第229話 大掃除の準備 -仲良くしましょうね-

「やってられるかよ。なんで俺が城の掃除なんてしないといけないんだよ。このまま前半組に混じってダンジョンに行けばいいじゃないか。誰も見てないんだからな」


 亮二に完膚無きまでにやられた兵士の1人が、早朝から完全装備でダンジョンに向かうために領都から出発しようとしていた。今回の騒動で罰則として掃除を命じられた全員が一斉にダンジョンに向かうのではなく、2班に別れてダンジョンにアタックする事になっていた。領都から旅立とうとしている兵士は後半組に所属していたのだが、前半組に紛れて出発すれば掃除をしなくても良いとの発想で集合場所に紛れこもうとしていた。


「ねえ、どこに行くの?」


「なんだ?俺は、これからダンジョンに向かう冒険者だから邪魔するんじゃねえよ」


 馬を預けている場所に向かって歩いている時にフードをかぶっている子供に話しかけられた兵士は、煩わしそうに子供を見ながら面倒くさそうに答えた。


「えっ?でも、お城の掃除をしてないよね?」


「あんっ?何言ってん…リ、リョージ伯爵?なんでこんな所に?いや、俺…じゃなかった私は前半組ですので、これからダンジョンに向かおうとしてた次第でして」


 フードを取りながら質問した子供が亮二である事に気付いた兵士は、青い顔をして少しずつ後ずさりながら言い訳を始めた。そんな兵士の様子を楽しそうに眺めながら最後まで聞いた亮二は、嬉しそうにため息を吐くと話し始めた。


「なあ、自分でも苦しい言い訳だと思わないか?俺がこの場所に居る時点で色々と諦めろよ。そういう事で罰を与えるからな」


 罰を与えると聞いた瞬間に亮二に背中を見せて全力で逃げたした兵士に「へえ、状況判断は出来るんだ」と呟きながら、亮二は無詠唱で“ウォーターボール”を撃ち放った。“ウォーターボール”が吸い込まれるように後頭部に入った兵士はもんどりうって転倒すると、その痛みにのたうち回っていた。亮二は痛みで悶絶している兵士をロープで捕縛すると軽い回復魔法をかけて「ほら、行くぞ」と引っ張って行くのだった。


 ◇□◇□◇□


「何をしにきたんですか?逃げないかを見に来たんなら見当違いもいいとこですよ。俺達はダンジョンで勘を取り戻してエルナンを徹底的に叩きのめす…」


 集合場所に集まっていた前半組の兵士達は亮二の姿を見ると、不貞腐れたような顔をしながら慇懃無礼な口調で憎まれ口を叩こうとしたが、亮二に連行された5人を見て固まってしまった。憎まれ口を叩いている途中で固まった兵士達を眺めながら亮二がロープを引っ張ると、呻き声を上げながら縛られている兵士達は一列に整列するのだった。


「あぁ、こいつらがどうしても完全装備で、前半組のお前達を見送りたいって言ってな。そして『俺達が前半組と一緒に付いて行かないように縛って下さい』って言うから、仕方なしにロープで縛ってやってるんだよ」


 爽やかな笑顔で説明を始めた亮二に前半組の兵士達は「無理がありすぎだろう」と呟きながら後半組の兵士達を眺めていた。そんな若干引き気味の前半組の兵士達を見ながら亮二は満足そうにしながら激励を送った。


「前半組は半月のダンジョンアタックでしっかりと腕を磨いてくれよ。後半組との交代が有るから必ず日程を守って帰って来いよ。間違っても日程を過ぎることはするなよ。お前達の事は“おはようから次の日のおはよう”まで、全てを見つめてるからな。大事な事だからもう一回言うが、この後半組の兵士達のようになりたくなかったら、ちゃんと期日までに帰ってこいよ」


 亮二の言葉に前半組の兵士達はコクコクと頷くと、逃げ去るように領都から旅立って行った。手を振りながら見送っていた亮二は、兵士達に渡す予定だったポーションの入ったアイテムボックスの存在を思い出して「しまった。渡すのを忘れてた。誰かに届けさせるか」と呟くのだった。


 ◇□◇□◇□


 前半組の馬が見えなくなった時点で、亮二は後半組の兵士達に満面の笑みを浮かべながら話し始めた。


「よし、これから城の掃除を始めるからな。準備をしてもらおうか?」


「じゅ、準備?普段着に着替えて掃除するくらいでいいだろ?」


 兵士の返答に亮二はストレージから掃除をするための衣装を出すと、全員に着用するように伝えた。


「おぉ、みんなよく似合うじゃないか」


「これを着て掃除をするってのか?なんで?ちょっと説明してもらっていいか?」


 衣装を来た全員が微妙な顔をして亮二に質問をしてきた。亮二が用意した衣装は頭がないアライグマの着ぐるみで身体だけがある状態だった。アライグマの手の部分は爪まで忠実に再現しながらも手を出す事が出来るようになっており、掃除をする際に無駄が生じないように設計されていた。また、足は防水設計で頑丈に作られており掃除をするには完璧な仕様になっていた。


「ぷぷっ。よく似合っているぞ。お前達に渡した着ぐる…衣装は掃除をする為に適している。しっかりと掃除をしてくれよ」


「絶対に、そう思ってないだろ!ふざけるなよ!なんで、こんな格好をさせたんだよ!普通の格好でもいいだろ!」


「普通の格好だったら罰にならないだろ。罰なんだから、しっかりとその格好で掃除をしろよ。あと、間違っても喧嘩なんてするなよ。もし、喧嘩したのが分かったら女装で掃除させるからな」


 兵士達にアライグマの格好をさせて腹を抱えて笑いそうな亮二に対して、きちんと着こなしながらも怒りの声を上げた兵士達だったが、亮二に相手をしてもらえず喧嘩をしたら罰として女装させると言われてしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る