第8話 ギルドへの道のり -ジェネレーションギャップ? って困るね-

「あれ? お金に余裕ないって言った割には、あっさりと支払うね?」


 お金を受け取りながら門番は亮二を眺める。お金が無いと言っている割には綺麗な身なりをしており、剣を差している以外は軽装であり、旅慣れているようにも見えなかった。話し方も貴族のようで、不審に思った門番は確証を得るための質問を重ねる。


「そうだ! リョージ君は知っているかもしれないが、冒険者になるためには登録料として金貨3枚いるんだが大丈夫かい? 登録する時にギルドから冒険者証と証明書が渡されるのだが、冒険者証が魔道具になっているから高額になるんだよ」


「大丈夫です。そのくらいなら手持ちがありますので。ちなみに冒険者証及び証明書を紛失した際の、再発行手数料はどのくらいかかるのでしょうか?」


(ほら。これだ。金貨3枚を手持ちで持っているなんて、普通は襲われる可能性が有るから気軽には言わない。旅の目的も無いような事を言ってたが、間違いなく貴族だろうな俺が直接監視して判断するか……)


「そうか。では、私がその辺を説明しながら、ギルドまで案内しよう。仕事も交代の時間だしな」


「え? そんな悪いですよ。場所さえ教えて頂ければ自分で行きますので」


 遠慮気味に言う亮二に、ニヤリと笑いながら説得できる言葉を紡ぎだす。


「そうか? でも、どうせだったら冒険者になる為の情報ってのを知りたいだろう? 俺だったら色々と教えてやれるぞ? こう見えてもBランク冒険者だからな」


「え? Bランク! 門番さんは冒険者でもあるのですか? それに、さっきと話し方が全然違うんですが?」


「仕事は終わったって言ったろ? 普段の生活で、あんな喋り方をしてたら疲れちまうよ。お前もそうだろ? 一人で旅をするんだったら、もっとざっくりした喋り方しといたほうがいいぞ」


 突然、ラフな話し方に変わった門番に、亮二は戸惑いながらも考える。


(こっちが敬語で喋っているのが、不自然なのか? せっかく向こうから歩み寄ってくれてるみたいだし、色々と情報もくれそうだから合わせとくか)


「じゃあ、連れと話しているようにすればいい? 門番さんは年上だけど、本当に気にしない?俺って口が悪いよ?」


「子供にタメ口聞かれたくらいで、怒るほど落ちぶれちゃいねぇよ」


「分かった。じゃあ、よろしく。そう言えば門番さんの名前を聞いてなかったよな? これからお世話になるのに門番さんじゃ駄目だよね。名前教えてくれない?」


「まだ自己紹介してなかったな。俺の名前はマルコだ。今は、この街で門番をしているが、最近まではBランク冒険者として活動してた。今は開店休業中だから、門番をしているのさ」


 マルコはそう言いながら、右手を出して握手を求めてくるのだった。


◇□◇□◇□


「じゃあ、ギルドまでの案内と冒険に必要な情報を合わせて、エール一杯でも奢ってもらおうか」


「改めてリョージだよ。エールくらいなら浴びるほど飲んでくれていいよ」


「そのセリフ後悔しないといいけどな」


 ニヤッとそう笑うと、亮二を連れてギルドに案内をする為に大通りを進みながら、マルコは金銭についての説明を始める。


「いいか! まずは、お前の金銭感覚を直す必要がある」


「へ? 金銭感覚? なんでそんなもんを? まだ別に何も買い物すらしてないぞ。マルコに銅貨5枚払っただけじゃん」


「いや。お前が金に対して無頓着、もしくは価値を分かってない事は、さっきの会話で十分に分かる。大体、金貨3枚と言われて『それくらいなら手持ちがある』なんて、大きな声では言わないもんだぞ。門前で、今の話をしてたら、生きた状態で俺に再会できてないぞ」


