第230話 大掃除開始 -皆で頑張りますね-

掃除初日:


「よし、今日はここからしようか!」


「え?ここってトイレじゃないか?こんなところから掃除をするってのか!」


「ああ、そうだぞ。ここの汚物と一緒に心も掃除をしようか」


 トイレに集められた兵士達は心底イヤそうな顔でトイレを眺めていた。亮二は最初に道具を取り出すと積極的に掃除を始めた。伯爵自ら掃除を始めた事に兵士達は呆然としながら眺めていたが、兵士の1人が恐る恐るな感じで掃除を始めると残りの兵士達もノロノロとした状態だったが掃除を始めるのだった。


「よし!今日はここまでにしようか。明日はトイレ掃除が終わってから台所の掃除をするからな!同じ時間に、この場所に集合するように!遅れるなよ!」


 亮二の元気のいい掛け声に、慣れない掃除に体力と精神力を削られた兵士達からは呻き声しか返ってこないのだった。


掃除2日目:


「ん?あいつは休みなのか?それとも1人だけ逃げたとか?」


 朝の集合時間に4人しか集まっていない事に気付いた兵士の1人が呟くように声を出すと、それを聞いた亮二は満面の笑顔で兵士が来ない事を伝え始めた。


「あぁ、あいつは昨日の掃除で体調を崩したから、別の場所で掃除をしてもらってるんだ。俺はそっちの掃除を手伝ってやろうかと思うんだが、みんなも来るか?それとも、こっちで昨日と同じようにトイレ掃除からするか?」


「トイレの掃除じゃないんだったら、そっちの方が良いに決まってるだろ!なんで、あいつだけ別の場所で掃除をしているんだよ!きっと簡単な場所を担当してるんだろ?」


 亮二から別の場所だと聞いた一同は、初日のトイレ掃除に比べたら気分的に楽になると考え、亮二に一緒に付いて行って仲間と一緒に掃除をしたいと告げた。亮二は「おぉ、仲間想いなんだな」と感動したような顔をすると全員を連れて行く事を決めるのだった。


 兵士達一行は、これから向かう場所が楽なところだと思い込んで気分も軽くなっており、各々好きな話をしながら歩いていると所定の場所に到着した。そこで仲間の姿を見た一同は愕然とした表情になっていた。


「あ、あのよ。伯爵?これは一体?」


「ん?別の場所で掃除をしてもらうって言ったろ?なにか問題があるか?」


 一同の目線は子供達にのしかかられて呻いている兵士だった。押しつぶされた状態の兵士は亮二達を見かけると、天からの助けとばかりに子供達を押しのけて亮二に縋りついてきた。


「伯爵!本当に申し訳ありません!もう、喧嘩なんて絶対にしませんから許してください!」


「なにを言ってるんだよ?“女装で城の掃除”か“孤児院で慰問しながら掃除”かどちらが良いかと聞いたら『孤児院で慰問しながら掃除をさせて下さい』って言ったのお前じゃん。最後まで頑張れよ。このままだったら、女装させて城で掃除をさせるぞ?それに、安心しろ!お前の事を心配した仲間が一緒に孤児院で慰問しながら掃除をしてくれるそうだぞ!」


 縋り付いてきた兵士に「お前はなにを言ってるんだ?」と言わんばかりの口調で突き放すようにすると、呆然としている兵士達に満面の笑みを向けながら「よし!今日はここで掃除だからな!」と伝えるのだった。


 孤児院で子供達に揉みくちゃにされながら掃除を終わらせた一同は、亮二から最初の兵士が昨日喧嘩をした罰として女装か孤児院での慰問を提示されて、孤児院での慰問を選んだ事を聞かされた。疲れ切った顔の兵士が「伯爵に質問だが『掃除で体調を崩したから別の場所で掃除』って言ってたよな?」と息も絶え絶えに質問すると、亮二は嬉しそうに詳細の説明を始めた。


「ああ、だから“昨日の掃除が終わった後に、酒場でやけ酒を飲んで喧嘩をした挙句に店の備品なんかも壊したと連絡があったから、俺が出向いて完膚無きまで叩きのめした上で2時間説教をしたら、ショックで体調を崩して女装か孤児院かを選ばせたから今日はこの場所に掃除に来ない”ってのを簡単に『体調を崩して来ない』と言っただけじゃん」


「略しすぎだろうが。そんな話を聞いていたら絶対に行かなかったぞ…」


 亮二の説明に疲れ切った表情で力の無い声で答えた兵士は恨めしそうに当事者の兵士を睨みつけるのだった。


掃除3日目:


「おっ?今日は全員揃っているな」


「ああ、昨日みたいに孤児院なんて連れて行かれたらたまらないからな。今日はどこから掃除するんだよ?さっさと終わらせて素振りでもしたいんだよ」


 兵士からの言葉に亮二は力強く頷いて「素振りをしたいって兵士みたいだな」と答えると、今日の掃除場所に案内した。亮二に案内された一同は城の周りの堀の一番下に降り立っていた。


「なあ、伯爵に質問なんだけどよ?堀の中にあった水はどうしたんだよ?」


「まあ、その辺は気にするなよ。結構大変だったけど魔法でなんとかしたから。それと、ここの掃除が終わる頃が前半組の掃除任期の終わりと思えよ。ここの掃除が終わらなければ交代は延期するからな」


 一同は広大な空堀を眺めながら愕然としていたが、亮二の言葉に我に返ったかのような表情をすると慌てて掃除を始めるのだった。


掃除14日目:


「リョージ伯爵!2週間有難うございました!お陰で掃除の楽しさに目覚めましたし、人々から感謝される気持ち良さも体験できました。本当に感謝しております。ただ、エルナンとの試合は手を抜きませんよ!しっかりと相手をさせて頂きます」


 亮二に対する初日の対応を見ていた者が居たら、あまりの変わりように驚くような兵士達の対応だった。最後の掃除が終わった兵士達は横一列に整列すると、代表の1人が亮二に感謝の言葉を述べて、亮二からの言葉を神妙な顔で待った。


「お疲れ様。お前達のお陰で城の中や堀が綺麗になったよ。罰としてはちょうどいい感じだったんじゃないか?お前達の顔を見ていると罰として掃除をさせたのは間違っていなかったと思う。人々からの感謝の気持ちを忘れずに頑張ってくれ。孤児院からも感謝の言葉が届いている。これから後半組と交代するが、しっかりとダンジョンで腕を磨いておけよ!」


 亮二は2週間に渡る兵士達の掃除に付き合っていた事を嬉しそうに思い出していた。3日ほどは反抗も激しくあったが、5日目くらいから従順に掃除を行い始め、孤児院の慰問も積極的に行っており手応えを感じていたからである。孤児院の院長からも感謝されたのを受けて、領地経営の施策として亮二は孤児院慰問を取り入れる事を決めるのだった。それに兵士達の充実した表情を見て、多少・・強制した事は反省材料だが罰則の掃除は役に立つと考えるとカリキュラム化して兵士達の教育として利用する事を決めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る