とか言うのかな?」


 門番の攻撃を躱しながら亮二は【水】【風】【氷】と順番に属性を二重で付与しながら門番の剣の先端を掠る感じで剣を振り始めた。門番は亮二の攻撃を剣を使って防げていると思い込んでいたが、後ろで2人の戦いを見ている兵士たちはだんだんと違和感を覚えていた。


「なあ、だんだんと剣が短くなって無いか?」


「やっぱりお前もそう思うか?目の錯覚じゃないよな?」


【雷】属性付与を二重で掛けたと同時に亮二は攻撃の速さを加速させた。門番は攻撃を受ける度に火花が散る状態に、半分目を閉じた状態で剣を立てて防御するしか出来なかったが、ふと亮二からの攻撃が止んだ事に不思議に思いながら目を開けるとあり得ない状態が目に飛び込んで来るのだった。

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