「またまた冗談ばっかり。そんな金貨3枚くらいで大げさ……。本気で?」


 亮二はマルコの説明を笑い飛ばそうとしたが、真剣な顔になったマルコに若干の怯えを含ませながら確認した。


「ああ、本気だ。普通に働いて得られる賃金は、1か月で大体銀貨10枚くらいだ。ここはまだ治安は良い方だが、場所によっては金のために軽く人を襲ったりするぞ。お前は剣を持っているから大丈夫と思っているかもしれないが、まだ子供だからと襲われる可能性もある」


「わ、分かった。十分に気を付けるよ。他に気を付ける事はない?」


「取り敢えずは、金についてだけ気を付けていれば大丈夫だろ。キノコのお化けを倒したとブツブツと言ってたから、戦いは大丈夫なんだろ? ちなみにどのくらい倒したんだ?」


 軽い感じの問いかけに、亮二はもごもごと小さく呟くように答えた。


「たぶん六〇〇匹」


「は? すまん。もう一回言ってくれ」


「だぁかぁら! だいたい六〇〇匹だって! 始めに3匹倒したと思ったら、ここに来るまでの間に巣に3回くらい突っ込んじゃって、途中で数えるの止めたんだよ!」


 何故か気まずそうに、そしてキレ気味に話す亮二にマルコは開いた口が塞がらなかった。いくらキノコのお化けの討伐対象ランクHだったとしても、十一才の子供が倒せる数ではないからである。


「お前、ひょっとして上級職の聖騎士か狂戦士か?」


「無職っす」


「は?」


「だから無職ですよ! 職業はまだないんです! だから冒険者ギルドに行って、職業に就きたいんです。働きたいんですよ! ニートは嫌でござる!」


「おぉ。す、すまん。にーと? ござる? にーとの意味も分からんが、ますますもって意味わからん奴だなお前って。職業なしで、キノコのお化けを六〇〇匹も狩るなよな。よっぽと使っている剣が業物なんだろうな。ちょっと見せてもらっていいか?」


「どうぞ、はい」


 無造作に手渡された剣を引き抜いて、マルコは固まってしまった。手の中にある剣は、鉄でも鋼でもなく、光の加減で銀色や虹色に輝くのである。しかもかなり軽量であり、リョージの体格でも問題なく振れることも分かる。試しに軽く魔力を込めると、虹色の光沢がさらに強まった。


「おい、リョージ。この剣って……。ひょっとしなくても……」


「ん? ああ、ミスリルの剣だよ。そんなに有名なのか?」


「お、お前、なに気楽に言ってんだよ! ミスリルの剣なんて、こんな街で見れるようなもんじゃないぞ! 王都でも見れるかどうか」


「ちなみに、この服も腕輪もミスリルで出来てるんですよ」


「いや、ちょっと黙れリョージ。考えがまとまらん」


 3分ほど剣を持ったまま固まっていたマルコは、やっと剣を鞘に納めると亮二に返す。


「つまり、お前はミスリル装備で身を固めてるから、六〇〇匹ものキノコのお化けを討伐できたってことか?」


「そうだよ」


「軽く言うなよ。熟練の冒険者でも、一日で六〇〇匹も倒した奴なんていないんだぞ」


「え? でも、一般人でも狩れる魔物なんでしょ?」


「ああ、複数人・・・だったらな。単独で六〇〇匹討伐なんて聞いたこともねえよ。なんか証拠とかあるのか?」


「証拠って言っても、キノコのお化けの証明部位ってどこよ?」


「魔石の部分だな。人間でいう額部分にあるぞ」


「ほぅ。魔石とな?」


 亮二はインタフェースを起動してキノコのお化けを取り出すと、傘の下あたりの額の部分をぐりぐりと穿りだした。


「お! これが魔石か! やっぱり異世界モノのテンプレっていえば魔石だよな! テンション上がるわ! キノコのお化けで、枝豆くらいの大きさの魔石なんだったら、他の魔物はどんな感じになるんだ? 大きさが変わる? それとも輝度が変わる? 他の魔物も狩って検証する必要があるな」


「おい。リョージ。それをどっから取り出した?」


「ん?」


 愕然としたマルコの表情と、発せられた声に亮二は、やらかした感を顔を浮かべながら言い訳を考え始めた。

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