異世界は幸せ（テンプレ）に満ち溢れている【書籍化済み】

第11話 職業適性検査 魔力、属性検査 -やり過ぎはダメだよね-

　カレナリエンに連れられて到着した職業適性検査場は、訓練場も兼ねており、想像よりも大きな建物であった。訓練場では剣を振っている者や、座禅を組んでいる者など様々であり、模擬戦闘を行っているパーティーもあった。

「こちらが検査場です。リョージさんの適性を順番に確認していくので、ご希望の職種があればそちらからしますが、ありますか？」

「じゃあ、やっぱり王道としては、魔術系の適性があるか確認したいですね。膨大な魔力が有るのは、分ってますけどね！」

「なに、その自信？　じゃあ、早速やってみましょう。この魔力測定器に手を置いて魔力を流してもらえますか？　自分で『膨大な魔力が有る』と言ってるくらいだから、魔力の流し方は分かりますよね？」

「もちろん！　身体中に魔力を駆け巡らせ、全身を包み込むような感じでしょう。それで、右手から魔力測定器に対して、魔力を注ぎ込む感じですよね？　じゃあ、早速やってみますが王道テンプレのセリフとして……『全力でやって大丈夫か？』」

「『おうどうてんぷれのせりふ』？　魔力の回し方は人それぞれですし、イメージが出来ればいいですよ。それと、水晶球が壊れた事はないので、全力でやって大丈夫です。頑張ってくださいね」

（よし！　カレナリエンさんから全力OKの許可が出たぞ。ここはテンプレ王道的に、魔力測定器が割れるまで全力でやってやるぜ！　魔力を注ぎ込むイメージはやっぱりアレだよな。主人公が少年で友人が暗殺者の、超常現象バトル＆冒険漫画が一番だよな）

　亮二は漫画の主人公になりきり、魔力が全身を駆け巡り全身を包み込むようにする。そして今まで感じた事ない力を確認すると、それを全て右手に集まるようにイメージし、集まった力を増幅させながら回転するイメージで魔力測定器に一気に注ぎ込んだ。

　ビキィ！

「なっ！」

「え？」

「おぉ！」

　魔力測定器から大きく乾いた音が響き渡り、全体に亀裂が走る。カレナリエンとマルコからは困惑と驚愕の声が、有名人の2人が連れて来た亮二を興味深く見ていた冒険者達からは驚きと共に歓声の声が上がった。

「え？　えっ！　ええ！　リョージさん！　ちょっと待って！　駄目！　お願い！　それ以上はやめて！　止めてってば！　壊れる！　壊れるから！　それ以上は注ぎ込まないで！」

　カレナリエンの必死の顔をみて満足気な表情で魔力を打ち消した亮二は、マルコとカレナリエンを見て胸を張りながら腕を振り上げつつガッツポーズを取った。

「よっしゃ！　見たか！」

「なんでそんなに嬉しそうなんだよ。膨大な魔力が有るって分かってるなら、真剣に初めから言えよ。魔力測定器は魔道具だから、物凄く高いんだぞ？　弁償できるのかお前？」

「え？　俺、言ったよね？　『それと膨大な魔力と言っても全力でやっちゃって大丈夫なんで頑張ってくださいね』と、カレナリエンさんも言ってくれたんじゃん！　それで壊れたからって俺のせいにされても……。請求するなら彼女にでしょ？　支払いが厳しいなら俺が喜んで立替えるよ？　返済は分割払で、回数は一二〇〇回でも大丈夫！」

「一〇〇年払いか。カレナリエンなら返せる期間だな。ちなみに金貨三〇〇枚はするが、すぐにでも払えるのか？」

「大丈夫！　カレナリエンさんの為なら金貨三〇〇枚なんて端金でしょ！　適当にユックリと返してもらって大丈夫ですよ。カレナリエンさん。安心してください！」

「なんで、二人ともそんなに軽いんですか！」

「だって、壊れたのは仕方ないからな」

「ねぇ」

　割れた魔力測定器を掲げながら、パニックになっていたカレナリエンは涙目でツッコミを入れる。亮二とマルコが漫才を中断したのを確認すると、魔力測定器を抱えながらブツブツと呟き始めた。

「確かに『全力でやって大丈夫』とは言ったけど、測定器が壊れるほどの魔力ってなに？　大体、測定器って壊れるの？　やっぱり始末書が必要かな？　給料から弁償金が引かれるのかな？　新作のアクセサリーの予約もあるのにどうするのよ。そう言えば、マルコが『リョージはイイトコの坊ちゃん』と言ってたわよね？　金貨三〇〇枚程度は払えるなら資産家か貴族なのは間違いないし、ここは甘えて払ってもらえれば、縁も出来るし始末書じゃなく、破損届けで済むかもしれない！」

　呟きが終わって決断したカレナリエンは、潤んだ目で亮二を下から覗き込むようにすると、その手を取りながら甘えた声でお願いする。

「金貨三〇〇枚貸してください。一〇〇年かかって返します」

「いいのかそれで？　弁償って言ってた俺だが、始末書出せば済む問題だろ？」

「マルコは黙りなさい！　金貨三〇〇枚の始末書なんて出せるわけないでしょ！　常識で考えてよ！　リョージさんがお金を貸してくれるなら、有り難く借りるわよ。一〇〇年払いなんて、私からしたら問題無いもん！」

「なんか、いつものカレナリエンちゃんと違う」

　きっぱりとお金を借りると言い切ったカレナリエンに、マルコは苦笑を浮かべ、周りの冒険者達もいつもと態度の違うカレナリエンに唖然としていた。だが、膨大な魔力を持っている亮二には俄然興味を示し、自分のパーティーに入れるかどうかの検討を始めるのだった。

◇□◇□◇□

　話し合いの結果、亮二が金貨三〇〇枚を用意して、カレナリエンは破損届けをギルドに提出する事。支払いについては、適性検査が終わってから金銭貸借契約書を作成することが決まった。

「で、結局のところはどうなんですか？　魔法使いになれます？」

「魔力が有るのと、魔力量は膨大だとは分かりました。ですので、今度はこの水晶でリョージさんが持っている属性を確かめます。軽く魔力を流すと属性が分かります。いいですか！　絶対に軽く！　軽く魔力を流してくださいね！」

「え？　全力でやれって意味？」

「違います！　絶対に全力でやっちゃダメですからね！　これも壊さないでくださいよ！　いいですか？　魔力を流して水晶が赤になったら火属性、青なら水属性、ピンクなら回復属性持ちになります」

　カレナリエンの説明を聞いた亮二は、水晶に手を置いて金魚鉢にユックリと水を注ぐようなイメージで魔力を注ぎ込む。亮二の魔力に反応し、水晶は赤青黄など様々な色を発色すると、最後は光輝きながら無色透明で落ち着いた。

「ん？　無色透明になったけど？　これってどうなの？」

　亮二の問いかけに、カレナリエンやマルコだけでなく、見学していた一同も驚愕の表情で目で水晶を眺めるのだった。