第10話 エルフと初遭遇 -エルフっていいね-
ギルドの扉を開けて中を覗くと、そこは酒場や雑貨屋、町役場が乱雑に並んでいるような場所で、酒場スペースでは昼間から酒を飲んでいる冒険者や、掲示板の前で依頼を見ている者などが居た。そして、亮二が入ってくると、値踏みをするような視線を投げかけてくる。
(おぉ! この視線ってひょっとして、『ここはお子様の来るところじゃねえよ。家に帰って牛乳でも飲んでな!』と言われて、周りが爆笑する場面か? それとも、『ガキがなにしにここに来やがった。生意気に帯剣なんてしてるが、冒険者にでもなるつもりか? 子供の遊び場じゃねえんだぞ!』のパターンか?)
亮二が扉の所で視線についてあれこれ考えていると、酒場で飲んでいた冒険者らしき男が、睨み付けながら近付いてきた。
「おい! ガキがなにしにここに来やがった。生意気に帯剣なんてしてるが冒険者にでもなるつもりか? ここは子供の遊び場じゃ……」
「俺の知り合いだ。バルトロメイン。なにか文句でもあるのか?」
「いや。マルコの連れなら特に文句はねえ。邪魔して済まなかったな」
バルトロメインはそう呟くと、自分の席に戻って何事もなかったかのように酒を飲み始めた。バルトロメインの態度を気にすること無く亮二を連れて行こうとしたが、残念そうな顔をしているの見るとジト目になって尋ねた。
「おい。念の為に聞いとくが、バルトロメインに絡まれなかったのを、残念に思ってないよな?」
「え? やっぱり分かる? だってギルドに入って来た冒険者として登録する人間に、レベルの低い冒険者が絡んで来るなんてテンプレ王道的イベントじゃん!」
「てんぷれおうどうてきいべんと意味が分からん。だが、あんまりバルトロメインをからかうなよ。物凄い目で睨みつけてるぞ」
バルトロメインは亮二が言い放った内容は分からなかったが、馬鹿にされている事は感じ取れた。殺気立った目で、射抜くかのように亮二を睨みつけてくる。亮二は慌てて目を逸らすと、大仰に一礼をしてマルコと受付に向かった。
大仰な一礼が、バルトロメインの怒りの火を更に
「冒険者への登録を頼んでいいか? こいつの名前はリョージって言うんだ。だが、いい所の坊っちゃんなんで、融通を利かせてもらえると助かる」
殺気が混じっているバルトロメインの視線に気付いていない2人は、受付に座っている女性に近付くとマルコが声をかける。声を掛けられた女性はため息を吐きながら答えた。
「マルコのお願いだから、目を掛けるのは大丈夫よ。それにしても可愛いらしい子ね。だからって、融通はしないわよ。受付が贔屓をしちゃダメでしょ? どうぞ。リョージさん座って下さい」
「目を掛けてくれるだけでいいわ。おい。リョージ。まずは座れ。おい! 座れって! どうした? リョージ?」
亮二は目の前に座っている受付の女性に対して、釘付けになっていた。ギルドの制服であろう胸元を強調する服にもかかわらず、強調されないスレンダーな身体。椅子に座るように差し伸ばされている細い腕。こちらを見つめるコバルトブルーの瞳。なによりも、金と翠が混じったストレートの長い髪から覗く
「エ、エルフ? エルフさんですよね! 初めまして! リョージです! お名前を教えてください!」
「カレナリエンって言います。元気な子ね。でも、ちょっとがっつき過ぎじゃないかな? 後、手も離してもらっていいかな? 尋常なレベルじゃなくて痛いんだけど」
カレナリエンは困った声でそう言うと、亮二が慌てて少し力を緩める。その隙に手を振り払うと、受付の奥に逃げ、壁から顔だけを出して覗き込んできた。
「スイマセン。カレナリエンさんを困らせるつもりではなかったんです。貴女の余りの美しさに気が動転してしまいました。もうこのような無様なまねは致しませんので、ご容赦頂けると幸いです。それにしてもカレナリエンとは日差しのような、素敵なお名前ですね。壁から顔だけを出して、こっちを見ているカレナリエンさんも素敵です! ちなみに今日のお仕事は何時までですか? もし良ければこの後に食事にでも!」
壁から顔だけをちょこんと出しているの自分を、目を輝かせながら雄弁に語っている亮二を見ながら、カレナリエンがマルコに問いかける。
「なんなの? この子」
「すまん。こいつの国は人族しかいないらしくてな。初めてエルフを見たから、調子がおかしくなったんだと思う。悪いやつじゃないのは保証するから、面倒を見てやってくれ」
「ちょっとびっくりしたけどマルコの紹介だから、悪い子じゃないのは分ってるわ。面倒は見させてもらうわよ」
「有難うございます! でも、サポートのレベルはギルド限定ではなく、私の生涯のパートナーなどはどうでしょう? 二人でセーフィリアの世界を旅しながらサポートなどもいいですね! 生涯ハネムーンなんてステキだと思い……」
「いいから黙って座れリョージ!」
再度、暴走して身体をカウンターに乗り出しつつ、奥に行きそうな勢いで話し始めた亮二を強引に椅子に座らせると、カレナリエンに続きを話するように促すのだった。
◇□◇□◇□
五分ほどで落ち着いた亮二を、呆れ顔で眺めていたカレナリエンだったが、気を取り直すとギルドと冒険者についての説明を始めた。
・冒険者登録をするには銀貨3枚が必要である
・冒険者ランクはHからスタートする
・職業適性検査場で職業を決定する
・無事に合格したら依頼を受ける事は出来るが、冒険者ランクの1つ上までしか受けることは出来ない
・一度、受けた依頼をキャンセルした場合は、罰則が有る(依頼主都合でのキャンセルは別)
・冒険者同士でパーティーを組めば、そのパーティーの中で最上位ランクの依頼を受ける事は可能だが、報酬の取り扱いについてはパーティー内で公平に決定すること
・ギルド内での迷惑行為は禁止
「あれ?銀貨3枚?」
マルコから聞いた金額と違う事に、亮二が思わず振り返ると苦笑が返ってきた。
「すまん! お前を試すために金貨3枚と言ったんだ。本当は銀貨3枚なんだよ」
「まじか。思いっきり担がれたって事か? ちなみに、さっき男の人に絡まれたのは、迷惑行為にはならないの?」
「アレくらいなら問題無いですね。武器を抜いて斬り合ったり、魔術をぶっ放したり、魔道具を解放するなどして、重傷者がでた場合はギルドから制裁が科せられます」
「そんな恐ろしい状態にならないとダメなの?」
「だってここはギルドで、冒険者がいるんですよ?それくらいで丁度いいんですよ。他に質問が無ければ職業適性検査場に移動して、リョージさんの職業について確認しましょう」
カレナリエンはそう説明すると、リョージとマルコを連れて職業適性検査場に向かうのだった。
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