第9話 ギルドに到着 -やっと中に入れたね-

「あれだよ! あれ! イリュージョン?」


 頑張って言い訳を考えてみたが、全く何も思いつかず、自分でもなにを言っているのか分からない内容になってしまった。


「いりゅうじょんの意味が分からんわ! 今の出し方は、アイテムボックスじゃないだろ!」


「マルコもBランク冒険者なら、アイテムボックスくらい持ってるだろ? 一緒だよ」


「俺が持っているアイテムボックスは、そんな大きな物を取り出すことなんて出来ねえよ!」


(やっちまったよ。どうすっかな? うわぁ。マルコが物凄く値踏みしてる顔になってるよ。貴族って線が消えてないよな? あの顔は。どっかの貴族だとか思ってるんだろう。よし! もうその路線で無理矢理行くか)


 どんな言い訳をしても、異世界から来たレベルで信じて貰えなさそうな顔をしているマルコに、亮二は覚悟を決めて話し始める。


「実は、俺ってニホン国の子爵なんだよ」


「やっぱり貴族様か。道理で金銭感覚も変だし、武器も一般人や普通の冒険者が持っていないような業物を持っているから、貴族だと思ったんだよ。その年で子爵って事とは父親は伯爵か? それとも……」


「両親は俺が五才の時に……」


 開き直った亮二の嘘を、完全に信じたマルコを責めるのは酷であろう。ミスリル装備で身を固め、金貨3枚を手持ちレベルと言い切る金銭感覚の持ち主。アイテムボックスとは比較にならないアーティファクトを持ち、マルコ視点では話し言葉も気品が感じられる。

 なにより世間慣れしておらず、一般常識も持ち合わせていない。伯爵である父が子供に子爵を継承させるのは、この世界ではたまにあることであった。それに、両親が居ない代わりに屋敷で何不自由なく暮らしていたのなら、亮二のお人好しにも納得が出来る。


「そ、そうか。嫌な事を思い出させちまったな」


「いや……。かすかに父の優しさは覚えているから心配しないでくれ」


「まっ、なんだ。俺でよかったらなんでも言ってくれ」


 父との思い出を振り切れた【フリ】をしながら、実は振り切れていない【フリ】をして、亮二はこの場を乗り切ろうとしていた。マルコもまさか両親共に亡くなっているとは思わず、若干焦りながらも両親との思い出を振り切れていない(ように見える)亮二に、悪いと思いながらも、その気持ちの隙を突いて今後の関係で主導権を握ろうと考えていた。


 亮二としてはニホン国の子爵として、マルコからの色々なツッコミを何とか乗り切りたい。マルコとしては見知らぬ国とはいえ、子爵である亮二との繋がりを確実にしておきたい。


 お互いの利害が一致した瞬間であった。


 ◇□◇□◇□


「よし、その世間知らずについては分かった。次はそのアーティファクトについて、説明をしてもらおうか」


「あ、やっぱり説明いる?」


「当たり前だろ! レアアイテムボックスなんて物じゃないからな」


「なんて言ったらいいかな。家宝のアイテムボックスで、神様から貰ったと伝わってるんだよ。どうやって貰ったかは知らない。先祖代々受け継がれて来たからな」


「神様にもらった?」


 亮二の言葉に、驚愕の表情を浮かべながらマルコは問いただす。


「マルコって、イオルスって神様知ってるか?」


「あぁ、当然だ。創造神イオルスだろ。大地母神、慈悲の女神、幸福の神とも言われているな。それがどうかしたのか?」


「この家宝は、イオルスから貰ったと伝えられてるよ」


「は? ちょっと待て。イオルス神から貰ったのか? そのアーティファクトをか? どうやって?」


「だから、それは伝わっていないって。伝承では面白い姉ちゃんだったと言われてるよ」


「創造神を軽々しく姉ちゃんなんて言うなよ……。教会関係者に聞かれたら査問会議に呼ばれるぞ」


 要領の得ない説明だが、内容について確認する事が出来ないため、無理矢理納得するとマルコは会話を続ける。


「つまりは、イオルス神の加護が込められてたアイテムボックスか」


「そういう事。ちなみに、このアイテムボックスの名前はイオルスさんの幸福の皮袋だ」


「なんだよ。その残念すぎる名前は」


「もらった経緯は説明したけど、どれだけの人が納得するか分からないけど……」


 亮二はマルコにアイテムボックスの使い方について、虚実を交えて伝え始めた。ウチノ家の家宝で所持者はウチノ家の一員である必要がある事。大きさは特に気にする事なく入れられるが、大き過ぎると大量の魔力を消費する事。入れられる数量自体は少ない事。

 その他にも、アイテムボックスと一緒で所持者にしかアイテムの出し入れは出来ない事や、所持者が死亡すると消滅し、五年後にウチノ家の血を引く後継者の前に突然と現れる事などを伝えた。


 大きい物は魔力を消費するや、入れられる数は少ないなどと話したのは、異世界モノのテンプレの一つである戦争に利用される可能性を少しでも減らすためである。

 使い方の説明を聞き終わったマルコが、残念そうな顔をしている所を見ると図星だったようで、ジト目の亮二に気付くと、マルコは軽く咳払いをしながら話を続けた。


「使い方は分かった。だが、それは誰にも言うなよ。お前の説明を聞いても、お前を脅してでも利用する奴はいるだろうからな」


「マルコみたいに?」


「だったらどうする?」


 一瞬表情を消して問いかけてきたマルコに、亮二は驚きつつもニヤリ笑いながら爽やかに言い放った。


「さっさと逃げて次の国に行くよ」


「分かった分かった。もう言わねえよ」


 職業に就いていないにもかかわらず、キノコのお化けを六〇〇匹も狩れる力がある亮二の能力なら、ここから逃げる事は可能だと思われた。このままギルドに案内して、冒険者として何か職業に就いてもらえれば、国としては断然にお得である。


「よし! この話はもう終わりだ。リョージもこれからは気をつけろよ」


 マルコはそう結論を下した。亮二をギルドに連れて行きながら、この国の一般市民の常識や金銭感覚、暮らしていくために必要な所持品や注意事項等を説明するのだった。

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