第228話 鍛錬場での一コマ2 -戦いの約束をしますね-

「えっ?この方がリョージ伯爵なんですか?僕の聞いた話では、身長は2mを超えていて、全身ミスリルの鎧を身にまとっている上に絶対に脱がない。その素顔を見た者は全長3mのミスリルの大剣で真っ二つにされた後に獄炎魔法で塵一つ残さず焼却されて魂の救済も受けられないようにされてしまう。と、聞きましたが?」


「誰だよ!そんな奴がいたら、すでに世界は滅んでるだろ!だいたい、獄炎魔法ってなんだよ!それに全長3mの大剣なんてどうやって持つんだよ?」


「たしか、イオルス神から与えられたアイテムボックスに普段は収納しているとか」


 エルナンの亮二像に対してツッコミを入れると、エルナンから中途半端に正しい情報が返ってきてげんなりした表情で「中途半端に詳しいね」と答えると、嬉しそうな声で続きを話し始めた。


「はい!僕のあこがれの英雄がリョージ伯爵なんです!建国王アマデオ=サンドストレムにも負けない、剣技に魔法力を持つと言われている牛人を3体同時に討伐した英雄。全身をミスリルで固めている、イオルス神に愛された英雄。婚約者が4人も居るのに愛人も町や村に1人ずつ居て、すべての女の子たちが満足する包容力と経済力を持った英雄。どれを取っても、真の英雄としか言えないじゃないですか!ちょっとだけ、姿形を間違えていましたが、僕はリョージ伯爵の事を尊敬しています!あっ、握手してもらっていいですか?」


 怒涛の如く話し始めたエルナンに圧倒されながら、握手までした時点で意識が戻った亮二は「だぁ!違う!」と叫びながら訂正を始めるのだった。


 ◇□◇□◇□


「えっ?でも、ミスリルの装備は全身で、婚約者も4人居るんですね!牛人を3体同時に討伐されたのも嘘じゃなかったんですね!」


「そうだけど!そうなんだけど!あちこちのニュアンスが大分と違うよね?ニコラス!なんなのこの子は?」


 亮二の訂正を聞いた後も、目をキラキラとさせて尊敬の眼差しで見てくるエルナンに、救いを求めるようにニコラスを見上げたが、「昔から暴走気味のところがあるので許してやってください」と謝罪されて諦めの境地に入りつつ有った亮二と憧れの英雄に会えたことでハイテンションのエルナンが話していると、苦しそうな声が聞こえてきた。


「おい!エルナン!早く、軍医を呼んで来い!」


 亮二に叩き伏せられていた兵士の1人が、エルナンに対して罵声を浴びせながら軍医を呼ぶように叫んだ。慌てて軍医を呼びに行こうとしたエルナンを片手を上げて止めると、亮二は回復魔法を唱えて少しだけ回復させて、うずくまっている兵士に対して話し始めた。


「おっと、エルナンに雑用を押し付けるなよ。軍医ぐらい自分たちの足で向かえよ。大体、俺から見たら、お前たちよりエルナンの方が戦いにおいても役に立つぞ」


「なんだと!俺たちよりエルナンの方が役に立つだと!」


 亮二のセリフに兵士が叫んだが、相手にする事なくエルナンに向き合うと確認を行った。


「ところで、エルナンの他に先輩から雑用を押し付けられてるやつはいるか?」


「はい!先輩から雑用を言いつけられるのは僕以外に5人ほど居ますよ。それが、どうかしたんですか?」


「よし!じゃあ、エルナン達がどれだけ戦いに役立つか教えてやる。個人戦でも団体戦でも好きな方を選べ。いいかエルナン。お前達の対戦相手は、そこで地面を舐めてる先輩達だ。1か月間、俺がお前を徹底的に鍛えてやる」


 満面の笑みを浮かべた亮二のセリフを聞いたエルナンは、しばらく呆然としていたが先輩兵士と亮二を交互に見ながら内容を理解すると「えええぇ!」と大音量で叫ぶのだった。


 ◇□◇□◇□


「お前達は、どうする?先輩として受けるのか?それとも、辞めて田舎に帰るか?」


「分かった、それほど俺達がエルナンより劣っていると言いたんだな!いいだろう。1ヶ月後に試合でもなんでもやってやる!」


 亮二の挑発に兵士達が睨みつける中、ニコラスが恐る恐る話しかけてきた。


「よろしいのですか?伯爵に剣を向けた罪で、この者達を極刑にする事も出来ますが?」


 ニコラスの言葉に自分達が誰に向かって暴言を吐いて闘いを挑んだ事を思い出して、小さく震えだした兵士達を眺めながら、亮二は「最初から真面目にしとけばいいのに」と苦笑して呟くと兵士たちに向かって今後の予定は話し始めた。


「お前たちは、伯爵である俺に剣を向けたと思っているが、俺からしたら歓迎会レベルだからな。罰則を与えるなんてする訳ないだろ?その程度の腕で【B】ランク冒険者のリョージ=ウチノに勝てる訳ないだろう」


「えっ?【B】ランク冒険者?」


「なんだ知らなかったのか?王都にある冒険者ギルドからは【A】ランク冒険者への昇格打診が来てるぞ?そんな人間相手に【C】ランクごときで調子に乗って刃向かって来たんだから当然の結果だろう。で、俺からのお願い・・・としては、1か月後にエルナン達のグループと試合を行う事。それまでは兵士の仕事は無しだ。全力でエルナン達と戦えるように体を鍛えておけ。それと、酒は1か月後の試合が終わるまで飲むな。それと、勤務中に酒を飲んだことに対する罰則は午前中のレーム城の掃除だ。1か月間、毎日欠かさずやれ!」


「わ、分かったよ。いや、分かりました。おい!お前ら!1か月後のエルナン達との試合に向けてダンジョンで戦いの勘を取り戻すぞ!」


 亮二の言葉に観念した兵士達は1か月後の試合と、朝の掃除について了解すると怪我を治すために軍医の元に向かうのだった。


 ◇□◇□◇□


「よろしかったのですか?あの者達を自由にさせて?逃げ出すかもしれませんよ?」


「その辺は大丈夫。ちゃんと見張りを付けるから。おい!」


 ニコラスの問いかけに亮二は答えて、どことはなく声を掛けると「はっ!」と黒装束を着た者が跪いていた。


「兵士達の監視を頼む。おかしな動きが有れば連絡してくれ。ちなみに、お前たちって何人いるんだ?」


「我らはクロ様筆頭に10名のチームで動いております。現在、リョージ様の護衛をしているのは2名です」


 亮二からの問い掛けに答えた黒装束を着た者は「ご命令確かに」と頭を深く下げると、登場の時と同じように消え去った。一連の流れに取り残されたニコラスとエルナンが呆然と亮二と黒装束の者とのやり取りを見ていたのに気付いた亮二は「気にするな」と答えると、今後の事について話し出すのだった。

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